ホーム | サイトマップ | リンク

ホーム > レポート > 経済 > 外貨会計:為替の影響は会計上どのように表せるのか

外貨会計:為替の影響は会計上どのように表せるのか

研究員   林 秀訓

平成26年の9月前後から、日本国内では急激に円安が進み、「1ドル=120円」を記録したこともありました。リーマンショックといわれた金融危機が発生した2008年の10月以降、一時は「1ドル=80円」を切ったこともり、当時は異常な円高に多くの企業が悲鳴をあげました。特に輸出企業への影響は深刻で、多くの日本企業が賃金の安い国外に生産拠点を移し、国内の雇用も失われました。

最近では、食料品や輸入物の生活品が値上がりし、ガソリン価格も高騰したため、以前より円安・円高といった言葉を聞く機会が増え、その動向に注意を配ることが多くなったのではないでしょうか。一般に円安は自動車会社等の輸出企業に有利とされ、円高は輸入雑貨や原料を仕入れる輸入企業に有利といわれます。これらの「為替の影響の会計上の処理=外貨会計」について考えたいと思います。

1.円安・円高と基軸通貨ドルについて

さて、みなさんもニュース等で「本日の為替は、1ドル=115円50銭で前日より1円50銭の円高となっています」といったアナウンスを聞いたことがあると思います。昨日の為替相場が、「1ドル=117円」で本日が「1ドル=115円50銭」なので、「1円50銭の円高」というわけですが、みなさんはこの言葉に1度でも疑問をもったことはありませんか。普通、相場が高い、低いとは「金額が大きい方が相場は高く、金額が小さい方が相場は低い」のではと疑問に感じたことがあると思います。株式市場でもそうですが、日経平均株価が17,000円と17,500円では、17,500円の方が株高で相場は高いといわれます。それでは何故、為替の場合だけ「1ドル=115円」、「1ドル=117円」の場合に、金額的に117円より小さい115円の方が円高と言われるのでしょうか。

これを理解するには、「基軸通貨ドル」の概念を理解しなければなりません。基軸通貨とは文字通り、為替決済や国際金融取引において基準となる通貨で、世界で最も信用力がある(という前提)の通貨のことです。一般に、経済的にも強力な国の通貨で、@通貨価値が安定している、A高度に発達した為替市場と金融・資本市場の存在、B対外取引規制がない等の要件が必要とされています。現在では、アメリカの「ドル」が基軸通貨となっています。

従って、為替の表記も「1ドル〜円」といったドルを中心とした表記となっています。前例の「1ドル=115円」と「1ドル=117円」を比較した場合、アメリカ人から見れば、「1ドル=117円」の方が金額が大きいので、「ドル高=円安」となるわけです。

しかし、これでも日本人から見ればまだ理解しにくいと思います。基軸通貨ドルがアメリカ人を中心とした見方であるならば、ここで、日本人から見た為替相場に変更すればわかりやすいわけです。つまり、「1ドル=〜円」ではなく、「1円=〜ドル」に先ほどの事例を変更します。すると以下の通りとなります。

ここで、1/115ドルと1/117ドルであれば、分数の大きさとしては1/115ドルの方が大きいことになります。つまり、日本円を中心に考えた場合、1/115ドルの方が金額的に大きいため相場が高い、つまり「円高」ということになります。ニュース等で見る為替相場の表記は全て基軸通貨ドルを中心とした「1ドル=〜円」の形なので違和感があったわけです。

2.外貨会計の概要

(1)外貨会計の課題

さて、前置きが少し長くなりましたが、会計上で「ある通貨単位により測定された価額を他の通貨単位による価額に変換する」ことを「外貨会計」といいます。現在の経済活動においては、多くの国で通貨の交換について「変動相場制」が採用されており、為替相場は日々変動するため、企業の外貨建取引をどの時点の為替相場で邦貨(自国通貨)に換算するかが会計上の課題となります。

(2)外貨会計の2つの領域

外貨会計が対象とする通貨換算の場面は以下の2通りが考えられます。

(1)国内に所在する企業が海外企業等と直接行う外貨取引の邦貨への換算
  (例)外貨建売上・仕入高、外貨建金銭債権(売掛金、買掛金等)等の換算

(2)在外支店、在外子会社が作成する外貨表示財務諸表の邦貨への換算
  (例)在外支店を含めた財務諸表の作成、在外子会社を含めた連結財務諸表の作成のための換算

今回は、一般的にイメージしやすい、外国から商品を仕入れた場合の処理を想定した「(1)国内に所在する企業が海外企業等と直接行う外貨取引の邦貨への換算」を扱ってみたいと思います。「為替予約」や「(2)在外支店、在外子会社が作成する外貨表示財務諸表の邦貨への換算」については、次回以降の機関紙で掲載予定です。

3.外貨取引の換算と為替差額の取り扱いについて

(事例1)

(1)取引発生時(営業活動)
  (例)商品10ドルを掛けで輸入した。為替相場は100円/ドルであった。

外貨建取引(売上、仕入等)は、原則としてその発生時点の為替相場で換算します。また、外貨建取引に伴って生じる外貨建金銭債権債務(売掛金、買掛金等)も原則として外貨建取引の発生時点の為替相場で換算します。

(2)決済時(財務活動)
  (例)上記の買掛金を決済した。為替相場は105円/ドルであった。

外貨金銭債権の決済額は、原則として決済時点の為替相場で換算します。そこで、取引発生時点から決済時点までに生じる為替相場の変動をどのように処理するかが問題となります。

4.一取引法 VS 二取引法とは

(事例1)に出てきた「為替差額 50円」の扱いについて、会計上は「一取引法」と「二取引法」の2つの考え方があります。

(1)一取引法
意義 主たる外貨建取引と外貨建金銭債権債務の決済取引を1つの連続した取引とみなし、為替差額を主たる取引に反映させることで営業損益として処理する方法。
長所 ・企業があらかじめ為替相場の変動を考慮して外貨建取引を行っている場合、為替差額を主たる取引に反映させることが企業の実務感覚と一致する。

・主たる取引の金額が、最終的な円貨による決済額で決定されるとから、対価としての現金収支額を基礎として取引価額を測定するという企業会計の原則的な立場と整合する。
短所 ・外貨建金銭債権債務が決済された時点で為替差額を反映させるべき外貨建取引項目を特定する必要がある。そのため事務処理が煩雑となり、実践性に欠ける。

・外貨建金銭債権債務が決済されてはじめて主たる取引の円貨額が確定する。その ため、未決済のまま決算日が到来した場合、翌期に決済が行われた時点で為替差額が過去の取引の修正として扱われ、期間損益計算の暫定性が高まってしまう。
(2)二取引法
意義 主たる外貨建取引と外貨建金銭債権債務の決済取引を別個の取引とみなし、為替差額を主たる取引には反映せず、決済取引に係わる財務上の損益として処理する方法。
長所 ・主たる外貨建取引が行われた時点から決済取引が行われた時点までに生じた為替相場の変動は、企業の営業活動の良否とは無関係に外的事情により生じるものである。そのため、為替差額は企業の営業活動に係わる損益に反映させるべきではなく、外貨建金銭債権債務の決済という財務活動から生じた損益として扱うべきである。

・為替差額は主たる外貨建取引の換算には影響せず、財務活動に係わる損益として独立的に処理され、決済時点までに為替相場の変動が生じたとしても主たる外貨建取引の価額を修正する必要はない。そのため、事務処理が煩雑とならず実践可能性が高く、期間損益計算の損益の暫定性が高まることもない。
短所 ・企業があらかじめ為替相場の変動を考慮して企業活動を行っている場合でも、為替差額は財務上の独立した損益とされ、営業損益として処理されることはない。そのため、企業の実務感覚と合致せず、取引の実態を反映した業績の開示が困難となる。
(3)現行制度の立場

活動種類別の業績を適正に開示できること、及び会計処理の実践面での長所を考慮し、現行では、為替差額を財務上の損益として処理し、損益計算書上は為替差損益の勘定で営業外損益または特別損益に計上されます。これは、為替差額について「二取引法」が適用されるからです。

その場合、為替差損益の損益計算上の表示については、期中に発生した「為替差損」と「為替差益」を相殺して純額で表示することになっています。これは、支払利息や受取利息のように発生要因の異なる取引ではなく、一事業年度中における日々の為替相場の変動の結果、個々の債権債務につき差益として発生したり、差損として発生するものであるため、別個に総額把握する意義が認められないからです。

5.一取引法と二取引法の会計処理

(1)事例による比較

・当社は国内業者から800円で仕入れた商品を、10ドルで輸出掛販売した。
・3ヶ月後に輸出代金10ドルが決済された。
    取引時の為替相場 100円/ドル  決済時の為替相場 110円/ドル とする

一取引法による短所でも述べましたが、[1]の事例の決済時に「売上100」の仕訳を行っていますが、この100を計上するべき元の取引を、帳簿で遡って特定し調整しなくてはならず、事務手続きが煩雑です。二取引法であれば、売上を修正する必要がないため、とりあえず差額を為替差損益として計上し、期末に差益と差損を相殺し計上すればよいわけです。

また、[2]の事例のように決済が翌期に到来する場合は、[1]と同様に翌期に「売上 100」とすると、翌期の売上計上となるため、「前期損益修正益」として会計処理する必要があります。これでは、期間損益計算の暫定性が問題となってしまうため、会計制度は二取引法を採用していることが事例からもわかります。

一取引法と二取引法による損益計算書を実際に上記の事例で作成すると以下の通りとなります。利益の計上区分が異なるだけで、期間損益自体は変わりません。

(2)輸出企業の円安効果とは

取引時は、10ドルを販売し、売上に1,000円を計上していますが、決済時には、110円/ドルと円安が進行したため、実際の入金は1,100円となっています。為替環境がそのままであれば、本来、資金回収されるはずの1,000円よりも100円が余分に為替差益として手元に残る結果となり、輸出企業に有利となっていることがわかります。

まとめ

事例からもわかるように、企業の円安・円高等の為替による影響は、損益計算書の営業外損益(特別損益に計上の場合もある)の為替差損益を確認することで把握することができます。そして今回のコラムでは、「なぜ営業損益に含めずに営業外損益に計上するのか」という理由についても、一取引法、二取引法を用いて説明を行いました。次回以降では、同じ外貨会計でも少し場面が変って、「為替予約」や「在外支店、在外子会社が作成する外貨表示財務諸表の邦貨への換算」について掲載したいと思います。

(2015.4)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

このページのトップへ