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住民目線から見た防災情報について

研究部長  畑山 善生

私の一日は、早朝ウォーキングから始まる。以前、休日のウォーキングの際に自宅から約2q離れた地点で突然の土砂降りに遭遇してしまったことがあった。自宅を出るときから雲行きが怪しかったので、長傘を持ってはいたのであるが、あまりの雨の激しさで、足元の雨跳ねはすごく、傘布からも雨粒がミスト状になって突き抜けてくるような状態で、傘が実質的に役に立たなかったという凄まじいものであった。その時は幸いにも近くの高速道路の高架下にもぐり込むことができ、ずぶ濡れにならずに済んだ。いわゆるゲリラ豪雨の類だったのかもしれない。

それ以降は、ウォーキングに出る際空模様が怪しい時は、当初は国土交通省のリアルタイムレーダの画像を見てから、最近は、1分刻みでほぼ今の雨の様子が分かるXバンドMP(マルチパラメータ)レーダ雨量情報(以下、XRAIN [*5] )で直近の30分間の雨の動きを確認してから自宅を出ることにしている。この雨量情報では予報機能は提供されていないものの、ほぼリアルタイムでビジュアルに雨の状況が分かるため、素人でもこれからの30分程度先までであれば天候の状況を概ね予測することができる(もちろん自己責任で)ことから、この優れもののツールは、私の散歩の友になっている。本来の活用方法ではないが一般人はこういう使い方もするという一例であろう。

車で出かける際も、XRAINの情報からおおよその降雨イメージをつかんで出かけることが多い。車のナビと連動できれば、突然の豪雨帯も出会う前に察知でき最寄りのPAあるいはSAに一時退避することも可能となるのではないかと思われる。最近は日常的に使える便利なツールができたものだ。

余談が長くなってしまったが、本論に戻って、水に絡む災害を考えてみると、海からは津波、高潮、陸では洪水(外水氾濫)、最近ゲリラ豪雨で目立つようになった内水氾濫、降雨が少ないことによる渇水、降雨等が原因の土砂災害と多様である。ここでは全てにふれることができない点ご容赦いただきたい。


皆さんは、避難準備情報・避難勧告・避難指示についてその意味をご存じだろうか(説明は頁末備考を参照)。
テレビ等でこれらの発令聞くたびに、意味が分かりにくいなという印象を持ってしまうのは私だけだろうか。

内閣府が実施した避難勧告・避難指示に関する住民向けアンケート調査(平成22年11月) [*1] では、同年に避難勧告や避難指示が発令された地域においてですら4割以上の住民が、上述の発令の違いを認識していなかったと報告されている。東日本大震災後、紀伊半島一帯における台風12号による未曾有の水害他平成23年度の度重なる水災害で、和歌山県下では住民の理解が急激に進んでいるものと期待したい(和歌山市の昨年の調査では、避難勧告の認知度は77%と報告されている [*2] )。

避難情報の区分名称は名称として重要と思うが、住民の理解を促すためにも、そこに一言、対象住民に対し「どのように対応すべきか」という付加情報をつけるべきではないか。その際、漠然とした付加情報ではなく、切迫性が分かるような、状況理解度が担保できるような情報であるべきではなかろうか。「今状況が具体的にどうなっていて、どのように対応すべきか」というような。

例えば、河川の水位が上昇し洪水被害の危険性が高まってきた時、河川の水位状況をどう表現し伝達すると住民の状況理解度や危機意識の形成につながりやすいのかを考えていただく。

避難情報について、防災担当者、専門家には、自らの理解レベルと一般住民の理解レベルは根本的に異なる可能性があることをしっかり認識していただくことが肝要かと考える。住民の目線で体感的に分かる説明内容をつけた発令をお願いしたいものである。

警報の質(オオカミ少年への懸念)

和歌山県では、昨年の東日本大震災の際、予想される津波に対し18市町が避難指示・勧告を出したが、実際に避難したのは約4,600人(2.4%)に過ぎなかったと報道されている。愛知県で0.2%、三重県で0.7%、徳島県で4.4%で、衝撃的とも言えるほど極めて低調な避難状況であった [*3] 。実は私も避難をしなかった一人である。

避難率が低調だった原因について、それ以前に発令された津波警報が実態を反映しないことが多かったため、今回も同様だろうと思うオオカミ少年効果が発現してしまったのではないだろうか。警報や避難情報は安全サイドに発令すればよいというものでなく、できるだけ現実に近い津波高さを予測するものでなければ、それ以降の住民の避難行動に影響を与えかねない。住民に対しては適切で信頼できる情報であることが求められる。オオカミ少年にならないよう是非改善してもらいたい。

津波の場合、早期に到達した地域の津波情報をもとに、これから津波が襲来するであろう地域に対し、その津波高さを補正、修正できれば、オオカミ少年のおそれを少しでも軽減できるのではないだろうか。また、津波到達予測時刻を過ぎても、実際に観測された津波高さがなかなか反映されず、予測の数値が延々と報道され続けるのもいかがなものか。

過度な情報選別の懸念(住民にも有益な情報)

昨年10月に和歌山市の地域防災計画が一新された。
和歌山市防災情報提供プラットフォームで和歌山市地域防災計画等の防災関連資料 [*6] を閲覧することができる。更に住民の意識等を調査した資料も作成されているようだが、正式には公開されていない。[*6] 住民の行動あるいは意識に対する情報、ひいては避難行動につながる情報は、住民にとっても反省材料になるため、是非公開してほしいものである。

限定公開ファクトデータ(限定メンバーのみへの提供・公開)

XRAIN(XバンドMPレーダネットワーク) [*5] では、30分前から現時点までの1時間雨量換算の瞬間雨量情報のみが一般公開されている。一方、コンソーシアムメンバーには、更に(1)レーダ観測結果に基づく積算雨量情報、(2)ドップラーレーダの機能から観測できる風向情報も提供されていると聞く。特にリアルタイムで提供される積算雨量は住民にも十分有益な情報と思われるため、瞬間雨量情報と同じく、住民にも情報公開してほしいものである(本年7月より、日本気象協会がXRAIN対象地域の任意の場所における過去60分、過去12時間の累積雨量情報を試験提供中)。情報が必要か否かは受益者に決めさせてほしい。

治水対策の基準となる数値パラメータ及びその計測あるいは算出容易性

昨年、台風12号による影響について、県内ならびに紀伊半島の主要河川の状況を調べたことがあった。その際、河川の水位情報、雨量情報が多々公開されていることを知った。

河川の治水においては、都道府県により計画高水位、計画高水流量(=基本高水流量−洪水調節量)が重要な数値パラメータとして設定され、市町村のハザードマップにおいては、想定測定所の上流域での1日間あるいは2、3日間の総雨量が作成基準として設定されていることが多い。時間雨量、河川水位は、河川・水系の要所要所で1時間ごとのほぼリアルタイムで把握できるようになっているが、肝心の数値情報である上流域の2日間総雨量(和歌山市の場合)の算出には相当日数を要すると聞く。直ちには算出できる仕組にはなっていないのが現状で、仮に現況の降雨状況がハザードマップ作成条件に近いものであっても、今起こりうる水災害を適切に推測できない。

Web上で一部では流量情報の提供もなされているが、これは浮子を使った計測と水利計算に基づく更生係数から算出されており常時計測には向かない。海洋あるいは河川の流量計測技術について、米国では更生係数を必要としない計測手法として、1981年に開発された超音波ドップラー多層流向流速計(ADCP)の使用が広く普及し、河川流量観測技術が世界的には大きく転換しようとしている [*4] 。河川分野に関する限り、データの過去からの連続性を重視するためか、新規技術に対する日本の対応の遅さが目立つように感じるのは素人感覚であろうか。もちろん新規技術の導入はこれまでの技術との十分な比較検証があってこそのものである。

ADCPに関しては、近年機能開発が進み、浅水域での計測、出水時のような高流速計測も可能となってきた。但し、これまでは、河川流量を計測するためには河川に対しセンサーを横断させ、水深方向の流速分布を計る仕組みであったことから、そのままでは全自動計測は容易ではなかった。センサーの設置高さでの断面流速分布を計測するH-ADCP(水平設置型ADCP)の登場でセンサーを水深方向に移動させることにより無人自動観測が容易になったと聞く。高精度で流量をほぼ常時モニタリングできる観測手法として重要な意味を持つものと思われる。

河川の流量、ある水位観測所の上流域での総雨量という、治水のかなめとなる数値パラメータのいずれもが、容易には計測されない、あるいは容易には算出されないのが実情ということを上で述べた。今起こっている状況が、治水条件のどのレベルにあるのかが現時点では後付け(洪水の解析等の目的とか)でしか認識できないというのは由々しき問題ではないか。本来であれば容易に計測あるいは算出でき、即座に比較判断できる数値パラメータを使用すべきではないか、あるいは、リアルタイムで計測されているデータから容易に算出できる体制・仕組みを整えるべきではないかと感じる。現状のままでは、洪水が発生した等の結果の説明用パラメータにすぎないように思える。総雨量に関しては、例えばXバンドMPレーダに基づく積算雨量の活用もあると考えるが、まだ検証途上なのであろうか(Xバンド等短波長レーダ特有の課題によるものかもしれない)。

また、ファクトデータとして、雨量、水位は各都道府県管轄の測定所でも計測されているが、その情報は少なくとも一般にはWebでは公開されていないように見受けられる。せっかくの情報が住民に一元的に提供されていないのは誠に残念である。

気象観測技術の現状と今後について

冒頭で触れたように、レーダによる降雨観測技術も、XバンドMPレーダの導入で、広域をカバーするCバンドレーダの1kmメッシュ、5分刻みの約10分遅れの更新から、250mメッシュ、1分刻みの約40秒遅れの更新で、ほぼ現時点の降雨状況がこれまでになく詳細に把握できるようになってきた。

今の平面観測に加え、高さ方向の情報をリアルタイムで得るための技術開発もなされており、今年から試用が始まった高さ方向を電子的に高速スキャンできるフェーズドアレイレーダが大阪大学吹田キャンパスに設置され、ゲリラ豪雨の元凶である急速に発達する積乱雲の観測(ゲリラ豪雨をもたらす積乱雲のたまごの観測)に応用されはじめたと聞く [*7] 。レーダ機能的には現状では一長一短のようだが、気象現象の後付の解析のツールとして使用するだけでなく、リアルタイムでの活用すなわち中小河川の下流域での急激な増水等、ゲリラ豪雨に代表される局地気象現象による影響の迅速把握により、即時予報に活かしてほしい。Xバンドの弱点である降雨による電波減衰(激しい降雨域の後方では観測データ欠損となる)については、複数のレーダ設置の場所の最適化を図ってほしいものだ。今は、素人目にはあまり適切とは思えない近接設置されているケースも見受けられる。

リアルタイム気象ファクトデータの提供について一言 [*8]

・河川水位、雨量情報のトレンド: 国土交通省 水文水質データベース、川の防災情報:インターネット
 情報が多数ありすぎ、ほしい情報の有無・所在が分かりにくい

・同上(都道府県管轄の測定所):Web上では大半は非公開

・河川水位、雨量の現状データ: NHK地デジのデータ放送

上述のように情報があちらこちらで公開されているが、せっかく情報公開されているのにもかかわらず、少なくとも住民には、どのような情報がどこで得られるのかが一元的に分かるようにはなっていない。確かに情報過多でも困るが、適切な質・量の情報が一元管理された情報プラットフォームの提供を是非早期にお願いしたい。

最後に

受益者の一人である住民に対しても、『適切な内容・表現・質・迅速さでの情報提供』がなされ、『住民の安心・安全につながる環境づくり』を切に願いたい。

本年8月30日に、南海トラフ地震が発生した際の被害想定が発表された。沿岸地域で尋常ではない揺れの地震に遭遇した時は、発生確率論等の論議はともかく、まずは直ちに高所への自主避難をお願いしたい。

備考

避難準備情報・避難勧告・避難指示について

避難準備情報 避難の準備を呼びかけるもの。拘束力はない。
避 難 勧 告 居住者に避難を促すもの。法的拘束力はないが、尊重する義務を負う。
避 難 指 示 被害の危険が切迫した際に発せられ、居厩舎を避難のため立ち退かせるもの。拘束力は強い。強制までは行われないが、指示に従わなければならない義務を負う。

参考資料

参考情報

(2012.9)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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