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紀の国わかやま国体・大会の経済波及効果 〜国体の成功に向けて〜

主任研究員  中平 匡俊

T はじめに

第70回国民体育大会(「紀の国わかやま国体」)と第15回全国障害者スポーツ大会(「紀の国わかやま大会」)が、平成27(2015)年に、和歌山県で開催されます。国体は、昭和46(1971)年の第26回の黒潮国体から44年ぶりの開催となります。

国体は、競技者のみならず、観戦する人や大会を支える人など様々な方々が一緒になって開催され、地域におけるスポーツ振興、競技力の向上、地域づくり・人づくりなど多方面にわたり大きな効果をもたらします。

関連する経済活動は、大会施設の整備や大会運営をはじめ多くの投資・消費がなされ、県内への経済波及効果も大きく、また、大会終了後の本県の経済にとってプラスとなる継続した取組も期待できます。

本稿では、大会に関連する計画の進捗をふまえ国体の経済波及効果を推計するとともに、国体の成功と国体開催を契機とした和歌山県の活性化について考えます。

U 国民体育大会の長い歴史と役割

(1)創生期

国体が、戦後すぐの創生期およびその後の復興期において果たしてきた役割は、いくつも挙げられます。

広く国民のあいだにスポーツを普及し、国民の健康増進・体力向上を図り、スポーツを通じて夢や希望を与え国民生活を豊かなものにしようというものです。全国の都道府県の持ち回りによる開催で、地域の復興・整備や活性化にも大きな成果をもたらしてきたことに異論はないでしょう。

第一回開催から半世紀以上経過した今、各都道府県は2巡目の開催を迎えています。その長い歴史の間には障害をもつ人も参加できる障害者スポーツ大会を併催するというかたちも整いました。

(2) 近年の国体開催コンセプト

平成23(2011)年は山口大会、平成24(2012)年は岐阜大会、そのあと東京、長崎と続き、平成27(2015)年が和歌山大会です。山口から長崎まで4つの都県の開催コンセプトを見ると次のような特徴がうかがえます。

共通したコンセプトは、「都民・県民参加」、「ボランティア活動の推進」、「大会の簡素化・効率化」、「広報活動の充実」、「ふれあい・交流促進」、「民間活力の導入」、「環境への配慮」、「開催地自体の魅力発信」といった項目があげられます。

そのなかで、各地において強調されている特徴的な取組(以下に記載)も見受けられます。

『山口大会』(2011年) 「地域コミュニティの活性化につなげる」
・合併市町村の住民交流や連帯感の醸成につなげる
・国体開催に向けスポーツを通じた国際交流(友好・姉妹関係自治体等とのスポーツ交流)を促進する
『岐阜大会』(2012年) 「多世代型地域スポーツ環境につなげる」
・総合型地域スポーツクラブの育成を促進し、より良いスポーツ環境を整備する
・家族参加や多世代参加が可能な関連イベント開催など世代間交流を図る
『東京大会』(2013年) 「国内最高峰の競技大会を実現する」
・トップアスリートによる国内最高の競技大会を開催する
『長崎大会』(2014年) 「文化とスポーツとの融合を図る」
・文化・スポーツ融合国体を目指し、県の歴史・文化に触れる機会を充実させる
・生涯スポーツ社会の実現のための人材育成・活用に努める

各地のコンセプトを見ると、東京だけがトップアスリートが集結する国内最高峰の競技大会を目指すことを特に強調していますが、それ以外の開催地では、どちらかというと参加すること・交流することの意義、身の丈ではあるが郷土の力を結集し、皆が大会をサポートし盛りあげようという趣旨が強いように思います。

V 和歌山国体(開催への準備/開催基本方針)

平成19(2007)年、内々定となった和歌山国体の開催に向けて、仁坂 吉伸和歌山県知事を会長とする「第70回国民体育大会和歌山県準備委員会」が組織され、開催基本方針および基本構想の決定をはじめ様々な準備が進められることとなります。

本委員会は、行政(県および市町村)における多くの関係部署・教育関係をはじめ、バス協会、タクシー協会、商工会議所、商工会、中小企業団体中央会、経済同友会、経営者協会、銀行協会、旅行業協会、医師会、病院協会、社会福祉協議会、観光連盟ほか多数の団体・機関から常任委員が構成されるという組織であり、まさに和歌山県の官民あげてのサポート体制にほかなりません。

決定された和歌山国体の基本方針は以下のとおりです。

●基本方針(2007年9月5日)

(1)基本方針

第70回国民体育大会は、スポーツを通じて「和歌山を元気にする」ことを目指し、県民に夢と感動を与え、交流の輪を広げるとともに、生きがいのある社会 の形成に繋げるなど、本県にふさわしい大会として開催する。
大会の開催に当たっては、簡素・効率化を図り、新しい時代に適応しながらも、和歌山の魅力を最大限に活かしたいつまでも心に残るまごころのこもった大会を目指す。
この大会の開催を契機に、スポーツに対する県民の認識や意欲を更に高揚させるとともに、単に一過性ではなく、活力に満ちたふるさとづくりや心豊かでたくましい人づくりなどの地域おこしを推進することにより、「スポーツ王国・和歌山」を復活させる

(2)実施目標

県民総参加による大会
施設の有効活用など創意工夫を凝らした大会
人情あふれる心のこもった大会
和歌山の魅力を全国に発信する大会
国体後も県内各地域において継続的なスポーツ振興を推進する大会

W 国体開催にともなう地域経済への影響

(1)広範囲にわたる地域経済の活性化

国体は、地域にとって半世紀に一度の大事業です。経済活動の範囲は県下全域にわたり、関連する分野も多種多様です。インフラ整備をはじめ将来的なまちづくりの方針を決定する要素も併せ持ち合わせます。

2巡目和歌山国体開催の基本方針にもあるように、単なる一過性のイベントに終わることのないよう交流を中心に地域の持続した取組を目指しています。大会に際し整ったハード・ソフト両面の受入体制は、スポーツ交流をはじめ広義の観光分野において商品・サービス価値を持つでしょう。それを充分に活用することにより持続的な地域経済の活性化につなげたいところです。

さらに、民間レベルにおいても、各事業体の経営において新たな事業展開への着想が得られる可能性も挙げられます。

本大会の開催は平成27(2015)年ですが、実質的には平成22(2010)年ごろ、約5年前(内定)から国体に伴う活動は始まっています。段階的に様々な角度から取組がなされ経済活動の範囲も広がっていきます。

また、国体開催に照準を合わせたインフラ整備なども進められ、「国体」を起爆剤として様々な主体による取組が県下でなされ経済効果を生むでしょう。さらに、「国体」開催により得られたハード・ソフト事業を将来にわたり活用した持続的な県の経済活性化が望まれます。

(2) 紀の国わかやま国体・大会の経済波及効果

ある『経済活動』が起こると、その『経済活動』に関連した『生産活動』や『消費活動』が必ず誘発されます。これを『経済波及効果』といい、一定の範囲に及ぼす『経済波及効果』の大きさを示す数字を導き出す作業を一般に経済波及効果の推計といいます。

平成27(2015)年に本県にて開催される「国体」は、いったいどれぐらいの経済波及効果があるのでしょう。

経済波及効果の流れ

経済波及効果を推計するためには、誘発される『生産活動』や『消費活動』の規模を確定するためのデータが必要です。

「国体」の場合、「施設整備」、「大会運営」、「参加者消費」という3つの項目で活動の大きさを確定させます。過去の開催県における事例も3つの項目で整理されています。ただ、推計する時期により収集できるデータは異なります。開催が近づくほど、より詳細な実行計画に基づくデータということになります。

当研究所では、昨年12月、この「国体」の経済波及効果の推計を行いました。開催まで2年以上あるという時期での実施となり、「施設整備」については使用する競技施設の建設および改修計画は決まっていますが、「大会運営」、「参加者消費」に関してはまだまだ詳細計画に至っていません。過去の開催県の実績を参考とし予測をたてる部分が多くなります。推計の結果は下記のとおりです。

今回推計・発表しました理由は、「国体」がもたらす経済波及効果を示すことにより、全県的な盛り上がりが少しでも早く大きくなることを期待したいと考えたからです。また、本県にとって最も重要なことは「国体」を契機として開催後も持続的な経済諸活動が行われることであり、「今からその検討が各地域でなされるべきであり、各地域にとっては経済活性化の大きなチャンスである」というメッセージを併せて発信したかったからです。

⇒「大会後、どのように施設を活用するか」、
⇒「大会により醸成された住民参画意識をいかにコミュニティ活性化につなげるか」、
⇒「大会により訪れてくれた多くの人がリピーターとなってくれるためには何をすべきか」

といったことが重要です。

●紀の国わかやま国体・大会開催による和歌山県への経済波及効果

(平成17年・和歌山県産業連関表の34部門表を用いて経済波及効果を算出:平成24年12月実施


施設整備費

約279億7000万円


大会運営費

約92億2000万円


参加者消費支出

約76億9000万円

(合計 約448億8000万円)


経済波及効果 641億円

雇用誘発効果 4,450人

(3)国体は地域活性化の大きなチャンス

「国体」は、県内市町村の競技開催をはじめとする受入体制がなければ実施が難しい事業です。

それは同時に各地域にとって活性化の大きなチャンスとなります。「国体」開催を契機とした様々な経済活動が連鎖し相乗効果を生みます。

X 国体とホスピタリティ

(1)全国障害者スポーツ大会の併催がもつ意味

全国障害者スポーツ大会(以下「全障大会」という。)は、昭和40(1965)年から身体に障害のある人々を対象に行われてきた「全国身体障害者スポーツ大会」と、平成4(1992)年から知的障害のある人々を対象に行われてきた「全国知的障害者スポーツ大会」を融合した大会として、平成13(2001)年から国体終了後、同じ開催地で行われています。

大会の目的は、パラリンピックなどの競技スポーツとは異なり、障害のある人々の社会参加の推進や、国民の障害のある人々に対する理解を深めることにあります。(財団法人日本障害者スポーツ協会ホームページより)

今、全障大会は国体と併催というかたちで、開催に伴うキャラクターやマスコット、宣伝物のデザイン等を共通化してPRが行われます。また、開催地では国体に引き続き多くのボランティアに支えられ、参加選手や応援の方々をサポートします。

例えば平成21(2009)年開催された新潟大会の概要はつぎのとおりです。

<新潟大会>

 ●大会愛称「トキめき新潟大会」(国体は、「トキめき新潟国体」)
 ●開催理念「スポーツの振興と交流につながる大会」・「ありがとう を 全国に伝える大会」
 ●キャッチコピー「トキはなて 君の力を 大空へ」・「伝えよう 感謝の気持ちを トキめきを」
 ●マスコット「とっぴー」・「きっぴー」
 ●イメージソング「ガムシャラな風になれ」
      (以上、「トキめき新潟国体」と共通)
 ●開催期間:平成21年10月10日〜12日(国体9月26日〜10月6日)
 ●競技数:正式競技:13、オープン競技3
 ●参加者数:約5,500人(国体は約23,600人)

大会開会式は、東北電力スタジアム(新潟市)で行われ、陸上の草間祐也選手が「『トキはなて 君の力を 大空へ』のスローガンのもと、全国の仲間たちとの友情を深め、日頃の練習の成果を十分に発揮し、力いっぱい競技することを誓います」と選手宣誓しました。

草間選手は、3歳の頃にかかった髄膜炎が原因で学習障害の後遺症が出ます。小学校の頃は障害を理由にいじめられたそうです。中学校から通うようになった特別支援学校で友達に恵まれたこと、そして先生に勧められた陸上を始めてから自信がついたという内容が、開幕を報じた新聞に紹介されました。

(2)理念の共有

前項のとおり、日程は少しずらしての開催ではあるが「国体」と「全障大会」は共通理念のもと開催されます。

繰り返しになりますが、トップクラスの競技者をはじめスポーツを愛するすべての人が参加対象であることが分かります。そして競技者を支える多くの人々も一緒に一堂に集うイベントです。

全障大会は、平成13(2001)年から身体障害者と知的障害者が参加する大会として統合され、また平成20(2008)年(大分大会)から精神障害者が参加するバレーボールが正式種目となり、いわゆる3障害統合の大会となりました。

大会の運営にはこれまで以上に多くの人々の協力が不可欠です。行政職員、地域住民、学生など、これまでに全く経験のない人も手話や要約筆記などの養成講座を受けることもあるでしょう。

専門的な知識はなくても、一人でも多くの人の間に協力しようという気持ちが拡がればその地域のホスピタリティは高まります。

開催地の住民の気持ちとともに、大会の開催を機会に駅や乗り物の交通機関、宿泊施設、競技施設などのバリアフリー化が望まれます。

戦後の復興を果たし、各地に各種競技施設の建設や幹線道路の整備などがなされたのが一巡目だとすれば、二巡目の役割のひとつに「障害のある人もない人も、あるいは子どもも高齢者も大会に参加できるまちへの再構築」と位置づけてもよいのではないでしょうか。

(3)ホスピタリティの推進

国体の成功のためには、県内の様々な業種・業態・事業者が役割と課題を整理し開催をサポートしなければならないし、まずもってその理解が必要です。

同時に、ボランティア活動への参加も含め、県民自体が訪れる多くの人々に対しホスピタリティの心をもって迎えることができるか、そのための広報や県民活動を積み重ねていくことが大切となります。

以下に平成23(2011)年開催の山口県の事例を紹介したいと思います。

平成22(2010)年1月30日、山口市民会館で「ボランティア体験講演」が行われました。これは、大分大会においてボランティアに参加した大学生の講演でした。聴講者からは、感動したこと、困ったことがありのままに話され、障害者の人々とのふれあいとおもてなしの大切さが直に伝わるよい講演だったという感想が寄せられたと高く評価されています。

講演の資料から、全国障害者スポーツ大分大会ボランティアの5日間について、安部さんが整理した要約と写真(抜粋)をつぎに掲載しました。

全障大会ボランティアの5日間( 当時 大分大学学生・安部 真治さんの体験講演より)
(4)国体の成功に向けて

毎年の全障大会に和歌山県卓球チームを引率して参加している藤田 薫さん(当時 和歌山県卓球協会副理事長・日本障害者スポーツ指導員)にお話をうかがったことがあります(平成22年)。

新潟大会にももちろん参加したが、何よりボランティアの人が親切だったということが印象に残っている。大分大会では、宿泊は別府だったので、温泉に皆大変喜んだ。施設面で不自由は感じなかったと話されました。

選手は皆純粋な子たちで、連れて行くのが本当に楽しく・うれしいそうです。試合で勝ち進みメダルを取るようなことになれば大喜びとなります。皆、「国体」に出たということで今後の人生の宝物となっていることに間違いないようです。

藤田さんの話にもあったように、選手たちが参加しているのは、まさしく「国体」なのだと気づかされました。全国身体障害者スポーツ大会と全国知的障害者スポーツ大会が統合され全国障害者スポーツ大会となりました。今度は全国障害者スポーツ大会と国民体育大会が統合され「国体」となればよいと思います。

多くの人々を迎えるために必要なホスピタリティは、心のバリアフリーからはじまります。ホスピタリティとは、感動やうれしさ・楽しさを、また不安や心配事を共有することです。

(2013.6)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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