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アトランタの公共交通機関とニューヨークのベンチャー企業を訪問して

研究員  赤坂 武彦
研究員  艸林 尚志
研究員  松本 圭司

概要

研修期間 研修期間:平成12年11月26日(日)〜12月4日(月)(9日間)
研修先 アトランタ、ニューヨーク

はじめに

現在の和歌山県、特に都市部においては、生活環境・地球環境の保全や高齢化の進行等に伴う利便性向上の必要性、まちづくりなどの観点から、従来の車に過度に依存する社会を見直し、公共交通機関の強化を含めた総合交通政策を推進することが課題となっています。また、低迷する地域経済の再生に向けてベンチャー企業の創業・育成による活性化に期待が集まっており、IT(情報技術)の活用等による関連諸施策が次々と打ち出されつつあります。

このような情勢の下、私たちは今後の調査研究の参考とするため、和歌山市と同程度の人口を有し環境対策が急務となっているアメリカ合衆国・アトランタにある公共交通機関“MARTA”と、世界経済の中心地かつベンチャー企業の集積地でもあるニューヨークに事務所を構えるドットコム企業“zwirl.com”を訪問・視察しました。その結果を以下に報告します。

平成13年3月

1 アトランタ編

1−1 アトランタ

アトランタは、アメリカ南部経済及び交通の中心都市で、1996年夏季オリンピックが近代百周年記念大会として史上空前の規模で開催されたことは記憶に新しいところです。飲料で世界的に有名なCoca−Colaは、薬剤師のJohn S.Pembertonがココアの葉とコラの実を調合して作ったシロップを、1886年に頭痛薬としてアトランタの薬局で売り出したのが最初でした。アトランタは、このCoca−Colaを筆頭に、CNN、Delta Air Lines、Ritz‐Carlton、Holiday Inn等の企業が本社を置く、今まさに成長中の都市と言えます。

オリンピック後、アトランタのあるジョージア州は、経済成長率が4.5%(1998年)と全米平均(3.9%)を上回り、人口増加率も1997年から1998年にかけて2.0%でネヴァダ州(4.1%)、アリゾナ州(2.5%)に次いで全米第3位となっています。現在、ジョージア州の中心都市であるアトランタ市の人口は、和歌山市と同程度の約426,000人ですが、この急成長に伴い交通渋滞や大気汚染が問題化しつつあります。

1−2 アメリカの交通事情と政策

アメリカは、都市部を除くと鉄道やバスといった公共交通機関がほとんどなく、移動手段の大部分が車に依存しているといった、まさに車社会です。全米に張り巡らされた高速道路のほとんどが無料のフリーウェイで、しかもガソリンの価格が日本の約1/3(1ガロン当たり約1.02ドル、1ガロン=3.785リットル)と非常に安価なことがますます車の利用を促しています。

アメリカの交通政策を振り返ると、1950年代から幹線道路網の整備を積極的に行ってきましたが、1970年代のオイルショックを契機とした環境・エネルギー問題の認識の高まりに対応して、交通基盤整備から交通基盤の有効利用に重点が移り、バスレーンやHOVレーンの設置、交通制御、パーク&ライド 等の交通システムマネージメント(TSM:Transportation System Management)が実施されるようになりました。

その後、環境・エネルギー保全政策が強化される中、オフィスや商業施設等の郊外移転の進展に伴う新たな交通問題が顕在化し、交通システムマネージメントだけでは交通混雑解消に十分対応できなくなってきました。そのため、1980年代からは1人乗りマイカー通勤者の削減を目的として、交通需要そのものをコントロールしていこうとする交通需要管理政策(TDM:Transportation Demand Management)が推進されるようになり、近年では、さらに土地利用や都市計画を含めた総合的な交通政策が実施されています。

公共交通に目を移すと、日本では鉄道網やバス路線の整備は、運営する私企業が相当額を負担することが一般的となっていますが、これは世界では稀な例です。例えば、日本では、公共交通機関の建設費に占める税金の割合は約半分程度ですが、欧米は100%が税金負担です。また、オペレーションコスト(運営費)も、日本ではすべて交通機関の利用者が運賃という形で負担するのが基本ですが、欧米での運賃がオペレーションコストに占める割合は、多いところで8割、少ないところで2割となっています。

*HOVレーン : High Occupancy Vehicle Lane 多人数が乗車している車両のみ通行が許される車線
*パーク&ライド : 都心の外周部や都市周辺部の鉄道駅等に駐車場を設置して、そこから都心部まで公共交通を利用するシステム

1−3 MARTA
MARTAの鉄道と駅
MARTAの鉄道と駅

私たちが訪問したアトランタ市のMetropolitan Atlanta Rapid Transit Authority(MARTA)は、市民から“マルタ”の愛称で親しまれながら都市の急成長に重要な役割を果たし、利便性だけでなくアメリカ公共交通機関協会より治安の良さで表彰された実績を持つ公共交通機関です。

MARTAは、従業員数約4,600人、全米で7番目に大きな規模の公共輸送機関です。704台のバスで154路線を運行するとともに、電車238車両と36の駅を保有し、それらの運行範囲は、アトランタ市だけでなく、周辺のフルトン、ディカルブ郡をもカバーしています。また、1日の利用者数は約553,000人(バス50.1%、鉄道49.9%)で、オリンピック後の4年間でも乗客数が20%も増加しています。

電車は、ファイブポインツ・ステーション(Five Points)を中心にして南北に走るNorth/South Rail Lineと、東西に走るEast/West Lineの2路線があり、駅名表示は“N1、N2”や“E1、E2”のように、ファイブポインツから北へ1つ目、2つ目、東へ1つ目、2つ目にある駅ということがすぐ識別できるようになっています。

運行時間は、平日は午前5時から翌日午前1時までほぼ10分間隔に、週末と祝日は午前6時から翌日午前12時半ぐらいまで15分間隔に運行されており、市内でスポーツやコンサートなどの大きなイベントが開催される時は、電車の本数を臨時的に増やすなど、状況に合わせて対応がなされています。

料金は電車とバス共通となっており片道1ドル50セントで、フルトン、ディカルブ郡へのバスに乗り継ぐ場合に2ドル25セントとなります。子供は、3歳以下で大人と同伴であれば無料となっており、支払いは、小銭(1セントは使えない)、トークン、またはトランスカード(Trans Card)という定期券で行います。

MARTA路線図
MaltA路線図
1−4 MARTAの歴史

MARTAの歴史は、1965年3月にジョージア州議会で、「アトランタ首都圏(アトランタ市、フルトン郡、ディカルブ郡、クレイトン郡、コブ郡、ギネット郡)内部での高速輸送システムの計画・建設及び運行」を事業目的とする“MARTA法”が成立したことにより始まります。同年、アトランタ市及び各郡で、MARTAへの事業参画に関する投票が各議会で行われ、コブ郡を除くすべての市郡で事業参画が決定されました。

1971年に、アトランタ市、フルトン郡及びディカルブ郡で、マルタの財政への1%売上税投入が投票により決定されました。1990年には、ギネット郡における同様の財政投入の投票が否決されましたが、1998年の法成立により、一定の条件を満たせばMARTAと事業契約を締結できる権利が規定され、MARTAの輸送システムを望む地域の参画が可能となりました。

現在MARTAでは、フルトン工業団地行き西路線、ウィンドワードパークウェイ行き北路線など新しく4つのルートの鉄道延伸を行っているほか、ホテルや小売店舗、オフィスなど大規模な多目的地域開発に取り組んでいます。

1−5 これからの公共交通機関の理想像−MARTAの視察を通して−

私たちは、アトランタに滞在中何度もMARTAの鉄道やバスに乗車しましたが、目的地までの路線表示が非常に分かりやすく、しかも安価なことに驚きました。鉄道駅は、大変きれいに整備されており、駅ごとにキャンペーンとして運賃無料の日を設定していました。私たちを出迎えてくれたMARTAのCommunity Relations OfficerであるJawana.V.Jackson氏は、「MARTAの使命は、安全かつ費用効果の高い手法を用いて、総合的で良質な旅客運送サービスを提供することです。運賃無料の日を設定するなどのサービスは、地域に利益を還元する目的で行っており、公共交通機関の事業者としては当然のことです。」と話してくれました。

MARTAのバス
MARTAのバス

また、MARTAの鉄道駅の近くには、パーク&ライド用の駐車場が23箇所も整備されており、駐車料金は無料となっています。バスは、1990年7月に制定されたADA法(アメリカ障害者法)によりすべてのバスが低床バスとなり、うち200台は天然ガスを使用した環境にやさしいものとなっています。

さらに、MARTAは約300人で構成された鉄道警察隊を有しており、この規模はジョージア州で第8位となっています。このように、MARTAは、旅客輸送事業者でありながら率先して交通問題や環境・エネルギー問題等に取り組んでおり、路線網決定への住民の参画をはじめとしてまちづくりの一翼を担う地域に密着した公共交通機関となっているのです。

現在、日本の公共交通機関は、1997年3月の規制緩和推進計画により乗合バス事業の需給調整規制の原則廃止が決定され、来年2月のバス路線運行からの退出入の自由化を目前に控えています。この規制緩和は、バス路線として採算が取れないような和歌山県内の人口希薄地域における“今後の生活交通をどうするか?”という大きな問題を投げかけています。

今回のMARTAの視察では、“公共交通は、地域みんなで整備し、維持していこう。運送事業者も環境問題やまちづくりなどに寄与し、地域をもっと良くしていこう”といった公共交通の理想像を見たような気がしました。今後、高齢化社会を迎える中で、誰もが使いやすい公共交通機関は、地域みんなで守り、育てる、生活必需品的な社会資本なのではないでしょうか。

2 ニューヨーク編

2−1 Jeffrey alton氏

Jeffrey alton氏は交換留学生として来日しその後邦銀に就職、日本での勤務経験もあり、当時は日本の自動車メーカーがアメリカへ工場を建設するための支援等を行っていました。退職後は出版社に勤務し、そこで知り合った二人の社員と1999年zwirl.com を設立し、現在は同社の財政(コントローラー)を担当しています。

このように起業家として活躍中で日本の実情にも詳しいalton氏のオフィスを今回私たちは訪問し、ニューヨークのベンチャー企業を取り巻く状況等についてヒアリングを実施しました。

2−2 zwirl.com の事業内容
zwirl.comのオフィス
zwirl.comのオフィス

zwirl.com の主な事業は、ウェブサイトのコンテンツや地域サイトにおけるコマースプラットフォーム(ネットビジネスのシステム)を作成することです。多種多様なコミュニティサイトの中に、そのサイトの特性に合った販売店を出店し、オリジナルのサイトからワンクリックでその店に入り買い物ができるというものです。サーバーに販売カタログを保存し、自社の倉庫はないものの、配送業者とカメラ、家庭用品、雑貨等8〜10社の卸関連会社を確保しており、オールインワン(ウェブサイトは売買にノータッチ)で配達まで行います。商品の価格設定については、需要の増加を狙いリバースオークション(需要が高くなれば価格が下がる)の方式を取っています。もっともサプライヤーの同意を得ることはなかなか難しいようですが、「価格を下げれば多く売れる」という理念を説き理解を求めています。

同社がターゲットとしているのは、月に25万〜3千万件のアクセスがあるサイトです。一般的にコミュニティサイトに対する総アクセスのうち、販売店入店のためクリックするものはわずか0.7%であり、さらにその中で商品を購入するのは2%にすぎません。そういった点を考慮すると、アクセス件数が25万件以下のサイトでは、利益より費用の方が高くついてしまうことになります。

2−3 ベンチャー企業の集積条件

ベンチャー企業の創業者の立場から、alton氏は企業が拠点として求める地域の条件に、次の2つを挙げました。

まず一つは、人材供給源となる大学等の高等教育機関の存在です。大学は人材を育成する教育機能だけでなく、独創的技術開発を行う研究機能も有しており、民間企業、政府と協力し、アメリカにおけるベンチャー企業の育成に大きく貢献しています。

そしてもう一つは、その地域に資金が存在することです。アメリカで最も大きな資金量を保有している地域が西海岸で、さらにボストン、そして金融機関の多いニューヨークにも資金が集中しています。起業にあたり資金を調達する際、その資金源としては公募、ベンチャーキャピタル、エンジェルといわれる裕福な投資家の3種類があり、潤沢な資金を供給しています。起業家を支援するエンジェルが少なく、資金調達の多くを融資で賄わなければならない日本とはこの点で大きく異なります。

2−4 ベンチャーキャピタル

ベンチャーキャピタルの機能は、新産業を創出するベンチャー企業に資金を供給し支援していくことです。ベンチャー企業が成功し成長を遂げた場合、投資の成果として巨額のキャピタルゲインを獲得することができますが、新たな事業でのチャレンジとなるため失敗する確率も高く、基本的にハイリスク・ハイリターンであると言えます。

zwirl.com は、当初西海岸のベンチャーキャピタルに支援を依頼しましたが、地元にオフィスを置く企業を対象としているという理由で断られ、最終的にニューヨークを拠点とするベンチャーキャピタルからの投資を受けることができました。ベンチャーキャピタルが地域密着・地元志向であることが伺えます。

ベンチャーキャピタルには、資金の援助だけでなく、多種多様な情報・知識をベンチャー企業に提供する側面もあります。ベンチャーキャピタルは様々な企業に投資していることから、それぞれの企業の取締役会に参加が可能であり、情報を収集しています。この情報を活用して、自らの投資先に対し新事業のアイディア、協力会社の斡旋、販路開拓等について支援しています。昨年12月に当研究所が実施した景気動向調査では、県内企業の産業支援機関に求める機能について最も多かったのが「セミナー・研修」、次いで「融資」「販路開拓」という順になっています。こうしてみると、本県で産業支援機関に求められている役割を、アメリカではベンチャーキャピタルが果たしていることが分かります。

2−5 ベンチャー企業投資の現状

最近のベンチャー企業への投資状況についてalton氏はベンチャーキャピタルを羊にたとえ、「羊の群が1つの草地の草を食べ尽くし、群れた状態で別の草地に行ってしまった」と表現しました。

1999年は政府のインフラ整備もあり、ベンチャーキャピタルからドットコム企業への投資も活発で起業も行いやすかったのですが、最近はIT関連事業の成長が失速していることから、ベンチャーキャピタルの関心を引くのも難しく、まさに、羊の群が一斉に向きを変えるように、資金援助が以前のように容易には受けられなくなっています。

アメリカのドットコム企業が失速してきている理由としてはいくつか挙げられますが、まず、初期段階の少数の企業に投資したときのように大きなキャピタルゲインを得られなくなっている現状、さらにインターネットでの購買層の増加が頭打ちの状態となっており大きな成長が望めなくなっている状況があります。

また一般的に、有名投資家が投資すれば他の投資家もそれに追随するという傾向が見られるとのことであり、これについてalton氏は、「銀行出身者としてはもっと個別に審査すべきと考えるが、経営者の立場からはそのような著名な投資家の支援を期待する」と語りました。

ニューヨークのまちなみ
ニューヨークのまちなみ

3 おわりに

今回、アメリカのベンチャー企業の実情を取材して、ベンチャー企業投資に関する日米間の風土の相違を感じました。アメリカでは資金供給源として、また企業のアドバイザーとしてベンチャーキャピタルの果たす役割が非常に大きく、人材を揃え、ハイリスクを恐れずハイリターンを求めて積極的に投資する姿勢は、日本との違いが際立って現れている一面と言えます。アメリカでは年金資金等がベンチャー企業に投資されているケースもあります。

企業活動の点では、一度事業に失敗すると2度目のチャンスを得ることが出来ない日本に対して、アメリカでは投資家から再度のチャレンジを認められる土壌があることも、特徴の一つと言えるでしょう。

これらの風土の相違に加え、日本ではバブル崩壊とそれに続く経済の長期低迷により、特に金融機関等の体力の低下が著しく、ベンチャー企業に対し積極的な役割を期待するのは難しい状況にあります。この現状を打破し景気の浮揚を図るためにも、アメリカにおけるベンチャーキャピタルのように各種ノウハウの提供等を含む支援機関の育成が望まれるところです。それと同時に、当面は行政が、ベンチャー企業に対する資金面での支援や活動環境の整備などについて積極的に推進していくべきではないでしょうか。

人材の供給については、我が国でも、ベンチャー企業を支援するインフラ整備の中で「産学官の連携」ということがしきりに叫ばれています。本県では、現在、和歌山市を候補地として公立大学設立の計画が進められており、多くの創造的人材の育成・輩出に資する機関として大きな期待を寄せられています。もっとも、財政難や少子化による学生数の減少という問題もあり、賛否両論が寄せられているようですが、地域に密着した特色のある大学づくりを進めていけば、そのメリットは決して小さくはないものと思われます。

また、前述のように、隆盛を誇っていたIT関連企業についても、利用者の伸びの頭打ちや過当競争等の結果その勢いが失速してきています。ITというだけでもてはやされた時代は過去のものとなった訳ですが、我が国においてもこれを他山の石とし、各企業がコンテンツの充実など差別化を図っていかなければ競争に勝ち抜くことは難しくなるでしょう。そのためにも、ITの活用に必要な創造的かつ有能な人材の育成を急ぐべきであるとの思いを強くしました。

(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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