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超高齢化、人口減少の現実と対応

研究部長  中井 祥之

1.人口減少の現実

ある事実が存在することを認識すること(1)と、その事実に不安を感じること(2)とは、決定的に異なる。(2)のレベルに達したものは、対策を考え始めるからである。人口減少等について、マスコミの注目を集め、専門家でない者も(2)のレベルに引き上げたのは、平成26年5月に公表された日本創成会議・人口減少問題検討分科会の「ストップ少子化・地方元気戦略」で提言であろう。インパクトのある見解であるが、多くの示唆を含むものであり、その後、政府が動き、地方自治体が人口ビジョン・総合戦略を作成するさきがけになっている。

日本創成会議では「推計によると、2040年には全国896の市区町村が消滅可能性都市に該当」としている。これは、全国の自治体の約半数(49.8%)である。日本創成会議では、国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口(平成25(2013)年3月推計)から「現状のままの人口流出が続く場合」を推計して問題提起した。消滅可能性都市とは、2010年から2040年にかけて、20〜39歳の出産期にある若年女性人口が、5割以下に減少する市町村である。この場合、人口の維持、回復は極めて難しくなり、行政機能の存続は困難になるとしている。日本創成会議は、ホームページにエクセルデータを公開しており、和歌山県では、6市16町1村が該当すると推計している。

2.人口減少への対応

日本創成会議は、インパクトのある提言をしているが、これらは、基本的には、現状のまま推移した場合の推計である。この推計は変えることができるし、変えなければならない。現状のまま推移すれば、極めて厳しい状況に陥る。子供を産み育てやすい環境を整備し、人口の流出を食い止めなければならない。

国では、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部において、2060年に1億人程度の人口を維持するという長期展望(合計特殊出生率が2030年に1.8程度、2040年に2.07程度まで上昇した場合)を示す「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と、それを基に5か年の政府の目標、施策の基本的方向性や施策を提示する「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定した。地方自治体においては、人口動向を分析し、将来展望を示す「人口ビジョン」と、それを基に5か年の目標や施策等を提示する「地方版総合戦略」を策定することとされた。

地方が、将来を見据えて、政策を構築することが求められている。今やっている仕事をブラッシュアップすることも必要だし、新しい仕事にチャレンジすることも大事である。全国の自治体から、多くの政策が出され、いいものには国は財政支援等を行うことになっている。いいものがあれば、他の自治体の政策を取り込むことも重要である。日本創成会議の推計のような未来にならないよう努力しなければならない。

3.高齢化への対応

人口減少と高齢化が同時に進行し、放置すれば、生産年齢人口や若年女性人口が減少する。高齢化に焦点をあて、すでに、取り組んでいるのが、医療、介護、福祉などの分野である。注目するのは、2014年6月の「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(以下、「医療介護総合確保推進法」という。)の制定である。団塊の世代が75歳以上となる2025年を念頭に制度設計を行っている。

4.2025年の75歳以上の人口

(1)健康寿命と平均寿命

2013年6月の社会保障制度改革国民会議報告書は、「1970年代モデル」から、2025年を念頭に置いた「21世紀(2025年)日本モデル」への社会保障制度改革の必要性を説いた。理由は、もちろん、超高齢化である。

これが、医療介護総合確保推進法に受け継がれる。75歳に焦点を当てているのには、理由がある。健康寿命(日常生活に制限のない期間)と平均寿命と差である。厚生労働省の資料(平成26年10月1日 厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会 第2回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料)によると、2013年の健康寿命は、男性71.19年、女性74.21年である。75歳とは、男女ともに健康寿命を超える年齢である。単純に見れば、男性では健康寿命から平均寿命80.21年までの9.02年間、女性では86.61年までの12.40年間、「日常生活に制限のある期間」を過ごすこととなる。健康寿命を延ばす対策も行われているが、現状のままだと、10年後の2025年には、団塊の世代のほとんどが何らかのケアを必要になる」ということである。

(2)75歳以上の人口は都市部で倍増

もう一つ、興味深いデータ(厚生労働省 平成26年度診療報酬改定説明会(平成26年3月5日開催)資料「平成26年度診療報酬改定の概要」 表1)がある。

この表によると、都市部では75歳以上の高齢者が2倍近くになる。かつ、もともと人口が多いので、人数では爆発的に増える。表に挙げられている都市部6都府県の合計だけでも、373.2万人もの増加である。全国の増加数が759.2万人なので、この6都府県で全国の増加数の半分(49.2%)を占めることになる。

資料では、この表ついて「75歳以上人口は、都市部では急速に増加し、もともと高齢者人口の多い地方でも穏やかに増加する。各地域の高齢化の状況に応じた対応が必要。」と課題が指摘されている。このような問題意識から、医療介護総合確保推進法等により、病床再編や地域包括ケアシステムなどが進められることになる。

本論から少し逸れるが、問題提起しておく。仮に膨大な数の高齢者を、都市部でそのまま対応するならば、都市部での高いコストを払って対応しなければならない。そうすることが国全体から見て正しいのか、地方の若者をさらに都会に吸い上げ、人口減少に拍車をかけるのではないか、少し疑問を持つ。

さて、和歌山県の状況を顧みると、県全体では、2010年の14.1万人の75歳以上人口が、国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口(平成25(2013)年3月推計)では、2025年には18.4万人と推計されており、増加は4.3万人で1.31倍となり、全国の1.53倍と地方型の1.15倍程度の中間である。

5.医療と介護の総合的な確保

これまで、医療、介護、福祉等は、いわば縦割りに、それぞれの論理で進められてきた。超高齢化等の現実を前に、医療介護総合確保推進法は、医療法・介護保険法・老人福祉法など19法案をまとめて改正し、「医療と介護の総合的な確保」を推進することとした。

6.病床再編

医療分野での改革のコアは、病床再編であろう。2025年には75歳以上の人口が、2010年より759.2万人増加する。普通に考えれば、病床は著しく不足すると考えるだろうが、そうでもないようである。表2は「OECD Health Data 2012」に基づく資料である。

平均在院日数では、アメリカの6.2日に対し日本は32.5日で5倍以上であり、人口千人当たり病床数では、アメリカの3.1床に対し日本は13.6床で4倍以上である。このため、入院期間を短くすることが考えられた。ベストな選択か解らないが、国民医療費の状況を考えれば、しかるべき選択なのかもしれない。

厚生労働省の平成26年度診療報酬改定説明会(平成26年3月5日開催)資料「平成26年度診療報酬改定の概要」では、「基本的な考え方」として次のように記載されている。

<高度急性期・一般急性期>
 ○病床の機能の明確化と機能に合わせた評価
  ・平均在院日数の短縮
  ・長期入院患者の評価の適正化 等
    (タイトル「次期診療報酬改定における社会保障・税一体改革関連の基本的な考え方」(概要)
    (平成25年9月6日 社会保障審議会 医療保険部会・医療部会)より抜粋)

平成26年度診療報酬改定で、要件の厳格化により急性期病床数を減らす方向の報酬改定が行われた。

平成18年度診療報酬改定では、急性期病床に高い報酬が支払われるよう改定された。患者7人に看護師1人を配置し、24時間手厚く看護する病床に高い入院基本料が支払われた。その結果、「7対1」の急性期病床が35.8万床に激増し、全病床数86.6万床の4割以上(41.3%)を占めるに至っている。

平成26年度診療報酬改定では、急性期病床の要件を厳しくし、2025年には高度急性期の病床を18万床にする考え方が示されている。そして、この削減で浮いた病床や人材、財源を他の病床や在宅医療に充て、医療機能の分化を図る考え方である。

7.地域包括ケアシステム

医療制度の整備などにより、在宅医療をはじめとして地域の役割がさらに重要になる。このような場合を含めて、地域で対応するのが、「地域包括ケアシステム」である。厚生労働省では、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築を実現していくとしている。また、平成23年の介護保険法の改正で、国や地方公共団体は、地域包括ケアシステムを推進するよう努めなければならない(介護保険法第5条第3項)と規定している。

(参考)介護保険法第5条第3項
国及び地方公共団体は、被保険者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、保険給付に係る保健医療サービス及び福祉サービスに関する施策、要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止のための施策並びに地域における自立した日常生活の支援のための施策を、医療及び居住に関する施策との有機的な連携を図りつつ包括的に推進するよう努めなければならない。」

抽象的でイメージしにくいので、「東京都世田谷区」の取組のポイントを紹介する。

世田谷区の特徴的な取組

医 療 在宅医療の充実に向けた福祉と医療の顔の見える関係づくり
介 護 定期巡回・随時対応型訪問介護を区内全域で提供できる体制を確保し、計画的に整備を推進
予 防 高齢者の居場所づくり(喫茶店・大学等の活用)
住まい 都市型軽費老人ホームをオープン
生活支援 空き家・空き部屋等を活用した地域活動(サロンやミニデイ等)の拠点整備

世田谷区の取組はよくできているが、地方の自治体の場合、医師の数などで困難な場合も想定される。「在宅医療の充実に向けた福祉と医療の顔の見える関係づくり」など医療との関係は、課題になる場合もありそうである。

8.サ高住

「住まい」の分野で、期待のできる動きがある。いわゆる「サ高住」である。 地域包括ケアシステムのたいへん重要な役割を担う可能性があると考えている。

正式名称は「サービス付き高齢者向け住宅」で、都道府県等が登録、指導・監督を行う民間の事業である。(1)床面積が原則25u以上 (2)バリアフリー構造 (3)安否確認サービス・生活相談サービスは必ず実施 (4)ケアの専門家が少なくとも日中建物に常駐することなどが登録基準である。和歌山市内で、食事つきで、月10万円程度のものもある。高齢者の住宅の不安を解消し、民間の競争原理が働き費用もリーズナブルで一定のケアが確保されるので、高齢者のニーズにマッチしたと言えよう。また、国等により補助、税制、融資のインセンティブも提供されている。

サ高住情報提供システムによれば、平成23年11月から27年7月までの3年9月で、全国で5,657棟182,865戸の登録がされている。和歌山県では91棟2,293戸である。和歌山県の75歳以上人口は、2010年で14.1万人、2025年で18.4万人となり、4.3万人の増加が予測されている。夫婦と単身を仮に1対2とした場合、2,293戸で3,057人分が「住まい」の分野で、整備されることになる。増加人数の約7%であり、順調に進んでいると言えよう。

高齢者としては、サ高住に入居していれば、ケアシステムに組み込まれているという一定の安心感が持てる。有料老人ホームは高額なイメージがあることなどから、適切な制度設計でスタートしていると考えられる。それを裏切らない制度の運用、さらなる制度設計の見直し、改善を期待したい。地域包括ケアシステムの小さな拠点として有効に機能すること、医療との連携、特別養護老人ホームへの入所など、さらなる充実を期待したい。また、地域的な偏在の課題もある。

9.提言(報われない地方の自治体)

人口減少と高齢化の概要を考えてきたが、放置した場合の地方の急激な人口減少と都市部の急激な高齢者の増加が課題になる。

日本創成会議・首都圏問題検討分科会は「東京圏高齢化危機回避戦略」(2015年6月4日)を公表している。それによると、東京圏は急速に高齢化し、後期高齢者は10年間で175万人増え、入院需要が10年間で20%増加する。そのため、このままでは、東京圏の周辺地域で医療不足が生じ、医療介護における「人的制約」が、最も大きな課題となり、地方からの人材流入がさらに高まるおそれがある、とする。その対策は、「東京圏の高齢者が希望に沿って地方に移住できるようにする」こととしている。公表時には話題になったが、「ストップ少子化・地方元気戦略」ほどの扱いはされていない。

地方で生まれた者の多くは、地方で高校卒業まで育ち、都会に出て、大学等で学び、就職し、老後を過ごす。説明のため、以下、一生をジュニア期(成長期)、ミドル期(就労期)、シニア期(高齢期)に分ける。地方の自治体では、負担の大きいジュニア期のみを担うことになる。ミドル期、シニア期を過ごす都会の自治体は、地方出身者が、一生において市町村に払う税等のほぼすべてを受け取る。そのまま、そこに住んでいれば、その高齢期に責任を持つことになる。

ところが、シニア期(高齢期)に地方にUターン・Iターンをした場合、不公平が生じる。地方の自治体は、ミドル期の税収等のメリットを得ることなく、シニア期の高度な負担を負うことになる。

一定の対策はされている。「住所地特例」の対象施設に、2015年4月からサ高住を含む改正が行われた。「住所地特例」とは、社会保険制度において、被保険者が住所地以外の市区町村に所在する介護保険施設等に入所等をした場合、住所を移す前の市区町村が引き続き保険者となる特例措置である。入所等をした市区町村の負担が過大にならないようにするための措置であり、国民健康保険、介護保険、後期高齢者医療制度に設けられている。

しかし、この制度では、市町村を超えて、直接入所等をする必要があり、適用者は限定される。退職後、U・Iターンし、健康に過ごした後、入所等をした場合には適用されない。一般的なシニア層のU・Iターンには、住所地特例は適用されない。地方の自治体は、ジュニア期・シニア期の負担ばかりを負い、シニア層のU・Iターンを本気で進めることは難しいのではないだろうか。

シニア層を受け入れることに本当にメリットがあることを、地方の自治体が納得する必要があり、そのためのインセンティブを国が提供する必要がある。

総務省の平成27年度地方交付税関係参考資料(第189回国会)によれば、市町村分の個別算定経費における高齢者保健福祉費は、65歳以上人口70,200円(対26年度1.3%増)、75歳以上人口90,300円(対26年度2.3%増)に改定されている。これにより、介護給付費負担金、後期高齢者医療給付費負担金の増等として590億円程度の増額となっている。毎年、社会情勢に応じた改正がなされているところである。今後とも、適切な対応を期待している。

希望するところをまとめる。シニア層が都会から地方にU・Iターンした場合、ミドル期(就労期)に税等を集めた都会の自治体と、シニア期のケアを負担する地方の自治体のバランス調整を、市町村がメリットを理解できる形で国に実施していただきたい。

10.追記(シニア層のU・Iターンと地方の自治体の「雇用力」「稼ぐ力」)

5月の総務大臣記者会見で公表した「地域の産業・雇用創造チャート」と、それに関する中村良平岡山大学大学院教授の「地域産業構造の見方、捉え方」が大変参考になる。「稼ぐ力」(大臣は、「県外からお金を持ってくる力」と説明されているが、市町村も入れると「域外からお金を持ってくる力」としたい)が強い産業(基盤産業)と、「雇用力」(雇用吸収力)の強い産業を、全市町村について知ることができる。

このチャートを見ると、地方の自治体でコンスタントに「雇用力」の強い産業は、「医療業」「社会保険・社会福祉・介護事業」である。これらの産業は、先に述べた「若年女性」の従事割合の高いのが特徴である。

シニア期も都市部でそのまま過ごせば、都市部の自治体のコストは地方の自治体のコストに比べ相当高いものになる。国が適切なインセンティブを提供すれば、シニア層のU・Iターンが進み、地方の自治体が積極的に受け入れる。都会の退職者がふるさとに帰ってくれば、地方の「医療業」「社会保険・社会福祉・介護事業」は増え、若年女性人口の増加にも繋がる。地方の子育てしやすい環境の中で子供を育てることになる。若い女性が介護などの仕事に定着するためには給与体系などの待遇改善の課題もあるが、若い女性が地方に残れば、若い男性も残り、後継者のいない漁業などの基盤産業の後継者もできる。好循環が期待できる。

また、シニア層を受け入れに対するインセンティブが、地方の自治体の財政を助け、「域外からお金を持ってくる力」となって、実質的には、隠れた「基盤産業」となる。環境が整えばふるさとに帰りたい、田舎暮らしをしたいという希望は多い。

(2015.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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