ホーム | サイトマップ | リンク

ホーム > レポート > 海外視察 > 逆ストロー現象 〜ストロー現象で疲弊したまちはカジノでよみがえるか?〜

逆ストロー現象
   〜ストロー現象で疲弊したまちはカジノでよみがえるか?〜

主任研究員  藤川 剛史

I.はじめに

当研究所と和歌山大学、和歌山商工会議所の三者が共同して、和歌山の地域活性化のための研究を行う機関として、「和歌山地域経済研究機構」があります。同機構の分科会の一つである「カジノ研究会」は、和歌山におけるカジノの可能性を調査しています。この調査の一環として、去る2003年(平成15年)10月12日(日)から10月18日(土)の1週間、和歌山大学 経済学部 土田助教授とともに、カナダのオンタリオ州へ行って参りました。

この出張報告を含む「和歌山におけるカジノの可能性」調査報告につきましては、同機構の報告書に譲ることといたしまして、この誌面では、現地でのヒアリング等の調査から得られた「一つの仮説と2つの示唆」について述べたいと思います。

ちなみに、訪問した都市及び訪問箇所は、訪問した順に、次のとおりです。

  • ナイアガラフォールズ市 …… 同市役所及びカジノ・ナイアガラ
  • トロント市(オンタリオ州の州都) …… オンタリオ・ロッテリー・ゲーミング公社(OLGC)
  • ウィンザー市 …… 同市役所及びカジノ・ウィンザー

なお、現地との事前折衝に当たりまして、カナダ観光局の鈴木富雄様、オンタリオ州政府観光局日本代表の本橋敬彬様に大変お世話になりました。誌面を借りて御礼申し上げます。

II.一つの仮説と2つの示唆

今回の調査結果から得られたものを、私なりに総括しますと次の三点、即ち、一つの仮説と2つの示唆に集約されます。

[仮 説]
  ・ストロー現象で疲弊したまちは、カジノによる逆ストロー現象でよみがえる。

[示 唆]
  ・カジノのための新たな「箱もの」は、直ちには不要。
  ・カジノに市民の税金は使わない。

それぞれの項目について、以下で説明します。

1.逆ストロー現象

カナダへ渡る前に、私は次の仮説を立てました。

・ストロー現象で疲弊したまちは、カジノによる逆ストロー現象でよみがえる。

「逆ストロー現象」というのは私が勝手に造った言葉ですが、「ストロー現象」というのは、1988年に本四架橋が出来た時に、よく聞かれた言葉で、架橋が出来たことで、雇用や遊びで 四国の人が岡山へ行ってしまい、まちが疲弊したというようなことと理解しています。

注)ストロー現象:

交通ネットワークを整備した結果、経路上の大都市が繁栄し、小都市が衰退してしまうこと。小都市の住人が大都市に買い物に出かけたり,小都市にある企業の支店が閉鎖されるなどの現象をさす。ストロー効果。〔人間・物資・資金などがストローを使ったように吸い寄せられてしまうことから〕

三省堂「デイリー 新語辞典」より

この仮説を立てようとしたきっかけは、カナダのウィンザー市のことを知ったからです。

ウィンザー市は人口約20万人と和歌山市より人口の少ない市ですが、川の対岸の米国に、人口約95万人(広域圏としては約404万人)の「自動車の街」デトロイトがあります。このウィンザー市にオンタリオ州初のカジノができたのですが、これは、「デトロイトへのストロー現象でまちが疲弊したので、カジノで逆転をねらったからではないか」と考え、上記の仮説を立てた次第です。

この仮説を、ヒアリングした3カ所でぶつけた結果は次のとおりです。

(1)ナイアガラフォールズ市
   〜ナフタの影響をもろに受けたが、カジノで回復した観光都市

ナイアガラフォールズ市は人口約78,000人。かの有名な「ナイアガラの滝」を有し、年間の観光客は、1,400万人から1,900万人と、白浜町の年間観光客の4〜5倍に相当します。

米国とはナイアガラ渓谷で接していますが、1989年に米国とカナダの間で自由貿易協定が締結されています。いわゆるナフタ(北米自由貿易協定)です。

ナイアガラの滝と観光船「霧の乙女号」
ナイアガラの滝と観光船「霧の乙女号」
注)1989年に両国間で締結された自由貿易協定(FTA)は、貿易の自由化による経済発展を目的としたものであるが、1994年これにメキシコも加わり、新たに北米自由貿易協定(NAFTA ナフタNorth American Free Trade Agreement )が締結された。

このナフタにより、同市は悪影響を受けました。米国との間で関税が無くなり、カナダ人が米国へ買い物に行き、多くの産業を失われたのです。即ち、ナフタによりストロー現象が起こったわけです。1993年、失業率は最悪になり、15%を超えました。国境に面した都市では、住民が米国へガソリンを入れに行くようになり、これらの都市ではオンタリオ州政府に対してガソリン税0を要求しましたが、州政府からカジノを造ってはと、逆に提案されています。要は「取られたものをカジノで取り返せ」です。

学識経験者、民間、役所が協議して開発計画を立て、1995年の市長・市議会議員選挙と同時に、カジノ導入の是非を問う住民投票を行い、63%の賛成を得ています。その後、昔のビルディングの中を取り替え、6ヶ月の突貫工事の上、1996年12月にカジノ・ナイアガラはオープンしました。

「カジノ・ナイアガラ」遠景
「カジノ・ナイアガラ」遠景

このカジノのインパクトは絶大で、カジノのオープン以降、ハイアットやマリオット等一流ホテルが11軒新築されています。投資額は合計約1,800億円(20億カナダドル)に及び、各々のホテルが300〜400の客室を有し、200〜300人の従業員を雇用しています。

また、同市の失業率も2003年で7%以下となり、カナダ全国平均(7%)を下回る所まで回復しています。同市は2003年のGDPを昨年の3.8%アップと見込んでいます。

また同市の人口も、カジノオープン当初の1996年当時、高齢化で人口は減少傾向にありましたが、2003年現在、1996年の2千人増となっています。

(2)オンタリオ・ロッテリー・ゲーミング公社
   〜ナフタの影響を受けた、米国との国境付近に、カジノを配置

カナダ・オンタリオ州の商業カジノの経営形態は「官設民営」であり、日本でカジノが解禁になった場合もこの形態になるのではないかと言われています。この「官設民営」の「官」に当たるのが、オンタリオ・ロッテリー・ゲーミング公社です。英語表記 Ontario Lottery and Gaming Corporation 略してOLGCは、オンタリオ州立のカジノ公社で、商業カジノのほか、名前の通りLottery「宝くじ」なども営業しています。

カジノ導入の経緯に関する同公社の見解は、前述のナイアガラフォールズ市と同様で、ナフタ締結により、カナダ人が税金の安い米国へ買い物に行くようになったことから始まります。ちなみに、オンタリオ州の消費税は15%(連邦税7%+州税8%)であり、対岸の米国ミシガン州デトロイトの消費税6%と比べ、2.5倍も重税です。この買い物行動は、国境の自治体で顕著であり、疲弊した自治体は、ガソリン税0を州政府に要求しましたが、州政府はその代わりにカジノ設置を容認し、1994年ウィンザーに州初のカジノがオープンしたわけです。

州政府としては、やりたい自治体に手を挙げさせることとし、その上で、オープンした場合にインパクトのある所として、ウィンザー市(大都市デトロイトの対岸)とナイアガラフォールズ市(世界的な観光地)を選んでいます。

(3)ウィンザー市
   〜ナフタの影響は否定したが、デトロイトからの客をねらったカジノ立地

ウィンザー市の人口は約20万人、対岸の米国デトロイト市は約95万人、広域都市圏としては約404万人(それぞれ2000年現在)の人口を有しています。デトロイト市との間には、五大湖のヒューロン湖とエリー湖を結ぶデトロイト川(川幅約1km。紀ノ川大橋付近の紀ノ川の川幅の倍くらい)が流れており、両市は、トンネルと橋で結ばれています。

対岸のデトロイト市
対岸のデトロイト市(右の一番高いタワーがGM本社)

ウィンザー市は「自動車の街」デトロイトに面しているおかげで、自動車産業が盛んでクライスラーの大工場があり、この工場が市内第一の雇用者です(カジノ・ウィンザーは市内第二の雇用者)。

市役所でナフタの影響をお聞きしましたが、きっぱり否定されました。ウィンザー市は自動車産業のおかげでナイアガラフォールズ市のような人口減少や産業疲弊は起こらなかったようです。先手先手を打ってきた結果かもしれません。

オンタリオ州初のカジノができた理由も、公式にはデトロイトの対岸にあり手早く成功すると考えたからですが、非公式には、当時、政権を持っていた新民主党(NDP New Democratic Party)の政治力によるようです。「Lobby Effort」とおっしゃっていましたので、ロビイストの院外活動によりウィンザー市へもってきたようです。

ちなみに、同市の失業率は、カジノ開業当時の1994年、7%と、カナダ全国平均並みでしたが、現在は4.5%と、カナダ一低い失業率を誇っています。

「カジノ・ウィンザー」近景 「カジノ・ウィンザー」夜景
「カジノ・ウィンザー」近景
(4)結論

3カ所でのヒアリングの結果「2勝1敗」となりましたが、オンタリオ州立のカジノ公社(OLGC)の見解から「北米自由貿易協定締結による米国へのストロー現象で疲弊した国境付近の都市は、カジノの設置により逆ストロー現象でよみがえった」という仮説は正しいのではないかと思います。

2.カジノのための新たな「箱もの」は、直ちには不要
建設中の「ナイアガラ・フォールズビュー・カジノ・リゾート」
建設中の「ナイアガラ・フォールズビュー・カジノ・リゾート」

この第一の示唆は、建設コスト・設備面での戒めです。1990年代のバブル崩壊以降、「まず箱ものありき」でスタートしたが需要がないという事業を見かけますが、カナダ・オンタリオ州は堅実です。

オンタリオ州の商業カジノは、ナイアガラフォールズ市とウィンザー市にありますが、ナイアガラフォールズ市の場合、モール街として使われていたビルを改造して1996年12月に「カジノ・ナイアガラ」をオープンし、現在に至っています。

ただ、ナイアガラフォールズ市においては、カジノが好調なので、2号館として「ナイアガラ・フォールズビュー・カジノ・リゾート」を建設し、2004年6月にオープンしています。

またウィンザー市についても、市内で使われなくなったビール工場跡を利用して「カジノ・ウィンザー」を1994年5月にスタートしています。その後、利益が見込めそうだと分かってから、1998年7月に現在の「カジノ・ウィンザー」の建物を建設しています。

3.カジノに市民の税金は使わない

この第二の示唆は、経費面での戒めです。例えば、カナダ・オンタリオ州でもカジノ開業当初は、犯罪が増加するのではという懸念がありました。そこで警官を増員(ナイアガラフォールズ市は15人、ウィンザー市は25人)したわけですが、この人件費はあくまで州政府がカジノの収益から支出しています。カジノの所在する市の市民の税金を使わないのがオンタリオ州の流儀のようです。

カジノの隣にある「ウィンザー市警察」
カジノの隣にある「ウィンザー市警察」

III.終わりに代えて

日本は世界の先進8カ国の中で唯一カジノを持たない国でありますが、ここ数年全国各地の観光関係者や、地方自治体からカジノ開設に関する希望や意向が表明されています。

地方におけるカジノ実現化に向けた大きな動きとしては、和歌山県、東京都、神奈川県、静岡県、大阪府及び宮崎県の6都府県が「地方自治体カジノ研究会」を2003年(平成15年)2月に発足させ、2004年(平成16年)3月までの8回にわたる研究会の成果をとりまとめ、「地方自治体カジノ研究会研究報告書」を公表しています。また、同研究会を発展的に解散し、新たに「地方自治体カジノ協議会」を発足し、カジノ法制化の実現に向けて活動を継続することで合意しています。

このように、今後カジノ法制化への気運が盛り上がり、私の立てた「一つの仮説と2つの示唆」の趣旨を踏まえてカジノ開設が実現されることを期待します。

(2004.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

このページのトップへ