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平成28年度 講演会 要旨

「日本再生へのアプローチ〜政治の危機、経済の危機を乗り越えて〜」

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸 氏

タイトルに「政治の危機、経済の危機を乗り越えて」とありますが、今、政治の危機はあまりありません。自民党は安倍総裁の任期が延長されそうですし、野党の状態を見ると政治の混乱、危機は当面なさそうです。しかし、経済のほうは大変です。危機の克服には、1つは景気をよくして経済を再生し、成長率を高くすることです。短期的に経済の需要をふやすには政府の財政出動しかありませんが、1,000兆円の借金を抱える国は、増大する社会保障費で四苦八苦しています。そこで、民間・地方経済の生産性を高めることが重要になります。

では、生産性を上げて景気を持続させるために何をしないといけないか。結論は単純で、イノベーションをつくり出すしかありません。日本ではイノベーションとは技術革新だという間違った思い込みが広がっています。しかし、経済学者シュンペーターが言うように、イノベーションとは「新しい結合」です。世の中のいろいろな技術、アイデア、知識を組み合わせ、新しい付加価値を生み出すのがイノベーションです。

具体例を紹介します。日本の音楽ビジネスは悲惨な状況になっています。理由は、インターネットの普及で違法コピーが蔓延したとか、スマホが普及して音楽より通信に金を使うとか、デフレが続いて若者が貧乏になったとか。では、この産業は夢も希望もないのかというと、そんなことはありません。右肩上がりを続けているアーチストや会社も存在して、その人たちはイノベーションをしています。イノベーションとは創意工夫ですから、創意工夫をしているところは右肩上がりを続けていられるのです。

例えば、皆さんご存じのAKB48はこの5〜6年すごいペースで右肩上がりを続けていました。なぜそれができたかというと、いろんな創意工夫を音楽のビジネスモデルに加えたからです。ネットでコピーできないおまけをつける。それがAKB総選挙投票券とか握手会、握手券になります。

これは地方創生についても全く同じです。政権が地方創生を言い出して、今日本中の自治体が頑張っています。そして、政府の地方創生交付金をなるべく多く獲得しようとしています。これは当然です。しかし、これだけをやっていては、財政出動の効果はすぐ終わってしまい、また元へ戻る。それを越えて景気のいい状況を続けるには、自治体もイノベーションをつくり出さないとだめです。実際それをしっかりやっているところは地方創生を実現できています。

長野県南部の山奥の下條村は、「奇跡の村」と呼ばれています。下條村は日本全国に先駆けて人口減少・高齢化が進んでいました。その結果、1990年に人口が3,900人にまで減ってしまった。これは大変だというので、村長が前例のない政策のイノベーションをやり出したのです。そして、日本全体の人口が減る中で、この長野県の山奥の村は、2010年には4,200人にふえ、今政権が目標としている出生率1.8も実現してしまいました。

なぜそれができたか。下條村はいろんなイノベーションをしたのです。村の公共事業費を90%削減して1割の水準にし、浮いたお金を若者のアパートに回すとか、村の公共事業は村民の手でやるとかです。日本海側の離島でもこれに近い例があります。山奥の村とか離島で人口をふやすことができるなら、ほかの地域でできないはずがありません。できていないのは政策のイノベーションをつくり出していないからだと私は思います。

最近、IoTとかAIと言われるように、デジタル技術が進化して、かつ値段も安くなり、中小企業、零細企業、田舎の自治体でも取り入れやすくなっています。私はこれを空理空論で言っているのではありません。私が今やっている仕事の1つに、福井県鯖江市の漆協同組合と組んでいるものがあります。鯖江市では眼鏡以外に強いものを持っていて、それは伝統文化の漆です。3Dプリンターや3D切削機を現地に置き、いろんな試作品をつくっています。私のパソコンに漆をつけた製品を見た人は、欧米でも中国でも「金を幾ら払ってもいいから買いたい」と言います。

鯖江の漆協同組合の職人さんの平均年齢は70歳を超えています。そこに入っている企業、卸の企業も家族経営の零細企業です。70歳超の高齢者の集団と零細企業が集まったところでも、新しい現代の要素を投入するとそれなりに頑張ります。私は自分自身の経験から、イノベーションをつくり出すことは、現代のいろんな要素をうまく使えば、どんな零細企業でもどんな地方でも十分できると思っています。

私は、この和歌山もお世辞抜きで、まだいろんなイノベーションをつくり出すポテンシャルが十分にあると思っています。そもそも関西エリアに近いということで頑張っている企業もたくさんある。白浜とか熊野古道を中心に観光でも伸ばせる部分がある、農業だって強い。漁業だって強い。まだまだやれることはたくさんあります。仁坂知事もそういう問題意識を持っておられると思います。でも、行政が旗を振るだけではなく、地元で頑張っていらっしゃる企業の皆さん、住民の皆さんの視点から見てもそういうイノベーションをつくり出すことはまだまだ十分できるはずです。

文責 : 和歌山社会経済研究所

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