ホーム | サイトマップ | リンク

ホーム > レポート > 産業 > 香港レポート −日本産農産物の輸入国としての実情と今後のすがた− Part1

香港レポート −日本産農産物の輸入国としての実情と今後のすがた−
  Part1 「日本産農産物の輸出先としての香港」

研究部長  藤本 幸久

はじめに

政府は、平成17年4月27日に我が国の高品質な農林水産物・食品の輸出を促進するため、関係者が一体となった取組を推進することを目的に、「農林水産物等輸出促進全国協議会」を設立した。

さらに、平成25年8月には、農林水産省は農林水産物・食品の輸出額を平成32年に1兆円にする目標を具体化するため、「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略」を策定し、平成26年6月にオールジャパンでの輸出促進の司令塔として「輸出戦略実行委員会」を設置した。

現在、国内市場が縮小していく状況のもとで、政府は国内農業の再生やTPP(環太平洋経済連携協定)への対応策として、世界的な日本食ブームやアジア諸国の所得水準の向上を好機ととらえ、攻めの農政の重要な柱の一つとして、我が国の高品質な農産物の輸出促進に取り組んでいるところである。

ついては、このような状況のもと、あらためて日本産農産物の最大輸出先である香港の実情を調査研究のうえ、和歌山県産農産物の輸出戦略はどうあるべきかを考察することとする。

1 香港の基礎データ

香港(中華人民共和国香港特別行政区)はアジアの中心に位置し、活力あるアジアの各市場にアクセスし易いという戦略的な優位性を持っており、アジア随一のビジネスハブであり、国際的な金融・サービスセンターであると言える。

経済および社会の力強い特質やファンダメンタルズを備えており、アジア進出を目指すものにとってすばらしいチャンスが溢れている。

また、中国本土との経済一体化がすすむにつれ、中国へのゲートウェイとしての香港の重要性は以前にも増して高まっている。

(1)香港の一般事情

地理上の位置としては、中国の南東端で急速に発展する東アジアの中心に位置し、その面積の小ささとは不釣合いなほどの経済的並びに戦略的な重要性をもっている。

日本との時差はマイナス1時間であり、グリニッジ標準時(GMT)に対してはプラス8時間となっている。

気候は亜熱帯に分類され、一年のうちほぼ半分の期間は温暖な気候に恵まれている。

ただ、冬の気温は10℃を下回ることもあり、夏には31℃を超えることがたびたびある。

香港の一般事情
香港の一般事情

(外務省HPより作成)

(2)基礎的経済指標

香港は貿易額で世界第9位にランクしており、その最大の貿易相手は中国本土である。

製造業拠点は1990年代前半までに中国本土へ移転し、GDPに占める割合は約7.2%であり、貿易、金融、不動産、観光、流通などのサービス産業がGDPの90%以上を占める。

香港に関する経済指標(2016年)
香港に関する経済指標(2016年)

(香港政府統計処より作成)

(3)経済概況(外務省HPより)

透明な法制度や、簡素で低率の税制(法人税16.5%、個人所得税最高税率15%、キャピタルゲイン・利子非課税)などが特徴で、国際金融及び物流の拠点としての地位を築いている。

まさに、香港の経済を特徴づけているのは自由貿易と低い税率、そして経済に対する政府の介入が最小限である事も強みである。

また、世界貿易機関(WTO)やアジア太平洋経済協力(APEC)などの国際的なフォーラムにも、独自の立場で参加している。

1997年7月の返還直後のアジア金融・経済危機でマイナス成長に転落したが、2003年7月の中国大陸からの個人旅行の解禁、2004年1月に施行された中国本土・香港経済連携緊密化取決め(CEPA)などによる中国本土との経済関係強化によって、経済は急速に回復した。

2008年9月以降、リーマンショックなどヨーロッパ及びアメリカ経済の低迷、中国本土経済の減速により成長が減速した。

2014年以降、中国本土における新常態、一帯一路に関連するビジネス機会はあるが、反腐敗活動による小売業への影響、中国本土を中心とする旅行客の低迷等により調整局面にあると言える。


(4)香港の歴史

アジアの自由貿易港としてスタートし、第二次大戦後は金融と観光業が大きく発展したためサービス業が中心と思われがちだが、1980年代以降は製造業と不動産業の比率が高まっている。

中国が市場経済に大きく舵を切った1979年以降、アジア有数の製造拠点となった。広東省とは言語も民族も同じであることから、人口700万人足らずだが、人口7,000万人の広東省に進出することが可能であり、一夜にして労働市場の規模が10倍になったのである。

広東省へは人もカネも自由に移動できるものの、広東省から香港への人の移動は厳しく制限されるという、他国にない労働市場の大きな特徴を持っている。

すなわち、香港の企業が広東省に工場を建設し、大きな利益を上げても、広東省側の労働者の賃金がそれに応じて上昇するわけではなく、国内に隔離された低賃金労働力の供給源ができたのと同じで、香港の企業にとっては途轍もなく有利な話であった。

香港の労働者の平均賃金が月5,000〜7,000香港ドル(6万5,000円〜9万円)に対し、広東省は月400〜700元(4,800円〜8,400円)であったから、香港の製造業は言語や文化ギャップのない労働者を10分の1以下のコストでの雇用が可能であった。

よって、重要な輸出産業である繊維製品、靴・鞄、玩具、時計、電気製品(電卓・ラジカセ)などは、実質的に90%以上が広東省での生産であると言われている。

かつては荒涼たる原野だった深?は、香港資本の広東省進出の拠点として中国有数の大都市となり、人口7,000万人の広東省は、労働市場としてだけではなく巨大な消費市場となった。

90年代後半以降、企業や資本が広東省へ流出したことにより香港経済は減速したものの、2015年には実質GDP成長率が2.4%と安定した成長を遂げている。

この経済を支える産業構造は、1次産業が0%、2次産業は7%程度であって、金融、通信、小売り、サービスなどが93%を占めるという極めて特徴的な構造となっている。

開発可能な土地がなく製造業などには向かないことから、シンプルかつ低率な税制による自由経済によって、世界の貿易および金融都市として発展してきた。

(5)日本との関係

華道、茶道、日本舞踊、浴衣着付け等の伝統文化の紹介、日本語弁論大会の開催、日本語能力試験の実施、国際交流基金の巡回展及び同基金による日本語弁論大会成績優秀者の招聘、国費留学生の受入、その他民間の商業ベースではJ−POPコンサートや漫画・アニメーション祭の開催等が行われている。

スポーツ分野でもサッカー、ラグビー、柔道、相撲、合気道、アイスホッケーを中心に各種の交流がある。

なお、2017年10月1日現在の在留邦人数は総領事館届出ベースでは36,963人(長期滞在者34,550人、永住者2,413人)となっている。

経済指標(2016年)
経済指標(2016年)

(香港政府統計処より作成)

(6)アジアビジネスにおける戦略的拠点

香港経済貿易代表部公式サイトによると、アジアの全ての主要市場が香港から4時間の飛行距離内にあり、さらに5時間のフライトの範囲内には世界人口の半分が住んでいる。

また、香港から中国国内の約40都市を含む世界155都市へ直行便が出ている。

総面積は1,106平方キロメートルで、その区域には香港島や九龍半島、新界および262の離島が含まれる。なお、約4分の3が田園地帯で、都市部は25パーセント以下にとどまる。

香港からのフライトエリア
香港からのフライトエリア

(香港政府観光局HPより)

香港島と(中国本土)の位置関係
香港島とシンセン市(中国本土)の位置関係

(香港政府観光局HPより)

香港から中国本土市場へは容易にアクセスでき、中国本土最大かつ最も生産性の高い製造拠点である珠江三角洲(パールリバーデルタ(以下「PRD」))地帯は、香港のすぐ北側に位置している。

ここには、香港企業および海外企業の数万の工場が存在し、多くのビジネスマンが日常的に香港と行き来をしている。

、広州、東莞(とうかん)などのPRD地域の主要都市は、中国本土でも有数の裕福な地域に成長し、まさに消費財とビジネスサービスの大きな市場となっている。

香港をゲートウェイにグローバル展開
香港をゲートウェイにグローバル展開

(2018.2.16名古屋外国語大学 真家陽一教授(中国との関係も踏まえた香港のビジネス環境)より)

2 日本産農林水産物の輸出先としての香港

(1)日本産農林水産物の輸出先

2016年の我が国の農林水産物・食品の輸出額は7,503億円、前年比0.7%増加し、4年連続で増加した。 輸出先国・地域別順位は、1位香港24.7%、2位アメリカ13.9%、3位台湾12.4%、4位中国12.0%、5位韓国6.8%であり、香港は前年比3.3%の増加となっている。

まさに、「安全、安心な」日本ブランドがさまざまな品目で評価され、食品にも普及してきていると思われる。なお、地域別では、アジアが74%、北米が15%を占めている。

日本産農林水産物の輸出状況
日本産農林水産物の輸出状況

(単位:億円、農林水産省統計より作成)

日本産農林水産物の輸出状況

(2)日本から香港への農林水産物輸出額内訳

2016年の香港向け農林水産物・食品の輸出額は1,853億円であり、うち水産物が43.2%、加工食品が26.9%を占め、果実・野菜等は5.8%となっている。

加工食品の品目別内訳は、アルコール飲料、調味料、清涼飲料水、菓子などの割合が多い。

日本から香港への農林水産物の輸出状況
日本から香港への農林水産物の輸出状況

(農林水産省統計より作成)

一方、野菜・果実等の品目別内訳をみると、りんご23.9トン、ぶどう13.7トン、桃8.7トン、苺9.5トン、かんしょ5.2トン、梨4.4トン、温州みかん1.6トン、柿1.1トンとなっている。

(3)香港における主な食品輸入相手国及び地域(香港貿易発展局統計より作成)

香港における主な食品輸入相手国及び地域

(単位:億香港ドル、%)

圧倒的に中国本土からの輸入が24.1%と多いものの、日本は2014年の3.7%から2015年の4.5%とシェアを伸ばすとともに金額も増加している。

3 農林水産物の輸出における流通モデル

日本からの食品の大半は、日本の輸出業者から香港の輸入業者を通じて輸入され、その後、仲卸業者経由または直接小売業者に卸され、日系の小売・百貨店、日本食レストランや一部地場の高級小売店等に販売される。

なかでも、シティースーパーは日本に拠点を持っており、自社で一部仕入・調達も行っている。

輸出における流通モデル
輸出における流通モデル

(香港における青果物流通実態調査報告書より)

農産物への輸入規制や検疫は基本的になく事前審査のみであるうえ、食品に対する関税はなく、食品販売に係る物品税は一部商品を除き無税である。

なお、商品によっては、香港・台湾を経由して中国本土へ再輸出される場合があり、大半は広州市場を通って配送されている。

輸入食品の約3割は公式再輸出され、うち6割の再輸出先は中国本土となっている模様である。

ただし、中華圏の流通慣行として、スーパーマーケットで新規に商品棚を確保する際に取扱手数料を請求される場合がある。さらに、地場系小売業店からは、プロモーション割引きの請求や、リベートの要求等も行われている。

(2018.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

このページのトップへ