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耕作放棄地問題の解決に向けて

研究部長  則藤 正文

1.はじめに

耕作放棄地とは、農業センサスでは「所有している耕地のうち、過去1年以上作付けせず、しかもこの数年の間に再び耕作する考えのない土地」と定義されている。2005年農林業センサスによると、全国の耕作放棄地は38.6万ha(土地持ち非農家分を含む)で、耕地面積に占める割合(耕作放棄地率)は約1割となっており、農業従事者の高齢化や経営の悪化により、耕作放棄地は過去20年で約3倍にも拡大し、今後も相続等による土地持ち非農家の増加等、中山間地だけではなく、比較的条件のよい平地農業地帯でも耕作放棄地が増えることが懸念されている。

耕作放棄地の増加は、国土の保全、水源のかん養など農業の有する多面的機能の低下につながり、農業生産活動に対しても雑草の繁茂や病害虫の発生源、また鳥獣被害の拡大や農地集積の阻害となるのはもちろんのこと、食料自給率の向上という観点からも、その解消は喫緊の課題となっている。

そこで農林水産省の資料をもとに耕作放棄地の現状・推移と背景・要因を整理し、また国の政策的対応と取り組みを踏まえ、本県(和歌山県)における耕作放棄地問題の特徴と解決に向けて考えてみる。

2.耕作放棄地問題の概要

(1)現状と推移

2005年農林業センサスによると、全国の耕作放棄地は22万ヘクタール(総農家分)で、経営耕地面積に占める割合(耕作放棄地率)は5.8%となっている。これに土地持ち非農家分を加えると38.6万ヘクタールになり、耕作放棄地率は9.7%にも及ぶ。その推移をみると、平成に入るまでは13万ha前後で推移していたが、平成に入ってからは一変して拡大傾向を示すようになった。

耕作放棄地面積の推移

(2)背景と要因

耕作放棄地の拡大にはわが国の農業問題が大きく関係していることはいうまでもない。ここでは農家数の減少と農業従事者の高齢化をとりあげる。農家数は戦後一貫して減少してきたが、過去10年における減少傾向はとりわけ大きなものであった。2000年当時、233万戸あった販売農家数が、2009年には169万戸にまで減少した。過去10年でおよそ3割の農家が離農したことになる。この離農に際して多くの耕作放棄地が発生したと考えられる。

一方、農業従事者の高齢化も早いスピードで進行している。現在では従事者の半数以上が65歳以上であり、離農はしないまでも高齢化にともなう農地の耕作放棄地化は中山間地域を中心に早いスピードで進行していると考えられる。

耕作放棄地の発生要因を細かくみると、「高齢化等による労働力不足」とするものが最も多く、その他には「生産性が低い(鳥獣被害が多い)」、「土地条件が悪い」、「農地の受け手がいない」などの理由があげられている。中長期的に世界の食料需給のひっ迫が見込まれるなか、農業生産にとって最も基礎的な資源である農地の確保と有効利用を図るためには、耕作放棄地についても再生・利用を促進していくことが重要となる。

また、耕作放棄地は、国土の保全、水源のかん養など農業の有する多面的機能の低下につながることはもちろんのこと、農業生産活動に対しても雑草繁茂や病害虫の発生源、また鳥獣被害の拡大や農地集積の阻害という形で大きな有害要因となる。特に鳥獣被害は、現在中山間地域の農村の最重要課題であるといっても過言ではないくらいに深刻化している。本来は山で生活していたシカやイノシシが里山に下りるようになった理由はいろいろあろうが、その1つに耕作放棄地の拡大にともない、山と里山の境界線が曖昧になったことがあると言われている。

3.政策上の対応と取り組み

(1)法制度の対応

耕作放棄地問題の解消に向けた国の取り組みや法制度には大きく4つがあげられる。取り組みについては「中山間地域等直接支払制度」と「農地・水・環境保全向上対策」があげられる。前者は、耕作放棄地の増加などにより多面的機能の低下が特に懸念されている中山間地域等において、農業生産の維持を通じて多面的機能を確保するために農家などに直接支払いするものであり、2000年に開始された。また後者は、地域の農業者だけでなく、地域住民や都市住民も含めた多様な主体の参画を得て、農地・農業用水などの資源の適切な保全管理を行うことを支援するものであり、2007年に開始された。

一方、法制度については「農地法」および「農業経営基盤強化促進法」があげられる。両法は2009年に大幅に改正された。農地法の今回の改正では農地法の「目的」そのものが改正の対象となった。改正前の農地法では、「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、耕作者の農地の取得を促進し」とあったが、今回の改正によって、「農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し」とあるように、改正後は「効率的に利用する」に力点が置かれていることが分かる。つまり、「効率的に利用する」のであれば農家でなくても、株式会社でも外資系企業でも良いということである。賃貸借であれば誰でも農業経営に参入できるということを前提とし、耕作者自らが所有することを最も適当としていない。このように、農地の効率的利用を重視することで賃貸借を通じて農地の集積および耕作放棄地の防止と解消を目指している。

これをさらに推し進めるために、農地法と併せて農業経営基盤強化促進法も改正された。

今回の改正では「農地利用集積円滑化事業」が新設された。農地利用集積円滑化事業とは、効率的かつ安定的な農業経営を営む者に農用地の利用集積の円滑化をはかるため、各自治体またはJAなどの農林水産省令の要件に該当する主体が行う事業である。事業の内容は以下の3つを想定している。1つは「農地所有者代理事業」で、具体的には、農用地等の所有者の委任を受けて、その者を代理して農用地等について売り渡しや貸付または農業の経営、もしくは農作業の委託を行う事業である。2つは、農用地等を買い入れ、または借り受けて、当該農用地等を売り渡し、交換し、または貸し付ける事業である。そして3つは、前者で買い入れ、または借り受けた農用地等を利用して行う、新たに農業経営を営もうとする者が農業技術または経営方法を実地に習得するための研修その他の事業である。

(2)耕作放棄地全体調査の実施

農林水産省では2008年に「耕作放棄地全体調査」というものを実施した。農林業センサスが農家などの経営体が自ら調査票に情報を記入するのに対して、本調査は市町村と農業委員会が協力して、調査員が一筆ごとに農地の状態を実際に目で見て、@草刈り、耕起、整地などをすれば耕作可能な土地(緑)、A基盤整備をすれば農業利用できる土地(黄)、B森林・原野化し、農地に復元が不可能な土地(赤)に分類した。1,777市町村の報告をもとに同省が全国の耕作放棄地面積を推計したところ、「緑」は8.2万ha、「黄」は6.7万ha、「赤」は13.5万haの合計28.4万haとなり、農林業センサスのデータと比べて約10万ha少ない結果となっているものの、これまで国は農林業センサスのデータを頼りに、実態を把握しないままに耕作放棄地の解消を目指していたきらいがあったが、本調査により国は耕作放棄地問題の解消に本腰を入れたと言える。ちなみに和歌山県では、「緑」が714ha、「黄」が478ha、「赤」が699haの合計1,891haとなっている。

(3)現場での取り組みと課題

「耕作放棄地の現状と課題」(農林水産省)のなかの「耕作放棄地の解消に向けた取り組み」によると現場の取り組みには大きく5種類の取り組みがある。1つは集落の取り組み、2つは農業者等の取り組み、3つは公的機関の取り組み、4つは企業等の取り組み、5つはNPO等の取り組みである。1つ目の集落の取り組みでは、先述した中山間等直接支払制度や農地・水・環境保全対策などの国の補助事業を通じた耕作放棄地の復旧整備が行われている。2つ目の農業者等による取り組みでは、集落営農組織や農業生産法人が主体となり、そば、大豆、飼料作物、放牧などの利用が行われている。3つ目の公的機関の取り組みでは、JAや行政が主体となった研修施設や新品目の栽培援助が行われている。4つ目の企業等の取り組みでは、農業参入した企業による営農事業が行われている。5つ目のNPO等の取り組みでは、菜の花プロジェクトや市民農園利用などの取り組みが行われている。

このように今回の農地法と農業経営基盤強化促進法の改正は農地の集積や耕作放棄地の防止を大きな目的としているが、高齢化が進行し、かつ経営が厳しい状況では法的整備をしても農地を借り入れる余力が果たしてあるのだろうか。とりわけ中山間地域では農業従事者の高齢化が進行し、労働力が慢性的に不足するなか耕作放棄地が増える一方で、それを受け入れる担い手がいない。またあらゆる農産物の販売価格が低迷しているなかでは、たとえ若い担い手がいたとしても経営が苦しくて農地を借り入れる余力はない。いわんや作業効率や土壌条件が悪い耕作放棄地を受け入れる余裕など担い手には当然ない。これこそ耕作放棄地問題の根幹であり、農地法や農業経営基盤強化促進法の改正による農地の集積促進策ではその問題の根本解決にはならないと考えられる。

耕作放棄地問題を解決するには、まず各地の地域特性を踏まえて、それぞれに合った多様な取り組みの可能性を考えることが必要であり、普遍的なスマートな解決策はないと言える。

4.和歌山県における耕作放棄地問題の特徴と課題

(1)和歌山県農業の特徴と農地をめぐる課題

和歌山県は果樹園芸県であり、なかでも中山間地の傾斜地を利用した果樹栽培は、全国1、2位の産出額がある。しかしながら高齢化の進行や農産物の価格低迷により、県内の農業産出額は1991年の1,737億円をピークに、2008年では1,079億円まで減少している。2008年の内訳を見ると、産出額の60%が果樹、次いで16%が野菜、8%が米、続いて花卉という順番になっている。

このように農業産出額が減少する一方で、耕作放棄地面積は果樹栽培の多い中山間地域を中心に年々増加傾向にあり、2005年農林業センサスでは耕作放棄地面積は3,647haで、耕作放棄地率は12.1%と、全国平均の9.7%に比べ、高い割合を示している。

和歌山県の経営耕地面積・耕作放棄地面積の推移

理由としては、中山間地域では当然のことながら傾斜地が多く、基盤整備があまり進んでおらず経営の効率化を図ることが難しいこと、特に果樹栽培の場合、それが永年栽培作物であること、さらに水田農業に比べ収穫作業が手作業であり機械化が難しいこと、そして農地を面的に集積することが非常に困難であるということがあげられる。

県内でも農地の受け手が豊富な地域では、農家間のネットワークを活用して独自に流動化を進めるところがみられるが、受け手が乏しい地域では、耕作放棄地が増加している。

(2)耕作放棄地問題の解決に向けて

和歌山県における耕作放棄地の解消には少なくとも2点の問題を解決する必要がある。1点目が中山間地域における農地の集積である。中山間地域では平地に比べ農地の集積を図ることは難しい。また果樹地帯では、水田地帯と異なり集落的に農地を管理する文化や組織が未発達であることも農地の集積を難しくしている要因となっていると思われる。この点を克服するためには、JAの地域のコーディネーターとしての役割が大きくなる。JAが「農地利用集積円滑化事業」に参画し、行政や農業委員会等関係機関と連携しながら地域の農地の情報を収集し、農地の貸し手と借り手との賃貸借や売買を仲介する機能を担ったり、担い手の乏しい地域ではJA出資型農業生産法人を設立したりといった農地利用調整への積極的な取り組みが期待される。

2点目が果樹経営の改善である。農業経営の悪化こそ耕作放棄地問題の根幹である。この点を克服するためには果樹農家の経営を改善することが不可欠である。しかし、基幹作物であるミカンやウメは販売価格が低迷しているし、この傾向を変えることは容易ではない。そこで提案したいのが、耕作放棄候補地における粗放栽培品目の導入である。農業経営の悪化と高齢化が進行するなかで、収益性の低い悪条件の農地は耕作放棄される可能性が強いが、そこにダイダイ等の粗放栽培が可能な品目を栽培することで耕作放棄地の防止と所得の増加につなげることはできないだろうか。もちろんそれを実現するには、行政やJAが主導して導入品目の産地化を図る必要がある。実際に、耕作放棄地の防止を目的としたダイダイ振興の取り組みが紀南地域で始まっている。このような取り組みがたくさん生まれ、それぞれの取り組みが継続することが耕作放棄地問題の解決に大きな成果をもたらすと考えられる。

5.おわりに

耕作放棄地は日本の農業問題の産物である。農業従事者の減少と高齢化、農業所得の減少による経営の悪化、一向に進まない農地の集積などの問題が深刻化するなかで、捨てられる農地が増加しているのである。したがって、耕作放棄地の解消は日本の農業問題の解決にほかならず、そこでは農家、集落、行政、JAなど地域が一体となって地域の特性を踏まえた、きめ細かな取り組みを持続的に行っていくことが唯一の解決策になると言えよう。 

(2010.10)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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