2009年〜2016年における事業所数の変化(和歌山県)
〜 個人経営の事業所数が大きく減少し、全体では約1割の減少 〜
研究員 藤本 迪也
1.はじめに 〜「経済センサス」を活用して、和歌山県経済の概況を把握〜
事業所・企業に対する「国勢調査」と言われる「経済センサス」(総務省)は、2009年、2012年、2014年、2016年に実施されている。本稿では、これらの調査結果を活用し、2009年から2016年における和歌山県内の事業所数の変化を確認する。
2.2009年〜2016年における県内事業所数の変化
「経済センサス」が最初に実施された2009年は、その前年に世界金融危機が起こり、日本国内の景気は大きく低迷していた。その後は、東日本大震災(2011年)、消費税率の引き上げ(2014年)などもあったが、国内景気は持ち直しの動きを見せた。
今回は、このような「景気持ち直し期」における和歌山県の事業所数の変化を見る。
(1)事業所数の変化
○2009年からの8年間で県内事業所数は約1割減少
和歌山県内に立地する事業所(本社が他府県にある事業所を含む)について、事業所数の推移を見ると、図表1のようになる。2009年には53,018の事業所があったが、その後は減少傾向が続き、2016年には47,247事業所まで減少した(対2009年比10.9%減)。
図表1 2009〜2016年における県内事業所数の推移
(資料)総務省「経済センサス-基礎調査」(2009年、14年)、「経済センサス-活動調査」(2012年、16年)
○個人経営の事業所が大きく減少したが、会社形態の事業所はわずかに増加
次に、経営組織(個人経営、会社等)別に事業所数の推移を見ると(図表2)、個人経営の事業所が30,871事業所(2009年)から24,875事業所(2016年)まで減少する一方で、会社形態の事業所は17,522事業所(2009年)から17,620事業所(2016年)となり、わずかながら増加している。
このように、2009年から2016年にかけての県内事業所の減少は、個人経営の事業所の減少によるところが大きい。
図表2 2009〜2016年における県内事業所数の推移
(資料)総務省「経済センサス-基礎調査」(2009年、14年)、「経済センサス-活動調査」(2012年、16年)
(2)個人経営の事業所数の減少について
○「卸売業、小売業」において事業所数は約3割減少
2009年から2016年にかけて、約2割の減少となった個人経営の事業所数だが、産業別に見た場合、どのような変化となったのか、図表3で確認する。
2009年から2016年における事業所数の変化で、最も減少数の大きい産業は「卸売業、小売業」である。2009年には事業所数が9,603となっていたが、2016年には6,977まで減少した(対2009年比27.3%減)。
○「建設業」、「宿泊業、飲食サービス業」、「製造業」でも事業所数が大きく減少
その他にも「建設業」、「宿泊業、飲食サービス業」、「製造業」などで事業所数が大きく減少している。高齢化を受けて「医療、福祉」は、対2009年比2.2%の増加となっているが、その他の産業については、経営者の高齢化、事業環境の悪化などさまざまな要因により、廃業事業者が多く見られた。
図表3 2009〜2016年における県内事業所数(個人経営)の増減[産業別]
(注)日本標準産業分類における「大分類」ごとに集計を実施した
(資料)総務省「経済センサス-基礎調査」(2009年)、「経済センサス-活動調査」(2016年)
○日常生活に関わる業種において、事業所数の減少が目立つ
さらに詳細な業種分類ごとに、事業所数の増減を見ると(図表4)、「飲食料品小売業」、「その他の小売業(書籍、医薬品、化粧品等)」、「飲食店」、「洗濯・理容・美容・浴場業」など、日常生活に関わる業種において事業所数が大きく減少していることがわかる。
その一方で、「無店舗小売業」、「医療業」などでは事業所数が増加している。
図表4 2009〜2016年における県内事業所数(個人経営)の増減[業種別]
(注1)日本標準産業分類における「中分類」ごとに集計を実施した
(注2)増減率の単位は%
(資料)総務省「経済センサス-基礎調査」(2009年)、「経済センサス-活動調査」(2016年)
(3)会社形態の事業所数について
株式会社や有限会社といった会社形態をとる事業所数については、2009年から2016年にかけて、ほとんど増減が見られなかった(図表2)。ただし、産業別に見ると(図表5)、産業ごとに違いが見られる。
○主力産業で事業所数が減少するが、「宿泊、飲食サービス業」、「医療、福祉」は増加
事業所数の最も多い「卸売業、小売業」だが、2009年から2016年にかけて、その事業所数は1.2%減(対2009年比)となっている。「製造業」は同4.6%減、「建設業」は同7.1%減である。このように、事業所数の多い主力産業において、2009年以降、事業所数は減少している。その一方で、「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」、「医療、福祉」、「教育、学習支援業」などでは事業所数が増加している。
図表5 2009〜2016年における県内事業所数(会社形態)の増減[産業別]
(注)日本標準産業分類における「大分類」ごとに集計を実施した
(資料)総務省「経済センサス-基礎調査」(2009年)、「経済センサス-活動調査」(2016年)
○「社会保険・社会福祉・介護事業」の事業所数は約2倍(対2009年比)に
さらに詳細な業種分類ごとに、事業所数の増減を見ると(図表6)、「設備工事業」、「機械器具卸売業」、「映像・音声・文字情報制作業」、「飲食料品小売業」、「情報サービス業」などで事業所数が大きく減少している。その一方で、「社会保険・社会福祉・介護事業」、「飲食店」、「インターネット附随サービス業」、「無店舗小売業」、「洗濯・理容・美容・浴場業」などでは事業所数が増加しており、その増加率も非常に高い。
図表6 2009〜2016年における県内事業所数(会社形態)の増減[業種別]
(注1)日本標準産業分類における「中分類」ごとに集計を実施した
(注2)増減率の単位は%
(資料)総務省「経済センサス-基礎調査」(2009年)、「経済センサス-活動調査」(2016年)
○全95業種中53業種で事業所数が減少するも、増加業種も35業種ある
業種別(日本標準産業分類における中分類、全95業種)では、53業種において事業所数が減少したものの、35業種では増加となった。また、増加した35業種での増減率(対2009年比)は19.5%増と高い。
以上のように、会社形態の事業所数は、多くの業種で減少しているものの、「社会保険・社会福祉・介護事業」、「飲食店」、「インターネット附随サービス業」、「無店舗小売業」などで、事業所数が大きく増加しており、全体としては、ほぼ増減なしとなっている。
図表7 2009〜2016年における県内事業所数(会社形態)の増減について
(注)表中の増減率は2009年から2016年にかけての事業所数の増減率を意味する
(資料)総務省「経済センサス-基礎調査」(2009年)、「経済センサス-活動調査」(2016年)
3. おわりに 〜 まとめ 〜
2009年から2016年の「国内景気持ち直し期」における、県内事業所数の変化について、本稿で明らかになった6点を以下の通り整理する。
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(2018.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)