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和歌山県における「賃上げ」状況について
    〜毎月勤労統計調査・賃金構造基本統計調査より〜

研究員  藤本 迪也

1.本稿の目的

労働組合を束ねる連合が昨年7月に発表した2015年春季労使交渉の最終集計結果によると、15年の賃上げ率は前年比2.20%で昨年から0.13ポイント上昇した。2016年の労使交渉についても、デフレ脱却を目指す安倍政権は円安で改善した企業業績を賃上げに還元するように経済界に求めており、連合はボーナスよりもベースアップによる賃上げを重視し、目標を掲げている。

「経済の好循環」の実現には、業績改善が進む大手企業だけでなく、中小企業や非正規労働者の賃上げが実施されるかどうかが重要となる。ただし、2016年に入り、国内経済情勢は、中国経済の減速懸念、原油価格の急落などを背景にした世界金融市場の不安定化の中で、企業の景況感は見通しに慎重さが見られ、個人消費についても、鮮明な持ち直しの動きが見られない状況にある。今後の国内景気の浮揚には、個人消費の持ち直しが重要となり、そのためにも、就業者の賃金アップがポイントとなる。その中で、これから始まる2016年春季労使交渉は非常に注目される。

そこで、本稿では、今後の賃上げの動向を把握するためにも、第2次安倍政権誕生後における和歌山県下の賃上げの状況を確認する。安倍政権が経済界に強く賃上げを働きかける中で、和歌山県内における賃上げがどの程度見られたのか、この点について、厚生労働省「毎月勤労統計調査」、「賃金構造基本統計調査」、当研究所実施の「景気動向調査」を活用しながら、考察を行う。

2.県内事業者における賃上げの状況(アンケート調査より)

当研究所では四半期に1度、県内2,000の事業者の協力のもと、「景気動向調査」[*1] を実施している。この調査では、景況感や売上高・収益等の業績に関する質問に加えて、その時々の経済トピックをテーマとした質問を行っており、2015年9月、2014年6月には「県内事業者における賃上げ状況」に関する質問を行った。

2015年9月に実施した調査では、2015年度における賃上げ状況について、月例給与額の引き上げ状況、賞与の引き上げ状況を質問した。その結果が図表1(左)である。2015年度に関しては、過半数の55.7%の県内事業者が賃金引上げを実施したと回答し、「実施せず」は30.7%、「引き下げた」は8.6%となった。2014年6月に実施した調査結果(図表1右)は2014年度の賃上げ状況を示したものであるが、その際の「実施した」との回答は41.2%であったことから、2015年度のほうが、「実施した」との回答が14.5%ポイント上昇している。

図表1 県内事業者の賃上げ実施状況

2015年度 2014年度

(資料)和歌山社会経済研究所「景気動向調査」

このように、和歌山県内の中小企業を中心とする事業者においても、2015年度にはその過半数が賃上げを実施したと回答しており、全国と同様に和歌山県内でも就業者の賃金上昇が実施されたものと考えられる。

次節以降では、この賃上げの動きについて、実際の就業者の所得にどのような変化が見られているのかについて、厚生労働省「毎月勤労統計調査」、「賃金構造基本統計調査」を活用しながら見ていきたい。

3.毎月勤労統計調査にみる賃上げの状況

厚生労働省が実施している「毎月勤労統計調査」は、賃金や労働時間、雇用者数の変動を把握するために実施されるもので、和歌山県内においても、月次で結果が公表されている。

主に正社員・正職員が該当する「一般労働者」と「パートタイム」に関する雇用・所得指標の前年比を見たものが、図表2である。それによると、一般労働者では、2015年に入り、超過労働給与が大きく増加する一方で、所定内給与については、2015年7月以降、前年を下回る水準となっている。

前節の当研究所「景気動向調査」では、賃上げを実施した事業者が多く見られる一方で、毎月勤労統計調査では、所定内給与が2015年後半以降、前年比マイナス水準となっている今回の結果について、次節では別の統計調査を活用して状況を確認したい。

図表2 毎月勤労統計にみる雇用・所得指標について(前年比)

一般労働者 パートタイム

(注1)雇用者所得とは、現金給与総額に常用労働者数をかけた値。
(注2)パートタイム労働者とは一般労働者よりも勤務時間の少ないものを意味しており、一般労働者にはフルタイムでの
アルバイト、パートタイムが含まれる。

(資料)和歌山県調査統計課「毎月勤労統計調査」

4.賃金構造基本統計調査にみる賃上げの状況

厚生労働省が実施する「賃金構造基本統計調査」は、主要産業に雇用される労働者について、その賃金の実態を労働者の雇用形態、就業形態、職種、性、年齢、学歴、勤続年数、経験年数別等に明らかにすることを目的に実施されている。都道府県別、年齢階層別の現金給与総額が示されていることから、ここでは、年齢階層ごとの賃金水準の推移について見ていきたい(図表3)。

従業員規模10〜99人の県内企業における年齢階層別の給与水準の推移を見ると、2014年は1999年に比べて大きく減少しており(全体では9.5%減)、2010年から2014年にかけては増加(全体では1.8%増)している。ただし、安倍政権が経済界に賃上げを要請するなどの動きが見られた、2014年に関しては、2013年に比べて給与水準は減少している。

図表3 きまって支給する現金給与総額の推移(従業員規模10〜99人)和歌山県
図表3 きまって支給する現金給与総額の推移(従業員規模10〜99人)和歌山県

(注1)単位は千円(月額)。各値は各年齢階層における平均値で、対象者は正社員・正職員に加えて、パート・アルバイト等の非正規雇用者が含まれる。
(注2)きまって支給する現金給与総額とは、所定内給与に時間外勤務手当などの各種手当を含んだもので、賞与は含まない。

(資料)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

5.まとめ

以上のように、アンケート調査や各種統計調査などをもとに、県内における賃上げ状況を考察してきた。当研究所が実施した「景気動向調査」では、過半数の事業者が賃上げを実施すると回答する一方で、厚生労働省実施の「毎月勤労統計調査」、「賃金構造基本統計調査」では目立った賃上げの動きは見られず、「賃金構造基本統計調査」では、多くの年齢階層において、2013年から14年にかけて給与水準が下降しているとの結果となった。当調査には、正社員・正職員に加えて、パート・アルバイト等の非正規社員が調査対象に含まれることから、非正規雇用比率上昇によって、賃金水準が引き下げられた可能性もあるが、目立った賃上げの動きが見られなかった点には注意が必要である。

このように、県内における賃上げ状況について、複数の調査、統計資料を活用して、その状況を確認した結果、鮮明な賃上げの動きは確認できない状況が見られた。そして、今回の考察を通じての一つの示唆としては、一つの経済事象に関して、経済指標、調査は複数あり、それらを複合的に活用することが重要であるという点である。

参考情報

  • [*1]
    「景気動向調査」における調査対象事業者の約半数は従業員数20人未満の事業者となっており、主に中小企業を対象とした調査である。

(2016.4)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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