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「医療制度」についての一考察

研究部長  木下 淳

我が国の医療保険制度は、国民皆保険(すべての国民が健康保険や国民健康保険といった公的な医療保険制度に加入し、いつでも必要な医療を受けることができる)とフリーアクセス(物理的にもすべての医療機関を患者が自由に何度でも受診できる)を特徴としており、比較的少ない自己負担で、医療サービスを国民にあまねく提供できる制度であり、経済成長に伴う生活環境の改善や栄養摂取の向上等により、高い保健医療水準を実現し、世界一の長寿国(「平成16年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は、男性78.64歳、女性85.59歳)を維持する上で、国際的にも高い評価を受けていると言われています。

しかし、医療保険財政の逼迫、健康保険組合の財政破綻、公的及び社会保険関係団体立の病院の約7割が赤字経営の問題や、医療情報の開示、医療の選択性、インフォームドコンセントなど医療に対する国民意識やニーズの変化に対応できないなどの弊害も現われています。

このような医療制度の現状を国民は、どのように感じているのでしょうか。 2006年1月に、特定非営利活動法人日本医療政策機構が、全国の20歳以上の男女4,000人を対象に世論調査を(有効回収数:1,011人、回収率:25%)実施し、その調査結果が公表されています。

図1(問)あなたは現在の医療制度にどの程度満足していますか

医療制度への満足度

図1のように、「あなたは現在の医療制度にどの程度満足していますか?」との問いに対して、全般的な満足度では、「大いに不満」の方が10%、「やや不満」の方が50%となっており、「大いに不満」「やや不満」を合わせた何らかの不満を持っている方が60%に達していることが分かりました。

また、個別の事項の不満度では、「制度決定への市民参加の度合」について、76%の方が何らかの不満を持ち、不満度で第一位となっており、以下不満度からいうと「制度決定プロセスの公正さ(既得権益の排除)」(75%)、「 医療費の水準(保険料・窓口負担等)」(69%)、「 医療制度の平等性(貧富の差への配慮)」(68%)、「医療機関や治療方法についての情報」(64%)、「医療機関の患者に対するサービス(職員の対応、医療機関の環境、待ち時間など、医療の内容以外でのサービス)」(59%)、「医療の安全性(医療事故の抑止)」(57%)、「治療方針への患者自身の意見の反映」(55%)、「医療機関へのアクセス(行きたい時に行きたい医療機関に自由に行って診療を受けることができる度合い)」(53%)、「診断・治療などの技術の質」(41%)の順となっています。

この調査からは、我が国の医療制度は、国際的にも高い評価を受けていると言われているにもかかわらず、国民は医療制度に対して、半数以上の60%の方が不満を持っていることになり、高い割合を示しています。その原因はどこにあるのか、この世論調査の結果を参考に考えていきたいと思います。

1.「制度決定への市民参加の度合」の問題及び「制度決定プロセスの公正さ」の問題

図1の調査のように、医療制度の改革に対して市民参加が実現していないこと、制度改革のプロセスがオープンにされていないこと並びに医者、医療機関、製薬会社などの既得権益に対する改革が実現していないことに対する国民の不満が大きいことが見て取れます。

このことは、国民の医療制度に対する不十分な認識や情報不足が根底にあり、特に、医療現場の実情についての正しい認識や情報開示が進んでいないことが原因として考えられ、自分たちの意見が医療現場に届かない、届いていないといった苛立ちを感じることができます。

厚生労働省における医療行政というものを考えると、視線は国民に向いていないように感じます。水俣病損害賠償訴訟、ハンセン氏病訴訟、薬害エイズ訴訟、今年に入って判決があった集団予防接種によるB型肝炎訴訟や薬害C型肝炎訴訟などを見ると、国は薬の危険性や患者等の不利な状況を放置してきており、医療機関(医師会)や製薬会社に向いていると言わざるを得ず、また、情報開示も不十分といわざるを得ない状況であり、こういった不満が国民の根底にあるように思われます。

このため、医師を中心とする考え方の下で構成されている我が国の現行の医療システムを、患者を中心とする医療システム(優秀な医師を育成するための医師の立場に立った育成プログラムは必要)、すなわち「患者が自由に医療を選択でき、高い質と効率的な医療水準が保たれる」新しい医療システムに再構築することが求められています。

2.医療費の水準の問題及び医療制度の平等性の問題

図1のように、医療費の水準(保険料や窓口負担等)に不満を持っている人が69%、医療制度の平等性(貧富の差への配慮)に不満をもっている人が68%もいるにも関わらず、厚生労働省が、平成18年5月に発表した「社会保障の給付と負担の見通し」によれば、現状のまま推移すれば、医療給付費は、現行(2006年度)の28兆円から、2015年には40兆円、2025年には56兆円になると試算されています。

そのため、政府は平成18年2月10日、医療制度改革関連法案を閣議決定し、国会に提出し、平成18年6月14日の参議院本会議で可決、成立をしました。

健康保険法及び医療法等の改正が柱となっており、今回の制度改革は、医療給付費の抑制が最大の目的で、患者負担の見直しや生活習慣病対策や平均在院日数の短縮など、医療保険制度の持続的・安定的な運営を確保するためのいろいろな対策等が盛込まれています。

主なものを列挙すると次のようなことになります。

  1. 質の高い医療サービスが適切に提供される医療提供体制を確立するとともに、疾病予防を重視した保健医療体系に転換する。
  2. 医療費の伸びが過大とならないよう、糖尿病等の生活習慣病の患者・予備群の減少、平均在院日数の短縮を図るなど計画的な医療費の適正化対策を推進するとともに、現役並みの所得がある高齢者の患者負担の3割への引き上げ(2006年10月から70歳以上の現役並みの所得者〈夫婦二人所帯で年収620万円以上〉の窓口負担を現行の2割から3割へと引き上げる)、療養病床に入院する高齢者の食費・居住費負担の見直し(療養病床に入院している70歳以上の高齢者の食費・居住費に関する自己負担を2006年10月から病状の程度や所得の状況に応じて拡大し、2008年度からは対象を65歳以上までに広げるとともに、高額療養費の自己負担限度額も、2006年10月と2008年4月の2段階で引き上げる)等の公的保険給付内容・範囲の見直しをする。
  3. 高齢世代と現役世代の負担を明確化し、公平で分かりやすい制度とするため、新たな高齢者医療制度を創設(高齢者の医療の確保に関する法律〈老人保健法〉の改正を通じて、75歳以上の高齢者全員が加入する高齢者医療制度が、2008年4月からスタートする。これに合わせて、一般的な所帯の70歳〜74歳の高齢者の窓口負担が、1割から2割に上昇する。75歳以上の高齢者の窓口負担は1割に据え置かれますが、全国平均で月6,000〜7,000円程度と見込まれる新保険制度の保険料を払わねばならなくなる)するとともに、保険財政の基盤の安定化を図るために都道府県単位を軸とする保険者の再編・統合を推進する(国が5年ごとに示す平均在院日数の短縮や生活習慣病患者の減少率に関する全国目標をベースに、都道府県レベルで医療費の見通しに関する具体的な数値目標を掲げ、その実現に努め、計画の達成状況に応じて、都道府県独自の診療報酬も設定できるようにする)。
  4. 療養病床は医療の必要度の高い患者を受け入れるものに限定して医療保険で対応し、医療の必要度の低い高齢者は、老健施設又は在宅、居住系サービス等で対応する。

医療費水準に不満を持っている人が多い中、このような高齢者を中心にした患者の負担増や医療療養病床削減等の法改正がなされましたが、国会審議の参議院厚生労働委員会の採決で「低所得者への配慮・療養病床再編に対する支援策の充実」などの付帯決議がつけられており、行き場のない高齢者等が出ないような弱者に対する施策も併せて実行されることが望まれます。

図2 療養病床の再編の見込み

3.医療機関や治療方法についての情報の問題

図1のように、「医療機関や治療方法についての情報」に不満を持っている人が64%に達しています。

このように不満が高い数値を示しているのは、現在の医療の実態として、提供される医療の内容や技術水準が医療機関や医師によってバラツキがあるにもかかわらず、医療情報の提供や情報開示が不十分なため、患者(国民)は、自分にとって最善の医療を提供してくれる医療機関や医師を自ら主体的に選択することが困難であることが原因として考えられます。

主体的に選択することが困難な理由として、医療提供者(医師)が、医療内容やプロセスについて患者に十分な説明責任を果たしてこなかったことが原因として考えられ、今後は、患者の医療に対するニーズの多様化や治療に対する自己決定権に対する認識の高まりに応えるため、診療方針、診察内容、診療実績等について十分な情報開示を行っていくためのシステムづくりを進めていく必要があるように思われます。

そのためには、診療記録の記載内容・記載方法の標準化、診療記録作成のための診療報酬上の配慮並びに診療記録の管理体制の整備、また、情報開示義務対象となる情報や情報開示請求者の範囲の問題及び情報開示の対象としないもの等についての標準化やルールの明確化が欠かせないのではないでしょうか。

4.医療機関の患者に対するサービスの問題

図1のように、職員の対応、医療機関の環境、待ち時間等医療以外のサービスの「医療機関の患者に対するサービス」に不満を持っている人は、59%もあります。

これまで、医療については、需要構造の特殊性(需要は受動的であり、需要を生み出す原因そのものの除去すら望まれる)、非営利原則(医療は、直接人命に関わる点において、まじめに、医療に取り組む医療機関ほど不採算医療の保持を余儀なくされている)等の側面が強調され、一般の財やサービスとは異なる位置づけが当然とされてきました。

しかし、現在、存在する規制の合理性を改めて問い直すとともに、医療の特殊性を踏まえつつ、可能な限りその特殊性を克服し、サービス産業としての医療産業の健全な発展を可能とする環境を整備していくことが、求められています。

5.医療の安全性(医療事故の抑止)の問題

医学、医療技術が進歩することにより、医療の細分化・機械化、医療行為の複雑化が進み、その結果、医療従事者に高度な知識・技術が求められるようになってきました。このような医療を取り巻く状況の中で、各地の医療現場において、医療事故の報告が多発しており、最近報告されている医療事故の多くが、初歩的なミスに起因しています。

そこで、国では、ヒヤリ・ハット事例(日常の医療現場で、誤った医療行為などが患者に実施される前に発見されたもの、あるいは誤った医療行為などが実施されたが、結果として患者に影響を及ぼすにいたらなかったもの)の収集を、2001年10月から始め、2004年4月以降は、事例の収集を第三者機関である「財団法人日本医療機能評価機構」に移管し(対象を全国の医療機関に拡大し、効率的、効果的な事例収集を図っている。平成17年は、全国249の医療機関から年間182,898件の報告があり、「処方・投薬」事例が最も多く全体の26.0%、「手術」は1.5%であった)、その結果を広く情報提供する事業を実施しています。

しかし、これだけでは不十分であり、医療の安全確保に向け、ミスを犯した個人のみに責任を負わすのではなく、その原因を組織として解明し、同様の事故を繰り返さない取り組みが重要なことであり、臨床安全工学という分野の研究を推進するとともに、臨床分野のミスをなくす安全部門の専門家の育成を図り、医療事故の減少を図っていく必要があるように思われます。

以上、特定非営利活動法人日本医療政策機構「医療政策に関する2006年世論調査」の現在の医療制度満足度調査結果を参考に、医療制度の問題について考えてきましたが、この調査で提起された「治療方針への患者自身の意見の反映」「医療機関へのアクセス」「診断、治療等の技術の質」の問題につきましては、医療についての専門的な知識や医療現場に精通した知識が必要であると思われるので、ここでは割愛させていただき、最後に、医療制度にとって、根幹の問題であると思われる優秀な医師の育成の問題について考えてみたいと思います。

6.医療を担う人材の確保と資質の向上の問題

2004年4月から、医師の臨床研修が義務付けられ、診療に従事する医師は医師免許取得後2年間の臨床研修を受けなければならなくなり、インターン制度(実地修練)が1968年に廃止されて以来の大幅な改革であると言われています。

これまでの医師の臨床研修では、出身大学やその関連病院を中心に専門診療科に偏った研修となりがちで、幅広い診療能力が身に付きにくく、また、地域医療との接点が少なく「病気を診るが、人を診ない」といった弊害が指摘されていました。

こうした背景を踏まえ、国は、医師が医師としての人格を涵養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、基本的な診療能力を身につけることを基本的な考え方のもとに、新医師臨床研修制度をスタートさせました。

研修医は、2年間の研修プログラムの中で、内科、外科、救急、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療等の各分野において、日常的に頻繁に関わる負傷や疾病を経験するとともに、医療人としての必要な基本姿勢を身につけることになり、都市部の大病院だけでなく、地域の中小病院、診療所、保健所、社会福祉施設等においても研修が行われることになり、研修医は、医療のみならず、地域の保健、福祉の分野についても経験することとなったと、厚生労働省は自画自賛しています。

この新臨床研修制度の発足に伴い、研修の場は、大学病院から市中病院へ大きくシフトしたと言われており、これは、大学の医局への直接の入局が無くなり、単一の専門科でのストレート研修ができなくなって、一線の病院での総合的な研修が大きな潮流となったことが考えられます。

しかしながら実に1968年以来の制度改定であり、いろんな問題点も噴出してきています。

バラツキがある研修の質の問題、研修医の精神的フォローの問題、指導医の熱意の問題、研修医の偏在すなわち大都市の大病院への集中の問題、医師供給体制の崩壊の問題、後期臨床研修の問題等々が山積みしています。

特に、良くも悪くも地方や過疎地域等へ医師を供給していた大学医局の力が相対的に低下したため、都市部の市中病院に研修が集中し、地方や過疎地域等の病院での医師不足が顕著になってきており、今後大きな問題となることが予想されます。

ところが、医師の供給体制について、厚生労働省は、国としての体制や制度づくりは考えておらず、小児科や産婦人科の診療科の減少、地域における医師の偏在化の問題は、都道府県独自で解決しなければならなくなっていますが、都道府県だけで問題を解決していくことが難しいように思われ、国全体の問題として医師の供給体制について、国の積極的な取り組みが求められているように感じられてなりません。

ちなみに、医師・歯科医師・薬剤師調査によると、和歌山県全体の診療に従事する医師の数は、図3のとおり平成14年末現在、2,446人となっており、平成8年から人口が減少しているのにもかかわらず医師の数は増加しています。

その内訳を、業種別で見ると、病院の勤務者が976人と最も多く、次いで診療所の開設者及び病院の開設者914人、医育機関の付属病院の勤務者387人、診療所の勤務者が169人等となっています。

図3 県医師数と県人口の推移

また、和歌山県の平成14年末の医療施設に従事していない医師も含めた全医師の数は、2,548人で、人口10万人あたりでは、240.0人となり、全国平均の206.1人を上回っており、県内の市町村別で見ると、図4(平成14年末の医師の数値については、合併前の市町村の数値を平成18年4月1日現在の合併後の市町村に置き換えています。)のとおりになります。

図4 市町村別医師数等

このように、市町村別で見ると、人口10万人あたりの医師の率が、100を下回っている市町村は、広川町、日高町、由良町、印南町、みなべ町、日高川町、上富田町の7町もあって、医療施設に従事する医師は、県全体で見ると増加していますが、地域間において格差があり、地域によっては依然として医師が不足している状況にあり、地域における医師の偏在化の問題は、和歌山県にとっても大きな問題であるといえます。

参考文献

  • 「医療政策に関する2006年世論調査」 特定非営利活動法人日本医療政策機構
  • 「平成17年版厚生労働白書」 厚生労働省
  • 「社会保障と給付負担の見通し」 平成18年5月 厚生労働省
  • 「医療制度改革関連法案について」 平成18年4月26日 日本医師会
  • 「医療問題研究会報告書概要」 平成13年12月 経済産業省サービス政策課
  • 「平成15年版和歌山県保健統計年報」 和歌山県福祉保健部

(2006.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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