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スポーツと地域コミュニティの再生

主任研究員  中平 匡俊

1.「地域コミュニティ」崩壊の懸念

今、私達の暮らしにおいて、「地域コミュニティ」の崩壊が懸念されている。

旧来の町内会、自治会、集落などを中心に形成されてきたエリアにおけるネットワーク機能が失われてきたと言われる。

一方では、福祉、環境、まちづくり等特定のテーマをもって地域住民が集まり活動するケースが増えてきている。

「地域コミュニティ」とは地域に内在する課題やニーズを解決するための人々の能動的なつながりのことを言う。

人口減少、高齢化社会がますます進むなか、人間関係の希薄化が大きな要因ではないかと思われる「地域コミュニティ」の崩壊を食い止め、その活性化を図るための手段の一つとして「スポーツ」というテーマは有効ではなかろうか。健康志向もあいまって、人々の「スポーツ」に対する関心は高まっている。

2.あなたの市町村ではどうですか

「地域コミュニティ」の崩壊に関して和歌山県の市町村の認識については、「かなり深刻である」が6.9%、「やや心配である」が79.3%、「特に問題はない」が10.3%、「しっかりしている」は3.4%という調査結果(2007年8月、和歌山社会経済研究所調べ、回答29市町村、回収率96.7%)がある。

内閣府経済社会総合研究所が2004年9月に全国の人口20万人未満の市町村(2996市町村)を対象として実施した同様のアンケートがあり、それと比較すると、上記の結果は、かなり悪い数字あるいは深刻さが進んだ状況と言える。

和歌山県 全国
かなり深刻である 6.9% 3.6%
やや心配である 79.3% 57.2%
特に問題はない 10.3% 33.5%
しっかりしている 3.4% 5.4%

⇒比較参考データ:2004年の内閣府アンケート結果
(回答は1249市町村、回収率41.7%)

3.「地域コミュニティ」の重要性

私達はひとり一人単独で生きているわけでなく、地域の課題やニーズを解決するためには人々のつながりが不可欠である。また、そのつながり自体が地域に住む私達に安心感や充実感を与えてくれる。

地域活動への参加は、地域への愛着の醸成とともに、そのつながりを形成することにつながる。そして地域のつながりは地域力を向上させ人々の生活を豊かなものとする。

国民生活白書(2007年版)では、この地域コミュニティを形成する要素とも言える「つきあい・交流」、「信頼」、「社会参加」といった指標(地域力を測る指標:「ソーシャル・キャピタル」)が豊かな地域ほど犯罪率は低く、出生率は高いことを認めている。

4.「スポーツ」への期待(地域力向上をめざし)

「そのスポーツは戦争を止めた」というTVコマーシャルが一時流れていたが、スポーツは民族・宗教・言葉等の障壁を乗り越え世界中に広く浸透しているグローバルスタンダードに違いない。

もっと身近な地域におきかえれば、もしかしたら「スポーツは地域の犯罪発生件数を抑えた」ぐらいは言えるのかもしれない。

「スポーツをする頻度が高い人ほど地域活動への参加も多くなる」という公表された調査結果がある。これは、2007年3月、博報堂が全国24都市において行った調査(サンプル数合計5,571名)に基づく結果である。

スポーツする頻度を4段階示し、どれに該当するかを聞いたうえ、「地域の祭り・祭事」、「地域住民との交流や付き合い」、「地域の環境保全活動」、「地域の教育、子どもの健全育成」、「地域のまちづくり推進」についての参加率・参加意向を調べたところ、全ての項目について見事にスポーツする頻度に連動して高くなることが分かったのである。

スポーツを通じて地域力が向上し、豊かな地域が形成されることを大いに期待するところである。

5.人口減少と高齢化社会の到来

国立社会保障・人口問題研究所の予測では、2005年と比較して2035年の和歌山県の人口は1,036千人から約3割減り738千人となる。そして、老年人口(65歳以上人口)比率は、24.1%から38.6%に増える。老年人口比率38.6%は、全国の都道府県中第2位であるとしている。この数字は県の人口は大幅に減少するが年齢構成を見ると老年人口は逆に増えているという極端な高齢化社会の到来を意味する。

高齢者の医療費、介護認定率、介護費、有業率、独り暮らしの割合等大きな課題として着目しなければならない指標の対象者(絶対数)が確実に増えるということである。

このことをふまえれば、多くの高齢者が県内の各地域において、健康な体を維持し、何らかのつながりを持ち、地域活動に参加するような社会を創造しなければ、「元気な和歌山県の実現」は成立しない。ここに「スポーツ」への期待が大いに高まるところである。

和歌山県教育委員会が2007年に行った「和歌山県民のスポーツ生活実態調査」における県民のスポーツ振興に対する期待では、1番が「コミュニティの形成・活性化」(57.4%)、2番が「高齢者の生きがいづくり」(47.6%)となっており、県民の意識としても矛盾はない。日常生活においてスポーツが身近なものとして存在する社会が求められている。

6.「スポーツ」による子どもたちの健全な発育

近年、子どもの体格(身長・体重)は向上し、逆に体力・運動能力は低下しており、自分の体を自由に動かす根本的な能力すら劣ってきているのではないかとも言われる。そうだとすれば、問題は子どもの「生きる力」にまで及んでおり「スポーツ」の奨励が喫緊の課題である。

スポーツには体力向上とともに大切な役割がある。「スポーツ Sports」という英語が生まれたのは16世紀で、その頃は「義務として行う真面目な行為からの気分転換」の意味で使われていたそうである。スポーツは元来、強制を伴うものではない。楽しむことであり、勝利のために能力の低い者を排除することではない。その意味でスポーツを通じて連帯感が生まれることに異論はない。

米大リーグ・マリナーズのイチロー選手の子ども達へのメッセージがある。それは、郷里の愛知県で行われた少年野球大会でのあいさつの中で語られた、「もし回りにいじめている人、いじめられている人がいたら“一緒に野球をやろうよ”と声をかけてもらいたい」というものである。

7.「スポーツ」は「地域における交流と共生」に役立つ

社会資本整備が地域の重要課題である。よく耳にする言葉であるが、ここで言う社会資本とはインフラストラクチュア、所謂インフラのことがほとんどである。本テーマにおける社会資本とはソーシャルキャピタルのことである。

地域における「つきあい・交流」、「信頼」、「社会参加」を置き去りにしては社会資本が整備された地域とは言えない。

地域が生んだ文化や生き方を大事にすることを、今一度見直してみる必要があるかもしれない。

スポーツ界は、今や「企業第一」から「地域第一」に力点が移ったともいえる状況である。スポーツチームの存在やゲームの開催は、地域の社会資本整備なわけである。

スポーツの本当の良さを知った人を育て、また良き指導者を迎えることができる受け皿の形成は、「スポーツ」文化を地域に還元することである。

そして、「スポーツ」によって人々は交流し、共生の意識がめばえ、豊かな地域が生まれる。

(2010.3)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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