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都市農地制度改正と農地保全 〜地方都市における生産緑地制度の活用〜

主任研究員  藤代 正樹

はじめに

1992年、三大都市圏において生産緑地が一斉に指定され、生産緑地の全国面積は急激に増加しました。その年から30年が経過し、生産緑地を指定解除して農地の市町村への買取り申出や宅地への転売等が一気に発生するいわゆる「2022年問題」が懸念されています。一方で、近年、「安全な農産物の提供」等の都市農地の重要性が再評価されてきました。和歌山県においても、都市部(和歌山市)の市街化区域内農地が減少する中で、2006年の生産緑地制度導入以降、指定面積は年々増加し、市街化区域内農地の保全が図られています。全国、近畿圏、和歌山県の都市部における生産緑地制度の動向を紹介します。

生産緑地指定農地
生産緑地指定農地
都市にある「やすらぎ空間」
都市にある「やすらぎ空間」

1.都市農業の現状

(1)宅地化から保全へ

2015年、都市農業の有する機能を発揮し良好な都市環境を形成することを目的に都市農業振興基本法が制定された。従来の都市農業の位置づけは、「市街化区域内の農地は宅地化すべきもの」、「主要な農業振興施策の対象外」とされてきた。しかし、人口減少に伴い宅地・住宅需要が減少するとともに、都市農業の有する多面的機能が見直されてきた。そのため、都市農地は「宅地化すべきもの」から「保全されるべきもの」へと状況が変化し、都市農業振興の政策が転換された。

都市農業の多様な役割・機能
都市農業の多様な役割・機能

出典:農林水産省

(2)都市農地の2022年問題(都市生活面)
  • 1991年、生産緑地法改正、税制改正され、三大都市圏では、生産緑地の指定(30年間の営農条件)により、固定資産税の軽減、相続税の納税猶予の税制優遇が受けられる。
  • 1992年、三大都市圏で生産緑地が一斉に指定される。(1991年、650ha →1992年、約1万5千ha)
  • 市街化区域内農地の約5割を生産緑地が占め、そのうち8割(約1万ha)が1992年に指定。
  • 三大都市圏の年間宅地供給量は約3千ha。1992年に指定された約1万haの生産緑地農地が宅地として供給されると、不動産価格の大幅下落(資産価値の減少)が懸念される。

三大都市圏特定市における生産緑地等の面積推移
三大都市圏特定市における生産緑地等の面積推移

出典:総務省「固定資産の価格等の概要調査」、国土交通省「都市計画年報」

(3)都市農業の産業としての再評価(農業振興面)

都市農業の農家戸数、販売金額は全国の1割弱を占めており、都市における重要な産業として位置づけされる。

主要都市における農産物の部門別農業産出額の割合
主要都市における農産物の部門別農業産出額の割合

出典:農林業センサス、総務省「固定資産の価格等の概要調書」、販売推計は農林水産省

2.生産緑地法と特定生産緑地法

「都市農業の振興」と併せて「生産緑地指定解除の抑制」を図っていくために生産緑地法が改正され特定生産緑地制度が創設された。

(1)生産緑地法の概要
【生産緑地地区の指定要件】

(1) 30年間、農地としての管理を義務付け。
(2) 500u以上の規模の区域(市区町村の条例で300uまで引下げ可)。

【土地の買取り申出、解除】

(1) 主たる従事者が死亡等の理由により従事できなくなった場合、又は指定から30年経過後、市町村に買取り申出可能。
(2) 買取り申出後に所有権移転が行われなかった場合、行為制限が解除(生産緑地指定の解除)

【固定資産税優遇】

農地の固定資産税は、市街化区域外にある一般農地と、市街化区域内にある市街化区域農地で、評価方法も課税方法も異なる。ただし、生産緑地だけは市街化区域内でも一般農地と同じ扱い。生産緑地の指定を受けていない市街化区域内農地の固定資産税は10a当たり数万円と負担が大きい。一方、生産緑地は軽減措置により10a当たり数千円となる。

出典:農林水産省

(2)特定生産緑地法の概要(2018年4月施行)
  • 30年の営農継続後、買取り申出が可能となる期日を10年ごとに延長できる。
  • 固定資産税の軽減、相続税の納税猶予等の税制特例措置が継続できる。
【特定生産緑地指定のメリット】
  • 固定資産税の農地評価継続
  • 10年ごとに継続選択可能
  • 都市農地の貸借の円滑化法を活用できる

2018年度税制改正において、「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」に基づき、生産緑地を貸借した場合には、相続税の納税猶予措置が継続されることとなった。

【特定生産緑地指定のデメリット】
  • 原則、買取り申出が10年間不可
  • 10年間、引き続き営農する必要
(3)生産緑地(特定生産緑地)指定に係る課題
(1) 地方圏では指定が少ない

ほとんどの地方都市では指定が進んでいない。市街化区域に農地がある三大都市圏の特定市・特別区は223。うち、生産緑地を導入していないのは三重県いなべ市の1市のみ。一方、三大都市圏の特定市・特別区以外で、市街化区域に農地があるのは401市町村、そのうち生産緑地を導入しているのは、和歌山市や福岡市など10市町村のみ(2017年12月、国土交通省調べ)。市街化区域内農地のうち生産緑地の割合は、三大都市圏特定市では53.0%に対して、地方圏では0.2%(※)とほとんど導入が進んでいない。

市街化区域内農地の区分別面積(2017年)
市街化区域内農地の区分別面積(2017年)

出典:総務省「固定資産の価格等の概要調査」、国土交通省「都市計画年報」

(2) 市町村の条例変更が必要

特定生産緑地の下限面積も市町村で条例を変更しなければ効力がない。地方圏では三大都市圏に比べ市街化区域以外に農地が豊富にあるため、生産緑地を導入して積極的に市街化区域の農地を保全しようという気運が低い状況。また、地方圏では、農地所有者が20年間営農すれば、生産緑地の指定を受けなくても、相続税の納税猶予が適用されることもあり生産緑地を指定する動きは鈍い。

(3) 制度の周知が不可欠

農地の固定資産税は一般市街化区域内の負担調整が進み、多くの都市で宅地並みの課税水準に近づいている。特に、相続税猶予農地では営農継続が20年間あり、その間は毎年宅地並み課税を支払うこととなる。相続税の猶予の選択、貸借制度等とともに制度の利用拡大に当たって農家への周知が欠かせない。

(4)地方都市圏における生産緑地制度導入の必要性
(1) 市街化区域内の農地保全(行政からの視点)
  • 政策的な措置をせずに(無秩序に)宅地化が進めば、立地適正化計画(コンパクトシティ)の実現効果が薄れ、行政コストが増加。
  • 人口減少が進む中で、需要以上の宅地供給が起こり、地価下落、固定資産税等の税収が減少する。
(2) 安定した農業経営(農家からの視点)
  • 市街化区域内農地の固定資産税は、負担調整措置により年々上昇。高い固定資産税負担は農家の農業経営継続を困難にする。
  • 一般農地では「貸借の法定更新」(借主有利)により、農地を貸し出すことを懸念する。

生産産緑地制度の活用
 ・都市農業の安定と営農継続の可能性
 ・持続可能な地方都市経営の実現の可能性

3.近畿圏・和歌山県における都市農地の現況と推移

(1)生産緑地のある市町村

近畿圏で生産緑地指定があるのは三大都市圏(近畿圏)特定市を除くと和歌山市のみである。滋賀県、和歌山県には特定市がない。生産緑地指定は法律上、三大都市圏特定市に限定されるものではなく、地方圏でも市街化区域に指定が可能である。和歌山市は全国的にも数少ない地方圏の生産緑地指定のある都市となっている(地方圏の生産緑地指定全面積の7割)。

生産緑地地区のある市町村
生産緑地地区のある市町村

出典:国土交通省「2017年度 都市計画現況調査」

(2)府県別の農地利用状況

市街化区域農地面積では、和歌山県は565haと市街化区域の7.6%を占めており近畿では最も高くなっている。大阪府、京都府では3%以下の割合となっている。

市街化区域内の農地利用状況
市街化区域内の農地利用状況

出典:市街化区域、生産緑地は、国土交通省「2017年度 都市計画現況調査」、
市街化区域農地は、総務省「2017年度 固定資産の価格等の概要調書」
(参考)和歌山市総面積20,884ha、市街化区域面積7,415ha(総面積に占める割合35.5%)。

(3)府県別の市街化区域内農地の推移

2008年からの推移をみると、和歌山県の生産緑地が増加している以外は、各府県とも市街化区域農地、生産緑地ともに減少傾向が続いている。市街化区域内農地(市街化区域農地+生産緑地)は、滋賀県(生産緑地指定がない)が−31.7%と最も高く、次いで兵庫県、京都府の順となっている。和歌山県は生産緑地が増加しているものの市街化区域内農地は全体で−19.0%と減少している。

府県別の市街化区域内農地面積の推移
府県別の市街化区域内農地面積の推移

※市街化区域農地は生産緑地を含まない。
出典:国土交通省「都市計画現況調査」、総務省「固定資産の価格等の概要調書」

(4)府県別の市街化区域内農地の特徴

次に、府県別に市街化区域内農地の特徴を示したい。以下@〜Eのグラフは国土交通省「都市計画現況調査」、総務省「固定資産の価格等の概要調書」より作成。

(1) 滋賀県

滋賀県では、都市化が進み、市街化区域内農地は減少傾向が続いている。生産緑地制度が導入されていないため、市街化区域内農地の固定資産税は一般農地と比較して高くなっている。都市化の進展に加えて生産緑地制度がないことで農地転用が進み、近畿で最も市街化区域内農地が減少している。

(2) 京都府

京都府の生産緑地面積は、約800haで全国7位。生産緑地は市街化区域内農地の1/2を占める。市町村別では、京都市が約600haでダントツの全国1位。京都府全体の生産緑地のうち、9割近くが1992年に指定を受け2022年に買取り申出が可能な指定30年を迎える。生産緑地の買取り申出について、市町が買い取る割合は今までは1%未満となっている。固定資産税は、市街化区域農地10a当たり約10万円に対して生産緑地では10a当たり約1千円と優遇されている。

(3) 大阪府

大阪府では、生産緑地が市街化区域農地面積を大きく上回って推移しているが、どちらも減少傾向が続いている。大阪市内の生産緑地割合は6割と高く、生産緑地制度の活用により農地の保全が図られている。

(4) 兵庫県

生産緑地を除く市街化区域農地は減少幅が大きい。一方、生産緑地は減少しているものの減少幅は緩やかである。

兵庫県の都市農地の大きな特徴は生産緑地指定の地域区分である。指定は特定市に限定されており、それ以外の市では市街化区域があるものの生産緑地制度は導入されていない。そのため、特定市以外の市街化区域内農地の固定資産税は年々上昇しており、農地を手放す要因となっている。(兵庫県都市農業振興基本計画より)

兵庫県の市街化区域内農地における生産緑地の割合が16.3%と低いのは特定市以外(明石市、加古川市、姫路市等)の指定がないことが理由である。

出典:兵庫県都市農業振興基本計画(2015年1月)

(5) 奈良県

市街化区域農地の減少率は、08-17年対比-16.3%と他府県に比べて最も小さい。また、生産緑地の減少率も同対比-7.2%と和歌山県を除くと最も小さく、市街化区域内農地の減少幅は緩やかになっている。

(6) 和歌山県

和歌山県で市街化区域のある市町村は和歌山市のみである。そのため市街化区域面積と市街化区域内農地面積は他府県に比べると小さい。和歌山県の生産緑地は2006年の指定開始以降、年々増加傾向にあり、2008年と2016年を比較すると面積は34ha→76ha(+126.1%)と近畿圏で唯一増加しており、地方都市の中では全国一の生産緑地面積となっている。全国地方都市の生産緑地面積計108haのうち、和歌山市が76.2ha(70.6%)、次いで茨城県五霞町が7.7ha、同常陸太田市が7.5haとなっている。

4.生産緑地農家ヒアリング結果(概要)

対象:生産緑地指定を受けた農家(和歌山市内で営農)

@指定された動機

・代々の農業を継続したいという意識。
・税金が優遇されること。
・生産緑地の指定を受けていた信頼できる人の勧めがあったこと。

A(他の)農家が生産緑地に指定しない理由

・農業を続けていけるか分からない。
・後継者がいない。農業には技術が必要だが技術は簡単に備わりにくい。

B生産緑地のメリット

・固定資産税が安くなり、営農を継続して優良農地が守れる。

C生産緑地のデメリット

・30年間、営農を続けなければならない。
・必要な時に自由に農地売却はできない。

D開発と農業

・周りで農地転用して都市化(工場や住宅開発等)が進めば農業を続けるのは難しい。
・籾殻、枯葉等を燃やせないから有料ゴミで出さなければならない。
・家が建つと人と車が増え、畑への進入路に車の交通量が増えて危ない。

E行政への要望について。

・和歌山県は圃場整備が遅れているから大規模な企業的農業はできない。(下表参照)
・農業関係の法律がいくら変わっても、収入が安定しなかったら農業の継続は困難。

都道府県別の田畑整備状況(2017年3月)
都道府県別の田畑整備状況(2017年3月)

※区画整備済とは、区画の形状が原則として方形に整形されている状態をいう。
出典:農林水産省

まとめ

地方都市では生産緑地の指定が進んでいない。そのような中で、和歌山市は2006年の生産緑地導入以降、三大都市圏以外の地方都市の中で全国トップの生産緑地が指定されている。この制度導入は、農家や関係団体の要望に和歌山市が真摯に取り組んだ結果であり、都市農地を保全し、土地利用の適正化を進めることで持続可能な都市経営を実現することにつながることが期待できる。

しかし、和歌山市の生産緑地指定面積は年々増加しているものの、市街化区域農地565ha、生産緑地76ha(2017年)と生産緑地割合は11.9%に過ぎず、残りの565ha、88.1%が生産緑地ではない通常の市街化区域農地である。地方都市の中で和歌山市は先進的な生産緑地の都市であると言われているものの、この数字を見る限り全国地方都市ではいかに生産緑地制度が導入されていないかがわかる。

大都市圏では生産緑地指定から30年経過した2022年に指定が解除され宅地等に変更される農地が多く出てくる可能性は少なくない。和歌山市の指定開始は2006年で指定解除が始まるのは2036年からであり、「都市農地の2022年問題」は直接関係ない。また、指定件数・面積は2006年以降年々増加しているため一斉に宅地化される心配もない。

最後に、和歌山県における生産緑地を活用した農地保全についてまとめたい。

  1. 生産緑地制度や農地集積等の法制度だけで都市農地を保全していくのは困難である。農地を保全すること、つまり農業を続けていくためには「後継者を確保し育てること」が不可欠である。後継者づくりのためには和歌山市域以外の市町村・関係団体との連携が重要である。特に県内外からの農業人材の呼び込み・育成には和歌山県の積極的な支援が求められる。

  2. ただし、生産緑地制度は都市における農地保全の有効な施策である。厳しい農業経営の中で、固定資産税・相続税の負担軽減は農家にとって大きなメリットとなる。いったん農地を宅地化すると農地に戻すことは不可能だ。人口減少は和歌山市でも進んでおり、これからは農地転用から宅地化には限界が見える。計画的な都市開発を進め行政コスト負担の軽減を目指すコンパクトシティを実現するためにも市街化区域農地の重要性が見直されるべきである。

  3. 農業収入の増加を図ること。農業を継続していくには農業収入の安定が何より大事なことだ。そのためには、しょうが等の地域優良品種の栽培・販売のモデル作りによる売上増加、意欲ある生産者への農地貸与等の取り組みが必要である。収入の安定は後継者・担い手の確保にもつながる。

  4. 都市農地は都市住民にとって大切な都市空間である。自然災害時にも避難場所の提供や雨水の貯水機能など重要な役割を担っている。周辺が住宅開発された農地では農業継続が難しくなってきている。行政に対しては、市街化区域における農地と周辺住民が共生できるまちづくりの枠組み展開が期待される。
追記:2020年1月15日、広島市は生産者の意向を踏まえ、早ければ2020年内に生産緑地制度導入する考えを示した。広島市の市街化区域約1万6,100haうち農地約700ha。中国地域での導入は初めてとなる。(2020.1.18日本農業新聞)

(2020.4)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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