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付加価値を創造する新たな農業 Part1 イノベーションによる高付加価値化

研究部長  藤本 幸久

政府は、農林水産業の成長産業化による地域経済の活性化(農林水産業・農山漁村における雇用と所得の増加等)をはかるため、「攻めの農林水産業」を展開し、6次産業化を農林水産物・食料の付加価値向上の主要な取組として位置づけている。

具体的な施策としては、「六次産業化・地産地消法」の施行と総合化事業計画の認定による取組推進、プラットフォームとして期待される産業連携ネットワーク、6次産業化を支援する農林漁業成長産業化ファンドなどが特に重要なものとなっている。

6次産業化は、「農家による直売や加工」といった取組にとどまらず、生産・加工・販売・観光等が一体となったアグリビジネスの展開や、先端技術を活用した新産業の育成、再生可能エネルギーの導入など、農山漁村にイノベーションを起こし、付加価値を向上させ、雇用と所得を生み出し、農林漁業のさらなる成長産業化を目指す取組である。

ついては、このような状況のもと、農林水産物・食料の付加価値の創造はどうあるべきかを考察することとする。

I.イノベーションによる高付加価値化

経済学者シュンペーター

イノベーション(Innovation)とは「新しい価値」を創ることである。

オーストリア生まれの経済学者シュンペーター(Schumpeter、1883〜1950)が用いた言葉で、新機軸とも言い、人々に新しい価値をもたらす行為とされている。

シュンペーターはその著書「経済発展の理論」の中で、イノベーションを「新結合(New combination)」と呼び、経済のダイナミズムを作り出し経済発展のきっかけとなるものと説明している。

経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合することと定義し、イノベーションのタイプとして次の5つを挙げている。

それは、(1)新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産、(2)新しい生産方法の導入、(3)新しい販路の開拓、(4)原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得、(5)新しい組織の実現ということである。

さらに、単なる技術革新によるものではなく、既存のもの同士の新しい組み合わせ、ノウハウや経営の改善によるものも、経済発展につながればイノベーションと呼ぶことができるとしている。

多くの経済・経営学者も、イノベーションの評価について、技術革新の度合いと社会やマーケットに与えるインパクトの両面から「新しい価値を創造する」という点に着目している。

なお、JA総研の今村奈良臣氏は、イノベーションの必要性について、@人材革新、A技術革新、B経営革新、C組織革新、D地域革新であるとしている。

また、ドラッカーはよく知られているとおり、マネジメントはマーケティングとイノベーションという両輪によってなされるとしている。

顧客のことを知り、そのニーズを満たすことにより顧客を創り出すことが出来るというのが、ドラッカーのいうマーケティングである。

なお、経営(農業)環境は絶えず変化しており、それを脅威と捉えるのでなく、新たな顧客を作り出す機会として活用するのがイノベーションであるとドラッカーが述べている。まさにピンチはチャンスということである。

さらに、マーケティングの意味合いが根本的に変化し、一方的なコミュニケーションではなく、顧客の共感を作り出し、顧客自らが発見し、関わり合い、発信してもらう能動的な体験を促すことが求められている。

肝心なことは、単に必要に迫られて与えられたものを消費するのではなく、自らの感性や興味に見合う商品やサービスに能動的に関わるプロシューマーと言える。

※プロシューマー「生産消費者(prosumer)もしくは生産=消費者」とは、未来学者アルビン・トフラーが1980年に発表した著書『第三の波』の中で示した概念で、生産者(producer)と消費者(consumer)とを組み合わせた造語であり、生産活動を行う消費者のことをさす。

TT.食料・農業・農村にかかる主要政策

1 食料・農業・農村基本計画

「食料・農業・農村基本計画」(2010年3月)では、6次産業化は次のように記されている。

農業者による生産・加工・販売の一体化や、農業と第2次産業、第3次産業の融合等により、農山漁村に由来する農林水産物、バイオマスや農山漁村の風景、そこに住む人の経験・知恵に至るあらゆる「資源」と、食品産業、観光業、IT産業等の「産業」とを結びつけ、地域ビジネスの展開と新たな業態の創出を促す農業・農村の6次産業化を推進することとしている。

これらの取組により、新たな付加価値を地域内で創出し、雇用と所得を確保するとともに、若者や子供も農山漁村に定住できる地域社会を構築するものである。

2 六次産業化・地産地消法

2011年3月に施行された「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律(通称「六次産業化・地産地消法」)や関連予算の活用によって全国で多様な取組が広がっている。

目的は、地域資源を活用した「農林漁業者等による事業の多角化及び高度化、新たな事業の創出等に関する施策並びに地域の農林水産物の利用の促進に関する施策を総合的に推進することにより、農林漁業等の振興、農山漁村その他の地域の活性化及び消費者の利益の増進を図るとともに、食料自給率の向上及び環境への負荷の少ない社会の構築に寄与すること」(同法第一章より抜粋)としている。

まさに、地域資源を活用しながら、農林漁業者等自らが新事業の創出などに取り組み、農林漁業の振興をはかることである。

総合化事業計画の事業内容の割合
(平成29年2月28日現在累計)

総合化事業計画の事業内容の割合
(農林水産省HPより作成)

総合化事業計画の対象農林水産物の割合
総合化事業計画の対象農林水産物の割合
(農林水産省HPより作成)

3 食料・農業・農村白書

「食料・農業・農村白書」(2012年版)では、「1次産業としての農林漁業と2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組」として6次産業化を定義している。

4 農林水産業・地域の活力創造プラン

農林水産業・地域の活力創造本部が、2013年12月に「農林水産業・地域の活力創造プラン」として取りまとめ、2014年6月に改訂を行った。

「強い農林水産業」と「美しく活力ある農山漁村」を実現するため、産業政策と地域政策を車の両輪として、(1)需要フロンティアの拡大(国内外の需要拡大)、(2)バリューチェーンの構築(農林水産物の付加価値の向上)、(3)生産現場の強化、(4)多面的機能の維持・発揮をはかる取組をすすめる。

農林漁業主導の取組に加え、企業のアイデアやノウハウも活用した多様な事業者による地域資源を活用した地域ぐるみの6次産業化を推進することで、6次産業化の市場規模を2020年までに10兆円に増加させることを目標としている。

6次産業化の市場規模を10兆円へ
6次産業化の市場規模を10兆円へ

5 特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)

2015年6月1日から地理的表示保護制度の運用がスタートし、生産者などでつくる団体の申請に基づき国が審査し、基準を満たした産品に「GIマーク」の使用が許可される。

産品の名称(地理的表示、GI:Geographical Indication)を知的財産として保護し、産地名等を含む特産物の名称を地域ブランドとして登録することにより、生産者の利益と消費者の信頼の増進をはかることを目的としている。

なお、地理的表示を活用することにおける効果としては、次のようなことが考えられる。

  • 基準を満たす生産者だけが使用可能
  • 品質を守るもののみが市場に流通可能
  • GIマークで他の産品との差別化
  • 訴訟等の負担なく自らのブランドを活用
  • 地域共有の財産として使用可能

例えば、夕張メロン(登録番号第4号、平成27年12月12日)、市田柿(登録番号第13号、平成28年7月12日)、能登志賀ころ柿(登録番号第20号、平成28年10月12日)などが「地理的表示」として登録されている。

地理的表示法に基づく登録産品一覧
地理的表示法に基づく登録産品一覧
農林水産省 食料産業局 知的財産課資料より 2017.3.3現在

TTT.農産物の付加価値の向上

農産物つまり商品が売れるための要素は、安価・安全性・品質の3つであるが、最も重要なポイントは付加価値である。つまり付加価値によって商品力を高め、所得を向上させることである。

そもそも付加価値とは、商品のクオリティだけを指しているのではない。

まさに、付加価値をつけて商品力を高めた、ほかでは買えない特徴を備えた価値の高い商品と言い換えることができる。

1 生産現場に新たな付加価値をもたらす6次産業化

政府は、2014年6月に改訂された「農林水産業・地域の活力創造プラン」で、「強い農林水産業」と「美しく活力ある農山漁村」を実現するため、産業政策と地域政策を車の両輪として位置付けている。

農林漁業者が、加工や販売にノウハウを持つ2次・3次産業の事業者との連携を図りながら、生産・加工・販売(流通)を一体化してバリューチェーンを構築する6次産業化をすすめ、消費者に魅力ある新たな商品やサービスを生みだす取組を行い、次のとおりファンドや異業種連携により6次産業化を支援することとしている。


(農林水産省HPより)

2 付加価値向上への挑戦
(1)新たな価値を創造する農業

農業は単に食糧を供給するだけの産業にとどまらない。農作物が本来もっている健康的価値、自然・景観に及ぼす自然的価値、地域の伝統作物が伝える文化的価値等に注目することで、農業の新たな価値を創造することができる。

地域の活性化および農業改革には、これまで見落とされてきた農業のさまざまな「価値」に光を当てた取組みが必要である。

そもそも、野菜や果物といった農作物には、さまざまな健康効果があることが知られており、農作物のもっている抗酸化力、解毒力、免疫力などを科学的に検証し、消費者ニーズと農作物の健康価値を連携させることは、農業ビジネスの需要拡大をはかることが可能となる。

なお、詳しくは、「機能性表示食品」のところで述べることとする。

(2)農産物の高付加価値化のすすめ

高付加価値化をはかるには、@選択と集中、A正しい高付加価値化、Bマーケティングからブランディングへの取組が重要となってくる。

ア 選択と集中

オランダは、1986年にポルトガルとスペインがECに加盟した時期に、安価な輸入農作物がオランダ国内に流入したことから農業は壊滅的な状況となった。

その時に打った手のひとつが「選択と集中」であり、こうした生産品目を高付加価値品目にシフトし農地を集約化したオランダの農業モデルを参考に、高付加価値化を実現することも考えられる。

イ 正しい高付加価値化

モノが出来てから売るのではなく、顧客のニーズを先に考えてモノづくりを行うことが先決である。

顧客が求めない作り手の独りよがりな付加価値はコストアップにしかならない。何を捨て、何を選ぶのかを見極めることが重要となってくる。

ウ マーケティングからブランディングへ

良いモノができても正しく情報伝達しなければ、価値は利益につながらない。トレーサビリティ・栽培ノウハウ・技術研究なども正しく伝えていかなければ、利益にはつながらない。これにかかる詳細は「ブランディングとプロモーション」にて述べることとする。

次回Part2は「6次産業化による高付加価値化」

(2017.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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