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ホスピタリティの時代

主任研究員  中平 匡俊

1.ホスピタリティ産業とは何か










農業
林業
漁業
鉱業
建設業
製造業
電気・ガス・熱供給・水道業
情報通信業
運輸業
卸売・小売業










金融・保険業
不動産業
飲食店・宿泊業
医療、福祉
教育、学習支援業
複合サービス業
サービス業(他に分類されないもの)
公務
分類不能の産業

上記は代表的な日本の産業分類表である。

これらの業種のうち、ホスピタリティ産業と言われる業種はいったいどれだろう。一般的には「ホスピタリティ産業とは、宿泊業、運輸業、旅行業を指し、主に人的接客サービスを提供する業種の総体である。広義には教育、医療、福祉を含む。」という解説が多い。

産業の構造を分析する際のカテゴリー設定としては、それで済むが、「ホスピタリティ・マネジメント」や「ホスピタリティ・マインド」などの概念を含む場合、『ホスピタリティ産業とは何か』という問いに対しては全く異なる物差しで答えなければならない。

真のホスピタリティとは感動や楽しさやうれしさを共有することであるという考え(力石 寛夫 氏<後述>)を参考にし、私なりに、ホスピタリティ産業を規定すると、つぎのようになる。

『ホスピタリティ産業とは、物品やサービスを単に金銭と交換するだけではなく、その行為には必ず人間が介在し、金銭の授受とは別に受給側と提供側において同じ程度、あるいはむしろ提供側のほうがより多く、感動や楽しさやうれしさを体感することができる産業である。』

すなわち、全ての業種が、ホスピタリティ産業と成り得る。「我社は、ホスピタリティ産業である。」と宣言できたときが、その誕生である。

2.人口減少時代の到来と経済戦略

国立社会保障人口問題研究所が発表した我国の将来人口は、今後の4半世紀で約1割減ると予測している。

これまでの経済発展が人口増に起因するところが大きかったとすれば、このままでは経済発展いや維持も難しい。今後は、物品やサービスが必要だから買うという人以外の誰かに買ってもらうしか売上を維持・拡大できないわけである。

上述の人口はもちろん「定住人口」のことである。経済再生の突破口は「交流人口」にある。観光(ビジネスなどでの移動も含めたツーリズム)における訪日旅行客は大きく増加しており、その潜在力はまだまだ大きい。国と同様に地域にとっても、いかに交流を拡大できるかが問われる。国内の旅行消費額、雇用誘発効果は、団塊世代の影響、余暇増大の影響などにより拡大することが予測されている。

そう考えれば、カテゴリーとしての「ホスピタリティ産業」は人口減少時代において最も成長が期待できる産業であると言える。そこに住んでいない人にもサービスを提供でき、同じ人に同じサービスを何度でも提供できる。まさに「場所」と「時間」を操ればいくつでも「商品」が生み出される。

そして、その「商品」が支持されリピーターが生まれるために大切なのが、マインドとしての「ホスピタリティ」である。

3.文化をマネジメントする

今、「観光」は地域に内在する資源を掘り起こし、観光資源(「商品」)に転化させることが求められる。「見る」だけから「感じる」、「考える」という行為まで視野を広げ、地域の『文化』に着目する必要がある。

日下 公人 氏が「国づくりへの提言」(編者:国土庁、昭和57年発行、共著)の著書のなかで述べている興味深い考察を紹介したい。

それは、まず『文明』と『文化』を区別することから始まる。『文明』は文明の利器という言葉から想像できるような技術的なもの、『文化』は情緒的な満足であると定義する。『文明』は目的に照らし優劣を決める事ができ、進歩も測れ、相互比較もできる。一方、『文化』は主観的なものであり、多数決で優劣を決めることはできない。

その『文明』と『文化』を合わせたものが生活様式であると考える。そして、その事柄がもつ2つの因子の割合は、時間の経過とともに変化するものであるとしている。

事柄の多くは、逆のパターンもあるのだが、下図のような関係を示すと考えられる。例えば蒸気機関車をイメージすると理解しやすい。

さて、世の中の様々な商品、企業、産業、地域において、この法則は当てはまるのではなかろうか。経年により増す『文化』の部分をどうプロデュースし魅力あるものにできるか、あるいは発信できるかが再生のポイントのようにも見えてくる。そうしないと商品、企業、産業、地域の価値は限りなく0%へ向かって減っていく。

『文明』は新しい技術に支えられ経済活動を生み、『文化』は価値観の共有によって成立する。そして『文化』が評価され、はじめて人々はリピーターとなり、商品、企業、産業、地域は存続すると思うわけである。

4.「今、時代はホスピタリティ産業へ」

和歌山大学観光学部が主催する公開講座「観光カリスマ講座」の第1回(平成20年6月19日開催)のタイトルが「今、時代はホスピタリティ産業へ」である。講師は、トーマスアンドチカラ株式会社代表取締役の力石 寛夫 氏。氏は、本講座の中で「ホスピタリティ」についてつぎのように解説している。

サービスを提供するにあたり「物質」や「技術」は確かに必要かもしれない。資金をかければ立派な施設はできる。時間をかければ技術は上達する。しかし「精神」がなければ本当のサービスとは言えない、単なる作業である。

「精神」とは、「おもいやり」「心遣い」「親切心」「誠実さ」「おもてなし」など、人でしか成しえない「マインド」である。マインドこそがサービスの原点である。

この真のサービスを商品として確立している産業をホスピタリティ産業という。言い換えるとホスピタリティ産業とは「心の共有業」である。

そして、真のサービスの一例として紹介されたのは、東京ディズニーランドのアルバイト青年の話(以下のとおり)である。

東京ディズニーランドに訪れたある若い夫婦が、レストランでお子様ランチを注文しました。「お子様ランチは9歳以下のメニューで大人の方には物足りないかと思われます。」とお断りするのがマニュアルですが、アルバイトの青年は思いきって「失礼ですが、お子様ランチはどなたが食べられるのですか。」と尋ねました。

すると奥さんがうつむいたまま話しはじめたのです。「死んだ子どものために注文したくて。私たち夫婦には子どもがなかなか授かりませんでした。願い続けてやっと待望の娘が産まれたのですが、身体が弱く一歳の誕生日を待たずに亡くなりました。今日は、その子の命日。大きくなったら親子でディズニーランドに行こうと楽しみにしていたのです。本当に娘が生きていたらここでお子様ランチを食べたんだなと思うとつい注文したくなって。」

アルバイトの青年は理由を聞きながら絶句しますが、すぐに笑顔に戻り言います。「お子様ランチのご注文承りました。ご家族の皆様、どうぞこちらへ。」二人用テーブルから四人用テーブルへ移るよう案内し、子供用の椅子まで持ってきたのです。

まもなく運ばれてきたのは、三人分のお子様ランチでした。「ご家族で、ゆっくりお楽しみください。」アルバイトの青年は笑顔で去っていきました。

後日、東京ディズニーランドにその夫婦から手紙が届きます。「お子様ランチを食べながら、涙が止まりませんでした。まるで娘が生きているように、家族の団らんを味わいました。こんな体験をさせて頂くとは、夢にも思っていませんでした。もう涙を拭いて生きていきます。またニ周忌、三周忌に娘を連れてきます。そして今度はこの子の妹か弟も一緒に。」

(2010.4)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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