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永続する企業

研究部長  大門 忠志

2017年11月に(株)帝国データバンクから2018年に周年記念を迎える企業が発表された。それによれば、創業から100周年(1918年(大正7年)創業)を迎える企業が1,308社、200周年を迎える企業が33社、300年を迎える企業が10社、さらに450年を迎える企業が1社あるとされていた。

今回、企業の寿命が20年、30年といわれるなか、何故このように100年以上も続く企業が残ってきたのかその要因を考えてみたい。今回は、個々の企業がどのようにして生き残ってきたのかではなく、これら永続企業がもつ共通の要因について考察してみたい。

1.日本の長寿企業

日本には創業以来100年以上続いている企業(以降長寿企業とする)はいくつぐらいあるのであろうか。上場企業から家族経営の企業まで様々な形態の企業があり、実際の正確な数値については明らかではないが、長寿企業について日本で始めて本格的に調査をされた後藤俊夫氏(日本経済大学大学院特任教授)の研究によれば、日本は世界に名だたる長寿大国であり、国内の長寿企業は約2万5千社(2014年調査)存在するとされている。その内、200年以上が約4千社、300年以上が約2千社、500年以上が約150社となっている。前掲の帝国データバンクの発表を考慮すれば、既に事業を廃業した企業があるにしても、現在はこれらの数字以上の長寿企業が存在していると思われる。後藤教授の調査によれば、江戸中期以降から長寿企業は加速度的に増加し、明治、大正と近代産業の勃興とともにさらに大きく伸びてきたとされている。

都道府県別の長寿企業数をみると下表のようになっている。東京都や大阪府のような大都市の他、戦争被害の少なかった地域や新潟県や山形県など江戸時代から北前船の寄港地等として商業や地場産業が栄えていた地域が見られる。)

都道府県別100年超及び200年超企業数
都道府県別100年超及び200年超企業数

また、2013年に帝国データバンクが寺社データを基に100年以上の長寿企業の調査を行っており、概要は以下の通りである。(各グラフは発表資料より筆者作成)
業種別をみると、最も多かったのは「清酒製造業」の707社。続いて「貸事務所業」の613社となっている。長寿企業は、もともと不動産を有していたり、事業を継続する中で利益を蓄積し資産を増やしていくなか、それらの有効利用のため不動産業を行ってきたためと思われる。9位に「ガソリンスタンド経営」が入っているが、当然創業当初よりガソリンを扱っていたわけではなく、創業時は食用油や照明用油の卸・小売を行っていたものが、市場環境等の変化に応じて業態が変化したり多角化していったものと思われる。
その他の業種では、「呉服・服地小売」、「婦人・子供服小売」といった生活必需品や消費財関連の小売業が目立っている。

業種別構成比(但し、上位10業種を100とした割合で表示)

業種別構成比

業種別構成比

次に規模別にみると、従業員数では「10人未満」が全体の6割超を占め、年商別では「10億円未満」が8割超を占めている。 資本金別でみると、「1億円以上」の企業の割合は、1,901社で7.3%、1割弱にとどまっている。
長寿企業は全体的に中小・中規模の企業の割合が高いことがわかる。

従業員数別構成比
従業員数別構成比

年商別構成比
年商別構成比

資本金別構成比
資本金別構成比

これら長寿企業の特徴としては、一つには人々の生活に密接した業種が多いこと、二つ目に家族単位の事業が多いこと、三つ目に地域の伝統文化に紐づいた業種が多い事があげられる。醤油や味噌、酒などの食品は生活に密着したものであり、旅館や鍛冶屋など家族で経営されているものが多い。そして、寺社仏閣や茶道、華道のような伝統建築、伝統文化を守り維持するために存続している業種が多い。

2.世界の長寿企業

世界の長寿企業はどうなっているのであろうか。後藤教授によれば、100年超の企業は世界中で約63,000社にのぼり、136カ国・地域に分布しているとされている。国別には、日本が約25千社で世界最多、続いて米国、ドイツ、英国(2012年基準)とされている。米国は200年超の企業数トップ10には入っていないものの100年超では2位になっている。後藤教授によれば、西部開拓が19世紀に始まった米国の歴史を考えれば当然のことかもしれないとされている。

世界最古の企業はといえば、日本の(株)金剛組とされている。
創業578年聖徳太子の時代に創設された企業であり、今もその伝統は引き継がれている。世界の長寿企業について全体を把握することは困難であるが、後藤教授によれば世界最古の企業10社のうち、金剛組を含め9社までが日本の企業が占めているとされている。ちなみに、世界の老舗企業による国際組織にエノキアン協会というものがある。これは創立200年以上の歴史ある企業のみが加盟を許される経済団体で、パリに本部を構え、加盟の条件として創立者が明確でその同族が現在でも経営権を持っていること、経営状態が良好であることなどとなっている。構成企業は46社で、日本からも和菓子の(株)虎屋やヤマサ醤油(株)など8社の企業が加盟しており、現在同協会の会長には日本の岡谷鋼機(株)の社長が就任している。また、ギネスブックには世界で一番古い旅館として、山梨県西山温泉の慶雲館が認定されている。

3.長寿大国である理由

では、なぜ日本が長寿企業の多い国となったのであろうか。一つには、商売に対する考え方が古くから確立されていたことがあげられるのではないだろうか。商人の教えとして、江戸時代の「石門心学」や近江商人の「三方良し」の考えが知られている。

石門心学は、江戸時代初期の思想家石田梅岩が開祖といわれる学問である。江戸時代を通じて、武士・商人・百姓のあらゆる階層に普及していった人生哲学で、特に商人の生き方を支えた思想であったため「商人道」とも称されている。「正直・倹約・勤勉」の三徳を基盤とし、「商人の利は武士の俸禄と同じであり、道に従った商いによる富は欲心からとは言えず」と利益追求は必要としながら、二重の利を取ることの非や先を立てることの大切さも教えている。本業の中で社会的責任を果たすことが商売であるとし、現在のCSRの原点とも言えるものとなっている。

石門心学と同様、商人哲学として「三方良し」の概念がある。明治以前、全国各地で行商を行っていた近江商人の活動の理念を表した「買い手よし、売り手よし、世間よし」という、自分の事よりもお客の事を考え、みんなの事を大切に商売すべきという考えである。この「三方良し」の近江商人を起源に持つ企業としては、トヨタ、丸紅、伊藤忠、高島屋、ワコールなど数多く存在する。
(注)「三方良し」の用語は戦後に生まれたもので、分かりやすく標語化したものであり、昭和以前には存在しなかった言葉といわれている。また「買い手よし、売り手よし、世間よし」のほかにも、近江商人の精神として「近江商人の商売十訓」がある。
“石門心学”や“近江商人の教え”は、時代の変遷とともにその時代にあわせて変容してはいるものの、その根本の概念である「私利ではなく公利」の考えは変わることなく、その概念を持つ長寿企業が、人々から必要とされ永く事業を継続してきたのではないかと考える。

二つ目には、財務管理や労務管理、リスク管理などの経営管理の仕組みが江戸時代から型作られていたことがある。大福帳や掛け帳、算用帳などの簿記システム、番頭や手代、丁稚といった人事組織や教育、家訓や非常時への蓄財といったリスク管理等々現代の経営管理システムに匹敵する仕組みが構築されていたことも大きな要因とされている。

そして、三つ目には家を継ぐという意思が代々引継がれていったことが大きな要因であったと考えられる。武士が家名を継ぐことを本分とするように、商人にとって“のれん”を継ぐということが最も重要なこととされていた。何が何でも次世代に家業をつなぐということが家長の務めであった事が企業を永続させてきた要因であるといえる。

4.長寿の要因

日本の国全体としては上記の通りかと思うが、では個々の企業が商売を続けていくうえで長寿となっている要因はなんであろうか。その要因があれば長寿になるということではなく、事業を継続している現在の長寿企業の多くに共通していると思われる要因についてまとめてみた。

○革新と伝統
不易流行という言葉がある。“守るべきものは守り、変えるべきものは変える”時代とともに社会の状況や顧客の嗜好は大きく変化するため、頑なに創業のままのやり方を守っていては世間に受入れてもらえない場合もある。それが小さなイノベーションでも、大胆な改革でも、その時代や人々の嗜好の変化に合わせて変えていく事が必要である。しかし、創業時代からのコアとなる部分は決して変えることはなく、より一層研鑽し磨きをかけ、その優位性の強化に努めることも継続している。

○継承する
経営のあり方や事業の価値観を組織内で維持し、家内だけでなく従業員へも継承していくことを大切にしている。長寿企業では、創業時の価値観、企業の歴史、長年勤めてきた従業員との紐帯などを様々な場を通じて共有し、次の時代に伝えていくことに努めている。承継ということを事業の経営と共に、経営者の重大な使命と位置づけ時間をかけ長期的に取組んでいる。

○明確な理念創業からの事業を行う目的や使命を明確に持ち、その事業を引き継ぐものが迷い悩んだときの「道しるべ」を代々引き継いでいる。それは「家訓」や「家憲」の場合もあれば、「口伝」「一子相伝」のように後継者のみに代々引継いでいく場合もある。さらに、この理念は従業員とも共有するものであり、仕事を行っていく際の企業行動の判断基準となっている。

○顧客重視
私利私欲に走らない、顧客や取引先との信頼関係を大切にしている。企業は顧客や取引先があって始めて存続するものである。こうした倫理的なビジネス感覚が携わっており、自分だけが儲けても、周りが疲弊すれば自分も存続しない、商売の価値はないという考え方を大切にしている。

○質素・倹約・身の丈の経営
資源を浪費することは恥ずべき行為であり、企業経営においても自分の生活においても、質素な生活の励行と倹約の勧めが語り継がれている。始末倹約とは「吝嗇」とは異なり、将来の投資のためにお金を節約することである。質素を旨とし、身分相応に、背伸びをした出費や投資をしないように戒め“身の丈の経営”を大切にしている。

○人材重視
長寿企業においては、従業員は単なる作業を行う“もの”や“部品”ではなく、ともに成長する共同体と捉えている。江戸時代、丁稚から始まり手代となり番頭へと、小さいときから従業員を家族同様に育て大切にしてきた。これは現代でも同じであり、企業内教育を大切にし、長期的な視野から人材育成が行われ、人材登用が行われている。

○社会性
「石門心学」や「三方よし」が先駆けであるCSRを重視し、より積極的に事業を通じて社会へ貢献してゆくことが大切であるとする。社会や地域に育てられてきたということを忘れずに、自社の都合だけを考えることなく、地域社会へ貢献していくことを大切にしている。

○長期的視点
短期的な利益や金儲けを優先することなく、未来に向けて存続し繁栄するため10年、20年、30年といった長期的な視点を持っている。短期、中期、長期と事業の将来の姿を描くとともに、継承のための長期的な取り組みについても考えている。

今後、長寿企業の要因はこれらだけではなく、今後研究が進められていく中で他にも様々な要因が見つかると思われる。しかしながら。明治維新、戦争、震災等多くの危機を乗り越えてきた長寿企業が、これらの要因を持っているということは何らかの意味を持っているのではないだろうか。少子高齢化、人口減少等現代の危機は、過去とは異なる状況といわれるかもしれないが、未来から振り返れば、現代人がイメージする明治維新や戦争、震災といった危機と同じ企業存続の危機であり、やるべきことはやるということに変わりはないのではない。

終わりに

企業が永続するにはこれが秘訣といえるものがあるわけではない。前述した要因は企業を経営するものにとっては当然のことであり、商人としてやるべきことを実直に行うということである。これをやれば必ず永続できるといえるようなものは見当たらない、しかし逆にやらないと永続することが難しいように思える。
長寿企業の研究に取組むにあたり、事前にいくつかの企業を訪問させていただいた。様々な業種の経営者の方にお話をうかがったが、何故これまで永続してきたかについては、経営される方自身あまり気にされていないようであった。ただ、やはり共通して話に出てくるのは信用第一に、顧客を大切にし、目先の利益に惑わされることなく、こつこつ真面目に仕事に取組できたといわれる方が大半であった。承継についても、何となくまわりの雰囲気で引継ぐ感じになっていたと話される方もいた。そのような中で、特に印象に残った言葉に、“その時代 その時代の社長はみんなこの仕事が好きだったのではないか” という言葉がある。先祖から引継いできた仕事が好きだからこそ、苦しい時でも我慢し、次の世代に引継ぎたいと思う。そして、先代や先々代が好きな仕事をしているのを見て、次の世代もこの仕事は素晴らしいものだと思い、引き継ぎたいと思う。事業が安定していてこそ言える言葉だとは思うが非常に印象に残った言葉である。そしてもう一つ、親子三代で暮らしていたという企業が多かったということである。祖父や祖母が事あるごとに孫に家業の話をし、孫は仕事場が遊び場となり、家業を継ぐ事が自然のことのように育っていった、これが家業が永続する要因でもあるように思える。

長寿企業の秘訣、あえて言うならば引継ぐだけの事業をどう構築し、それを如何に維持し、そして引継ぐための方法をどうするか、ということではないだろうか。

(2018.4)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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