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「わかやま田舎暮らし」体験で見た地域の活力

主任研究員  藤代 正樹

1.「わかやま田舎暮らし」を体験

和歌山県の豊かな自然と田舎暮らしを体験できる「和歌山県現地視察会」に参加しました。この視察会はアクティブシニアビジネスを検討されている都市部の企業等の担当者に現地体験や事業説明を聞いて頂くことで、今後のビジネスモデルの参考にして頂くために開催されたものです。その中で訪問したIターンされた人々の暮らしや現地で農林業に従事する人々の活動について紹介させて頂きます。併せて、和歌山県の農林業の現状についても触れてみたいと思います。

現地視察会日程

 3月16日(金)
   ・Iターン先輩から田舎暮らし体験談
   ・企業と連携した地域活性化への取り組み(現地説明)(日高川町中津地域)
   ・県就農支援センター(農業研修、利用説明)(御坊市)

 3月17日(土)
   ・林業体験
   ・紀州備長炭体験(白浜町日置川地域)

企画:和歌山県新ふるさと推進課

2.Iターン者の田舎暮らし体験談(日高川町中津地域)

日高川町中津地域では60世帯120人がUIターンして元気に暮らしている。H14年2月、地域の方々とUIターンの皆さんが地域に元気を取り戻すために「ゆめ倶楽部21」という団体を組織した。この団体は、行政や地元住民と協力しながら地域振興の活動に参画し、都市部住民に対して和歌山の魅力を情報発信することにも積極的に取り組んでいる。

また、日高川町は森林の整備を図る「企業の森」活動で7社(団体)と契約するなど都市部企業等との交流に力を入れている。

この地域で和歌山の田舎暮らしを実践している2名のIターン者からお話を伺った。

○自分で家を建て、田舎でセカンドライフを楽しむ

岡山県に生まれた長瀬さん。大阪、東京でサラリーマン生活を過ごし、退職後、宝塚市で暮らしていたが、その都会生活に疑問を感じる。人とのつながりを大切にする所で暮らしたいと思っていた頃、新聞で「菜園付住宅中津村」の紹介記事を読む。それから中津村へ見学に行き、地元の人と会話をしたのがきっかけとなり移住を決断。役場で紹介された土地や農機を借りながら野菜作りを始めた。地元の人達が梅、栗、竹の子林などを無償で貸してくれるなど、都会にはない暖かさを感じた。そして、長瀬さんは自分で家をつくってしまう。建材メーカーに勤務していた関係で材料購入も容易で、廃材も利用されたらしい。実際に家や作業場を見学させて頂いたが、明るく、活動的な雰囲気が感じられた。

長瀬さんは平成16年、県就農支援センターの第1期生として就農研修に参加。UIターン者が多数参加されており、8か月間研修を受けた。その後、1〜3期生とともにグループをつくり、農業振興などのいろいろな活動に取り組まれている。

「定年60歳からの人生を楽しく生きよう」というのがモットーで田舎の生活を満喫されているようであった。

長瀬さん手作りのお宅
長瀬さん手作りのお宅
機能的な作業場
機能的な作業場
○田舎に単身移住、月1回都会帰り

家族が大阪に住んでいる北田さんは単身で田舎暮らしを実践している。40年間勤めた商社を退職後、雑誌の中津村紹介記事を見たことがきっかけで、「土」に興味があった北田さんは家族と一緒に中津村へ見学に来た。奥さんからは「自分のしたいことをすればいい、そして助け合うときに一緒にいましょう」という勧めもあり、役場から住居を紹介してもらい、中津村に単身で住むこととなった。中津村に住み始めた当初、地元の人と接するために、いつも大きな声で挨拶を心掛けたそうである。その結果、地元の人に注目して頂き、溶け込むことができた。

移住4年目になるが、田舎暮らしを楽しむためには「田舎暮らしが好き」であることが大切。田舎暮らしに興味があっても不安のある人は、1年ほど体験をしてから納得した上で移住することが必要だと言う。現在は、田舎で育てた野菜を車一杯に積み、月1回家族の居る大阪へ運び、お孫さんが喜んで食べてくれることをご自身の大きな楽しみにされている。

3.企業と連携した地域活性化への取り組み(日高川町)

農園での説明を聞く参加者
農園での説明を聞く参加者

日高川町では、昨年試験的に都市部の企業等と連携・協働し、遊休農地を活用してブロッコリー等の栽培に取り組んだ。このような取り組みは、企業側には農山村地域の景観や多面的機能の保全等の環境・社会貢献、また、従業員の教育・研修の場として活用でき、地域側には、企業社員が来ることでの交流、活性化等の効果が期待できる。このように、企業等と農山村地域の双方が協働して、都市部の参加者と地域の人とが、一過性ではなく継続的に交流・連携することで地域の活性化を目指している。

日高川町は、今回の取り組みを踏まえ、企業等との連携活動を積極的に進めようとしている。

4.和歌山県就農支援センター(御坊市)

ハウスでは研修生の作った果樹や花が栽培されている
ハウスでは研修生の作った果樹や花が栽培されている

このセンターは和歌山県内で新たに就農を希望する人に対して、いろいろな研修コースを実施し、県内での安定的な就農を支援することを目的としており、平成16年の開講以来多くの研修修了者を出している。この研修には「田舎暮らしで農業を楽しみたい」という人に対する週末だけを利用する初歩的なコースから、技術・経営等を学ぶ実践的なコースまで、受講者に応じた多くのメニューが用意されている。相談は電話等で応じているが、平成18年度のセンターHPへの1日当りのアクセス数は26件にもなるらしい。また、受講料は無料(テキスト代は別途必要)となっており、農業に興味のある人は是非センターに連絡して頂きたい。

平成16〜18年度の3年間で技術修得研修生の就農者は75人(内新規参入38人)となっており、このうち県外からのIターン者は30人となっている。卒業生は、自身のHP開設、農業生産品の販路拡大、LLP(有限責任事業組合)の創設等、新たなチャレンジを行っている。農業従事者の減少、高齢化が進む中で、今後の卒業生達の活躍が期待されている。

ここでは、日頃、土に馴染んでいない参加者のために、農場の中でイチゴの育成方法やビオラの植え替え作業などを丁寧に教えて頂いた。

5.ヒノキの間伐体験(白浜町日置川地域)

うっそうとする森林
うっそうとする森林

「NPOほんまもん体験倶楽部」刀根浩志氏(国土交通省「観光カリスマ百選」に選定)から地域の観光や体験内容について説明して頂く。修学旅行で和歌山県に来て頂く生徒は年間6500人、そのうち林業体験は1000人(5年前はゼロ)。子供達は林業の簡単な作業を喜んでくれるとのことである。

次に、日置川に近い大辺路森林組合が管理する森林での林業を体験する。先ず、Iターンされた林業作業員が作業を細かく教えてくれる。ヘルメットをかぶり、鋸を手に持ち、道のない森林を進む。参加者の中には滑って尻餅をつく人もいる。このような所では、道(林道)の重要性を改めて認識する。木を切る現場へ行きたいのであるが、道がないため、なかなか前へ進めないのだ。さらに、切った木を運ぶ作業も道がないため困難になっている。林道を整備することは、生産コストの縮減につながり、安い外国産材と競争できる手段になる。林道整備は林業振興の大きな課題の1つである。

少し陽の差し込む程度の場所でヒノキの間伐を行う(木々の密度を調整し、残された木を健全に育てるため)。この地域では、もっと真っ暗な陽の差し込まない手入れのできていない森林が多いとのことである。生育の悪いヒノキを鋸で間伐するのであるが、素人では作業が捗らない。やっと幹を切り木を倒すことができても、回りの木々の枝に引っかかって、切った木が地面まで倒れてくれない。いくら力を入れても動かない。この中途半端に倒れかけた木を地面まで着地させるのは作業員の方にお願いするしかない。流石に作業員の技能は優れており、あっという間に倒してくれた。ほとんどの参加者が手こずっていたが、(偶然にも)参加者の切った木が他の木に引っかからずに地面まできれいに倒れると、みんなから一斉に拍手が起こった。そして、数本の木を倒しただけであるが、切り開いた木々の合間から陽が差し込み地面のシダに当り輝くのが感じられた。そのシダに思わず女性参加者がカメラを向けていた。

昔は、これらの間伐材はいろいろな用途に使われ、活用できたのであるが、現在はコスト高のため、間伐作業によって伐採された木はそのままの状態で放置されることになる。間伐材の利用価値が高まらない限り森林の整備は行き届かないように思われる。

慣れない手付きで木を切る参加者
慣れない手付きで木を切る参加者
枝に引っかかった木を手際よく倒す森林組合作業員
枝に引っかかった木を手際よく倒す森林組合作業員

6.紀州備長炭のカリスマ(白浜町旧日置川地域)

「世界一の炭焼き」玉井又次氏
「世界一の炭焼き」玉井又次氏

旧日置川町で紀州備長炭の普及、品質向上に力を注がれる、全国的にも有名な和歌山県認定指導製炭士の玉井又次氏に備長炭に関わるお話を伺った。素人にもわかりやすく備長炭の歴史や効用を解説して頂いた。中でもウナギをおいしく焼ける理由について、「備長炭で焼くと遠赤外線の効果で中からじっくりと焼ける」という優れものだそうだ。当日はお話と釜の見学だけであったが、事前に予約しておくと実際に炭焼き体験をできるそうである。

玉井氏のお話では、備長炭の材料となるウバメガシなどの樫の木を含む広葉樹林が針葉樹の過剰栽培により少なくなっているとのことであった。一方で、林業振興という見地から見ると、スギやヒノキの針葉樹の方が、広葉樹より利用価値が高いという見方もあり、難しい問題であると思う。

参加者一行が帰る時に、80歳を超える玉井氏と奥さんが一緒に見送ってくれた笑顔は、何よりも暖かさを感じ、備長炭の熱と同様に熱い心を感じ取ることができた。

今回ご案内して頂いた田舎で活躍されている人たちを見ると、笑顔があり、生き生きとされている。都会では見つけにくい日本の原風景とともに、そこで暮らす人々のやさしさが感じられる貴重な体験であった。

7.田舎暮らしと農林業振興

ここではデータで見る農林業の動向を示したい。

・基幹的農業従事者数(年齢別)を見ると、全体では減少傾向が続き、平成17年には60歳以上の占める割合が64.4%と増加しており、若年層の減少、高齢者の増加が進行している。

基幹的農業従事者数(年齢別)の推移
基幹的農業従事者数(年齢別)の推移

・新規就農者数を見ると、平成7〜11年以降回復基調になっている。今後、県内移住者や県就農支援センターの卒業生の就農により、新規就農者の増加が期待できる。

新規就農者数の推移
新規就農者数の推移

・林業産出額を見ると、素材価格がピークであった昭和55年を契機に年々減少している。

林業産出額の推移
林業産出額の推移

このように和歌山県の農林業を取り巻く環境は厳しい。農山村地域の活性化を図るためには、地域と都市部の企業等や住民との交流、連携を一層推進していくことが必要であると考えられる。今回紹介した「わかやま田舎暮らし」はほんの一部の体験であり、県内には様々な体験メニューが用意されている。この「わかやま田舎暮らし」の提案は地域と都市を結ぶ有効な施策の1つとして期待が大きい。地域の熱意と移住された人々との交流が地域に新たな息吹を吹き込むものと確信する。

最後に、今回この体験を企画された和歌山県新ふるさと推進課、並びに関係者の皆様に厚くお礼申し上げます。

田舎暮らし応援県わかやま(わかやま田舎暮らしに関するお問い合わせ先)
和歌山県就農支援センター
日高川町役場
白浜町日置川事務所

(2007.7)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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