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和歌山県産の桃における海外市場戦略

研究部長  藤本 幸久

平成26年における和歌山県の農業産出額は952億円で、全国の84,279億円に対し1.1%のシェア、全国順位32位という状況であるが、主要品目は、みかん231億円、梅117億円、柿80億円、桃48億円、八朔26億円で、桃が全国順位4位であるものの他は1位となっている。

和歌山県の農業産出額(平成26年度)
和歌山県の農業産出額(平成26年度)

なかでも、桃、みかん、柿などが東南アジアを中心に輸出されているが、ここでは特に、桃における海外市場戦略を以下に述べることとする。

1.桃の起源と歴史

桃

桃の原産国は中国であり、シルクロードでペルシャへ、1世紀頃にはギリシャやローマへ、17世紀にはアメリカ大陸に伝わったと言われている。

日本では、古事記や日本書紀などによると弥生時代には既に在来種が存在したとのことであり、平安時代には食べられていた模様であるが、明治時代に中国から東回りで水密桃(天津や上海)が輸入され、突然変異により日本独特の白桃種が生まれた。

2.桃の生産及び流通概況

(1)桃の各国の生産量(平成24年)

世界で一番多く桃(ネクタリン含む)を生産している国は原産地である中国であり、生産量は約1,200万トンで、世界の生産量の57%を生産している。2位のイタリアは約133万トンで6%のシェア、3位はアメリカの約106万トンで5%であるが、日本は18位で13万5千トン0.6%のシェアである。

日本人は柔らかい白桃を好むが、欧米では桃といえば黄桃のイメージが強く、特にヨーロッパでは白桃よりも歯ごたえのある黄桃(ネクタリン含む)を好む傾向がある。

なお、黄桃の缶詰は主にアメリカのカリフォルニア州で生産され、日本だけでなく世界中に輸出されている。

桃(ネクタリン含)国別生産量(平成24年)
桃(ネクタリン含)国別生産量(平成24年)

(2)桃の都道府県別収穫量(平成26年)

国内で桃の収穫量が一番多いのは、山梨県の46,500トンでシェア34%を占め、2位は福島県が29,300トンで21%、3位長野県16,300トン12%となっている。和歌山県は4位で10,800トンのシェア8%という状況である。

桃の都道府県別収穫量(平成26年)
桃の都道府県別収穫量(平成26年)

3.わが国の桃の輸出状況(平成26年)

桃の輸出先国第1位は香港493百万円547トン60%シェア、次に台湾313百万円331トン38%であり2カ国で98%を占めている。

輸出単価の平均は922円/sであるが、インドネシアの1,347円/sがいちばん高く、次にタイの1,225円/s、続いてシンガポール1,124円/s、台湾945円/s、香港901円/s、マレーシア794円/sという状況である。

桃の輸出先国別・年次別推移
桃の輸出先国別・年次別推移

桃の輸出先国別金額の割合(平成26年)
桃の輸出先国別金額の割合(平成26年)

わが国の桃の輸出額・輸出量・単価の推移
わが国の桃の輸出額・輸出量・単価の推移

(1)和歌山県の桃の生産と輸出状況
[1] 和歌山県の桃の生産量と産出額(平成26年)

平成26年における和歌山県の桃の生産量は10,800トンで全国の137,000トンに対しシェア8%、全国順位は4位となっている。

和歌山県の主要果実の生産量(平成26年)
和歌山県の主要果実の生産量(平成26年)

一方、桃の産出額は48億円であり、前年の平成25年の45億円に対し107%となっている。

和歌山県の農業産出額(平成25年)
和歌山県の農業産出額(平成25年)

[2] 和歌山県の桃の輸出状況(平成26年)

近年、和歌山県産の桃の輸出は、輸出額、輸出量ともに前年を上回りながら増加しているものの、他産地に比べるとシェアを伸ばし切れていない模様である。

4.東南アジアにおける桃の輸入状況

次に、わが国の桃の輸出先国及び地域は大半が東南アジアであることから、農林水産省の「台湾・香港・タイ・インドネシアにおける当該国産及び他国産輸入青果物の流通量・価格に関する調査報告書」より、主要国別に輸入状況を見てみることとする。

(1)東南アジア主要国の桃の取扱概況

次の表に示したとおり、4か国の状況に差はあるものの、小売価格が概して高いことから、日本としては輸出コストとりわけ輸送コストの低減による価格引き下げ、プロモーションの強化、輸出対応産地づくりなどの課題解決が求められている。

東南アジア主要国における桃の市場概況
東南アジア主要国における桃の市場概況

(2)東南アジア主要国の桃の輸入量

香港における桃の輸入量は増加傾向にあり、平成25年の桃の輸入量は約12,777トンで、4か国中いちばん多いという状況にある。

ただし、台湾とタイの輸入量は減少傾向にある。なお、インドネシアにおいては、アメリカ産と南アフリカ産及びオーストラリア産が中心となっており、平成25年までは日本産の桃は輸入されていない模様である。

東南アジア主要国の桃の輸入量推移
東南アジア主要国の桃の輸入量推移

(3)東南アジア主要国別の桃の輸入状況

香港、台湾では、日本産は他国産と比較して、約2倍、3倍の高価格帯で販売されている。タイでも百貨店にて高価格帯で販売されている模様である。

[1] 香港

シェアをみると、チリ産54%、オーストラリア産29%、アメリカ産8%、日本産3%で、平成21年から平成24年にかけて輸入量が増加しているものの、増加分はチリ産が大半を占めている。

日本産の桃の輸入量は平成23年から平成25年にかけて増加してはいるが、スーパーにおける日本産の桃の販売価格が、米国産の約3倍の価格であることから、シェアは3%程度と低くほぼ横ばいで推移している。

香港における桃の輸入量推移
香港における桃の輸入量推移

[2] 台湾

台湾における桃の輸入量は平成21年から平成25年にかけて減少し、平成25年に97%のシェアをもつアメリカ産が独占している。

一方、店頭には日本産の大玉、アメリカ産や台湾産の中玉と小玉が並んでいるが、価格的には、日本産(大玉)の桃は米国産(中玉)の約2倍、台湾産(小玉)の約5倍の価格で販売されていることから、日本産のシェアは3%と低いうえに、ほぼ横ばいで推移している。

台湾における桃の輸入量推移
台湾における桃の輸入量推移

[3] タイ

タイにおける桃の輸入量については、平成21年にシェア80%を占めていたオーストラリア産の輸入量が急激に減少したことから、アメリカ産がシェアを17%から84%へと伸ばしている。

一方、日本産の桃の輸入量は極わずか5トン程度と少ないうえに、シェアも6%と低い状況にある。百貨店で販売されている日本産の桃の販売価格は、黄金桃が1個およそ1,300円、白桃で800円という超高価格の模様である。

タイにおける桃の輸入量推移
タイにおける桃の輸入量推移

[4] インドネシア

インドネシアにおける桃の輸入量は少量であり、平成23年、平成25年にはほとんど輸入されず、日本産の桃は輸入されていない。なかでも中国産の平均輸入単価は他国産と比べて安い。

インドネシアにおける桃の輸入量推移
インドネシアにおける桃の輸入量推移

(4)シンガポールの日本からの桃の輸入状況

シンガポールにおける日本からの桃の輸入については、ジェトロが平成27年3月に実施した「シンガポールにおける日本産果実・加工品消費動向調査」結果を見ることとする。

[1] 日本からの桃の輸入状況

平成23年から平成26年までの4年間、右肩上がりに増加しており、平成26年の輸入量は平成23年の3倍という状況となっている。

ただし、単価は年毎に大きく変動している。

平成24年と平成26年は、日本国内の価格下落により日本からの輸入量が増加した一方、平成25年の輸入額が突出したのは急激な円安が要因と考えられる。

シンガポールにおける日本からの桃の輸入状況
シンガポールにおける日本からの桃の輸入状況

[2] 日本からの桃加工品の輸入状況

日本からの桃加工品(シロップ漬け)の輸入は金額的には少ないものの、平成23年から平成26年にかけて増加し、平成26年の輸入量は平成23年の約3倍となっている。

シンガポールにおける日本からの桃加工品(シロップ漬け)の輸入状況
シンガポールにおける日本からの桃加工品(シロップ漬け)の輸入状況

[3] シンガポールの流通業界の概況と輸出戦略

多くの業者が日本産果実は高価格でありマーケットは小さく限定的であることから、取り扱う意向は少ない模様である。

卸売業者から消費者への流通過程で桃の価格は約2.5?3倍に高騰しているうえ、日本産の卸値自体が高価格であることから、小売価格は、他国産と日本産価格には、およそ7〜8倍の開きがある状況である。

シンガポールは人口547万人(平成26年)のマーケットであり、ニーズがあれば日本産の取り扱いを検討する業者もあるが、高級果実市場を開拓する動きはまだ鈍い。

日本産果実が浸透している台湾・香港に比べ、「贈答文化」がなく、高価な日本産果実の普及を阻む要因となっている。

日本産果実の取り扱いをしない理由として、第一に「価格の高さ」があげられていることから、「農林水産物・食品の輸出に係る物流検討会」にて議論されているように、輸出時の必要情報(輸出先、品目、数量、出荷時期、商品特性など)のマッチングや輸送容器の標準化などによる積載率の向上に基づく輸送コストの低減をすすめることが不可欠である。

あわせて、「日本の食」の強みを生かしながら農産物の輸出増加につなげるためには、他国産との差別化、プレミアム感を演出する方法として、シンガポールの有名シェフとタイアップし、日本産果実を使用したメニューづくり、試食を含めたクッキングデモンストレーションイベントなど、バイヤー、現地シェフ向けのイベントを行うことも一つである。

また、約900店舗の日本食レストランがあるなど日本食は広く認知されており、日本らしさや和のコンセプトとともに、果実そのものに加え、パッケージやイメージづくりといったシンガポールに合わせたブランディングが必要であろう。

5.桃の海外市場戦略

(1)和歌山県産の果実の輸出状況

平成26年の和歌山県の農業産出額は前述のとおり952億円であり、うち果実が581億円で農業産出額の61%を占める。

みかんが231億円で果実産出額581億円に対し40%のウェイトを占め、同じように、柿80億円約14%、桃48億円約8%という状況となっている。

一方、輸出の状況としては、それぞれ輸出先は、桃が、台湾・香港・シンガポール、みかんは、カナダ・シンガポール・マレーシア、柿は、タイ・香港・マレーシアとなっている模様である。

(2)和歌山県産果実の輸出における課題

先に述べたとおり、桃については価格には大きな変化はないものの、輸出数量の増加により販売金額を大きく伸ばしているが、全国の他産地に比べ、シェアを伸ばしきれていないという状況にある。ついては、ここで和歌山県産農産物を輸出することの意義について以下に述べることとする。

  • 国内市場の縮小が予想されるなか、新たな市場の開拓による多様な販路が確保できること。
  • 生産余剰時における価格調整機能が果たせること。
  • 国内で評価されにくい商材の需要や嗜好に見合った新たな販売が可能となること。
  • 輸出を行うことで知名度や信用力の向上とPR効果があること。
  • 農業経営の安定化と地域経済の活性化がはかれることなどが考えられる。

ところが、近年の海外市場の傾向としては、輸出先が、香港や台湾など東アジアの特定の地域に集中していること、韓国や中国などから安い農産物が大量に出回るようになったことで過当競争となっていること、さらに、海外市場でも、日本国内同様、日本の産地間での売場獲得競争が常態化していることなど厳しい状況となっていることから、これらの問題解決が喫緊の課題となっている。

(3)農産物の輸出における優良事例

ここでは、「りんご」と「ながいも」を取り上げることとする。

「りんご」の平成26年の輸出量が約2.4万トン、輸出額86億円であり、わが国の果実輸出総額132億円に対しシェア65%で、輸出果実の第1位となっており、りんご全出荷量の約3%に相当する。なお、国内需給が緩む12〜1月に輸出が集中するため、需給調整への貢献度は大きいといえる。

わが国の主要果実の年次別輸出状況
わが国の主要果実の年次別輸出状況

輸出形態は、青森県の輸出業者が主なパッカーとなり、産地市場で調達し選果した後、日本国内の台湾系輸出商社を介してコンテナ単位で輸出している。特に、台湾は植物検疫条件、残留農薬規制が厳しく、産地での選果及び梱包段階で台湾向けに仕分けする必要があるが、青森県では6%程度が輸出仕向けとなっている。

「ながいも」は、先で述べたとおり国内では評価されにくい商材(規格)の需要開拓の典型例であり、出荷量の約5%が輸出され輸出野菜の主力となっている。主力産地の一つであるJA帯広大正では、生産量の4分の1が輸出仕向けであり、特大サイズを基本とした輸出仕様の栽培管理を行うなど輸出対応型産地づくりをすすめている。

(4)海外市場戦略と輸出適性条件
桃

前項で述べたことなどから明らかなように、輸出における適正条件としては次のことが考えられる。

  • 海上輸送に耐えられること。
  • 一定ロットが確保でき、安定供給が可能であること。
  • 輸出先国の規制や消費者ニーズに合致していること。
  • 競合品目との価格メリットや品質的に優れていること。

などであるが、まさに「りんご」や「ながいも」が、これらの条件を満たしていると言える。

なお、他の生産国の追随を許さない品質を誇る「もも」は、日本国内での産地間競争があるものの、高いコストがかかる航空便での輸出が可能な、数少ない高級商材であろう。

(5)輸出に対する考え方

最後に農産物の輸出にかかるポイントを列挙することとする。

  • 品目特性や国内市場とのバランスを踏まえ戦略的に位置づけること。
  • 日本産であれば海外で高く評価されるという幻想は捨てること。
  • 輸出は農産物の販路を確保するための手段の一つであること。
  • 有利な市場を国内に有している産地は無理をしてまで取り組む必要はない。
  • 競合する産地国に打ち勝つためには、安定供給ができる産地間連携による体制づくりが必要であること。

以上のことが考えられるが、輸出は農業の経営安定化や地域経済の活性化のための手法であって、充分なるマーケティングのうえ、適性が高いと判断できる輸出先国及び地域でこそ効果が発揮されるのである。

あくまでも、輸出することが目的ではなく手段であって、産地が生き残るための6次産業化の一つの選択肢として捉えるべきであろう。

(2016.4)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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