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平成16年度経済財政白書からみた和歌山県の経済

主任研究員  藤川 剛史

このレポートの要約

和歌山県の経済について
  1. 地域の労働需給(求職中の無業者が少ない)は近畿では良いものの、人口の割に働いている人や働こうという人が少ないうえに、特に、有業者が効率的に配置されていない、言い換えれば、地域の生産システムが効率的ではない。
  2. 「地域の労働生産性と負の相関がみられる」と経済財政白書がいう、建設業と農林漁業の内、農林漁業が極めて高い。
  3. 大学・大学院修了者の割合が少ないことが、労働生産性に影響しているのではないか。
  4. 失業率が高いことによって、労働参加の意欲が阻害され労働力率が低下した。
  5. 1995年以降、人が移動しなくなっている(全国的)。

はじめに

ここ数年、全国的に景気が回復しているといわれながら、実感として和歌山県を始めとする近畿地方では景気が回復しているという実感はわかないのではないでしょうか。

実は、平成16年度経済財政白書(以下、単に「白書」と略します。)においても、景気回復の継続にもかかわらず、「景気回復の実感がない」という指摘も依然存在しているとされ、白書は「今回の回復局面におけるこうした景況感のばらつき」の要因として「企業部門の改善の動きが雇用、賃金面の改善に十分つながっていないこと」に加え、「地域経済の回復状況にばらつきがあること」をあげています。

このレポートでは、白書に基づき、この「地域経済の回復状況にばらつきがあること」から、和歌山県の経済について私なりに分析したいと思います。

一人当たり所得の地域間格差の分析

白書は、その第2章「地域経済再生への展望」において、一人当たり所得の地域間格差を、次の要因に分解することで、地域間の経済格差を分析しようとしています。

それは、各地域ブロックの一人当たり域内総生産を、次の3つの構成要素に分解するものです。

1.労働生産性

(域内総生産を有業者数で除したもの)
=域内総生産/域内有業者数

2.修正就業率

(有業者数を有業者と求職中の無業者との合計で除したもの)
=域内有業者数/(域内有業者数+域内の求職中の無業者)

注)就業率(就業者数を15歳以上人口で除したもの)とは定義が異なる。

3.修正労働力率

(有業者と求職中の無業者との合計を地域人口で除したもの)
=(域内有業者数+域内の求職中の無業者)/域内人口

注)労働力率(労働者人口を15歳以上人口で除したもの)とは定義が異なる。

これらの構成要素については、

  • 労働生産性は、地域の生産システムがいかに効率的であるか、
  • 修正就業率は、地域の労働需給がどのような状況にあるか、
  • 修正労働力率は地域の労働力(ここでは、有業者と求職中の無業者との合計)がどのような特徴を持っているか、

を表していると考えられています。

以上のような枠組みに基づいて、白書では、2001年度の地域ブロック別一人当たり域内総生産の全国平均からの乖離を、労働生産性、修正就業率、修正労働力率に分解していますが、平成17年3月7日に内閣府から「平成14(2002)年度県民経済計算」が公表されていますので、この最新データを用いて、2002年度版を計算し、図示してみました(第1図)。

第1図:地域ブロック別一人当たり域内総生産の全国平均との乖離とその要因分析(2002年度)
第1図:地域ブロック別一人当たり域内総生産の全国平均との乖離とその要因分析(2002年度)

備考)
1.内閣府「県民経済計算」(平成14年度)、総務省「就業構造基本調査」(平成14年)により作成。
2.一人あたりの域内総生産(実質GDP/人口)=労働生産性(実質GDP/有業者数)
  +修正労働力率(有業者数/有業者数と求職中の無業者との合計)
  +修正就業率(有業者数と求職中の無業者の合計/人口)
3.全て全国平均との比で乖離状況をみている。
4.地域区分は次の9区分。
    (1)北海道:北海道
    (2)東北:青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島
    (3)関東:茨城、栃木、群馬、山梨、長野、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、静岡
    (4)東海:岐阜、愛知、三重
    (5)北陸:富山、石川、福井
    (6)近畿:滋賀、京都、奈良、和歌山、大阪、兵庫
    (7)中国:鳥取、島根、岡山、広島、山口
    (8)四国:徳島、香川、愛媛、高知
    (9)九州:福岡、佐賀、長崎、大分、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄

この図からは、例えば、近畿地方では修正就業率の低さが所得押し下げに影響していることなどが分かります。

この考え方を基に、近畿2府4県の府県別一人当たり県内総生産の近畿平均からの乖離を、労働生産性、修正就業率、修正労働力率に分解して図示してみました(第2図)。

第2図:近畿2府4県における県別一人当たり県内総生産の近畿平均との乖離とその要因分析(2002年度)
第2図:近畿2府4県における県別一人当たり県内総生産の近畿平均との乖離とその要因分析(2002年度)

一人当たり県内総生産の近畿平均からの乖離は、プラスの方から大阪府(0.149)、滋賀県(0.096)、京都府(▲0.071)、兵庫県(▲0.113)、和歌山県(▲0.188)、奈良県(▲0.293)の順ですが、和歌山県の場合、

  • ・修正就業率は+0.02 とプラスですが、
  • ・労働生産性は▲0.178 修正労働力率は▲0.031 とマイナスです。

これは、地域の労働需給(求職中の無業者が少ない)は近畿では良いものの、人口の割に働いている人や働こうという人が少ないうえに、特に、有業者が効率的に配置されていない、言い換えれば、地域の生産システムが効率的ではないことを表しているといえます。

そこで、以下では、さらにこの労働生産性や労働要因の地域格差を分析します。

地域間の労働生産性格差

白書では、地域間の経済格差を説明する最大の要因である「労働生産性の違い」を考察してみるとし、労働生産性の水準は、その地域が高い生産性をもった産業に特化しているのか、生産性の低い産業に特化しているのかによって大きく左右されるとしています。

さらに白書の推計によれば、製造業、サービス業等に従事する人の割合が高いほど、その地域の生産性は高い一方、農林漁業、建設業等で働く従業者の比率が高いと地域の生産性は低下する傾向がある、としています。

この傾向でもって、近畿2府4県における産業別従業員数のシェアの全国平均からの乖離をみてみますと(第3図)、和歌山県は「地域の労働生産性と正の相関がみられる」と白書でされる、サービス業と製造業の内、サービス業は+0.052と全国平均より若干高いが、製造業は▲0.084と若干低いことが分かります。逆に「負の相関がみられる」と白書がいう、建設業と農林漁業の内、建設業は+0.003と全国平均並みですが、農林漁業は+0.254と極めて高いのです。

他府県では、滋賀県で製造業が+0.540と極めて高いのと、大阪府で農林水産業が▲0.925と極めて低いのが目に付きます。

第3図:産業別従業員数のシェアの全国平均からの乖離(2001年度)
第3図:産業別従業員数のシェアの全国平均からの乖離(2001年度)

備考)総務省「事業所・企業統計調査」(平成13年)により作成。

白書では、こうした産業特化の程度は、その地域の資源の賦存状況や自然発生的な企業集積に基づくところが大きいが、地域の生産性はこうした初期条件だけで決まっている訳ではなく、技術革新を促すような制度要因や人的資本の状況(就業者の教育程度)等にも影響を受けるとしています。

そこで、こうした人的資本の状況との関係をみるために、白書に準じて、地域の15歳以上人口に占める大学・大学院修了者の割合と地域の生産性との相関を調べますと(第4図)、中程度の相関関係がみられる(相関係数0.451)ことが分かりました。ちなみにP値(確率)は0.00146で危険度1%でも有意といえます。

注)第4図中、R2=0.2035から相関係数R=0.451と算出。以下同じ。

第4図:人的資本と地方の労働生産性
第4図:人的資本と地方の労働生産性

備考)総務省「事業所・企業統計調査」(平成13年)により作成。

この第4図から、和歌山県は大学・大学院修了者の割合が少ないことが、労働生産性に影響しているのではないかと思われます。

白書では、このように、地域の生産性は、より生産性の高い産業に特化している度合いが大きいほど、人的資本が高いほど、それに比例して高いということがいえるとしています。

失業率と労働力率の関係

次に白書は、修正就業率とほぼ対の概念である、失業率について考えるとしています。

注)修正就業率が、有業者数を有業者と求職中の無業者との合計で除したものであるのに対し、失業率は、完全失業者(就業意欲があり求職活動を行った非就業者)を労働力人口で除したものである。両者は、ほぼ対の概念と考えられるが、無業者はふだんの状態として仕事に就いていない者であり、臨時的に仕事をしている者が含まれるのに対し、完全失業者は就業意識があり求職活動を行ったものの調査期間中に少しも仕事をしなかった者であるなどの違いがある。

また白書では、失業率と労働力率との関係について、労働力率が高いと労働力が増加し雇用が一定であれば失業率が高くなるという面と、失業率が高いと労働参加の意欲が阻害され労働力率が低下するという2つの異なる相関が想定されるため、理論的には一義的に決まらないとしています。

そこで、失業率と修正労働力率の相関をみてみることにします(第5図)。

第5図:完全失業率と修正労働力率(2002年度)
第5図:完全失業率と修正労働力率(2002年度)

備考)内閣府「県民経済計算」(平成14年度)、総務省「就業構造基本調査」(平成14年)により作成。

この場合、完全失業率と修正労働力率の間に、ある程度の相関関係がみられる(相関係数▲0.305)ことが分かります。

つまり、「失業率の高い地域で修正労働力率が低いという関係がみられる」わけです。これは、白書のいう後者、即ち、失業率が高いことによって労働市場への参加の意欲が損なわれるという要因が強く働いているためと思われます。

和歌山県の場合も、失業率が高いことによって、労働参加の意欲が阻害され労働力率が低下したものと思われます。

地域間の労働移動と失業率

白書では、こうした失業率の地域間格差は、失業率の高い地域から低い地域への労働移動があれば、やがて是正されていくものとし、こうした地域間の労働移動と失業率の関係を、完全失業率と転入超過率の関係でみています。

転入超過率とは、過去5年間の転入者から転出者を差し引いたものを、5歳以上人口で割り、百分率を出したものです(第6図、第7図)。

第6図:労働移動と失業率の関係(1990年)
第6図:労働移動と失業率の関係(1990年)

第7図:労働移動と失業率の相関関係(2000年)
第7図:労働移動と失業率の相関関係(2000年)

備考)

  1. 転入超過率は、総務省統計局「国勢調査」(平成12年)人口移動集計その1(全国結果)「結果の概要」2.都道府県の人口移動「表4 都道府県間の転入率・転出率−都道府県(平成2・12年)」による。
    なお、白書では、「5年前の定住地が他県の者」を転入者、「5年前の定住地が当該県で現在は他県に常住している者」を転出者としている。
  2. 完全失業率も総務省統計局「国勢調査」(平成12年)による。

この2つの図によると、1990年時点における両者の相関関係は、ある程度の負の相関があり(相関係数▲0.303)、失業率の高い地域で転出超過、失業率の低い地域で転入超過となる傾向がみられ、労働移動が失業率格差を是正する方向に働いていたことが分かります。しかしながら、2000年時点をみると、そもそも地域間の労働移動自体が大幅に縮小するとともに、地域の失業率との相関もほとんどみられなくなっています(相関係数▲0.109)。

確かに、和歌山県の場合でも、失業率が上昇している(3.42%→4.95%で1.53%上昇)にもかかわらず、転入超過率は改善の方向に向かう(▲1.8%→▲1.0%で0.8%上昇)傾向にある、即ち、和歌山県から人が出ていかなくなっていることが分かります。

ちなみに、この間の1995年について、転入超過率を同年1年間の転入・転出に置き直して、完全失業率との相関関係をみると(第8図)、同年1月の阪神大震災の影響を受けた兵庫県を除いても、相関係数0.071とほとんど相関がないことがわかります。

このことから、少なくとも1995年には白書に書かれた傾向が出てきていたと推察されます。

また、これら第6図ないし第8図の3つの図からもう一つ分かることは、近似曲線の長さが段々短くなっている、即ち全国的に人が移動しなくなっているのではないかという点です。

第8図:労働移動と失業率の関係(1995年)兵庫県を除く
第8図:労働移動と失業率の関係(1995年)兵庫県を除く

備考)

  1. 転入超過率については、旧 総務庁「住民基本台帳人口移動報告」1995年1月〜12月による。
  2. 完全失業率は総務省統計局「国勢調査」(平成7年)による。

一般に、何らかのショックで地域の労働に対する需要が大きく減少したような場合には、それに対する労働市場の調整は、地域間労働移動の増加あるいはその地域の労働力率の低下(非労化)という形で表れます。白書は、この点に関しては、我が国の場合は、既にみたように地域の失業率が高いと労働力率が下がるという形で調整が行われているが、労働移動がますます低下すると、そうした労働力率による調整だけではショックを吸収できず、失業率が上昇する結果となるとしています。

中間報告

さて、ここまで述べてきたことから何がいえるのでしょうか。

整理しますと、和歌山県で次の5点がいえるのではないかと思います。

  1. 地域の労働需給(求職中の無業者が少ない)は近畿では良いものの、人口の割に働いている人や働こうという人が少ないうえに、特に、有業者が効率的に配置されていない、言い換えれば、地域の生産システムが効率的ではない。
  2. 「地域の労働生産性と負の相関がみられる」と白書がいう、建設業と農林漁業の内、農林漁業が極めて高い。
  3. 大学・大学院修了者の割合が少ないことが、労働生産性に影響しているのではないか。
  4. 失業率が高いことによって、労働参加の意欲が阻害され労働力率が低下した。
  5. 1995年以降、人が移動しなくなっている(全国的)。

白書では、第2章「地域経済再生への展望」中、「地域間経済格差の考え方」の項で、単純に経済的な合理性という観点からのみ考えれば、あえて所得水準が低く雇用機会の少ない地域に留まり続けるということは、その地域の住環境の魅力やその他のアメニティ(快適性)から得られる効用がそれを十分補完しているということであり、必ずしもその地域の住民の効用が低いとは限らないとしています。

即ち和歌山県の場合、住環境の魅力や快適性から得られる効用、即ち、余りある「和歌山県の魅力」が弱点を充分カバーしているのではないかということです。

逆に言いますと、和歌山県の場合、失業率が上昇しているにもかかわらず、人が出て行かなくなっているということは、その場所に何らかの魅力があるから経済的に少々不利でも留まっているということになります。

このことから、この「和歌山県の魅力」を見つけだして、より伸ばしていくことが必要なのです。

ただそれだけでは十分ではありません。なぜなら、人が留まっても働き口が確保できなければ、失業率が上昇するだけということになりかねません。

この2点について今後考えていくこととして、中間報告とさせていただきます。

(2005.7)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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