ホーム | サイトマップ | リンク

ホーム > レポート > 歴史・文化 > 参詣道を検証しての想い

参詣道を検証しての想い

研究部長  林 英門

はじめに

「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産登録された2年目の2005年秋、7人のプロジェクトチームにより「高野町石道、中辺路道、大辺路道、大雲鳥越、大門坂」の県内参詣道6箇所にて、12日間にわたり参詣道散策者の満足度等について調査し、1000余人の参詣者からご協力を頂いた。7人は、世界遺産登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」が、日本のみならず世界の多くの人々から、『是非、行ってみたい』、『心に残る旅だった』、『何回も来てみたい』と言われたいと願う「県民の一人としての想い」を共有し、共同研究する運びとなった。

また、今年度には、2005年度調査結果である参詣者のご意見やご指摘を踏まえ、中辺路道の滝尻王子から熊野本宮大社間に限定し、その検証をすすめている。その検証姿勢は、少数意見ではあってもご指摘を天の声として真摯に受けとめることを基本としている。このため、このレポートは、参詣道についての散策者の総合評価ではなく、ご指摘やご意見に焦点があることをお断りしておきたい。

なお、2005年度調査では、参詣者から『心に残る旅だった』、『また来てみたい』など多くの賞賛の声があったことを付け加えておきたい。この『参詣道散策者からみた世界遺産』報告書は、「全体編」および「高野編」、「中辺路編」、「本宮編」、「那智勝浦編」、「熊野川編」、「すさみ編」6分冊の全7冊構成で作成し、ご活用頂くべく関係団体にお渡しした。

1.世界遺産の意味

世界遺産の意味と意義について、あらためて確認しておきたい。

ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は『世界遺産とは、地球の生成と人類の歴史によって生み出され、過去から引き継がれた貴重なたからもの』と位置づけている。また、県世界遺産条例の基本理念では、『この世界遺産は人類のかけがえのない多様な価値を有する財産として守られ、適切に活用されつつ、将来の世代に良好な状態で引き継がれていかなければなりません。』と明記している。

こうした「人類かけがえのない財産」と位置づけられた世界遺産に登録申請し、受理されたということは、

  1. 人類の宝物ここにあり。是非、ご覧あれ
  2. この宝物は、後世に継承すべき人類の財産。大切に守っていきます

と世界中に宣言したことになる。

2.古今参詣者の想い

古(いにしえ)の人々にとって参詣道はどうだったのか、想いを馳せてみる。たとえ、道のりが苦難の連続であろうとなかろうと、その先にある神々にお参りできるという至福と較べれば、その道程の困難さは問題ではない。むしろ、険しい道のりを経ることが修業であり、参詣の価値があると思っていたのではなかろうか。古の人々にとって、参詣道は目的への手段であった。

世界遺産に登録された今、人々は参詣道をどうみているのか。アンケートでは、多くの参詣者は、参詣道に多様な想いをもつ。「古」の世界に浸ろうとする人、世界遺産を体感しようとする人、山歩きが好きな人、リフレッシュや癒しを期待する人、さまざまである。多くの人々は、参詣道の一部を歩くことでそれぞれの想いを満たす。参詣道への期待が多様なだけに、「整備不十分」、「歩きやすいように改善すべき」、「パンフレットのような石畳や苔がみられなかった」、「生活道路が多かった」、「道案内がわかりにくかった」、「トイレが汚かった」等、少数意見ながらも不満の声が生まれる。

神々への道のりであった「古」の参詣道が、現代人にとっては多様な魅力をもつ参詣道として甦ろうとしている。それゆえに「人類かけがえのない財産」を守りつつ、多様な現代人の期待にどう応えるか、考えるべきことは多い。

3.参詣者アンケートの声

多様な期待を抱かせる参詣道を「是非、ご覧あれ」と案内する限り、参詣者の意見や満足度はどうなのか、その情報を収集し、評価し、改善するというマネジメントサイクルが必要となる。参詣者アンケートは、そのための手段であった。

アンケートは、「観光案内」、「参詣道」、「交通アクセス」という3つの分野に分類した。当レポートは、この中の「参詣道」に限定し、かつ対象とする参詣道も「滝尻王子(田辺市中辺路町)〜熊野本宮大社(田辺市本宮町)」間の中辺路道に限定させて頂いた。以下、アンケート結果を抜粋、紹介する。(注)アンケートは、近露王子(200人)と熊野本宮大社(207人)で実施したもの。

(1)アンケート回答者の散策区間

アンケート回答者の散策区間

(2)参詣道に関するアンケート結果(抜粋)
1.保全・維持

保全・維持

「自然林を多く」、「苔などもっと自然を」、「足の不自由な人にも配慮を」、「小さなゴミを拾ってくれるようなエチケットビニールなどを歩く人に渡したら、もっとキレイになるのでは」、「王子跡をもう少し手入れしたら」などの意見があった。

2.歩きやすさ・歩きづらさ

歩きやすさ・歩きづらさ

歩きづらさでは、「雨の場合、石畳は滑って危険」、「木道が滑りやすい」、「整備不十分」、「石ころが多い」、「ごろごろ岩で歩けない。ハイヒールでも行ける所あれば良い」、「道が急」などの意見があった。

3.案内板・道標
 ●表示内容

案内板・道標(表示内容)

 ●設置場所

案内板・道標(設置場所)

「標識を大きく」、「分かれ道には必ず標識を」、「三叉路を特に分かるように」、「草が伸びて標識が見づらい」、「一般道と交差するところで古道がどちらか分からない。両方向に古道の表示ではどちらに進んでよいのか分からない」、「青板と白標がありかえって混乱した時があった」、「道が分かれているところにもう少し詳しい(今は矢印だけ)のがあったら思案しなくても良かった」、「古くて見づらい箇所があった」、「『この道は熊野古道ではありません』では外国人には分からない」、「標高、ゴールまでの距離表示を」、「古道に入ってからは分かるが、入る迄の看板を多く」などの意見があった。

4.トイレ

トイレ

「少ない」、「○○に一ヶ所欲しい」、「○○〜○○間が少ない」、「トイレの間隔が長い」、「1時間毎に」、「案内板に設置場所や協力店を示して欲しい」、「石鹸を置いて欲しい」、「水洗にした方がよい」、「汚れているトイレがあった」、「悪臭のトイレがあった」などの意見があった。

5.休憩所

休憩所

「ベンチだけでも増やすべき」、「椅子は古道にマッチしたものに」、「○○〜○○間が少ない」などの意見があった。

4.参詣道の検証

参詣道の検証は、上記の意見について実態を確認するために実施した。

「滝尻王子〜熊野本宮大社」間の約40kmを2日半の日程で、参詣道の保全・維持状況、案内板・道標、トイレ、休憩所等を丹念にチェックしてみた。その詳細は、別途、報告書に委ねるとして、検証結果の一部を紹介する。

(1)「保全・維持」・「歩きづらさ」に関する指摘事項について
  • 雨上がりの直後であったためか、山の北側斜面や樹木の覆う参詣道では、小川にかけられた丸太などで作られた多くの橋は、相当な用心深さを必要とした。腐食がすすんでいる橋もあった。
  • 足腰の弱い人では、上り坂・下り坂・木の根っこなど厳しい箇所もあった。
  • 人工林が続く箇所もあった。
  • 参詣道が雨水溝となってえぐられている箇所もあった。
(2)案内板・道標に関する指摘事項について
  • 指摘がうなづける表示や箇所が見受けられた。
(3)トイレに関する指摘事項について
  • 指摘のとおり、石鹸のないトイレ、汚れたトイレ、悪臭を放つトイレがあった。
(4)休憩所に関する指摘事項について
  • 指摘の場所が不明だが、休憩拠点となりそうな箇所でベンチのない場所があった。なお、「古道にマッチした椅子を」は、感性の違いか違和感のある箇所は発見できなかった。

上記のとおり、アンケートでは少数意見であったものの、頂いたご意見やご指摘の多くは、検証でその事実を確認した。

5.検証行程での所感

検証の行程途上、アンケートで協力頂いた方々の多様な声が、何度となく脳裏に浮かんできた。検証行程途上で実感した一例を述べることとしたい。

●例えば、「トイレが少ない」というご意見について
  • 散策者は50〜60代の年配者が多く、トイレ間隔が短い方もおられる。また、歩くスピードや休憩の取り方がグループによって相当違う。したがって、トイレ間に要する時間は散策者で一様ではない。まして水分摂取量や体質の違いもある。はたして、どういう条件のもとでトイレ間隔の妥当性を評価すればよいのか。
●例えば、「整備不十分」というご意見について
  • 用心深く歩かないと危険を伴う箇所はあったのは事実。滑って骨折したりケガをした事実も聞いている。でも、舗装した生活道路でない限り、注意深さや危険を伴うのが「古」の参詣道である。世界遺産だから整備が行き届いていると考えられていたのだろうか。そういう観光地での散策というつもりだったとしたら、整備不十分と言われるかも知れない。ご覧になった参詣道資料にそういう情報がなかったのかもしれない。パンフレットや写真のイメージが強かったのかも知れない。かつて、これから歩くという方に、「この区間はそのヒールでは大変ですよ」と、地元の人とともに忠告したことが思い浮かんできた。

このように、ひとつひとつのご意見にさまざまな想いが交錯し、肯定も否定もできないことのもどかしさを痛感した。それは、前記の「世界遺産の意味」と「現代人の参詣道への期待」に、ひとつひとつをじっくりと照らすこと意外にない。

おわりに

私達の「県民の一人としての想い」は、多くの県民も抱いている。今回の検証では、少数意見であっても、「ごもっとも」と恐縮するケースがあった。また、机上で知り得た情報と現地で体感することでは、異なることがあることも痛感した。

「紀伊山地の霊場と参詣道」を、『人類の宝物ここにあり。是非、ご覧あれ』という限り、多くの意見を真摯に拝聴することが欠かせない。参詣者や参詣者と直接に接触している多くの人々は、かけがえのない情報をもっている。こうした「世界遺産への参加者」一人ひとりの声を収集し生かせるシステムづくりが、『後世に継承すべき人類の財産』を参加者全員で大切に守っていくことではなかろうか。

<お断り>

検証は昨年10月下旬に実施しました。なお、検証日以降、一部トイレが閉鎖されたり、案内板などが一部整備されたとのことですので、検証結果とは異なる場合があります。

(2007.3)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

このページのトップへ