直近5年間(2012年〜17年)における和歌山県経済の状況変化(2)
〜 県内企業の景況感は総じて上昇傾向にある 〜
研究員 藤本 迪也
1.2012年以降の日本経済
○国内景気は「緩やかな回復基調」
2012年12月には第2次安倍内閣が発足し、「アベノミクス」と呼ばれる経済財政政策を展開した。日本銀行による大胆な金融緩和政策が決定されると、対ドル為替レートは急激な円安進行となり、1万円台を割り込んでいた日経平均株価は2万円台を回復した。国内景況感を示す日銀短観DIは、2014年4月の消費増税以降しばらく低迷する時期もあったが、2017年4〜6月期の値はリーマンショック以前の水準を超えるまでとなった。2018年1月、内閣府はこのような状況を受けて、国内景気は「緩やかな回復基調が続いている」との判断に引き上げた(月例経済報告)。
○和歌山県内の家計所得は改善にいたらず、人口減少は加速
この間の和歌山県経済(人口、家計面)については、前号レポートで述べた通り、以下のような状況にある。
図表1 2012年〜17年の県内経済の変化(人口、家計収支)
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○県内の企業活動はどのように変化したか
本稿では、人口減少が進み、家計の状況にも改善が見られなかった2012年〜17年において、県内企業活動はどのように変化したかについて、明らかにする。
2.2012年からの5年間における県経済の変化 〜企業活動〜
(1)県内企業の景況感(全産業)
○県内景況感は再び上昇傾向にある
研究所が年4回実施(県内事業者2,000社が調査対象)している「景気動向調査」によると、県内企業の景況感は、2013年に入り上昇傾向を示した後、14年4月の消費増税を受けて、大きく下降した。その後、2015年中は緩やかな持ち直しの動きが見られたが、2016年4〜6月には、国内外の情勢不安[*1] もあり、景況感は大きく落ち込んだ。ただし、その後は再び上昇傾向を示し、2017年10〜12月期には0.7となり、約4年ぶりにプラス水準を回復した。
図表2 県内企業の景況感(景況BSI)の推移(全産業)
(注)景況BSIは、景況感を「良い」とする事業者割合から「悪い」とする事業者割合を引いて算出
(資料)和歌山社会経済研究所「景気動向調査」
(2)県内企業の景況感(建設業)
○建設業の景況感は悪化した後、回復へ
県内建設業の景況BSIは、2012年から14年にかけては、11年の紀伊半島大水害後の復旧工事や15年の紀の国わかやま国体関連の建設工事、京奈和自動車道等の建設工事もあり、高い水準で推移した。ただし、15年に入ると、公共工事額は減少に転じ、景況感も大きく下降した。その後は、17年の後半に入り、電気工事、管工事等で公共工事額が増加し、景況感は回復に向かっている。
図表3 県内企業の景況感(景況BSI)の推移(建設業)
(注)景況BSIは、景況感を「良い」とする事業者割合から「悪い」とする事業者割合を引いて算出
(資料)和歌山社会経済研究所「景気動向調査」
(3)県内企業の景況感(製造業)
○製造業の景況感は大きく上昇した
県内製造業の景況感は、2012年10〜12月期には−23.5と低い水準にあったが、17年10〜12月期には6.9まで上昇した。景況感を「良い」とする事業者は約3割を占めており、特に鉄鋼・金属製品製造業や機械・機械部品製造業に多い。
図表4 県内企業の景況感(景況BSI)の推移(製造業)
(注)景況BSIは、景況感を「良い」とする事業者割合から「悪い」とする事業者割合を引いて算出
(資料)和歌山社会経済研究所「景気動向調査」
(4)県内企業の景況感(卸売業)
○卸売業の景況感は上下動を繰り返している
県内卸売業の景況感は、2014年1〜3月期までは持ち直しの動きを見せたが、その後は低迷した。15年以降の景況感は、上下動を繰り返し、17年10〜12月期は−6.3となっており、12年10〜12月期の−4.3とほぼ同じ水準にある。ただし、業種別では状況に差が見られる。建設業向けの鋼材等を取り扱う建築関連卸売業では景況感が低迷する一方で、機械器具、化学製品を取り扱う事業者の景況感は上昇している。
図表5 県内企業の景況感(景況BSI)の推移(卸売業)
(注)景況BSIは、景況感を「良い」とする事業者割合から「悪い」とする事業者割合を引いて算出
(資料)和歌山社会経済研究所「景気動向調査」
(5)県内企業の景況感(小売業)
○小売業の景況感は低迷期を脱し、元の水準を回復
県内小売業の景況感は、2014年1〜3月期までは持ち直しの動きを見せたが、その後は低迷した。16年には、半数の事業者が景況感を「悪い」と回答するなど、非常に厳しい状況にあった。17年に入り、景況感を「悪い」とする事業者が減少し、景況感は17年10〜12月期には−22.1となり、12年10〜12月期とほぼ同水準(−23.4)まで回復した。業種別に見ても、燃料小売業を除く全ての業種で景況感は上昇した。
図表6 県内企業の景況感(景況BSI)の推移(小売業)
(注)景況BSIは、景況感を「良い」とする事業者割合から「悪い」とする事業者割合を引いて算出
(資料)和歌山社会経済研究所「景気動向調査」
(6)県内企業の景況感(サービス業)
○サービス業の景況感は大きく上昇
県内サービス業の景況感は、2014年1〜3月期までは持ち直しの動きを見せたが、その後は低迷した。ただし、16年後半からは大きく改善し、17年10〜12月期には2.2とプラス水準まで上昇した。ただし、業種別に見ると、状況には違いが見られ、運輸業、不動産業、対事業所サービス業では景況感が上昇する一方で、教養・娯楽、生活関連サービス業、旅館・ホテル業は下降している。
図表7 県内企業の景況感(景況BSI)の推移(サービス業)
(注)景況BSIは、景況感を「良い」とする事業者割合から「悪い」とする事業者割合を引いて算出
(資料)和歌山社会経済研究所「景気動向調査」
3.まとめ
2012年12月以降の国内景気の拡大局面において、県内景気は、消費増税直後、16年4〜6月期の低迷を経て、現状としては上昇傾向にある。特に、製造業、サービス業の景気回復が顕著で、県内全体をけん引した。また、建設業、小売業については、一時期、景気が低迷したものの、17年に入り、持ち直しの動きが見られた。
また、2017年に関して言えば、従業員数が10人未満の事業者についても、景況感が大きく改善しており、地域別に見ても、和歌山市、紀北地域、紀中地域、紀南地域の全てにおいて景況感は改善した。
2012年〜17年の県内経済は、人口・家計については、人口減少が加速し、家計収入は物価高により、実質的な減収となった。その一方で、企業の景況感は、上下動を繰り返しながらも、全体としては上昇傾向にある。そして、この傾向は、業種、従業員規模、地域に関係なく見られる。
今後は、この企業の景況感の改善が、従業員の所得改善につながるかどうかが注目される。研究所では、引き続き、県内企業の景況感の把握に加えて、賃上げ状況も確認しながら、県内経済がどのように変化しているかについて、考察を続けていきたい。
図表8 2012年〜17年の県内経済の変化(企業の景況感)
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参考情報
- [*1]
2016年4〜6月期には、4月の熊本地震、6月の英国のEU離脱問題などが生じた。円高進行による日経平均株価の下落もあり、国内景気は低迷した。
(2018.4)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)