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和歌山県において「雇用の受け皿」となっている産業とは
    〜経済センサス(基礎調査・活動調査)より〜

研究員  藤本 迪也

1.本稿の目的

人々が地域において暮らしを続けていくためには、所得を得るための仕事が必要不可欠である。そして、この仕事の場を人々に提供する、すなわち「雇用の受け皿」となる産業は、当該地域の持続性にとって大変重要な要素となる。

本稿では、この「雇用の受け皿」となる産業について、和歌山県ではどのような産業が該当するのかを、総務省「経済センサス」を活用しながら確認する。

また、2008年の世界金融危機以降の国内外の経済情勢の変化の中で、この「雇用の受け皿」となる産業に、どのような変化が見られているのかについて考察を行い、和歌山県における今後の雇用創出において重要となる示唆を導出する。

2.経済センサスについて

総務省の「経済センサス」は、2009年に基礎調査が、2012年には活動調査が実施され、2014年の基礎調査については、速報結果が公表された。基礎調査は、産業分野ごとの事業所数や従業者数などの基礎項目を中心に調査が実施されており、活動調査では売上(収入)金額や費用などの経理項目の把握を同時に行っている。

本稿のテーマである「雇用の受け皿」に関連する調査項目としては、産業分類ごとの従業者数が挙げられる。産業分類については、「農業、林業」、「製造業」、「卸売業、小売業」等の大分類に加えて、製造業であれば「食料品製造業」、「繊維工業」といった中分類ごとの事業所数や従業者数が把握できる。さらに、従業者数については、「正社員・正職員」、「個人業主」、「無給の家族従業者」など、従業上の地位ごとに人数を把握することができる。

そこで、今回は、「雇用の受け皿」というテーマを踏まえ、どの産業分野に「正社員・正職員」等の安定した雇用が多く見られるのかを確認する。

3.和歌山県における「雇用の受け皿」となっている産業

総務省「平成24年経済センサス - 活動調査」において県内民営事業所を対象に正社員・正職員数を産業大分類ごとに見ると(図表1)、製造業で3.9万人と最も多くなっており、次いで卸売業、小売業の2.8万人、医療、福祉の2.8万人が続き、建設業の1.6万人、運輸業、郵便業の1.3万人となっている[*1]。県内民営事業所で雇用されている正社員・正職員数は17.1万人であることから、上述の5産業がそのうちの7割程度を占めていることになる[*2]

図表1 産業大分類別の正社員・正職員数(民営事業所、2012年)

(資料)総務省「平成24年経済センサス−活動調査」

この5産業について、中分類別に正社員・正職員数の多い業種を見ると(図表2)、製造業では機械工業、化学工業、鉄鋼業など、県内に大手企業の工場を抱える業種で正社員・正職員数が多くなっている。卸売業、小売業については機械器具、飲食料品を取り扱う業種で、医療・福祉に関しては医療業で、建設業では総合工事業、運輸業・郵便業では道路貨物運送業などで正社員・正職員数が多く見られた。

図表2 産業中分類別の正社員・正職員数(民営事業所、2012年)

(注)製造業における「生産用・はん用機械」については、中分類である「生産用機械」と「はん用機械」を合算している。
(資料)総務省「平成24年経済センサス−活動調査」

以上のように、和歌山県では、大手企業を中心とした製造業、総合工事業を中心とした建設業に加えて、医療・福祉、運輸業を中心としたサービス業や商業が「雇用の受け皿」となっていることがわかる。

4.「雇用の受け皿」となっている産業の変化1 〜事業所数・従業者数〜

2008年の世界金融危機以降、国内外の経済情勢は激変している。一時、対ドル円レートは70円台を記録したが、その後は日本銀行による金融緩和もあり、円安進行となった。また、2011年3月の東日本大震災以降、国内原子力発電所の全炉停止により、電気料金は幾度となく引き上げられており、事業者にとって経営環境は大きく変化している。

このような状況の中で、県内の産業構造にはどのような変化が見られるのか。先ほど「雇用の受け皿」として重要産業であるとした5産業を中心に、2009年から2014年にかけての事業所数・従業者数の変化を確認する(図表3)。

それによると、和歌山県の「雇用の受け皿」とされる5産業において、状況は大きく異なることがわかる。まずは製造業だが、2009年から2014年という5年間の間に事業所数は1割減少となった。ただし、従業者数の減少は2%弱にとどまっている。類似の傾向は運輸業、郵便業でも見られる。

次に卸売業、小売業だが、この産業では5年間に事業所数が15%程度減少し、従業者数も10%の減少となっている。類似の傾向は建設業で見られた。

最後に、医療・福祉だが、こちらに関しては、これまで見てきた産業とは大きく状況が異なり、事業所数が2割近く増加し、従業者数は2割強の増加となっている。

このように、「雇用の受け皿」である5産業において、直近5年間の動きを見ると、医療、福祉ではさらに従業者数を増加させる一方で、製造業や運輸業、郵便業では従業者数をやや減少させており、卸売業、小売業、建設業では大きく従業者数が減少している。

図表3 2009〜14年にかけての民営事業所数・従業者数の変化

(注)ここでの従業者には、「正社員・正職員」に加えて、「個人業主」、「無給の家族従業者」、
「有給役員」、「臨時雇用者」などが含まれる。
(資料)総務省「平成21年経済センサス−基礎調査」、「平成26年経済センサス−基礎調査」

前述の5産業については、医療、福祉を除き、従業者数の減少が目立ったが、2009年から2014年の5年間にかけて、従業者数を大きく増加させた業種も多く見られる。図表4はこの5年間において、大きく従業者数を増加させた産業中分類業種である(ただし、2014年時の従業者数が1,000人以上の業種のみ表示)。

図表4 2009〜14年にかけての従業者数増加率が高い業種

(資料)総務省「平成21年経済センサス−基礎調査」、「平成26年経済センサス−基礎調査」

インターネットの普及を受けて、通信販売市場が拡大する中、和歌山県内においても無店舗小売業で従業者数が増加しており、その増加率は2009年から2014年の5年間で275.1%増となっている。この増加率は県内1位で、後にはゴム製品製造業、郵便局、社会保険・社会福祉・介護事業、持ち帰り・配達飲食サービス業などが続いた。

5.「雇用の受け皿」となっている産業の変化2 〜正社員・正職員比率〜

次に従業員の特徴の変化について見る。和歌山県の「雇用の受け皿」とされる5産業について、従業者数に占める正社員・正職員の割合を見ると(図表5)、2009年から2012年の間に、3産業で割合が下降している。最も下降幅の大きい産業は医療、福祉で2009年時55.3%から2012年時には52.5%に下降している。製造業は0.7%ポイントの下降、2009年時点ですでに33.7%と正社員・正職員比率が低くなっていた卸売業、小売業は0.2%ポイントの下降となっており、底ばいの状況。その一方で、建設業は2009年時53.8%から2012年時には56.1%と2.3%ポイントの上昇となっており、運輸業、郵便業についても0.4%ポイント上昇している。県内建設業では2012年以降、公共工事発注額が増加しており、そのような点を背景に、正社員を中心に人材を確保する事業者が増加した可能性が考えられる。

このように、非正規社員の増加が問題視される中で、和歌山県内においては産業ごとに異なる状況となっていることがわかった。

図表5 2009〜12年にかけての正社員・正職員比率(%)の変化

総務省「平成24年経済センサス−基礎調査」において、従業上の地位別の従業者数について結果が
本稿発表時には未公表のため、2009年から2012年までの変化を見ている。
(資料)総務省「平成21年経済センサス−基礎調査」、「平成24年経済センサス−活動調査」

6.まとめ

和歌山県における「雇用の受け皿」となっている製造業や卸売業、小売業、医療、福祉について、2009年以降の従業者数の変化や正社員・正職員比率の変化などを見た結果、以下の2点が明らかになった。まず、1点目は、経済環境の変化の中で、各産業の従業者数が大きく変化している点である。医療、福祉において従業者数が2割以上増加する一方で、製造業、運輸業では減少しており、卸売業、小売業、建設業では1割以上の減少となっている。また、無店舗小売業や持ち帰り・配達飲食サービス業など、時代環境の変化の中で、新たな分野での雇用創出が進んでいることも明らかになった。

2点目は、正社員・正職員比率の変化に産業ごとの違いが見られる点である。従業者数が大きく増加している医療、福祉では正社員・正職員比率が低下する一方で、建設業や運輸業では上昇している。

このように、和歌山県における「雇用の受け皿」と考えられる各産業では、抱える従業者数や正社員・正職員比率が大きく変化している。そして、その一方で、新たに「雇用の受け皿」となりうる業種も見られ始めている。和歌山県における「雇用の受け皿」として、どのような産業が重要であるかについては、現時点で変化の途上にあり、引き続き、各種調査を活用しながら、その変化を追跡していくことが重要と考える。

参考情報

  • [*1]
    総務省がまとめた「地方公共団体の定員や給与の状況」(2009年)によると、和歌山県内の地方公務員数は27,694人となっており、卸売業、小売業の正社員・正職員数に匹敵する規模となっている。

  • [*2]
    経済センサスは民営事業所を対象にそこで雇用されている従業者数を調査しており、多くの農業就業者がここには含まれていない。そのため、図表1でも、「農業、林業」における正社員・正職員は1,000人未満となっている。総務省「国勢調査」(平成22年)によると、「農業、林業」の就業者は4.0万人程度となっており、この就業者のうち、どの程度が、民営事業所における正社員・正職員と同程度の所得を得ているかは不明ではあるが、4万人近い就業者を抱える「農業、林業」もまた、和歌山県の「雇用の受け皿」となっている産業と考えられる。

(2015.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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