和歌山県の景気動向〜景気動向調査2011年〜
研究部長 大門 忠志
はじめに
当研究所では、四半期毎に景気動向調査を実施し、県内企業の実態・動向・先行きを把握するとともに、現在の経済環境が県内の各企業にどのような影響を及ぼしているかを調査しており、また同時にトピックス的な事項を毎回クローズアップして特集として調査している。
ここでは、昨年(2011年1月から12月まで)1年間に実施した景気動向調査をもとに、2011年の県内景気を振り返るとともに、特集で取り上げた各テーマにおける県内各企業の取組みや実態を紹介する。
1.和歌山県内の自社景況
当研究所の景気動向調査では、昨年1年間(2011年)の和歌山県の景気動向を四半期毎の調査におけるBSI値から概観し次のように表現した。
1〜3月期 | BSI値 -18.3 (4.2ポイント上昇) |
「大震災後の県内景況感は大幅に悪化・深刻化の様相」 |
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4〜6月期 | BSI値 -26.6 (8.3ポイント下降) |
「県内景況感は大きく悪化、先行きも不透明」 |
7〜9月期 | BSI値 -19.4 (7.2ポイント上昇) |
「県内景況感は改善の兆しがあるも、先行きは円高等の懸念材料もあり不透明」 |
10〜12月期 | BSI値 -20.0 (0.6ポイント下降) |
「県内景況感は、跛行性強く先行きは不透明」 |
県内景況感は、21年4月〜6月期以降22年7月〜9月期まで改善傾向が続いたが、その後やや足踏み状態となり23年3月に発生した東日本大震災の影響により、23年4月~6月期は前四半期比減少となった。7月〜9月期以降はやや回復傾向が見られたものの、円高の進行や海外経済の悪化等により、県内景況感は先行き不透明な状況となっている。
また、日本銀行が全国規模で行っている企業短期経済観測調査(日銀短観)と比較してみると、改善幅等は多少異なるもののほぼ同様の動きを見せている。
2.地域別の自社景況
県内自社景況を和歌山市、紀北地域、紀中地域、紀南地域の4地域に分けて比較すると、4月〜6月期は紀北地域を除くその地の地域で悪化、10月〜12月期は紀南地域で改善したものの、その他の地域では横ばいかやや悪化となった。
<地域区分>
和歌山市 | |
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紀北地域 | 海南市、紀美野町、岩出市、紀の川市、橋本市、かつらぎ町、九度山町、高野町 |
紀中地域 | 有田市、湯浅町、広川町、有田川町、御坊市、美浜町、日高町、由良町、印南町、みなべ町、日高川町 |
紀南地域 | 田辺市、白浜町、上富田町、すさみ町、新宮市、那智勝浦町、太地町、古座川町、北山村、串本町 |
4〜6月 | 7〜9月 | 10〜12月 | 改善幅 (対1〜3月) |
|
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和歌山市 | ![]() |
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−3.6P |
紀北地域 | ![]() |
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+11.4P |
紀中地域 | ![]() |
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−9.9P |
紀南地域 | ![]() |
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![]() |
−4.7P |
和歌山市・・・4月〜6月は下降、7月〜9月は上昇、10月〜12月は横ばい。 紀北地域・・・4月〜6月、7月〜9月は上昇、10月〜12月は下降。 紀中地域・・・4月〜6月は下降、7月〜9月は上昇、10月〜12月は横ばい。 紀南地域・・・4月〜6月は下降、7月〜9月、10月〜12月は上昇。 |
3.特集調査の要約
(1)「東日本大震災の県下企業に対する影響について I」(平成22年4月調査)
2011年3月に東日本大震災が発生し、それまで回復基調であった国内経済はもとより、海外へもその影響をおよぼした。その落ち込みは、リーマンショック(2008年9月)前後の半年間のBSI値の下げ幅が8.1ポイントであったのに対し、大震災発生前後の下げ幅が13.4ポイントとなっており、影響の大きさがうかがわれた。震災直後の県内企業への影響及び緊急時における対応計画の策定状況について調査を行った。
【要約】
東日本大震災の影響があったとする企業は54.2%で、資材・部品等の不足により工期・納期が遅れる、商品等が入らないため販売できない、客足が落ち込んでいるなどの回答が多数あり、「作れるのに作れない、売れるのに売れない」といったもどかしさが伝わってくる結果となった。商品・資材・原材料等の仕入れについては51%の企業が難しくなったと回答し、部品の調達等については29.1%の企業が難しくなったと回答している。その結果、半年〜1年後の見通しについては46%の企業が「業況が悪化する」と回答している。震災直後の調査であり、先行きの不安が現れた結果となった。
また、緊急時対応計画の策定状況については、すでに策定している企業は20.5%にとどまっている。、77.5%の企業は現在緊急時対応計画を策定しておらず、うち23.1%の企業は今後も策定しないと回答している。東南海・南海地震の発生可能性が高まる中、減災や早期の事業再開ができるよう緊急時対応計画の早急な策定が望まれる結果となった。
図1 東日本大震災の影響について
図2 製品・商品・資材・原材料等の仕入れの状況について
図3 緊急事対応計画の策定状況について
(2)「東日本大震災の県下企業に対する影響について II」(平成23年6月調査)
東日本大震災から3ヶ月たち、震災や二次被害の状況が明らかになるにつれ、直後の直接的影響から、間接的影響が県内にも徐々に広がってきた。そのようななか、この3ヶ月間に県下企業の状況がどのように変化しているのかを調査した。
【要約】
大震災の発生から6月までの影響について、「マイナスの影響があった」との回答は、全産業で57.1%あった。一方で、プラスの影響があったのは3.6%にとどまっている。
マイナスの影響については、「既存先からの需要減少」が41.8%で高い割合を占めており、以下「資材、原材料、部品、薬剤等の仕入れ困難」「仕入単価の上昇」「買い控え、商談や予約のキャンセル」などとなっている。
また、今後の大震災の影響は、「半年から1年は続く」と「長期化」するとの回答が5割を超えていたが、一方で建設業・製造業では収束に向い始めたと回答した企業の割合が高くなっている。景気回復に有効と思われる施策については、「原発事故の早期収束」が53.1%、「被災地の早期復興」が50.4%と多く、次いで「個人消費の拡大」が30.6%などとなっている。
図1 大震災の影響について
図2 マイナス影響の内容
図3 大震災の影響が今後も続くかと思われるか
(3)「節電が企業経営に及ぼす影響と今後の電力供給について」(平成23年9月調査)
震災以降原子力発電に対する批判が高まり、国内で稼動する原子力発電所の稼動見直しが論じられるようになってきた。関西電力管内においても大飯原発の稼動停止など電力不足がよりいっそう懸念される状況となり、節電要請が行われた。社会インフラとして電力は必要不可欠であり、企業にとっては経費削減以上の節電要請は、企業経営に直結する重要な問題である。そこで、各企業の節電対策や今後の電力供給への考えについて調査を行った。
【要約】
今夏の節電対策による影響について「今のところ影響はない」との回答が、全産業中42.6%で、「どちらとも言えない」と回答した37.5%を加えると80.1%になる。業種別でも、全業種とも4割以上の企業が「今のところ影響がない」と回答している。
具体的な影響については、マイナス面では「取引先の影響で売上高が減少」20.6%、「在庫品・商品等への悪影響」11.7%、「自社の生産量や売上の減少」11.2%などとなった。
節電対策については、昨年に比べて「特別な対策を立てて実施した」企業は22.8%であったが、削減効果は全業種で「5%未満」が58.9%であった。
原子力発電の今後については、「他の発電へ移行しながら縮小する」が53.0%、「今後の安全性が確保できれば使用する」が33.9%と多くを占める結果となった。また、直接受ける影響が大きい製造業やサービス業は「安定供給が可能なこと」を重視していることがわかった。
図1 今夏の節電対策による影響について
図2 影響について
図3 節電対策について
図4 具体的に実施した節電対策について
(4)「経営の動向について」(平成23年12月調査)
現在、サプライチェーンの中断により、国内外を問わず遠く離れたところで発生した出来事が県内企業へも何らかの影響を及ぼすようになってきている。サプライチェーンが中断された場合における経営への影響の可能性、またそれらリスクを含めた企業の課題への取組み、その他経営に関するアンケートを行った。
【要約】
主な販売先や仕入先については、和歌山県内及び近畿地区で約9割を占め、仕入先については、販売先に比べて近畿地区のウェイトが高くなっている。また、販売先・仕入先ともに、東北・北海道地区の取引先は少なく、東日本大震災の直接影響が少なかったことを裏付けている。ただ、売上高または仕入高の3割以上を占める取引先の所在地については、県内・近畿地区で9割以上を占め、集中していることがうかがえる。販売先・仕入先の見直しについては、全業種の36%の企業が見直しを検討している。
経営上の課題について相談する先については、コンサルタントへの相談が最も多く、次に同業者となっている。次に多いのが会計士や税理士が多く、日頃から企業の財務に深く関わっており、身近な存在として相談しやすいということがうかがわれる。
図1 主な販売先・仕入先(取引先)の所在地について
○販売先
○仕入先
図2 売上高または仕入高の3割以上を占める取引先の所在地
図3 経営上の課題について相談する先
(2012.3)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)