ホーム | サイトマップ | リンク

ホーム > レポート > 産業 > 農業の6次産業化をすすめるにあたり、韓国農業と日本農業の類似性について思うこと

農業の6次産業化をすすめるにあたり、韓国農業と日本農業の類似性について思うこと

研究部長  藤本 幸久

過日(2012.11.13)、農林水産政策研究所主催のセミナー「韓国の6次産業化 [*1] 、食品クラスター [*2] の展開と可能性」に参加したので、感じたところを以下に述べることとする。

1.韓国農業と日本農業の主な指数の比較

韓国農業と日本農業の主な指数は次のとおりであるが、その内容については次の項においてそれぞれ述べることとする。

韓国と日本の主な農業関連指数(2009年)
韓国と日本の主な農業関連指数
(農林水産省HP、韓国農村経済研究院データより筆者作成)

2.韓国農業と農村の状況

韓国農業は団地化され、都市部と農村部がはっきり分かれ、農村部には兼業先がないことから専業農家比率が58%と、日本の24%(農林水産省HP 2009)に比べ高いものの、他産業との所得格差は広がりつつある。

そこで、韓国政府は2005年に地域農業クラスター活性化支援事業、2008年に農村活力増進事業(郷土産業育成・地域特化品目育成)などをすすめ、地域のポテンシャル(原材料、環境、食文化等)を活用した商品開発、ブランドづくりをはかってきた。

ところが、韓国は電気や自動車などの輸出産業の推進により経済成長をはかってきたことから、相次ぐFTA [*3] (Free Trade Agreement:自由貿易協定)締結による安価な外国産農産物の流入にともない、都市部と農村部の所得格差がさらに拡大している。

韓国の都市勤労者と農家の所得比較
韓国の都市勤労者と農家の所得比較
(韓国統計庁 農家経済統計・都市家計年報より)

また、韓国の国民総生産に占める輸出の割合は43%(総務省統計局HP 2009貿易依存度より)と日本の11%に対し約4倍であり、経済対策の主眼を輸出に置かざるを得ない環境にはあるが、その韓国を見習うがごとく日本も同じ道を歩もうとしているように思えてならない。

韓国の専業農家所得は都市部住民の3分の2まで下がり、農村地域の過疎化・高齢化が著しく、医療機関の撤退や学校の廃校が相次ぎ、社会基盤の崩壊の危機に立たされている。日本でも同じ傾向を示しているが、日本を大きく上回る勢いで農村が衰退しているようである。

なお、韓国の平均経営面積は1.45haと日本の1.91ha(農林水産省HP 2009)より若干小さいが、規模を縮小する農家、廃業する農家が急速に増加する中、規模拡大を目指す農家が減っている。一方、日本は規模拡大を目指す農家は増加傾向にあるものの(2009年1.91ha→2011年2.27ha)、オーストラリアの2,970ha(日本の約1,309倍)、アメリカ170ha(約75倍)、ドイツ56ha(約25倍)とは隔絶の感がある。

耕地面積の各国の比較
(日本は2011年、以外の国は2010年、農地面積は2009年の数値)
耕地面積の各国の比較
(農林水産省統計部 農業構造動態調査等より)

すなわち、韓国政府がFTAを推進することで、農産物価格の一層の下落が見込まれる中で、経営規模を拡大しても農業の将来に希望が持てないという考えが農家に浸透してしまっているようである。また、先の口蹄疫問題 [*4] で畜産業が壊滅的な打撃を受け、さらに、FTAの推進が農村部へとどめの一撃となる可能性がある。

ただ、韓国はパプリカなど国際的な優位性を確保できる戦略作物 [*5] の育成に多大な投資を行い、農業構造の改善を強力に推しすすめてきた。しかし、国の予算に占める農業予算の割合は、1995年の15.9%をピークに年々減少しており、2008年には6.2%(日本は3.1%(農林水産予算2.6兆円/一般会計歳出84.7兆円≒3.1%))まで落ち込んでいる。

さらに、韓国では人口の増減にあわせて地域ごとの議員数を決めることから、農業・農村振興を主張する議員も減っており農業予算はさらに縮小すると考えられる。

また、韓国は日本同様独自で高いレベルの食文化を持っているが、このままでは国産食材は輸入食材に変わり、守るべき食文化も希薄になっていく。さらに都市部と農村部の所得格差がこれ以上広がり、農業に夢を持てない若者が増えると、農村の崩壊は加速し農業の担い手がいなくなってしまう。

3.日本農業の概況とその背景

日本においては、一昨年(2011.3.11)の原発事故による放射能汚染問題で、残念ながら日本ブランドは大打撃を被ることとなった。前年度との単純な比較ではあるが、2010年の農林水産物輸出額が4,920億円であったが、2011年には対前年比92%の4,511億円となってしまった。

ところが、国産農産物の輸出戦略の推進は遅々としてすすまず、国民でさえ買わない農産物を、海外の消費者が高価格で買うことなどあり得ない。

この有事のもとでの農産物の関税撤廃は日本農業にとってメリットはなく、逆に海外の産地に日本の農産物マーケットをそっくり手にいれる最高のチャンスを与えてしまうこととなる。自由化に関係なく、既に小売店の精肉売場は国産牛肉の販売スペースが大幅に縮小し、輸入ものの牛肉や豚肉にとって換えられつつある。

ちなみに、2008年度の主要国の農産物貿易額(輸出額、輸入額、輸出入超過額)は次に示すとおりであり、なかでも日本の農産物輸出額は27億ドル(2,883億円)で、農業総産出額8兆4,736億円に対しわずか3.4%に過ぎない。一方、農産物の輸入額は567億ドル(59,821億円)であり539億ドル(56,938億円)もの輸入超過となっている。

主要国の農産物貿易(2008年)
主要国の農産物貿易
(FAOSTAT、WDI Online より)

さて、仮に日本がTPP [*6] (Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement:環太平洋経済連携協定)交渉に参加せざるを得ない状況に至ったとするならば、日本の国益を考えると、絶対に譲れない安全規制、国民皆保険、さらにコメは例外品目にするなどといった戦略が必要となってくる。とりわけ、農業については6次産業化をはかりながら、セーフティネット対策(国内対策) [*7] を積極的に実施することが重要となってくるであろう。

ただ、TPPは聖域なき関税撤廃と言いながら、アメリカ自身は、ニュージーランド産乳製品やオーストラリア産砂糖の関税を撤廃すると、アメリカ国内の農家が打撃を受けることとなることから、乳製品、砂糖など一部例外扱いを求めているとされる。

乳製品と砂糖に関するTPP交渉の構図
乳製品と砂糖に関するTPP交渉の構図
(2012.12.13 日本農業新聞より)

それは、乳製品の競争力はニュージーランド、アメリカ、カナダの順であり、アメリカはこれまで、自国より競争力の高いニュージーランド産の関税撤廃に消極的な姿勢を続けてきた。一方、砂糖の競争力はオーストラリア、メキシコ、アメリカの順であり、オーストラリアの砂糖がメキシコに入れば、メキシコ産がアメリカに玉突き式で輸出されるという構図があるからである。

また、アメリカは日本に対して全品目をTPP交渉のテーブルに乗せることを求めつつも、加盟国間の本交渉では、コメなど日本の重要品目は関税撤廃の例外扱いにできる可能性があることを示唆しているとされることから、この「例外品目」をできるだけ多く勝ち取ることの戦略に着目と期待をしたい。

とは言うものの、完全に自由化されたならば、農林水産省の見解 [*8] のように日本のコメの90%は消えてしまうことになるであろう。少なくとも、コメ1俵(60s)あたりの平均生産費約16,000円(農林水産省HP H23年産生産費)を半分以下に抑えることができなければ、輸入米には到底たち打ちできない。そのためには、営農条件がよく基盤整備のされている大区画ほ場で大規模な営農を行う必要があるが、どれだけの地域でこのような経営が可能であろうか。

穀物等の国際価格の動向
穀物等の国際価格の動向
(農林水産省HPより)

世界の米輸出(2011年)
世界の米輸出
(アメリカ農務省調べ)

※ 例えば、国際価格(タイ国家貿易取引委員会公表市況)を614ドル/トン、為替相場を90円/ドル、運賃・保険料等を10円/kgとするならば、1俵あたり約4,000円となり、16,000円とは相当な価格差がある。

小規模で傾斜地が多い中山間地域、道路や排水条件が悪い農地では、このような大胆なコスト削減はできない。コスト削減が至上命題であるがゆえに、営農条件の悪い農地が耕作放棄されるのであって、耕作放棄地対策などは立ちいかなくなる。まさに、集落営農や「人・農地プラン」 [*9] による農地集積など今までの政策で追いつけるレベルではないのである。さらに、農地保全、農村景観や農村文化を残そうなどという機運も消え失せてしまうこととなろう。

4.日本の農産物輸出状況(2011年)と日本農業の将来展望

国内農業の競争力を高めれば、海外市場を取り込めることができると言うが、既に全国各産地各品目で積極的に輸出に取り組んでいるものの、「食用農産物の輸出額」の179億円は、農業総産出額8兆1,214億円に対してわずか0.2%に過ぎない。また、農林水産物輸出総額4,511億円に対しても4%にとどまる状況であり、輸出拡大がTPP交渉参加の取引材料にはなり得ない。

農林水産物等の輸出取組事例 うち近畿
農林水産物等の輸出取組事例 うち近畿
(農林水産省 輸出促進対策の概要より)

農産物輸出状況(2011年)
農産物輸出状況(2011年)
(2012.12.15 日本農業新聞より)

食用農産物輸出額の品目別内訳(2011年)
食用農産物輸出額の品目別内訳
(財務省貿易統計、農林水産省統計より筆者作成)

また、コメも積極的に輸出すれば良いと言うが、日本の高品質・高価格米(前述のとおり)は海外の一部超富裕層が購入しているのみで極めて小さな市場に過ぎず、ここに群がっても日本のコメ農家が食べて行けるようなビジネスにはならない。和牛や一部の果実、野菜のように、海外市場で勝負できる品目もあるだろうが、いずれの品目も構造改革とコスト削減が絶対条件となる。

むしろ、農産物貿易が完全自由化されたならば、企業的農家は国内での生産を止め、他産業のように生産拠点を海外に移し、コスト削減を実現しようと考えるであろう。その場合、産業としての農業は残っても国内での農業生産は消滅することとなる。

今回のTPP問題で、日本農業の課題、問題点が浮き彫りにされたのは事実であり、TPP反対を唱えるだけでは問題解決にはならない。

まさに、コメ政策の転換、農地制度の更なる改正、大規模生産法人の育成、食料産業クラスターの形成(6次産業化など)、流通改革、輸出の拡大などの観点から、農業再生に向けた道筋を早期につける必要があろう。




[*1] 六次産業化

  • 1次産業者である農家などが、加工(2次産業)や販売・サービス(3次産業)まで行ない、農林水産物の付加価値を高めることで、所得向上や雇用創出、地域活性化につなげることを目指すものである。1×2×3=6(次産業化)。

[*2] 食品クラスター

  • 食品産業、農業、関連業種による連携構築を意味し、地域に密着した食品産業の振興を図る取組として期待されている。ひいては我が国の食料自給率の向上と食料の安定供給を図ることができるとされる。

[*3] FTA

  • Free Trade Agreement:自由貿易協定。特定の国や地域の経済活動を活発にするため、関税を撤廃し規制を緩和させる条約である。

[*4] 先の口蹄疫問題

  • 口蹄疫(こうていえき)とは、口蹄疫ウイルスにより家畜に発症する伝染病の1つ。2010年11月に韓国中東部の慶尚北道安東市から流行し、韓国の約半分の面積の地域に拡大した。総殺処分は2,385戸の58万456頭、損害額370億円となった。

[*5] 戦略作物

  • 2004年に韓国が、高品質農産物ブランドの輸出支援のために、パプリカ、梨、菊、バラ(マジックローズなど)、エリンギ、キムチの6品目を対象にスタートし、2009年の輸出ではキムチやパプリカ、ミニトマト、メロン、キュウリが主体で、日本向けが輸出の約65%を占める。

[*6] TPP

  • Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement(環太平洋経済連携協定)の略で、「環太平洋連携協定」「環太平洋パートナーシップ協定」と訳される。貿易関税は例外品目を認めない形の関税撤廃をめざし、サービス貿易、政府調達、競争、知的財産権、人の移動等の取り決めを含むFTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)の一つである。

[*7] セーフティネット対策(国内対策)

  • 所得補償、基盤整備など農業構造、農業経営、農業生産、農山村地域に対する支援や補償対策である。

[*8] 農林水産省の見解

  • TPP参加について、農林水産省は安価な農産物の流入で国内農業関係分野に8.4兆円分の被害がでるとし、コメは「こだわり米」等を除いて輸入米に置き換わり、生産量減少率90%、生産減少額197百億円となるとしている。

[*9] 人・農地プラン

  • 持続可能な力強い農業を実現するため、認定農業者・担い手を育成し、その地域全体を金融支援、すなわち「青年就農給付金(経営開始型)」、「農地集積協力金」、「スーパーL資金の当初5年間無利子化」などといった支援を行う「地域農業マスタープラン」である。

(2013.3)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

このページのトップへ