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自動運転の普及と可能性

研究員 春木 吉彰

世界の人口が増加する中、自動車の更なる普及拡大が想定され、交通事故の削減、渋滞の緩和、環境負荷の低減等がより必要となっている。このような状況において、自動運転の実用化は、交通事故の削減や渋滞緩和等により、安全かつ円滑な道路交通社会の実現・きめ細かな移動サービスの提供・新しいモビリティサービス創出を進め、新しい生活の足・新しい移動・新しい物流手段を生み出し、多くの社会課題を解決し得るものとして期待されている。

一方、わが国の高齢化・過疎化が進む中山間地域においては、地域の公共交通サービスの減少や高齢者が運転を止めること等により、移動手段や物流の確保が課題となっている。自動運転車による新しい移動サービスの誕生は、多くの課題が解決され、豊かな暮らしをもたらすものとして、ひいては「地方再生」に対し、大きな期待が寄せられている。

今後、自動運転技術・自動走行システムの早期実現と普及のためには、官民一体となった取り組みが必要不可欠であり、技術開発や道路交通に関連する法制度の見直し等が求められている。

1.公共交通サービスにおける問題点と自動運転車の役割

全国的に公共交通の利用者が減少し、路線が減便もしくは廃止されている。特に地方圏では路線バスの利用者の減少が著しく、交通事業者の経営状況が圧迫され赤字路線を廃止せざるを得ない等、維持が困難な状況にある。また、近年ではバスやタクシーの運転手不足についても深刻な問題となっており、新規路線整備や便数拡充等のサービス向上を行いたくても、運転手がおらずサービスの縮小を余儀なくされている。地域公共交通は今、危機的状況にあるといえる。

このような公共交通の衰退により、高齢者ならびに移動困難者や買物弱者への対応が自動運転車の役割として強く求められている。

(1)長期低落傾向のバス事業

日本ではバス事業全体で年間延べ40億人以上を運んでおり、公共交通システムによる旅客輸送量全体のうち乗合バスは約14%、貸切バスは約1%の合計15%程度を担っている<2013年度>。ピークの1960〜70年代には年間100億人近くを輸送し、公共交通全体の約3割を担っていたが、この比率は長期低落傾向にある。減少の背景には、地方における自家用車保有率の上昇や、少子高齢化・過疎化の進行に伴うバス運行路線の減少等があり、結果としてバス事業者の収益性を悪化させている。このような中で、路線バス事業の赤字解消に向けた2000年以降の規制緩和を受けて、同時に貸切バス事業や高速バス事業を強化する事業者が増えてきた。それでも黒字になっている事業者は3割程度であり、乗合バス事業単体では大半の事業者が赤字である。バス事業者の収益構造については、運転者の人件費が6割弱を占めている。一方で運転者の労働環境については長時間・低賃金の労働集約的な職業となっており、人材確保が難しくなってきている。

【全国の乗合バス利用者の推移】(下段は、昭和46年度の利用者を100とした場合の指数)
【全国の乗合バス利用者の推移】(下段は、昭和46年度の利用者を100とした場合の指数)

【和歌山県内乗合バス利用者の推移】(下段は、昭和46年度の利用者を100とした場合の指数)
【和歌山県内乗合バス利用者の推移】(下段は、昭和46年度の利用者を100とした場合の指数)

乗合バス利用者数の推移
乗合バス利用者数の推移
資料:国土交通省「自動車輸送統計」

(2)有効な手段としてのコミュニティバス自動運転化

地方(過疎地域)の公共交通において「利用者の減少 → 当事者の収益悪化」という負のスパイラルが長期にわたり続いている。そもそも乗合バスは、学生や高齢者など自家用車を持たない層が通学や買い物等の用途で利用するケースが大半であり、交通弱者対策としての公共性があるため、自治体主導でコミュニティバスの導入が進みつつある。

国土交通省の調査によると、全国で約6割の地方自治体がコミュニティバスの運行を手掛けている。今後、潜在的なバス利用者として特に需要を伸ばす可能性があるのは、自家用車の免許を返納した高齢者であり、既にコミュニティバス利用者の15%程度を占めている。75歳以上高齢者の免許返納率は約5%と低い水準であるが、高齢者による事故比率の増加に伴い、返納率の向上を促進する世論が高まる中、高齢者人口の急増と返納率の上昇の結果、新たなバス需要となる可能性が高いと思われる。

免許返納後の代替交通手段をどのようにとらえていくかは重要な社会的課題とされている。和歌山県においても、人口減少・高齢化が深刻な過疎市町村※(高齢化率:38.2%)においては乗合バスを中心とした公共交通の衰退により、買物弱者や高齢者ならびに病院への通院等に係る移動困難者への対応が求められてくる可能性は非常に高い。これらのニーズと課題を解決するために、自動運転技術を用いた「コミュニティバスの無人化」サービス等は有効な手段となり得るのではないか。ひいては自動運転化により、運行時間及び人件費等を考慮せずダイヤ調整も可能となり、交通事業者の経営や人材不足といった課題にも少なからず寄与できるのではないかと考える。

和歌山県過疎市町村における人口推移
和歌山県過疎市町村における人口推移
資料:総務省「国勢調査」

高齢化率の推移
高齢化率の推移
資料:総務省「国勢調査」

※過疎市町村(和歌山県過疎地域自立促進方針における対象過疎市町村)
 印南町・かつらぎ町・北山村・紀美野町・串本町・九度山町・高野町・古座川町・新宮市・すさみ町・
 太地町・那智勝浦町・日高川町・湯浅町・由良町

2.自動運転のシステムの現状と高齢化社会における役割

現在、2020年前後の実用化を目指して研究開発・実証が進められている自動運転は主に大きく二つのタイプに分けることができる。ひとつはドライバーが運転に関与する個人の乗用車の究極の安全を目指した自動運転である。これは自動運転モード中にシステムに対し安全運転責任が課されるが、システム限界時や失陥時にドライバーが交代して運転を引き継ぐ必要がある自動運転(レベル3)であり、高齢化社会における役割は、「運転可能年齢を伸ばす」ことだといえる。

もうひとつはドライバーが運転に関与しない完全自動運転(レベル4)を低速かつ範囲限定で運用する無人自動運転移動サービスであり、高齢化社会における役割としては、「高齢化が進む地域における生活の質の維持・向上」が考えられる。

自動運転のレベル分けについて
自動運転のレベル分けについて
出典:「自動運転の実現に向けた取り組み」(国土交通省自動車局技術政策課)

レベル4自動運転については運用範囲や運用速度を限定し、積極的にインフラ設備(路面に敷設した電磁誘導線や磁気マーカー・管制遠隔操縦装置 等)と連携することで、実用化に向けた技術的なハードルは下がり、高齢化が進む地域における買物弱者・移動困難者問題等の解決手段としてのレベル4自動運転の早期実現の期待が高まっている。限定地域における無人運転車の公道走行のための制度づくりや実証実験が進められている。このような限定地域における近距離移動(通院・通学・買い物・公共交通へのアクセス 等)を支援し、高齢化が進む地域の生活の質の維持、向上を目的とする自動運転は、「ラストワンマイル自動走行システム」と呼ばれ、このタイプの自動運転は、個人の所有物としての自動車というより公共交通に近いものだといえる。

産業技術総合研究所が中心となって実証実験を進めているラストワンマイル自動走行システムは、従来の移動支援サービスよりも低コストで実現し、持続的な運用を可能とするビジネスモデルを見出すことが課題であるが、現在自治体がコミュニティバスや路線バス会社への赤字補填等で維持している住民の移動サービスを代替する効果があるといえる。また、ラストワンマイル自動走行システムの実用化は、旅客輸送のみならず、荷物の宅配・ゴミ収集・除雪等の無人車両が巡回することで可能となる様々なサービスを担うことも可能と考えられ、導入地域における生活の利便性の向上・自治体の負担低減等を実現し、高齢者化社会における生活の質の維持、向上に寄与すると考えられる。

3.自動運転の普及に向けた制度整備「自動運転に係る制度整備大綱」における方針

自動運転による円滑な道路交通社会の実現や新しいモビリティサービス産業の創出、地方再生、日本の自動車産業の競争力強化等に様々な期待が寄せられる中、自動運転に関する制度整備の対応も急がれている。

2018年4月17日、政府のIT総合戦略本部により公表された「自動運転に係る制度整備大綱(案)」では、自動運転が日本の新しい移動物流手段を生み出す移動革命・社会課題解決による豊かな暮らしに対し、期待されている中、2020年までに高度な自動運転(レベル3以上)の実現に向けて、道路交通に関連する必要な関連法制度の見直し方針を策定している。

自動運転向け走行環境条件では、「走行速度を低速(決められた速度以下)に抑える」、「決まったルートのみを走行する」、「走行する天候・時間を限定する」等を例に挙げ、自動運転技術の進展とともに、客観的な指標や新技術に係る保安基準が整備されていくことで、人間の操作や条件等の制約が徐々に緩和されていくことが期待されている。

自動運転の実用化に向けた段階的な進め方のイメージ
自動運転の実用化に向けた段階的な進め方のイメージ
出典:「自動運転に係る制度整備大綱(案)平成30年4月17日

制度整備大綱で重点的に検討する範囲とその方向性
制度整備大綱で重点的に検討する範囲とその方向性
出典:「自動運転に係る制度整備大綱(案)」平成30年4月17日

自動運転技術は、近年、飛躍的な進歩を見せているとはいえ、いまだ発展途上であり、目まぐるしく変化する実環境への適応や自動車や自転車及び歩行者の行動予測等克服するべき技術的課題は多い。完全自動運転車は、まず「高齢者の多い地域における送迎サービス」や「高速道路における隊列自動走行」等、限定された環境下での実証実験を経て、倫理的・哲学的な検証にも照らし合わせたうえでの実用化が必要ではないかと考える。

4.地方における自動運転普及のシナリオと未来像
    〜2022年以降、自動運転で都心離れが進み、過疎地域に住む未来?〜

田舎は過疎化が進み、居住地区が都会に集まる「コンパクト化」が進んでいる。しかし、過疎地域への自動運転導入により、大きく変容する可能性を秘めている。

レベル5自動運転が導入実現されると、私たちの生活がどう変化するのか。自動運転がもたらすメリットは「事故の減少」や「働き手の減少による運転手の代替」だけではなく、「運転する人の時間の有効活用」も含まれる。つまり、現状の「運転時の時間や労力」を、自動運転に任せることが可能となり、「車を運転しなければならない時間」から、「運転している時間は自分の自由時間」という発想に変化することで、時間の有効活用が可能となる。

また、「車は単なる移動の手段」という観点だけで考えるならば、完全な自動運転の実現は、マイカー保有の必要性がなくなることも予想される。現状、田舎や過疎地域での暮らしにはマイカーが不可欠であるが、自動運転になれば、車を所有する必要もなくなり、年を取り自分で車を運転できなくても、自動運転で行きたい所へ行けるといったことが可能になるかもしれない。

また「田舎暮らしは不便な面も多いが、本当は自然豊かな場所で暮らしたい」という意向から「都心へのアクセスが良ければ移住も考えたい」とする人も少なからずいるといわれている。将来、完全自動運転が整備導入されると、例えば「便利な都心で働き、帰りの車の中は自分の時間を楽しむ、そして自然豊かな環境のわが家へ帰ってリフレッシュする」というようなライフスタイル、つまり「便利な都心暮らし」と「心に豊かさをもたらす自然や家族との時間」どちらも併せ持つ充実した生活環境を可能にすることができるかもしれない。過疎地域への自動運転の導入は、生活援助や事故防止への解決策等に焦点があてられがちであるが、メリットはそれだけではなく、「より人間らしく生きられる時間の確保」であるといえるのではないか。

2022年あたりを境に、現在の過疎地域が、魅力的な生活居住地区として都心にとって変わるかもしれない。

参考文献・引用文献

  • 「モビリティー進化論自動運転と交通サービス、変えるのは誰か」アーサー・ディ・リトル・ジャパン著 日経BP社
  • 「自動運転を巡る動向」(公財)関西交通経済研究センター 関交研2018春季号(137)平成29年12月13日
  • 自動運転に係る制度整備大綱 高速情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議 平成30年4月17日
  • 自動走行ビジネス検討会「自動走行の実現に向けた取組方針」報告書概要 平成30年3月30日
  • 国土交通省HP<「自動車輸送統計」・「自動運転の実現に向けた取り組み」(国土交通省自動車局技術政策課)・「自動運転に係る制度整備大綱(案)」・「中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービス実証実験」・「官民ITS構想・ロードマップ」>
  • 内閣府「第33回 国家戦略特別区域諮問会」
  • 総務省「国勢調査」
  • 和歌山県HP「自動車交通(旅客自動車運送事業)-和歌山県」
  • 長野県伊那市HP 道の駅「南アルプスむら長谷」における自動運転サービス実証実験
  • 「自動運転車の実現に向けた法制度上の課題」J-STAGE(科学技術情報発信・流通総合システム)小林 正啓 情報管理2017.7 vol.60 4
  • 「2022年以降は過疎地に住もう。自動運転で都心離れが進む未来」 AIZINエーアイジン 2018.7.19 2018.11.22
  • 「自動運転の普及に向けた制度整備」 ZDNet Japan林 雅之 2018.5.10
  • 「自動運転技術の動向と課題:科学技術に関する調査プロジェクト報告書」国立国会図書館 調査及び立法考査局
  • 「自動運転法整備へ」ニッセイアセットマネジメント マーケットレポート 投資情報室 2018年2月13日
  • 「自動運転における損害賠償責任に関する研究会報告書 」国土交通省自動車局 平成30年3月
  • 「自動運転にかかる制度整備動向について 」(一社)JA共済総合研究所 渡部 英洋 共済総研レポート157 2018.6
  • 「自動運転の民事上の責任問題と保険の動向 」(一社)JA共済総合研究所 渡部 英洋 共済総研レポート 2016.12
  • 「高齢化社会における自動運転車の役割」大前 学 日本老年医学会雑誌55巻2号 2018:4)
  • 「高齢社会における地域公共交通の再構築と地方創生への役割」-三重県玉城町と長野県安曇野市におけるデマンド交通の事例から- 野村 実 立命館産業社会論集 第51巻第2号 2015年9月
  • 平成28年度スマートモビリティシステム研究開発・実証事業「自動走行の将来像及び産学官の協調が必要な取組の整理」調査報告書 潟香[ランド・ベルガー 2017年3月
  • H28警察庁委託事業「自動運転の段階的実現に向けた調査研究」報告書 みずほ情報総研 平成29年3月
  • 全国過疎市町村自立促進連盟 過疎市町村マップ(和歌山県)

(2019.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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