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建築着工統計から見る県内設備投資の特徴と県内景況の見通し

研究委員  藤本 迪也

1.はじめに

内閣府が11月6日に発表した9月の景気動向指数は6か月連続の下降となり、基調判断は「下方への局面変化」と修正された。2011年3月の東日本大震災以降、住宅購入支援、エコカー補助金、復興需要のもと景気をけん引してきた内需の弱まりや、中国・欧州経済の鈍化に伴う輸出・生産の不調が国内景気を下押ししていると考えられ、国内景気はすでに景気後退局面に入った可能性が高い。このような国内経済環境の中で、和歌山県経済はどうか。財団法人和歌山社会経済研究所では、研究所ウェブサイト(www.wsk.or.jp)において、和歌山県の主要経済指標の推移を報告すると同時に、県内1,000事業者を対象とした「景気動向調査」を四半期ごとに実施し、直近における県経済の状況を発表してきた。

経済指標の推移(主に9月の指標)を見ると、大型小売店販売額や新設住宅着工戸数、公共工事請負額は堅調に推移しているが、製造業は機械工業を中心に不調で、有効求人倍率も半年ぶりに下降していることがわかる(「グラフで見る和歌山県経済指標(平成24年10月)」参照)。

図1 県内事業者の自社景況BSI値の推移

図1 県内事業者の自社景況BSI値の推移
出所)財団法人和歌山社会経済研究所「景気動向調査」

また、「景気動向調査」によると、県内事業者の景況感(BSI値 )は、2010年以降、建設業がけん引する形で改善を続けてきたが、ここにきて改善の動きが鈍化している(図1)。9月に中国全土で発生した尖閣諸島領有問題に関する反日デモの影響や、欧州・米国経済の先行き不安に加え、国内では電気料金値上げや消費増税を控える状況下にあって、和歌山県経済の先行きは不透明さを増しており、今後を見通しづらい状況にある。

そこで、本稿では県経済の見通しを考察するために、県内事業者の設備投資状況を取り上げる。設備投資に焦点をあてる理由は、設備投資が各事業所において、今後の経営を見通しながら実施されるものであり、その動向は県経済の先行きと関連すると考えられるからである。

2.和歌山県における建築着工の特徴

2.1 建築着工統計について

県内事業者の設備投資状況に関して本稿では月次指標としての活用が可能であり、かつ都道府県別の資料として公表されている「建築着工統計」を取り扱う。

国土交通省が月次で公表している「建築着工統計」は、建築基準法に基づき、建築主から都道府県知事に提出される建築工事の届け出(延床面積10uを超えるもの)を集計したものであり、その中の一つの調査項目である「建築着工床面積(産業用)」は、新設あるいは増改築された事務所、店舗、工場等の着工床面積を集計したものである 。

内閣府の「今週の指標(No.1022)形態別にみた設備投資の動向」 によれば、民間企業の設備投資に占める「住宅以外の建物・構築物」の比率は2010年で25.8%となっている。機械設備への投資額(比率は46.9%)と比較すると建物・構築物への投資額は低いが、新築・増改築された場所に、機械設備が設置されることを考えると、その着工床面積は民間設備投資の状況を強く反映した指標といえる。

そこで、次節以降では和歌山県における建築着工床面積のうち、居住用途(居住専用住宅と居住専用準住宅)のものを除いた産業用着工床面積の推移を確認し、県内設備投資のこれまでの動向について考察を行う。

2.2 和歌山県における産業用着工床面積・工事費予定額の推移

2008年以降の和歌山県における産業用着工床面積を四半期ごとに見ると(図2)、リーマンショック後の2009年4〜6月期から10〜12月期にかけては大きな落ち込みがみられたが、それ以外の時期においては、一定量の建築着工が確認できる。10年7〜9月期以降は緩やかな減少基調にあったが、直近の12年7〜9月期に関しては反転増加となった 。

図2 2008年以降における県内産業用着工床面積・工事費予定額の推移

図2 2008年以降における県内産業用着工床面積・工事費予定額の推移
出所)国土交通省「建築着工統計」、財団法人建設物価調査会「建設統計月報」
2.3 業種別着工床面積の推移

次に業種ごとに着工床面積の推移を見る。表1のような類型化 に従い、それぞれの業種における着工床面積を見ると、図3のようになる。「その他」と「サービス業用」が県内建築着工の大きなウェートを占めており、その次に「製造業用」、「商業用」が続く。

図3 業種別着工床面積の推移

図3 業種別着工床面積の推移
出所)国土交通省「建築着工統計」、財団法人建設物価調査会「建設統計月報」

表1 産業用建築着工における業種区分

表1 産業用建築着工における業種区分
出所)筆者作成

「その他」建築着工床面積に関しては、「教育・学習支援業用」、「公務用」、「他に分類されない建築物」が特に多く、それらの床面積の推移を見たのが、図4であり、それぞれ2011年10月〜12年3月期の着工床面積が多くなっている。「教育・学習支援業用」の多くは、学校に関する建築着工であり、古くなった校舎の建て替えや耐震化工事によるものと考えられる。

図4 「その他」建築着工床面積の業種別推移

図4 「その他」建築着工床面積の業種別推移
出所)国土交通省「建築着工統計」、財団法人建設物価調査会「建設統計月報」

「サービス業用」建築着工面積に関しては、「医療、福祉用」が平均的に多く、「その他サービス業用」、「宿泊業、飲食サービス業用」が続く(図5)。「医療、福祉用」は高齢化が進む中で増加基調となっており、「その他サービス業用」、「宿泊業、飲食サービス業用」に関しては横ばいとなっている。

図5 「サービス業用」建築着工床面積の業種別推移

図5 「サービス業用」建築着工床面積の業種別推移
出所)国土交通省「建築着工統計」、財団法人建設物価調査会「建設統計月報」

「製造業用」、「商業用」、「農林水産業用」に関しては(図6)、「農林水産業用」が2010年7〜9月期に急増したものの、その後は横ばい傾向となっており、「製造業用」は10年後半以降減少基調となっていたが、12年7〜9月期は反転増加となっている。「商業用」は、11年前半に大きく増加したが、その後減少基調にある。

図6 「製造業用」「商業用」「農林水産業用」における建築着工床面積の推移

図6 「製造業用」「商業用」「農林水産業用」における建築着工床面積の推移
出所)国土交通省「建築着工統計」、財団法人建設物価調査会「建設統計月報」

このように、産業用建築着工床面積全体では、横ばいからやや減少傾向にある和歌山県ではあるが、各業種を見ると、その傾向には違いが見られる。そして、それらの違いは以下のように整理することができる。

和歌山県における産業用建築着工の特徴は、まず第一に学校関連の建築物を含む公共建築物や医療、福祉用建築物が多く、その次に製造業用建築物や商業用建築物が続いている点である。そして、第二に学校関連の建築物や医療、福祉用建築物の着工が増加基調にある一方で、製造業用建築物、商業用建築物の着工は2011年以降減少基調にある点である。

では、以上のような製造業用、商業用建築物着工の減少は、今後の県内製造業、商業の業況の悪化を示しているのだろうか。次節では、このことを考察するために、これまでの建築物着工床面積の推移と各業種における業況との間にどのような関連性があったかについて検証を行う。

2.4 BSI値との相関関係

建築物着工床面積の推移と各業種の業況との関係を検証するにあたり、県内各業種の業況については、当研究所が四半期ごとに実施している「景気動向調査」の業種別BSI値(図1)を活用する。

図7は、「製造業用」建築着工床面積と製造業自社景況BSI値を比較したものである。この図7を見ると、2010年におけるBSI値の改善期に着工床面積が増加し、11年以降にBSI値が横ばいで推移すると、同じように着工床面積も横ばいないし、減少傾向となっていることがわかる。

図7 製造業用建築着工床面積と製造業自社景況BSI値の推移

図7 製造業用建築着工床面積と製造業自社景況BSI値の推移
出所)国土交通省「建築着工統計」、財団法人建設物価調査会「建設統計月報」、
財団法人和歌山社会経済研究所「景気動向調査」

次に図8は、「商業用」建築着工床面積と商業自社景況BSI値を比較したものである。図8の通り、2010年から11年前半にかけてのBSI値改善期においては、「商業用」建築着工床面積も増加基調にあり、その後のBSI値下降期においても、着工床面積は類似の減少傾向を見せている。さらに、2012年以降に再度BSI値が上昇した際には、着工床面積も一時期増加に転じている。

図8 商業用建築着工床面積と商業自社景況BSI値の推移

図8 商業用建築着工床面積と商業自社景況BSI値の推移
出所)国土交通省「建築着工統計」、財団法人建設物価調査会「建設統計月報」、
財団法人和歌山社会経済研究所「景気動向調査」

最後に、図9は「サービス業用」建築着工床面積とサービス業自社景況BSI値を比較したものである。図9を見ると、2010年から11年半ばにかけてのBSI値改善期には、着工床面積も増加基調にあったが、その後はBSI値の改善とは逆に、着工床面積は減少基調に転じていることがわかる。

図9 サービス業用建築着工床面積とサービス業自社景況BSI値の推移

図9 サービス業用建築着工床面積とサービス業自社景況BSI値の推移
出所)国土交通省「建築着工統計」、財団法人建設物価調査会「建設統計月報」、
財団法人和歌山社会経済研究所「景気動向調査」

表2は、上で検証した着工床面積とBSI値の相関関係を調べた結果の一覧である。比較対象として、やや強い相関関係にある公共工事請負額と建設業BSI値の推移を取り上げた。

表2 業種別着工床面積と自社景況BSI値の相関関係

図9 サービス業用建築着工床面積とサービス業自社景況BSI値の推移
注)建設業に関しては、県内公共工事請負額とBSI値について検証。
出所)筆者作成

表2によると、建設業BSI値と公共工事請負額との相関係数に相当する係数は商業で見られたものの、有意確率が有意水準の5%を上回っており、帰無仮説(着工床面積と自社景況BSI値との間に相関関係はみられない)を棄却できず、有意な相関関係は認められない。製造業、サービス業に関しても、帰無仮説は棄却できない上に、相関係数は極めて低い数値となっている。

以上のように、設備投資の先行指標である建築着工床面積と県内自社景況BSI値との間に有意な相関関係は見られなかった。ただし、製造業、商業、サービス業ともに建築着工床面積の増加局面においては自社景況BSI値が同じように上昇していることが多く(図7、8、9参照)、景況感の持ち直し、改善、上昇期を把握する際の経済指標として、建築着工床面積は活用の可能性がある。

3.おわりに

和歌山県における設備投資の動向としては、学校関連の建築物、公務用建築物、医療・福祉用建築物のウェートが高い上に、これらの着工床面積が増加傾向にある一方で、医療・福祉用を除いたサービス業用建築物や製造業用、商業用建築物の床面積は横ばいないし減少傾向にあることが本稿では確認された。ただし、前節で検証したように、建築着工床面積と自社景況BSI値の間には有意な相関関係は確認できず、建築着工床面積の減少が必ずしも各業種における自社景況の悪化につながるとは言えない。むしろ、着工床面積の増加局面が自社景況BSI値の上昇局面とほぼ重なっていることからすると、2012年7〜9月期における製造業用、サービス業用建築着工床面積の反転増加(図7、9参照)を県内景況の好材料として認識しうるものと考える。

県内景況感の見通しを考えるうえで、着工床面積が十分に有効な指標であるかどうかについては、さらなるデータの蓄積と検証が必要ではあるが、一定程度の有効性は確認することができた。増加に転じた製造業用建築着工床面積とサービス業用建築着工床面積が今後どのような推移をたどるのか、商業用建築着工床面積の減少基調は今後も続くのか、最新の建築着工統計は、12月27日14時に「国土交通省 報道発表資料」にて公表予定である。

(2012.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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