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地域におけるスマート農業の展開(果樹・施設園芸)

主任研究員  藤代 正樹

はじめに

国内農業は、担い手の高齢化が進み労働力不足が深刻となる中、農作業の省力化、技術伝承等が重要な課題となっています。このため、近年、発展の著しいICTやロボット技術、AI等の先端技術を活用した新たな農業としてスマート農業の実現・普及に向けた様々な取り組みが進められ、2018年度には「スマート農業実証プロジェクト」(農林水産省)が始動しています。和歌山県内農業の主要部分を占めている「果樹・施設園芸」を中心にスマート農業の動向を紹介します。

1.スマート農業に関する主な施策

(1)2015年3月「食料・農業・農村基本計画」

【規模拡大、省力化や低コスト化を実現するための技術導入】

高齢化、労働力不足が進む中で、担い手の一層の規模拡大、省力化や低コスト化を図るため、スマート農業(ロボット技術やICTを活用した超省力生産、高品質生産を実現する新たな農業)の実現に向けた取組や、次世代施設園芸拠点(地域エネルギーと先端技術を活用して周年・計画生産から調製、出荷までを行う施設)の整備を推進する。

(2)2018年3月「未来投資戦略」

【農林水産業全体にわたる改革とスマート農林水産業の実現】

農業のあらゆる現場において、ICT機器が幅広く導入され、栽培管理等がセンサーデータとビッグデータ解析により最適化され、熟練者の作業ノウハウがAIにより形式知化され、実作業がロボット技術等で無人化・省力化される。こうした現場をデータ共有によるバリューチェーン全体の最適化によって底上げする「スマート農業」を実現する。

(3)2019年6月「経済財政運営と改革の基本方針」

農業新技術の現場実装プログラムに基づき、制度的課題への対応も含めた技術実装の推進によるスマート農業の実現等により競争力強化を更に加速させる。

(4)2019年6月「成長戦略」

【スマート農業の推進】

2022年度までに、様々な現場で導入可能なスマート農業技術が開発され、農業者のスマート農業に関する相談体制が整うなど、スマート農業の本格的な現場実装を着実に進める環境が整うよう、「農業新技術の現場実装推進プログラム」にも即し、以下の取組を一体的に進める。

[1] 研究開発
  • 中山間地を含め様々な地域、品目に対応したスマート農業技術を現場で導入可能な価格で提供できるよう、農業者のニーズを踏まえ現場までの実装を視野に研究開発を行い、地域や品目の空白領域の研究開発を優先的に行う。
[2] 実証普及
  • 全農業大学校でスマート農業がカリキュラム化されるよう、スマート農業を取り入れた授業等の順次拡大・充実を図るとともに、農業高校にも展開を図る。
  • 農業者のスマート農業技術の入手機会が拡大するよう、フォーラム・マッチングミーティング等を各地で開催するとともに、行政手続のオンラインシステムの活用を通じた農業者への直接発信に向け取り組む。
  • 各都道府県の主要農産物品目でのスマート農業技術体系の構築・実践を目指し、スマート農業技術の生産から出荷までの一貫した体系としての実証、産地・品目単位のスマート農業技術体系の構築等を図る。
  • スマート農業機械・システムの共同利用や作業受委託等の効率利用モデルを提示するとともに、様々な業種の民間事業者のスマート農業分野への参入を促進するための環境を整備する。
  • 全普及指導センターが窓口となった、農業者のスマート農業に関する相談対応に向け、普及指導員等による知識や技術活用方法の習得を図る。
[3] 環境整備
  • 自動走行農機やICT水管理等のスマート農業に対応した農業農村整備の展開に向けた検討・開発を進めるとともに、情報ネットワーク環境整備に向け取り組む。
  • 中山間地におけるスマート農業の実現を念頭に置いた農場の整備や、果樹農業等の特性に応じた環境の整備を図る。

2.スマート農業実証プロジェクト

(1)事業内容
[1] 最先端技術の導入・実証

農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)、農業者、民間企業、地方公共団体等が参画して、スマート農業技術の更なる高みを目指すため、現在の技術レベルで最先端となるロボット・AI・IoT等の技術を生産現場に導入し、理想的なスマート農業を実証する取り組みを支援する。

[2] 社会実装の推進のための情報提供

得られたデータや活動記録等は、農研機構が技術面・経営面から事例として整理して、農業者が技術を導入する際の経営判断に資する情報として提供するとともに、農業者からの相談・技術研鑽に資する取り組みを支援する。

〇スマート農業技術の事業イメージ
スマート農業技術の事業イメージ

出典:農林水産省


〇スマート農業採択事業 全国で69件のプロジェクトが進行中
スマート農業採択事業

出典:農林水産省

〇全国実証事業のうち果樹・施設園芸の実証事業
全国実証事業のうち果樹・施設園芸の実証事業

(2)スマート農業導入による効果(農林水産省「農業新技術の現場実装推進プログラム」)
[1] 期待される効果
  • 農業者
    生産条件や経営戦略等に最も適した新技術を選択し導入
  • 技術開発者(企業、研究機関)
    農業者が求めている新技術やサービス等の開発や販売戦略の作成
  • 関係機関(行政、団体)
    新技術を普及させるために必要な施策の立案・実行
              
    「2025年までに農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践する」
[2] 果樹・施設園芸における効果の試算例

【果樹(柑橘)】
形態:家族経営(3名、常勤雇用1名、臨時雇用4名)
作付面積:計3.5ha(温州ミカン1.2ha、中晩柑2.3ha)
効果の試算:
・自走式草刈機によって草刈り作業を無人化し、草生管理に係る作業時間を約80%削減。
・ドローンを活用した農薬散布によって、防除の負担を軽減し、作業時間を約40%削減。
・AI選果機の導入によって、家庭選果の労力を軽減し、作業時間を約80%削減。

【施設園芸(トマト)】
形態:法人経営(常勤10名、臨時雇用72名)
作付面積:計4ha(大玉トマト4ha)
効果の試算:
・高度な環境制御技術の導入に加え、生育診断ロボットによる生育状態の見える化で栽培管理・環境の最適化を図ることにより収量を約10%向上。
・従来機械より低コストの自走式高所作業車の導入で設備投資コストの削減。労務管理システムの導入で従業員の適正配置や作業の標準化等により、収穫作業時間を約30%削減。
・収穫ロボットの導入により収穫作業時間を約50%削減。また、自動運搬車の導入で運搬作業時間の削減。

3.農業用ドローンの活用

現在、水稲を中心とした農薬散布や作物の生育状況のセンシングなどの目的でドローンの活用が進んでいる。農業用ドローンの技術開発とともに野菜・果樹向けの使用農薬についても拡大することが検討されている。今後、更なる技術開発によりドローンの使用が難しい中山間地域においてもドローンの活用が拡大することが期待される。

(1)ドローン利用の推移

果樹や野菜は農薬許可が無かったため、水稲等の土地利用型作物で農薬散布面積が急激に増加している。水稲での利用が2018年には2万6千haへと急拡大し、麦・大豆での利用も伸びている。

〇無人マルチローターによる空中散布の実施状況(全国)
無人マルチローターによる空中散布の実施状況

出典:農林水産省消費・安全局植物防疫課「無人航空機による空中散布の実施状況」より作成
「その他」作物内訳はばれいしょ、かぼちゃ、ながいも、柑橘、温州ミカン等多種にわたる。
松くい虫防除、畑作物の防除、播種等も含まれる。
「機体数」「オペレーター数」は2019年3月末時点。「オペレーター数」は有効認定者数。

(2)ドローン規制の見直し

2019年7月に規制改革推進会議が求めた無人航空機による農薬等の空中散布について規定していた技術指導指針を廃止し、農林水産航空協会(以下、農水協)による機体・操縦者の認定やそれに基づく申請の仕組みが廃止された。以降は国土交通省が一元管理を行い、農水協は代行申請を行う。

見直し後は、ドローンで農薬散布を行うためには、「航空法」に基づく事前承認と「農薬取締法」(空中散布ガイドライン)を確認して散布計画を立てる必要がある。個々人による申請負担を軽減するために、機体メーカーや販売代理店等による代行申請が可能となった。

【見直し事例】

  • ドローンの自動操縦について「10時間の飛行要件」→「一定の講習の受講に」
  • 農薬散布用の機体について、国や特定の団体の認定は不要。
  • 無人航空機飛行マニュアルの新設
     [1] 立入管理区画を設ける等の一定の条件を満たせば補助者なしでも散布が可能。
     [2] 目視外飛行・夜間飛行基準の緩和。
  • 農薬使用条件の検査の簡略化(検討中)
  • 携帯電話の電波をドローンに利用(電波法の規制)(検討中)等
(3)ドローンの普及拡大

2019年3月、官民協議会を設立。協議会は、農業用ドローンの本格的な普及に向けて、「先端技術の情報、実証活動のPR、安全に関する知見、事故情報の収集・提供」及び「現場での利用の支障となっている規制等に関する情報・意見の収集・交換を行う」

【農業用ドローンの普及目標】

  • 水田を中心とした土地利用型農業の作付面積の半分以上への普及
    (2018年 水稲・小麦・大豆の作付面積 182.7万ha)
  • 野菜や果樹、中山間地域における先進的な経営体への導入

[1] 農薬散布
散布面積を100万haに拡大

  • 露地野菜や果樹等へのニーズが高く、ドローン用農薬の登録拡大が急務。
  • ニーズの高い野菜類や果樹類を中心に2022年度までの目標を設定。
  • 野菜類+73剤(2.5倍)、果樹類+51剤(3.8倍)、いも類+28剤(2.2倍)等
  • ピンポイント散布技術による効率的で環境に配慮した防除が期待。
  • 高濃度農薬への変更登録時の作物残留試験の追加実施を不要化。

〇農薬散布におけるドローンの普及計画
農薬散布におけるドローンの普及計画◆

出典:農林水産省「2019年8月 農業用ドローンの普及拡大に向けて」より作成

[2] 肥料散布(露地野菜の先進的な経営体への導入)

[3] 播種(水田作の先進的な経営体への導入)

[4] 受粉(主要果樹の先進的な経営体への導入)

[5] 農産物等運搬(露地野菜・果樹等の先進的な経営体への導入)

[6] 圃場センシング(先進的な大規模経営体への導入)

[7] 鳥獣被害対策(先進的な対策地域への導入)

4.まとめ

スマート農業の普及により省力化、効率化等が見込める一方で、費用面、人材面等の課題も多い。今後の地域におけるスマート農業の展開についてまとめたい。

(1)費用対効果

北海道や東北の平坦地の大規模水稲田におけるトラクターやドローンの導入と比べると、小規模、傾斜地に見合ったシステムの利用は特殊性によりコストが高くなることが考えられる。

一方で、条件不利地域でのスマート農業の導入は人手不足に大きな効果が見込める。県内農業の基盤である小規模農家が使うことが可能な共同利用形態や作業の委託などの農家負担軽減のスマート農業活用法を地域で検討していくことが必要である。年に数回しか使わない農機をシェアリングや地域農業組織で購入してレンタルするという手法も考慮しなければならない。

(2)省力化と地域活性化

スマート農業導入の一番の目的は、「省力化を図り人手不足を軽減できる」ことではない。スマート農業の実践により農業の魅力を高めることで新たな就農者を呼び込み、元気の出る集落営農ができることが最も大切である。

スマート農業の取り組みと地域活性化とはリンクされるべきである。縮小する産地を維持し、生産を持続的に安定させることが重要だ。スマート農業は労働力不足に対する解決策の一つ、農業や農村の維持発展に寄与する手段である。

(3)人材育成

教える人材が地域にいないために、新たにシステムを導入しても十分に活用できないことが懸念される。急速に発展する技術に対応できる農業者が地域にいることがスマート農業の実践と活用には欠かせない。地域農業、営農手法を知ったうえで、先端技術をバランス良く実践できる人材作りが求められる。国の成長戦略では「2025年度までに農業大学校や農業高校でスマート農業をカリキュラム化する」とされている。既に愛媛大学農学部(松山市)では「知能的食料生産科学特別コース」においてICTや先端技術を使ったスマート農業のスペシャリストの育成に取り組んでいる。就農者に対して、先端技術に精通した専門家や地域農業の特色を知った自治体・JAなどが連携してスマート農業支援を行っていくことも重要になってくる。

(4)技術伝承

スマート農業は、新しい情報技術の活用により単に機械化、省力化するだけではなく、生産、流通、販売、輸出に加えて技術伝承、労働管理まで幅広い効果が期待されている。後継者が不足するなかで、技術伝承は最も大きな現在農業の課題となっている。

農業者はそれぞれ経営者であり、長年の経験、知識により消費者に受け入れられる栽培技術を積み上げてきた。このノウハウがスマート農業のAI化により伝承されることは後継者不足の農業にとって望ましいことである反面、一律に技術管理がなされ、同品質の成果物が出来上がることには問題がある。

各農家に技術差があり、高値で売れるもの、見劣りのするものがあってそれ相応の利益配分がなされ、それが農家の「やる気」にもつながっている。また、特定の生産者がスマート農業の実践により利益を高め、他の生産者に不利益が生じることは地域での軋轢を生むことも懸念される。技術伝承のスマート化ついては、その影響について検討しておくことが不可欠である。

(5)多様な営農への対応

いろんな営農形態があるなかで、その地域に適したシステムを導入することが大切である。農業者と研究者とメーカーが話し合いアイデアを出し合い、よりいいものを、お互いに納得できるものを作ることが必要である。

現在社会生活のなかでスマートフォンが欠かせないように、近い将来、ICT技術は農業者にとって欠かすことができないものとなることが予想される。中山間地域では農業の大規模化、集約化は難しい。小規模農家が地域農業だけではなく地域そのものを支えている。このような地域こそスマート農業を活用して活性化するチャンスである。

(2020.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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