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中国港湾躍進の秘密

研究部長  糀谷 昭治

はじめに

(財)和歌山社会経済研究所では、平成11度から和歌山県からの受託事業「和歌山下津港の国際港湾拠点化戦略策定の基礎調査」および和歌山地域経済研究機構における「物流戦略研究会」をスタートに、和歌山下津港を中心とした物流・交通に関しての調査・研究を継続して進めてきている。昨年度「物流戦略研究会」を終了、今年度は、この研究会の報告書・提言をまとめた。同時に、具体的に「上海航路開設」を目標にして、「和歌山大学」「国土交通省近畿地方整備局和歌山港湾事務所」「県港湾空港振興局」「(株)海運研究所」「当研究所」の5団体で「上海航路実現委員会」を組織し、コンテナ流動調査だけでなく、船社・荷主・海運企業ともコンタクトを取り、具体的で効果のある方策を模索中であった。

この状況下、発展を続ける中国主要港をはじめ、港運企業・荷主企業の最新事情などを調査する日本海事新聞主催の「中国港湾物流視察」が、平成15年10月12日〜18日の日程で行なわれたので、上記調査・研究の参考にするために参加した。以下に中国視察結果と種々の感想を交えて報告する。

1.視察スケジュール

月日(曜) 行程 視察地 概要 泊地
10/12(日) 成田→北京→天津 移動 天津
10/13(月) 天津→北京 天津 天津トヨタ自動車工業
天津港務局・天津港
北京
10/14(火) 北京 鉄道局貨物ターミナル
セミナー「中国国内物流の現状と課題」
北京
10/15(水) 北京→青島 青島 青島旧港・青島新港(黄島) 青島
10/16(木) 青島→上海 青島
上海
ハイアール本社(中国家電最大手メーカー)
セミナー「中国におけるビジネス展開」
上海
10/17(金) 上海 上海港外高橋ターミナル
上海国際汽車城(自動車センター)
上海
10/18(土) 上海→関空 上海 上海市内

2.中国港湾物流躍進のカギ⇒世代交代と業務改革 即ち 構造改革の実現

中国の躍進が素晴らしいことは周知の事実で、中でも特に注目されるのは、抜群の国際競争力のある中国製品の輸出と、それを支える資材・部品の輸入によるコンテナ取扱量の年30%を超える猛烈な伸びである。特に上海港は、2002年には前年比36%増の861万TEUとなって釜山に次ぐ世界第4位になり、2003年には1000万TEUを超え、釜山を抜き第3位に躍進することは確実と言われている。

現在、天津港・青島港・上海港とも1000万TEU規模の大新港を急ピッチで建設中である上に、上海港は沖合30kmの3島からなる洋山島を潰して、50バース・年間取扱量2000万TEU規模の超大新々港の建設に着手しており、早くも2005年までに5バースを完成させ、本土との間には30kmの大吊橋を架けるという壮大計画である。全日本のコンテナ取扱量が、1,300万TEUに比し、この三港で5,000万TEU、香港・深センを加えると五港だけで8,000万TEU、全中国で1億TEUを超える膨大な計画量となる。このような中国港湾物流躍進のカギがどこにあるのであろうか。

中国は、今回訪れた北京・天津・青島・上海すべてでのコンテナバースの建設ラッシュにみられるような、製造業・物流業の発展だけでなく、2008年の北京オリンピック・2010年の上海万博を控えて、超高層ビルの建設ラッシュで、上海ではすでに約2,000棟(新宿で20棟くらい)が林立する大近代都市に変貌し、さらにエネルギッシュに発展しつつある。

この躍進のカギ・エネルギーは、中国人は13億人と言う数もさることながら、自己主張が強く貪欲で商売上手な国民性と華僑にみられるように相互扶助体制がしっかりしているシステムにあるとまず考えられる。共産主義国家だから土地問題と合意形成の煩雑さがないため、国家的なインフラ整備のスピードは驚くほどである。20年で滑走路一本しか出来ない日本とは雲泥の差である。今回の視察で、中国は日本社会よりはるかにパワー溢れる資本主義的国家であるとの感を改めて深くした。

以上は一般的に認識されていることであるが、今回港湾物流に関して、私が特に驚いたのは応対してくれた幹部が30歳代・40歳代と非常に若かったこと、各港には全港湾関係業務を行ない、かつ権限を持つ港務局があり、立派な高層ビルを占有していることの2点にあった。

沿岸部を中心にした経済の躍進に伴う港湾物流の激増は、設備的な対応もさることながら、多岐に渡る複雑な輸入輸出業務・船舶管理・荷役管理・ヤード管理・倉庫管理・運送管理などの業務を同時に総合的に処理するシステムを構築・運用できないと仕事にならない状況を生み出した。この対応のためには、これらの業務そのものを総合化・一貫化・同期化できる様に変革し、この変革された新業務システムに最新のコンピューター技術を当てはめ融合した業務体系を創り上げる能力、さらにこのシステムを運用する能力が求められたのです。中国各新港は、この要求に対応できるアメリカで開発された最新の港湾管理・物流管理システムを導入しました。その導入と運用に際しては、留学帰国者などの合理的な考え方を身につけた優秀な20歳代・30歳代が担いました。当然、コネと袖の下業務しかできなかったベテランは一掃されました。この変革が短期間で成功した裏には、港湾関連業務を港務局が一括管理していたシステムの存在も大きく、これもまた無視できません。そして、このような業務変革と世代交代が港湾物流部門だけでなくあらゆる部門で起こり実現されました。つまり構造改革が中国全体で実現し、さらに発展し続けていることが、中国躍進の根本原因だったのだと感得したのです。

一方、この躍進は沿岸部4億人の地域であり、内陸部9億人の地域との格差は激しい。内陸物流インフラ整備も遅れており、伝統的な農村の風習や人治主義が色濃く残る地域である影の部分にも留意する必要がある。人件費は香港・上海が5,000ドル/年に比し、400ドル/年と言われ、1/10〜1/13である。また、元の切上も3〜5年後には絶対との観測も有り、沿岸部の躍進も上海万博後の2012まで位ではないかと予測するエコノミストは多い。これらを総合的に考えて強大な隣国、中国と付き合っていく必要がある。

3.各個別視察の概要

(1)天津トヨタ自動車工業(10月13日am)

同社は1996年、トヨタが天津汽車(自動車)工業と折半出資して設立されたトヨタの中国進出最初の合弁企業である。2003年8月時点の従業員数は746人で、内トヨタの出向者9名、党員は約20%強である。生産性向上により従業員数は毎年減少している。5A・8A型エンジンユニット、鋳鉄製品などの主要生産品は当初日本へ輸出していたが、現在は全量中国国内で使用、部品の国産化率は65%になった。2003年は8万セットの生産量で、日本からの部品輸入量は150TEU、名古屋港から3TEU/週で輸送中とのこと。この例からも、中国が自国消費量の増大により、製品の輸出国から輸入国に転じつつあることが推察される。

(2)天津港(10月13日pm)

天津市から東へ約60kmに位置する天津経済技術開発区内にあり、北京の外港として華北港湾物流の中心である。経営は、資本金150百万元(約60億円)の「天津港国際物流発展」が行なっている。港湾整備以外に、今後7年間で約270億元(約3600億円)を物流センター建設に投資し、港湾能力は2007年に、物流能力は2010年に1000万TEUまで順次強化していく計画で、5000万トン能力の南部のバルク貨物専門物流センターは既に稼動中である。

2002年実績は240万TEU、2003年推定で300万TEUを超え、日本No1の東京港を凌ぐ。

2004年から10バースを整備しつつ水深を14mから18mへ増深する計画で、6000TEU型コンテナ船から8000TEU型の最大級大型船に対応させる予定である。取扱量は、2005年に400万TEU、2007年に港湾1000万TEU体制を確立し、そして区切りの2010年には1000万TEUを実績で達成する計画である。

(3)北京鉄道局貨物ターミナル(10月14日am)

21万m2の倉庫・置場用地と貨車840輌を持つだけで、基本的には貨物取扱代理業の企業とみなされる。2001年に鉄道貨物取扱代理店となり、2003年に陸運・海運取扱資格も取得した。今後、鉄道を中心に、トラック・内航も合わせた一貫輸送を全国ネットで行なう方向を目指している。

現在、内陸物流が内陸部の経済発展のボトルネックとなっており、このため政府は、500億元/年を投じ、2020年を目標年に、南北8線・東西8線の貨物専用鉄道網建設を進めている。1000km以遠の輸送は鉄道が担う計画で、西部大開発ための基盤インフラと位置付けられているようである。

(4)青島港(10月15日pm)

青島市は、あか抜けた現代様式の家屋やドイツ租界時代の面影を残す建築物が建ち並ぶ市街地を持つリゾート地であり、韓国等からの観光客も多い。2008年の北京オリンピック開催に合わせ、地下鉄建設・青島大橋(新港と市街地を結ぶ)などのインフラ整備が進行中である。

2002年11月にコンテナターミナルを旧港から前湾港(新港)に移管し、約1年が経過したところを視察した。2002年の実績は341万TEU、2003年は400万TEUと推定されている。ターミナルでは第3期の工事が進行中で、10,000TEU型の超大型コンテナ船が入港可能な、3400m岸壁と17.5m大水深を持つ中国本土最大のコンテナターミナルとなる。また、コンテナヤードも現在、1.9平方kmから3.5平方kmに拡張整備中である。

この2・3期のコンテナターミナルの経営は、青島港グループとP&O・APモラー・COSCOの3大海運大手が約8億8700万ドルを共同出資して行なうことに決まっている。この後、第4期・第5期と整備を進め、最終1000万TEUまで増強する計画である。

原油・石炭・鉄鉱石原料など他の貨物の積出施設(20万トン級・30万トン級がOK)も充実しており、合わせて1億5000万トンの能力を持つ、多機能・高効率の物流貿易基地を目指している。

青島港にて
青島港にて
(5)ハイアール本社(10月16日am)

中国最大の家電メーカーで青島市に本社をおき、米国のエマーソン・日本のサンヨー・韓国のLG電子の3社と提携関係にある。創業は1987年で冷蔵庫の製造から始め、まだ18年に過ぎない中で家電白モノでは世界第5位にまで躍進した。2002年の業績は売上79億ドル、利益率7%、従業員3万人、生産基地は青島・米国・パキスタンを主力に、各地で10工場を保有、世界160カ国に製品を輸出(11億ドル)する大企業に急成長した。「全従業員一人ひとりが経営者」が社是である。

近年は、業務フローの再構築、部品供給業者の集約、3PLの推進といった社内外システムの高度化、生命保険や金融部門への進出による多角化を目指し、経営強化を図っている。最近、ソニーともプロジェクト提携をした。東南アジア内での競争には、優秀な従業員、他企業との連携と上述した多角化戦略で勝てると確信している。

(6)上海港外高橋コンテナターミナル(10月17日am)

上海港外高橋第4期を管理運営する上海浦東集装箱(コンテナ)埠頭(SECT)を視察した。上海港の2002年のコンテナ取扱量実績は861万TEU、2003年6月までで約522万TEUを記録している。通年では1050万TEU以上が見込まれ、釜山を抜き世界第3位に躍進することは間違いないと言われている。この増加は2003年2月に稼動した本外高橋第4期ターミナルが担った。ガントリークレーン14基(うちバージ用2基)、トランスステナー12基を設置、ストラドルキャリアー48台、コンテナシャーシー72台を保有、180万TEUの処理が可能で、2004年には100万TEUを見込んでいる。本ターミナルには日本郵船が進出している。さらに、40億元を投じた第5期ターミナルは現在建設中で、2005年には早くも完工の予定である。しかし、上海港は長江の影響を受けるため、最新の外高橋港でも水深は14.5mが限度であり、今後の大型船に対応できないので、18m水深が可能な海上30km先の洋山島を新々港にする建設を開始した。2005年には稼動開始の予定である。

(7)上海国際汽車城(10月17日pm)

上海国際汽車城(自動車センター)は、総面積68平方km、2006年には「自動車関連部門の研究開発・研修・生産・貿易・F1サーキット・テーマパーク」のすべてが揃う国際自動車産業コンプレックスを完成させ、これを発展させて、2010年の上海万博を迎えることになる。

現在、生産工場用地を持つ企業は「上海自動車」「独フォルクスワーゲン」だけであるが、他の外資企業の誘致を積極的に進めている。

上海市の西に本自動車センター、北に宝山製鉄所、東に情報産業ハイテク企業集積、そして南には石油化学コンプレックス、さらに2000万TEUの海上の洋山港を合わせ、上海市が中国最大の産業都市の地位を保持し、続させるという壮大な計画が完成する。

4.セミナーの概要

(1)中国国内物流の現状と課題(10月14日pm)
講師:宮立偉住友商事(中国)物流部副総経理

年間140億トンの国内輸送の内、約77%をトラック輸送が占める。5縦7横の基幹高速道路網を急ピッチで建設中であり、現在約6000kmが整備されている。しかし、荷崩れ・水濡れ・過積載・貨物トレースが困難なことなどの問題が多い。

鉄道は約13%を占め、五定列車と呼ばれている定期貨物列車がある。上海−成都間では運賃がトラックの約60%であるが、スケジュールが不安定なため利用は少ない。内航は約9%で、二縦(沿岸・運河)三横(長江などの川)を利用しているが、増水・渇水の影響を受けることや航行日数が長くて不安定なこと等問題は多い。

基本的に中国国内物流企業・従業員は「早く運ぶことが仕事」の考え方もあり、貨物の破損・濡れ・自動車事故が絶えない。また、物流業者の倒産リスクや転売されるリスクなどがあり、与信管理を厳重にするしか対策はない。

通関に関しては、中古設備輸入の原則禁止・保税輸送の禁止品目の存在・日本と中国の品目コードが一致しないことなどの問題も残っているが、「人治主義」の裁量全盛時代は終わった。

住友商事物流部としては、SCM概念と物流品質向上(定時に貨物品質を確保して届ける)を約500人の現地従業員に徹底させ、集荷力強化を基本戦略として経営を進めている。

(2)中国におけるビジネス展開(10月16日pm)
講師:林康一川崎汽船(中国)中国董事総経理

基本的に現在の中国では、海運港湾物流関連ビジネスを担っている主体が米国等留学から帰った若手ビジネスマンに世代交代しているため、2・3の特殊事情を除けば、ドライなビジネス感覚で対処できるようになっている。このため30歳代前半で起業し、急成長する会社が次々に現れている。これが中国、特に上海躍進の秘密である。

以下は、主として上海を中心にビジネスを始める場合の注意すべき点。

  1. この経済成長の結果、人件費以外に安い物は何もないと言うのが上海の実態である。
  2. 中国のサービス概念は日本と異なり、不都合と分かっても、言われていないことを進んでやる習慣がないのでトラブルが発生しやすい。日本では無料が当然の追加サービスは、基本的に有料と認識しておく必要がある。
  3. 中国労働者は会社のために働いていない、自分のために働く。言われないことは何もやらないし、良い条件の会社に何の躊躇もなく移る。従って、日本人幹部は人事・労務・総務関係で苦労する。
  4. 賃金体系は「年功なし・組合なし」で、同じ職位の人は年齢に関係なく同じで、昇進すると一気に2倍とかになるシステムである。
  5. 教育は、日本の専門学校と同じ、徹底した実学主義である。あるレベルまでの人は良いとして、それ以上、上になる人には+αが必要と感じている。
  6. 船社は政府に認証を受けた船舶代理店業者を介して運賃を徴収することが出来るようになり、遅延や滞納などのリスクが低くなった。
  7. ペナビコ・シノトランス・ユニスコの3社に独占されていた船舶代理店業務へ、他の国内業者の参入が認められて競争原理が働き始めた。このため、船舶代理店業務の価格が1/3に低下するなどコスト構造そのものが変化している。
上海セミナー
上海セミナー

5.最後に

今回の視察はまさに「百聞は一見に如かず」であって、急成長している中国の勢い・エネルギー・スピードの速さ・その規模の大きさを肌で感じ、実感できた。このような強大な隣国と競争しつつ、どう共存していくかを考えることは、(財)和歌山社会経済研究所にとって非常に重要なテーマであると改めて認識した。今後、「和歌山県のために中国は?」と言う立場から、港湾物流以外にも中国と関係する諸問題の研究を継続して続けていきたい。

(2004.3)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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