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決算書等の企業会計報告の必要性

研究員   林 秀訓

この機関誌が発行されている頃には、3月決算の多くの企業のみなさんは顧問の会計士さんや監査法人の会計監査が終了し、やっと少し落ち着いたところでしょうか?毎年かなりの費用と時間を費やして企業会計報告を作成しますが、無駄なコストを払っているなあと感じている方も多いと思います。中小企業の場合でも税理士さん等にかなりの金額を年間で支払っていると思います。

そもそも決算書等を含む企業会計報告は何故必要なのでしょうか?もちろん自社の業況推移を把握するために有用なツールでしょうし、国税庁に今年はいくらの税金を支払わなければならないかを確定するのに必要な手続きであることは間違いではありません。ですが、作成する企業にもメリットはあります。今回は会計報告を企業の通信簿といった概念のみにとどまらず、国の制度会計がどのように会計報告を捉えているのかを考えたいと思います。

1.企業会計とは

企業会計とは、営利を目的とする経済主体(企業)の経済活動を貨幣単位で測定し、その内容及び結果を報告する手続きのことです。

2.企業会計の領域

企業会計は財務会計と管理会計に分かれ、さらに財務会計は制度会計と非制度会計に分かれます。

財務会計 : 株主や債権者等の企業外部に対する報告を目的とする会計
管理会計 : 経営者等の企業内部者に対する報告を目的とする企業会計
制度会計 : 法律の規制の下で行われる財務会計、各法律に基づく財務書類の開示
非制度会計: 法律の規制外で行われる財務会計。IRの一環として企業が投資者に対して制度会計の規制の枠を超えて自主的に追加的に行う情報開示

前図にもあるように企業会計の対象は株式会社が主な対象です。それではまずこの「株式会社」とはどのような会社なのでしょうか?

3.株式会社の内容とは

株式会社とは出資者である株主が「間接有限責任」というごく‘限られた’‘軽減された’責任のみ負う会社形態のことです。間接有限責任とは株主が「出資した引受金額を限度」とし、その他の責任は負わないことです。従って、間接有限責任とは出資者にかなり有利な制度といえます。例えば、私が個人で事業に失敗し1億円の借金を背負った場合に、私は1億円を返済する義務を負います。しかし、私がA社の株式を10百万円で購入しA社の株主になったとします。数年後、A社が事業に失敗し100億円の借金を残し倒産した場合でも、私は出資した10百万円を放棄するだけで残りの負債については返済義務を負いません。事業に失敗した場合に多額の負債を背負う可能性があるならば、資金力の乏しい個人投資家は企業への投資に二の足を踏むと思われます。そこで、このように株主の責任を軽減することで、より多くの人々に出資者となってもらえるように制度は配慮しています。

この結果、小規模零細な資本しか有さない個人の投資家でも気軽に会社に投資できることから、株式会社は広く浅くからより多くの資金を調達することが可能です。従って、株式会社の形態を採用すれば会社規模は「大規模」になりやすく、さらに株主も「不特定多数」に及ぶことが想定されています。

一方、株主が一定の限られた軽減された責任しか負わないならば、後で詳細に説明しますが、会社債権者等との不公平が生じます。そこで、株式会社では債権者等への保護にも配慮しています。資本金制度、配当限度額制限、一定の準備金等を定めることで会社に一定の財産を留保させ、債権者等への支払い原資の確保を求めています。

【株式会社の特徴】
 (1)間接有限責任
   ・株主の責任が軽減され、多数の投資家が容易に株主になれる
   ・多くの投資家は投資利益に関心を持ち、会社の経営能力もなし

 (2)所有と経営の分離
   ・経営能力もない投資家は「お金は出すが経営はできない」
    そこで、企業価値を効率よく向上させるため、プロの経営者を雇う
   ・「出資者」と「会社の運営者」が別々といった非常に稀な会社形態を採用している

 (3)経営者支配の確立
   ・所有と経営が分離した結果、出資していない経営陣が会社の実権を握る
   ・出資をしていない、つまり他人の会社において強い権力を得ると、
    経営者が必ずしも出資者の利益のために会社を運用するとは限らない
    (例) 勝手に事業目的以外のことに会社の資金を使っている
        経営陣が会社のお金を私用なことに流用している 他

4.企業会計の機能について

上記のような株式会社の特徴を勘案し、制度会計では「情報提供機能」、「利害調整機能」といった2つの機能を果たすように企業に求めています。

(1)情報提供機能

普段は会社の経営内容を詳しく把握していない「投資家」、「企業債権者等」が、会社の株式購入等を通じ経済的な意思決定を誤らないように、企業の状況に関する判断や将来の業績予測等に役立つ有用な財務情報を提供する機能。一般に「金融商品取引法」に基づく企業内容開示制度において企業会計が果たす機能として理解されている。

[1] 金融商品取引法の基本概念

一般投資家は証券市場を通じて企業に資金を提供する不特定多数の株主や社債権者等であり、企業の経営状況について財務情報を通じ理解することで自己責任の下で企業に対する投資を決定し、経済的な利益を追求することが期待されています。

一方で、企業は一般投資者に対して企業の状況に関する適切な財務情報を提供することで、一般投資者の意思決定を促し経営に必要な資金を円滑に調達することが期待されています。

企業会計の情報提供機能は、資金調達を必要とする「企業」と企業に対する資金提供を通じた利益追求を目的とする「投資家」を、財務情報を介して結びつけることで証券市場の円滑な運用を促し、ひいては国民経済全体の発展に寄与するという重要な役割を果たします。

[2] 情報の利用者

『株式への投資者』
株式への投資者は、株式に対する投資を通じてより多くの利益を獲得しようとする主体であり、配当や株価の増大について関心を持ちます。配当や株価は企業の獲得する利益に基づいて決定されるため、投資者は企業の公表する財務情報によって当該企業の「収益性」を判断し、株式の売買に関する意思決定を行います。

『債権者(金融機関、社債権者等)』
金融機関や社債権者は、貸付金や社債に対する投資を通じて安定的に利益を獲得しようとする主体であり、安全確実な利息の受取りと元本の償還に関心を持ちます。利息の支払いや元本の償還は企業の債務返済法力に影響されるため、投資者は企業の公表する財務情報に基づいて当該企業の「安全性」を判断します。

<参考:経済学の観点より>
逆選択問題と情報提供機能(情報の経済学からのアプローチ)
実際の証券市場においては、投資者は事業の経営に関与しておらず、日々の業務に精通しているわけではないので、経営者ほど企業に関する情報を十分に知ることはできません。従って、投資者と経営者との間には情報の非対称性が生じています。
このような状況下では、優良な企業が高い収益性を反映した正しい価格で証券を発行しようとしても投資者はその価格に懐疑的となり購入せず、逆に本来優良でない企業が発行する低価格の証券を割安と感知して購入するようになるかもしれません。これを逆選択問題といいます。この問題が拡大すれば優良な企業は市場から淘汰されてしまい、優良でない企業の証券が市場に流通するようになるため(レモン市場の形成)、投資者は損失を被ります。
財務会計の情報提供機能により、企業の状況に関する情報が投資者に正しく伝わることにより、企業と投資者の間の情報の非対称性が緩和され逆選択問題の発生が防止されます。

(2)利害調整機能

企業に関する利害関係者の間に生じる利害の対立を解消又は調整する機能のことです。一般に株式会社制度の円滑な運営を目的として会社法が果たす機能として理解されています。

[1] 株主と経営者の利害調整(経営者の受託責任の説明)

株式会社においては、本来は株主が出資した資金を経営者が企業の目的に即して適切に運用するという受託委任関係が成立しています。しかし、所有と経営の分離が進み経営者の権限が強化された現代において、経営に直接参加せず、また参加する意思、能力、時間的余裕のない株主が経営者の行動を常に監視することは困難です。そのため、経営者が株主の出資金を自己の私利私欲のために消費する等の株主の利益を害する行動をとる恐れがあります。つまり、株主の出資金の運用に関して経営者と株主の間に利害の対立が生じることになります。

そこで、株主の出資した資金がどのように運用されたのかを企業会計を通じて報告させ、経営者が受託責任を果たしたことを説明させるようにしています。これにより、株主と経営者の利害の対立が解消され、株式会社の円滑な運営が可能となります。

[2] 株主と債権者

株式会社において、株主は企業への議決権を行使し経営への意思決定に参加し、経営成果に応じた配当を受取ることが可能です。しかも、自己の出資額を限度として間接有限責任を負うのみで責任は軽減されています。他方で、債権者は企業の意思決定には参加できず、会社の純資産を唯一の担保として約定利息と元本返済を受けるのみで、経営の結果次第では債務不履行のリスクを背負う立場にあります。

仮に、会社純資産の減少をもたらす株主への配当が自由に行われるとするならば、債権者の担保財産が無制限に減少し、企業の債務不履行リスクは高まってしまいます。つまり、純資産の分配と保全に関して、株主と債権者の間には利害対立が生じることになります。そこで株主に対する配当によって純資産が減少したとしても、債権者の担保となるべき財産が害されないように、財務情報に基づいて配当限度額規制が設けられています。これにより、株主と債権者の利害対立が調整されます。

[3] 企業と国との利害調整

企業はより多くの利益を獲得し、獲得した利益をより多く株主等に還元することで株価の維持に努めたいと考えます。そのためには、税金等の支払いはできるだけ節税したいというインセンティブが働きます。他方で、国を含む国税庁等は、多くの利益を稼いでいる企業から多額の税金を徴収したいと考えます。従って、税金の支払額は適切なのかといった内容を巡り、企業と国税庁等との間に利害対立が生じます。企業が適切な財務報告を作成することで、企業と国税庁等との利害対立が調整されます。

このように、「情報提供機能」と「利害調整機能」が適切に機能しなければ、企業は投資者や債権者の信用を失い証券市場そのものの崩壊を招きかねません。投資家は市場で利益を得る機会を失い、企業は資金を調達する手段を失うことで、お互いにとって大きな損失となります。上場していない中小企業においても銀行等金融機関からの借入金がない企業は稀だと思います。銀行も債権者の一人ですので、中小企業においても自らの企業業績を適切に開示した会計報告を作成することは、企業と債権者(銀行)との情報の非対称性を解消することに繋がりますので、円滑な資金調達や不当にリスクを付加された高金利で借入を行わなければならないといったリスクを回避することができます。企業が毎年、多額のコストを支出し決算書を含む会計報告を行うことには十分な意義があるといえます。

(2014.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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