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和歌山県の公共交通(貴志川線の動向)

研究員  東野 正裕

はじめに

当研究所発行の機関誌に掲載した、「和歌山県の公共交通」本文の中で、貴志川線についても触れておりますが、最近、新聞などで盛んに取り上げられている貴志川線について、別途以下で分析を実施しました。

1.貴志川線の沿革

年 月記  事
大正3年6月山東軽便鉄道(株)設立
大正5年2月大橋−山東間 8.2km開通
昭和4年11月社名を山東鉄道(株)と改称
昭和6年4月社名を和歌山鉄道(株)と改称
昭和8年8月伊太祁曽−貴志間 6.3kmを延長開業
昭和32年11月和歌山電気軌道(株)と合併
昭和36年3月南海電気鉄道(株)と合併。南海貴志川線となる。
平成5年4月ATS、CTCを設置。
平成7年4月ワンマン運転開始。
ダイヤ改正。列車本数を平日68本/日から98本/日に増便。
ラッシュ時列車本数は、20分ヘッド→15分ヘッドに増加。
閑散時列車本数は、40分ヘッド→30ヘッドに増加。
平成11年5月交通センター前駅を開業。
平成12年10月日前宮・岡崎前駅 駅業務省力化。

2.貴志川線の概要(平成14年度実績)

駅数、営業キロ14駅 14.3km
年間輸送人員199万人(5458人/日)
列車運転本数平日 96本/日  休日 78本/日
経常赤字約5億円
営業係数244(収入100円に対して支出244円)
鉄道要員42人(駅員・列車運転士・保守要員をすべて含みます)

貴志川線の輸送人員の推移
貴志川線の輸送人員の推移

3.貴志川線での最近のイベント

  • ・「ホタル鑑賞」列車の運行
  • ・「紙芝居」列車の運行
  • ・ハイキング「貴志川町の古墳を訪ねる」
  • ・ハイキング「親子で萩の花鑑賞ウォーク」

4.沿線の主な公共施設など

貴志川町役場(貴志駅)
運転免許センター(交通センター前駅)
日前宮、竃山神社、伊太祁曽神社
大池遊園
和歌山信愛女子短大(岡崎前駅)
向陽高校(日前宮駅)
和歌山東高校(岡崎前駅)
貴志川高校(貴志駅)
日進中学(日前宮駅)
東中学(岡崎前駅)
貴志川中学(貴志駅)

5.貴志川線の収支分析

貴志川線は、平成14年度で年間5億円の経常赤字がでています。

その収支について、以下で簡単に分析を行います。

(1) 経費

経費を人件費とそれ以外の固定資産関係や電気代等の費用の二つに分けて考えます。

 1.人件費関係

まず、人件費部分について、人員の面からみてみます。
貴志川線の現在の鉄道の要員は42人です。
駅業務が1日約18時間営業していることを考慮して、1週約126時間の勤務時間が必要です。
単純計算では、42人×40時間÷126時間≒13人程度が常時勤務している計算となります。
この人員には、列車運転士・駅員・保守要員を含んでいて、14駅14.3kmの鉄道を運行・維持しています。昭和36年の和歌山電気軌道(株)当時、鉄道要員が116人でありましたが、その後、人員は約1/3に削減されています。
また、人件費総額より、経常赤字の額が大きいため、例え人件費を除いても赤字となっています。

 2.固定資産関係や電気代等

次に、固定資産関係や電気代等の費用は、ほぼ固定的に必要な費用です。
それ以外に、老朽化した設備(例えば摩耗したレール)の保守交換などにかかる費用等がありますが、これも安全運行上必要な費用であり、継続して毎年支出される必要があります。
これらの費用は、年によって多少変動していますが、平成14年度は3億3千万円程度が支出されており、この費用だけで営業収入の3億2千万円を上回っています。

(2) 旅客増の営業施策
 1.列車本数の増便など

旅客増加のための営業施策として、列車本数を増やして旅客増を図る方法があります。
列車本数を増加させることは、旅客の利便性が向上し旅客増の効果があります。
平成7年のダイヤ改正時に、列車本数を平日68本から現行の98本に増加させており、この時、輸送人員は対前年度比8%増加し、一時的には旅客増の効果がありました。
しかし、その後の7年間で、輸送人員は27%も減少しています。
再度、列車本数を増加させたとしても、旅客増にどの程度の効果があるでしょうか。
仮に輸送人員が平成7年度と同様に8%増加したと仮定しますと、2600万円の増収となり一定の効果がありますが、それでも経常赤字の規模が大きすぎるため、増収効果は限定的なものになります。
また、運行本数が増えると経費も増加するため、旅客増の度合いによっては、逆に収支が悪化するリスクもあります。

 2.イベントなど

前述した通り、貴志川線ではこれまでにも各種イベントが開催されていますが、旅客増の効果は各イベントで200人程度に留まっています。
また、営業係数244(収入100円に対して支出244円)ですので、営業努力によって経営改善するためには、単純計算で現在の2.44倍の旅客を輸送する必要があります。これには、1日当たり約8千人の旅客増を達成する必要があります。
イベントなどの営業努力は必要であり、収入増の効果もありますが、収支改善に大きな効果を発揮することは難しいでしょう。

6.鉄道事業法による法律上の廃止手続き

鉄道事業法が平成11年5月に改正され、平成12年3月に施行されました。

この改正は、『鉄道事業者の自主性・主体性を尊重することが適当であること、経営上の支援をせずに事業者に対し鉄道輸送サービスの維持を求める合理的な理由がないこと等にかんがみ、事業の廃止については、事前届出制とした。』という主旨により実施され、廃止一年前までに事前届出を行えば、鉄道事業を廃止できることになりました。

なぜ、1年前に届け出ることが必要かというと、『運輸行政として、地域住民の日常生活に必要不可欠な公共輸送サービスを中断させないため、廃止後の代替交通機関の確保などの調整を実施する期間を確保する。』ためです。

(注)下図地元協議会は、現在行われている南海貴志川線対策協議会の事を意味するわけではありません。

鉄道事業の廃止の流れ(例)

7.貴志川線の今後の可能性

前述したように、鉄道事業者は「廃止の届出」を提出することで、1年後に鉄道を廃止できます。また、前項の地元協議会の開催は任意であり、別途地元で協議会が開かれることが多いようです。

貴志川線の場合は、現状、「廃止の届出」や「廃止表明」がなされているわけではないのですが、今後の可能性として、考えられるケースを以下に簡単にまとめました。

  1. 行政からの補助金等の支援を実施し、現状のまま鉄道が継続
  2. 第三セクター化して、鉄道は別会社として存続
  3. 鉄道跡を道路化し、バス専用道路とし、バス路線を新設
  4. 鉄道跡を一般道路化し、バス路線を新設
  5. 鉄道跡は利用せず、近隣道路にバス路線を新設

上記のように情報の整理と分析を実施しましたが、具体的な各方法の比較検討は別の機会といたします。

最後に考え方の基本について以下で述べていきます。

まず、鉄道を単なる交通の一手段と考えるか、『公共交通』と考えるかの二つの考え方があります。

単なる交通手段であるならば、代替交通という考え方になると思います。

『公共交通』と考え『公共性』を重視するのであれば、赤字であったとしても公費を使って、鉄道を運行する考え方もあると思います。

よって、各方法の比較検討を実施し、交通需要や交通弱者対策などを総合的に判断して、地域全体にとってより良い方法を選択していくべきだと考えます。

(2003.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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