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水辺の再生とまちづくり

研究部長  萬羽 昭夫

1.はじめに

本報告は、自主研究テーマ「賑わいのまち創出」の中で調査検討を加えたもので、「水辺の再生」を通じて賑わいの創出につながる“まちづくり”へとつないでいる先進事例についてまとめたものである。

地方が“賑わいの再興”や“まちづくり”を進める上で国の援助・支援を活用した施策として、「構造改革特区」と「地域再生計画」をあげることができる。「構造改革特区」は規制緩和など“規制の特例”を設けることで経済活動の活性化を図るものであることに対し、「地域再生計画」は地域の主体的取り組みを妨げている“補助金・交付金制度を改善”し、利用しやすくすることにより地域経済の活性化や雇用創出を図るものである。

表1.構造改革特区と地域再生計画の違い
表1.構造改革特区と地域再生計画の違い

“補助金・交付金制度の改善”とは、具体的には下表に示すように、省庁横断的な交付金制度である。例えば、生活廃水処理に関わる分野での主管省庁が、従来下水道は国交省、集落排水は農水省、浄化槽は環境省という具合に縦割りになっていた。地方において一体的に整備を進めようとするといくつもの省庁の門を叩く事になり、極めて非効率的であったが、「汚水処理施設整備交付金」という形で内閣府に一本化された。

表2.省庁横断的な交付金の例
表2.省庁横断的な交付金の例

本報告では平成17年から募集が始まった、内閣府が進める「地域再生計画」の応募内容を解析し、地方自治体が何を切り口に“まちづくり・賑わいづくり”につなげようとしているのか動向を探り、“賑わいづくり”にうまく繋げている事例を調査したので紹介する。

2.地域再生計画の動向解析と先進地洗い出し

地域再生計画は平成17年6月17日に第1回認定申請され、以降平成21年11月26日認定申請の第14回が直近の認定分である。本研究では、平成21年3月27日の第12回認定申請分までを調査対象とした。

図1.交付金の分類
図1.交付金の分類

平成21年3月の第12回までに認定申請された件数は、その後の市町村合併による市町村名変更による登録やり直しなどのダブリを除いて認定申請を受けたのは、1,006自治体、支援交付金の延べ件数は1,133件であった。支援交付金の件数の方が多いのは、複数の支援交付金申請を行なっている自治体があるためである。

この再生支援措置項目別に件数を整理してみると、汚水処理施設整備交付金が399件(40%)、道整備交付金が271件(27%)、港整備交付金が63件を占めており、このインフラ整備関連交付金が会せて733件(73%)を占めていた。

このようなことから、40%の自治体が選択した「汚水処理施設整備」に着目し、交付金を活用して“水辺の再生”を図り、もって“賑わいの創出”につながる地域再生(=まちづくり)をすすめている先進地を調査することにした。

この観点より、1,006自治体の申請計画書全てをチェックし、調査先を絞った。1,006自治体の中には、申請理由として単に「水洗化率が県内で低い方なので交付金を原資に改善したい」とか、「市内を流れる川の水質が県内で下位だから水質を向上させたい」といった対処療法的なケースをはじめとして、まちづくりを進める上での賑わい演出する舞台として河川を位置づけた、いわば水辺を再生してホタルも人も呼び戻してまちづくり(=賑わい創出)を進めようとする、積極的な申請理由もある。当然、調査対象とする地域再生計画は後者の事例である。

こうした観点から申請計画書ベースで調査候補先をいくつかに絞り込み、先進地の事例調査を行なった。
その中で愛知県岩倉市の取り組み事例が一番我々の思わくに合致していることから、本報告で紹介しておく。

3.愛知県岩倉市の事例

3−1 市の概要

岩倉市は愛知県の西部、名古屋市の北西部に位置し、名鉄名古屋駅から電車で約20分の近距離にあり、人口48,793人、世帯数20,663世帯(2010年5月)面積約10.5km2の比較的小規模のまちで、名古屋市のベッドタウンとなっている。昭和40年頃から人口増加が始まり、昭和46年に市制施行した。

図2.愛知県岩倉市の位置
図2.愛知県岩倉市の位置

3−2 計画の概要

計画の大枠は、市の中心を貫く「五条川」(桜名所百選)を市民憩いの場と位置づけ、水質汚染の進んだ五条川の水辺環境を改善し、生活環境向上を目指す。そして五条川を舞台に様々な催し物を展開し、居住人口や交流人口増を促すことである。

図3.岩倉市の観光地図
図3.岩倉市の観光地図

計画初年度の平成17年度は、五条川左岸は新興市街地で汚水処理人口普及率は97.5%と高いが、右岸の旧市街地は24.6%と極めて低い。市全域の汚水処理人口普及率は48.7%。この汚水処理人口普及率を、計画最終年度(平成21年度)には全体で59.5%まであげる。その他の事業として、身近な自然との共生による環境調和型のまちづくりの基本となる“五条川耕園”計画や、竹林公園整備などの五条川周辺環境整備事業を通じて、アメニティ性を高めた『より質の高い生活都市』を目指す。

3−3 計画の成果

下図に五条川と隣市の矢戸川と比較した水質の推移を示す。BOD値,SS値とも計画が開始された平成17年前後で大きな変化は見られないが、SS値の環境基準が25ppmであることを考慮すれば、五条川は既に十分にきれいな河川と言うことができる。

図4.五条川の水質
図4.五条川の水質
図4.五条川の水質

計画の中心をなす五条川は、岐阜県多治見市に源を発し、犬山市の入鹿池(明治村近く)を経て江南市、岩倉市を経由し清洲市で新川に注ぐ総延長28.2kmの一級河川である。五条川の水質は流域に関わる市町全体の問題であって、流域の一部を担っている岩倉市の努力だけでどうなるものではない。なおかつ一方では、住生活環境を改善し快適性を向上させる、いわゆる“アメニティ”の追及は時代の趨勢として進めていかざるを得ないものであり、下水道整備はその一つである。

従って、次節以降は岩倉市が如何に五条川を復活させ、賑わいの中心とすべく努力をしてきたかについて述べることとする。(現在では五条川桜祭りの開催期間中は市人口の10倍の約50万人が訪れる。)

3−4 五条川が賑わいの中心となるまでの経緯

五条川が現在のように整備が進んで賑わいの中心になるまでは、住民と行政が一体となって築き上げてきた長い歴史がある訳であるが、やはり大きいのは「水辺を守る会」が中心となって住民の川に対する意識を変革させてきたことがあげられる。以下にその経緯を示す。

図5.五条川
図5.五条川

1.岩倉町から岩倉市へ

岩倉は名古屋市に距離的に近いことから、昭和40(1965)年頃から人口が増え始め、公団住宅ができてから急激に増加(2万人→3万人)し、昭和46(1971)年11月に市制を施行した。しかし、名古屋に近いが故にアパート住まいの若年層の人口が多いことと、地価が高いことから住民の持ち家率が低い。結婚を契機に地価の安い遠方の他市町へ転出する人口が多く、土地への定着率が低かった。当然、そうした風潮を嘆く地元の人たちがいた。“単なるベッドタウンになりたくない。潤いの有る生活都市になりたい。”

2.足元に有った憩いの場所

当時、五条川も人口増及び都市化とともに川の汚濁が進んでいた。しかし、川の土手沿いには昭和25年当時の町長さんが推し進めた、植樹された桜が立派な並木に育ち、「日本の桜 名所百選」に選ばれていた。また、東海自然歩道の一部をなす尾北自然歩道が堤防沿いに通じていた。そこで“岩倉にはやっぱり五条川しかない”と再認識。五条川を地域の宝として育てるべく、昭和55(1980)年から「五条川クリーン作戦」を開始した。

3.水辺を守る会(昭和61年設立)

その後、五条川を育てる上で大きな機関車になったのが「水辺を守る会」である。五条川のクリーン化をはかり、潤いのある水辺環境を再生しようと設立された。現在会員は約650人。市民目線での提案、陳情で市・県を動かす。現在の活動状況は以下の通り。

  • ・保全活動(クリーンアップ五条川/「水辺だより」の発行/桜募金)
  • ・利活用活動 (水辺まつり/水生生物調査/親子釣り教室)
図6.清掃活動(写真は岩倉市提供)
図6.清掃活動 図6.清掃活動

「水辺まつり」のプログラムに親水活動(いかだ下り、自然観察、水鉄砲、等)を盛り込み、感動と思い出づくりを目指し、健全な地域づくり、ふるさとづくりとして定着しつつある。

図7.水辺まつり(写真は岩倉市提供)
図7.水辺まつり

この会の活動で、市民の五条川に対する意識を大きく変えることになった特筆すべき活動として以下のことが挙げられる。

表3.市民の意識を変えた活動
表3.市民の意識を変えた活動

こうして市民による市民のためのクリーンアップ活動を続けた結果、五条川に人が戻ってきた。川の水も綺麗になり鯉も泳ぐようになった。五条川両岸の1,600本の桜は保全活動を続けられているものの現在でも健在で、桜祭りの頃は50万人の人出で賑わうようになった。また、この桜の時期に合わせて岩倉に残る400年近い伝統を有するロウケツ染めの糊を洗い落とす “のんぼり洗い”行事も、五条川の綺麗さを印象付ける春の風物詩として賑わいの創出に一役買っている。

表4.市民アンケート
表4.市民アンケート

ここに住民の意識調査でおもしろい結果がある。公園が少ないのに、なぜ緑が多いと答える人が多いのか?一見矛盾したような答えであるが、ここで言う緑とは五条川の桜並木のこと。五条川を公園としてではなく、知らずのうちに意識の中で生活圏の一部となっていることを示している。

◎五条川が演出する賑わい事例 (写真は岩倉市提供)
図8.伝統の「のんぼり洗い」
図8.伝統の「のんぼり洗い」
図9.五条川 桜まつり
図9.五条川 桜まつり
図10.岩倉 夏まつり
図10.岩倉 夏まつり
図11.水辺まつり(子どもの声が聞こえそう)
図11.水辺まつり(子どもの声が聞こえそう)
◎五条川の親水公園化事業

意識改革と同時に、見た目にも安らぎや憩いをおぼえるような親水公園化は、賑わいを演出する上では欠かせない要素である。両岸は散歩できるように歩道が設定されていることと、ところどころ川べりに近づけるように石段が切ってある。

図12.水辺に近づける石段
図12.水辺に近づける石段
図13.堤防道から遊歩道に降りる
図13.堤防道から遊歩道に降りる
◎河川周辺整備事業
図14.橋上にある屋根つきベンチ
図14.橋上にある屋根つきベンチ
図15.川沿いの竹林を公園風に整備
図15.川沿いの竹林を公園風に整備
◎自然保護と啓蒙活動事業
図16.水棲動物の動静を伝え興味を持たせる
図16.水棲動物の動静を伝え興味を持たせる
図17.ビオトープ(写真は岩倉市提供)
図17.ビオトープ(写真は岩倉市提供)
3−5.岩倉市の事例まとめ

以上、水辺の再生と賑わいの創出について愛知県岩倉市の事例をみてきた。大都会の近郊という地理的条件により、昭和40年頃の高度経済成長期、岩倉にも人口が増え都市化の波が押し寄せてきた。そしてそれと引き換えに市内に流れる五条川の汚染が進み、誰も近づかなくなった。フェンスで仕切られていた頃は最悪で、半ば“ゴミ捨て場”的な状態で荒れ放題であった。

しかし、これではいけないと立ち上がった住民はフェンスを取っ払い、茂みを無くすことで川を見えるようにした。これがそれまでの“ゴミ捨て場”から“憩いの場”へ変化した瞬間であった。そして賑わいや活力の主人公でもある小学生に働きかけ、「危険だから近づくな」から「川とはこういうところ。川の安全な近づき方」へと地域と学校関係者が一緒になって変えてきた。こうした意識改革と同時に、五条川を更に身近に引き寄せるための親水公園化事業を進めてきた。こうした活動へと展開できたのも、約60年前の町長が五条川両岸に桜の木を植樹し、「日本の桜名所百選」と言われるまでになった財産の存在が大きい。全て昨日今日の対策で出来上がったものではない。

長期的展望に立って市民の力によって時間を掛けてつくり上げられてきた五条川は、市民から愛され、安らぎを与えてくれる“憩い”の場となっていると同時に、桜の季節になると外から観光客が訪れ賑わいの中心になっている。

4.和歌山はどう?

事例1:大門川

写真は和歌山市内出水にある、桜の時期の大門川である(図18)。見事な桜並木であるが、残念ながら市内に住む人にも余り知られていない。前章で触れた親水公園という見地から見ると、川べりに下りるようにはなっておらず、堤防道から眺めるだけである。

しかしながら、図19のように川べりに近いところまで下りて桜の木を見上げてみると、それまでとは違った様相を見せ、ダイナミックな桜を鑑賞できる。ここに遊歩道があれば、こうした風景を堪能でき、大門川の魅力は倍加される。

現状は桜の見頃の時期でも訪れる人はまばらである。素晴らしい素材が足元にありながら、賑わい創出に活かされているとはいえない。

図18.桜の時期の大門川
図18.桜の時期の大門川
図19.川べりから桜を見上げる
図19.川べりから桜を見上げる
事例2:市掘川

市掘川は和歌山城の外堀であったところで、川沿いに遊歩道が設置されているが、利用している人は殆どいない。写真のように雑草が生え放題で整備されているとは言えない。また市掘川の水は堆積ヘドロのせいなのか真っ黒で、お世辞にも美しい川とは言えない。

この市掘川が錦鯉も泳ぐようなきれいな川にするには抜本的な大掛かりな工事と莫大な費用がかかるだろうが、そんな川が出現したとしたら、水辺を舞台に様々な賑わいに繋がるイベントなり出店なり考えられ、賑わいの一大中心地に変身することが可能と思われる。なんとかしたい川の一つである。

図20.市掘川遊歩道
図20.市掘川遊歩道

図20.市掘川遊歩道
図20.市掘川遊歩道

5.おわりに

“賑わい”について考えてみたい。賑わいを発生させるためには、先ず「人が増える」や「人が集まる」事が必須である。和歌山の場合、人口の減少に歯止めがかからず“定住人口増”は望むべくもない情勢であり、“賑わい”を取り戻すための方策として“交流人口増”が必要である。との論調がある。しかし、一面では交流人口増施策はその通りであるが、それとは別に“潜在人口”という概念があり、実はその活性化が今の和歌山のみならず今の日本に必要なことではないだろうか。

昨今のまちなかから活力が無くなって行く現象の中で、一番問題なのは、それなりに人が居る(潜在人口)にも関わらず、無関心なのか無気力なのか、催し物を開いても人が集まらない。家に閉じこもって外に出てゆかない。こうした傾向はあらゆる場面で日本から活力を失っていく大きな原因である。賑わいの創出の為には、外からの交流人口増を働きかける前に、とにかく“内なる不活性な潜在人口”の活性化をはかり、賑わい創出に寄与すべく仕掛け作りが必要である。

将に水辺再生活動は、地元住民が足元に有るかけがえの無い自然の恵みを再認識し、住民たちの知恵を生かして自分たちのための憩いの空間づくりへと、目的を一に取り組むことのできる仕掛け作り活動の一つである。そしてこの結果市民が自然とこの憩いの場に集まってくる。これ即ち潜在人口刺激策である。そして結果として、外から人を呼び込め賑やかなまちづくりにつながっている訳である。愛知県岩倉市の事例はそれを証明している。

他市町の事例として新潟県村上市、広島県三次市も調査したが、紙数の関係で割愛した。これらの対象事例となる川は五条川に比べ川幅がずっと大きな河川である。五条川のような小河川も含め、いずれの事例の河川も、和歌山県内どこにでもある河川と大差ないが、それぞれ地域住民の力で水辺を再生し、知恵を絞って活用し、賑わいに繋げている。まず我々がやるべきことは、かけがえの無い足元にある川を見直し好きになることから始める必要がある。是非足元の自然の恵みの価値を再発見し、まちづくりに活かして戴きたいと思う。

最後に、今回の研究調査に当り、現地説明、写真提供など多大なご協力を戴いた愛知県岩倉市総務部企画財政課の皆様に謝意を表します。

(2010.7)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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