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地域TSA(観光経済勘定)に関する研究〜和歌山県白浜町をモデルとして〜

主任研究員  中平 匡俊

T 研究の背景と目的

1.研究の背景

わが国は現在「観光立国」の実現を目指し、官民挙げて観光振興に大きな力を注いでいるところである。和歌山県は「和歌山県長期総合計画」(平成20年度策定)に、将来に向けた取組の施策の大綱として「観光の振興」を明記し、地域振興につながるさまざまな事業を展開している。

観光は21世紀のリーディング産業として位置付けられ、観光消費がもたらす経済波及効果や雇用誘発効果の大きさから、国及び地方自治体の産業振興や地域振興、活性化への切り札的存在として評価されており、その効果算出、評価の基礎となる各種統計資料の整備が推進され、官民の施策実施に大きく貢献しているところである。

しかし、これらの調査統計資料は、「観光消費動向調査」に代表される消費側の調査統計が中心であり供給側の観光に関する経済構造など包括的な体系の構築がなされておらず、分析に必要な精度が確保できていないという指摘がある。

UNTWO(世界観光機関)は、観光がもたらす経済効果を正確に行うことができるよう各国に「TSA(Tourism Satellite Account)」の策定を提唱している。TSAとは観光に関する総合的な指標で、その国の経済活動における観光の占める比率を算定し、その経済効果をあらわすものである。わが国においても観光庁設立後、検討を重ね導入に至っている。

TSAにより、わが国の観光分野における産業としての経済パワーや雇用確保・創出の実態などの国際間比較が可能となり、「観光立国」推進のための分析に大きく寄与することが期待される。

そして、国と同様、地域においてもTSAの考え方に基づく地域経済分析(以下、「地域TSA」という)が、今後の観光をテーマにした戦略的施策立案に際し重要な視点となるであろう。

2.研究の目的

観光は、宿泊業、飲食業、土産物産業等の観光関連産業のみならず、一般的な商業やサービス業、交通運輸業、農林水産業にまでその影響が広がる、いわば複合産業、総合産業ともいわれる。

本研究は、和歌山県の最大観光地を形成する白浜町をモデルとして地域の観光における経済構造、産業連関を明らかにするための地域TSAの重要性と、その調査分析および導入手法について検証することを目的とする。白浜町の観光における就業者構造や生活様式、社会インフラや地方行政施策への関わりは、他市町村と比べ、その影響割合は大きいものと推察される。白浜町においては観光産業の動向が町勢発展のキーポイントといっても過言ではないだろう。

一概に観光産業といっても先ほど触れた各産業分野が関連しており、また、その産業ごと観光産業との関連割合はさまざまである。地域、季節、規模、観光資源、経営方針ごとに変化しており画一的ではない。したがって、現実的にその地域の観光における産業構造の実態や観光産業に関する経済的な規模、あるいは地域運営・活動への関与割合など本格的な統計的処理による調査は、今まで実施されていないのが実情である。

「白浜町における地域TSA(観光経済勘定)の実態調査」に取組むことは極めて重要である。その調査により白浜町の現状認識と将来への展望と方針を明確にし、町と関係諸団体及び住民等関係各者がベクトルを共有するとともに、各者が一体となって「次世代型・オール白浜町」の構築に向けてさらにコラボレーション(協働)できるよう働きかけていくことが必要と考えるからである。

U TSA(Tourism Satellite Account)

1.観光統計整備の必要性とTSAの登場

観光活動は、交通、宿泊、飲食、小売等々の広範囲にわたる経済活動領域にまたがる。故に単一の産業とは見なされてはこなかった。

しかし、現在また将来において、「観光」に関わる政策決定は国民経済にとって非常に重要な問題として認識しなければならない。ここに、観光経済構造を把握し、信頼のおける観光統計による正しい評価と的確な観光政策の立案が求められる。

「観光」とは、需要サイドの諸用件によって定義される活動であるから、ある経済取引が「観光」であるか否かは、そこに関与している消費者が置かれている立場により決定される。『観光客』と定義されれば、その経済取引は内容如何を問わず観光活動である。すなわち供給者の業種・業態は問題とならず、『観光業』となるわけである。

1990年代に入り、UNWTO(世界観光機関)がOECD(経済協力開発機構)等の国際機関と共同で、従来型産業分類による国民経済計算では測れない「観光」を衛星から眺め、今まで見えていなかった重要な経済活動を特定しようというコンセプトに基づき、TSA(Tourism Satellite Account)と言われる標準方法論を開発した。TSAは、2000年、一般使用のため公表され多くの国々に受け入れられている。

TSAは、各産業が観光需要にどの程度依存しているのかを見極めることができる。この情報は他では得られないものであり、これまで観光を意識することがなかった産業にとって、その度合いを知ることは非常に意義があり、全く新しいマーケティング活動につながる可能性がある。

2.TSAの重要性

観光に関して、国も地方自治体も政策上重要な産業分野として位置付けている。そして、観光に関する各種統計の整備も同様重要な取組である。そのなかで、TSAの重要性の背景及び目的は今まで述べてきたとおりであるが、改めて次に記す。

いうまでもないが、国、各地域の産業構造及び経済規模や雇用状況は既存の各種統計により公表されているが、このTSAは従来にない新しい統計指標であり、横断的かつ実態を明確に反映したものでなければならない。国際間比較の点からはもちろんのこと、「観光」の実質的経済規模を認識し、国、地方自治体の「観光振興」や「地域振興」に適切な政策・施策立案において非常に有効な統計・指標となるからだ。さらに、民間レベルにおいても、TSA統計・指標を利活用した自社の経営基盤の確認と、それにあった事業の展開が想定されるからでもある。

国、地域における観光の実質的経済的規模がある程度把握が可能となれば、その統計データなり調査結果を活用した次の展開が考えられる。つまり、国家としての観光立国戦略への政策立案であり、地域においては観光振興による地域活性化である。従来にない視点で、より実態に近い条件・状況を反映した取組になることは間違いない。さらに、民間レベルにおいても、各事業体の経営において、自社経営資源に占める観光のウエイトを把握することによって、新たな事業展開への着想が得られる可能性も挙げられよう。

V 白浜町をモデルとした地域TSAへのアプローチ

1.地域TSAの基本的な考え方

TSA策定には国・地域が一体となり進める必要がある。すなわち統一的な基準・マニュアルをもって調査を行い、国のTSA及び各地域のTSAの完成をみるべきものである。

本研究では、和歌山県白浜町をモデルとし、地域の観光経済構造を明らかにすることに主眼を置いた独自の調査分析手法を構築することとした。とはいえ、当地にとっての「観光」を衛星からながめた全貌を把握し共有し地域の観光振興に活用するという基本コンセプトはふまえたものであり、和歌山県の最大観光地である白浜町をモデルとした地域TSAへのアプローチである。

2.白浜町における観光経済の規模及び構造

本研究において、まず白浜町の観光経済の規模を推計する。さらに、各産業分野の観光経済への占める割合を推計し、その寄与度・依存度を算出するとともに、各産業分野ごとの観光を基準とした相関度を算出し、白浜における「観光産業」の依存度の大きさを定量化する。

白浜町における観光経済構造を明らかにすることにより、観光分野による経済的な効果の規模、すなわち関連産業総体による経済波及効果を測定する。そのフローの基本は、観光産業の売上高をベースとした産業連関による波及効果の算出となる。

3.具体的な調査分析手法

実際に当研究所が調査機関となり、和歌山県白浜町を対象エリアとした本研究の理論を具体化した調査を平成25年度に実施することができた。その概要について以下に示すこととする。

●調査の実施にあたり、白浜町観光産業経済効果調査協議会を結成
  • 白浜町観光産業経済効果調査協議会
  •  会長(白浜町長)井澗 誠
  •  構成団体:白浜町・白浜観光協会・椿温泉観光協会・日置川観光協会・白浜町商工会
            日置川町商工会・白浜温泉旅館協働組合
  •  調査機関:一般財団法人和歌山社会経済研究所
●調査の主旨をふまえ、白浜町全産業にわたる事業所調査を実施
  • 白浜町内に所在する764事業所にアンケート調査票を配布した。
  • この数は、総事業所数(「経済センサス」によれば1130)の7割近くになる。
●調査結果の精度を高めるため、事業責任者へのヒアリングを実施
  • 67の事業所は、アンケートだけでなく事業責任者から直接ヒアリングを行う。 
  • アンケートおよびヒアリング実施期間は平成25年5月〜9月(最繁期は中断)。
●372事業所からの回答(回収率48.7%)を達成
  • アンケート調査票の配布方式を郵送ではなく調査員による訪問としたことで、高い回収率、充分なサンプル数を得ることができた。
●アンケート調査の主な項目は、以下のとおり
  • 年間売上
  • 売上に占める観光客(個人客)、観光関連事業所(法人客)の割合
  • 年間費用
  • 費用の支払先割合(町内、県内、県外ほか)
  • 白浜町という立地のメリットおよび課題、観光振興への意見など
●白浜町の観光における経済構造・規模・効果を算出

本調査結果(372サンプル)をベースに、さらに以下のとおりの各種調査資料を使用し、様々 な分析を行う。

  • 白浜町決算書(平成20年度〜平成24年度)
  • 経済センサス活動調査(平成24年度)
  • 国勢調査(平成22年度)
  • 和歌山県観光客動態調査(平成14年〜平成24年)
  • 和歌山県観光統計調査(平成20年度)
  • 和歌山県産業連関表(平成17年度)
●白浜町の観光パワーを数字で示す

分析の結果、白浜町における以下の項目について、数値化することができた。

  • 白浜町の観光依存度
  • 白浜町の観光売上
  • 白浜町の域内調達率
  • 白浜町の観光GDP
  • 白浜町の観光産業経済構造
  • 白浜町の観光における経済波及効果

W 白浜町観光振興ビジョンの策定と地域TSA、その関係と意義

1.観光における白浜町のポジションと使命

観光立県をめざす和歌山県にとって、県内での全宿泊客の約4割を受け入れる白浜町は、将来にわたり最重要戦略拠点である。言い換えれば、白浜町が描く「観光振興ビジョン」は和歌山県の今後の経済に大きく影響を及ぼす基本方針である。

和歌山県内最大の観光地である「白浜」は、海沿いに開かれた温泉観光地として白良浜や三段壁などの名勝を有し、近年ではハワイ・ホノルルと姉妹浜提携や友好都市提携を結ぶなど、積極的に国内随一の海洋リゾートとしての充実がなされてきた。

当地は、道後(愛媛県)、有馬(兵庫県)とともに日本で最も古い日本三大温泉の一つに数えられる千三百余年の歴史を有する世界遺産・熊野古道(大辺路)の温泉地でもあり、約100本の泉源のうち、特に古い歴史を誇るのが、日本書紀、万葉集などに「牟婁(むろ)の湯」と記された湯崎で、黒潮おどる太平洋に面して、崎の湯露天風呂が今も湯煙をあげている。斉明、天智、持統、文武の四帝をはじめ、八代将軍吉宗公も入湯されたという由緒ある湯である。

また、関西では数少ない湯治湯として今も隠れた名湯の評判が高い「椿温泉」がある。自然を満喫しながら公園散策や磯釣りなども楽しめ、長期滞在の人々を癒してくれる。

熊野古道は白浜町を横断し、大辺路の最初の難関といわれる富田坂から険しい登りを経て美しい日置川を望む安居の渡し場跡に連なる。

特産品の紀州備長炭は無形文化財にも指定されている。製炭師が伝える炭焼きの歴史や技、自然と共生するための知恵などは実に奥深く、感動の世界がある。

2.白浜町の課題と将来ビジョン

本研究により、白浜町における観光経済がどれほどのウェイトを占めているか、また、各事業者が、どれだけ観光にかかわっているかが導き出せるなか、活力ある「オール白浜」実現のためには、観光における現状と課題及び将来目指すべきビジョンを明確に示すことが絶対条件となろう。

本研究は、観光地白浜の将来ビジョンにおける基本コンセプト構築の基礎的調査として位置づけられ、要件整理を行うものである。本研究・調査結果をベースとして「観光振興ビジョン」策定につなげることが有効かつ重要な手順である。

観光は、観光関連事業のみならず、多くの産業と関わりが深く、地域経済に及ぼす波及効果は非常に大きいものがある。そして、観光は、温泉・食・歴史・文化・癒しはじめ環境・医療・スポーツ・芸術・音楽など多くのテーマ性を持ち様々な領域・分野と関連する。「地域TSA」へのアプローチは、「地域の観光とは何か」という命題の共有に直結するところに大きな意義がある。

(2014.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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