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企業価値向上と持続可能な社会の実現を目指した資金調達手法
  〜サステナブルファイナンス〜

研究部長  岡 広史

1.はじめに

持続可能性を意味する“サステナビリティ(sustainability)”は、1987年、「環境と開発に関する世界委員会」が公表した報告書の中心的な概念として「持続可能な開発」(将来の世代の欲求を満たしつつ,現在の世代の欲求も満足させるような開発)が取り上げられて以来、地球環境問題、貧困、性的差別、人権問題といった地球上に起こる様々な課題を解決しつつ経済的な発展も継続していくための合言葉として全世界に深く浸透してきた。

2006年に国連が、機関投資家の意思決定プロセスにESG(Environment(環境) Social(社会) Governance(ガバナンス))課題を組み込み、受益者のために長期的な投資成果を向上させることを目標とした責任投資原則を定めて以降、持続可能性を重視するESG投資は、急速な拡大を見せている。また、2015年の国連サミットにおいて、グローバルな社会課題を解決し、持続可能な世界を実現するための国際目標であるSDGs(Sustainable Development Goals「持続可能な開発目標」)が採択された。このような中、多くの企業が短期的な利益追求だけではなく環境や社会に目を向けた経営により新たな企業価値向上へと舵を切り始めている。

一方、地球温暖化対策については、2015年にフランスのパリで開催されたCOP21において締結されたパリ協定では、「すべての国と地域が世界の気温上昇を産業革命前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする。」ことを目標とした。その後、2021年11月にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26において、「産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える努力を追求する。」としたグラスゴー気候合意が採択され、世界の目標は、強化された。目標達成のためには、2010 年比で 2030 年までに世界全体のCO2排出量を45%削減し、今世紀半ば頃には実質ゼロにする必要性が訴えられており、各国は必要に応じて2022年末までに2030年の目標を見直すことになっている。我が国政府は、地球温暖化対策計画(2021年10月22日改訂)において、「2030年度において、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく。」という高い目標を掲げ、民間企業への挑戦を促している。

このような中、企業のサステナブルなチャレンジへの投融資手段として、サステナブルファイナンスに注目が集まっている。

2.サステナブルファイナンスとは

サステナブルファイナンスとはサステナブルファイナンスの構成(主なもの)を図1に示す。

図1 サステナブルファイナンスの構成(主なもの)
>図1 サステナブルファイナンスの構成(主なもの)
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サステナブルファイナンスは、金融機関が行う融資と資本市場から資金を調達するために発行される債券に分けられる。融資には、使用用途が限られず、野心的なサステナブル目標を達成することで金利優遇等のインセンティブがあるサステナビリティ・リンク・ローン(以降SLL)と使用用途がグリーンプロジェクトに限られ、調達資金が確実に追跡管理されるグリーンローンがある。また債券においても使用用途がグリーンプロジェクトに限られ調達資金が確実に追跡管理されるグリーンボンド、資金の使い道は社会課題に対処するソーシャルボンド、資金の使い道が、グリーンプロジェクトやソーシャルプロジェクトに限定されるサステナビリティボンド、資金の使用用途が限られず、ESGに関連する目標を設定し、その達成状況に応じた対応をあらかじめ設定して発行するサステナビリティ・リンク・ボンドなどがある。ローンについてはローン・マーケット・アソシエーション(LMA)、アジア太平洋ローン・マーケット・アソシエーション(APLMA)、ローン・シンジケーション&トレーディング・アソシエーション(LSTA)、債券については国際資本市場協会(ICMA)から「原則」や「ガイドライン」が発行されており、それらへの整合性を確認するために第3者機関によるセカンドオピニオン取得が推奨されている。

サステナブルファイナンスのメリットとしては、

  1. 借手企業にとっては、優遇された金利、長期の貸出期間等、有利な条件で資金調達が出来る。
  2. 借手、貸し手双方が環境や社会課題に取り組む企業姿勢を対外的にアピールすることが出来る為、社会からの支持が得られ、業績の向上、ESG投資などによる資金調達、人材の安定確保に良い影響を及ぼす可能性がある。
  3. 借手企業のサステナビリティに関する戦略、リスクマネジメント、ガバナンスの体制整備等サステナビリティ経営基盤が強化されるとともにサステナビリティのパフォーマンスが向上することで、更なる企業価値の向上、資金調達基盤の強化に繋がる。

などが挙げられる。

図2に各ローン、債券の国内市場への普及状況を示す。サステナブルファイナンスの普及は、当初は債券でスタートした。中でもグリーンボンドは、現在も発行総額、件数とも最も多く順調に実績を伸ばしている。ローンについては、2017年にグリーンローン、2019年にはSLLが登場し実績を伸ばしているが、特にSLLについては、他と比較して急上昇しており、注目すべきである。以降、SLLを主体に述べる。

図2 サステナブルファイナンス各ローン・債券の国内市場への普及状況
図2 サステナブルファイナンス各ローン・債券の国内市場への普及状況

3.サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)

SLLの特徴は、借手が社会の持続可能性に貢献する為の目標値であるサステナビリティパフォーマンスターゲット(SPTs)に向けて行動し、達成した場合は、金利が優遇されるなど改善度合いと融資条件が連動している。一方、資金の使用用途は限定されないため使い勝手が良く、これが発行実績を急上昇させている理由と思われる。しかしながら、簡単に融資を受けることが出来る訳ではない。SPTsは、借手の包括的な社会的責任に係る戦略で掲げられたサステナビリティ目標と整合性があり、且つ野心的であって容易に達成できるものであってはならない。シンジケートローン市場で活動している主要な金融機関の代表から構成される作業部会によって策定、改訂されているSLL原則では、SPTsの借手のサステナビリティ目標との整合性や野心性は、第3者評価機関によるセカンドオピニオンを取得することが推奨されている。野心性は、@政府・自治体の目標や国際的な基準、A業界内での比較、B過去の実績などと比較して評価される場合が多い。

環境省のWebサイト「グリーンファイナンスポータル」に国内におけるSLLの発行リストが掲載されているが、借手のSTPsがどのカテゴリーに属しているのか業種ごとにカウントしたものを表1にまとめた。借手の業種としては製造業、不動産業、物品賃貸業が多く、SPTsの約8割が環境関連であり、しかも約7割が脱炭素関連で占められている。企業のサステナビリティ活動が脱炭素を中心に行われていることが分かる。

表1 国内におけるSLLの借手業種とSPTsカテゴリー
表1 国内におけるSLLの借手業種とSPTsカテゴリー

和歌山県内の企業による脱炭素の動きはどうだろうか。当研究所が和歌山県内企業2,000社に対して2022年3月5日〜25日に実施した景気動向調査の中で、CO2排出削減に向けた取り組みについてのアンケートを実施した(有効回答数798)。その結果を表2,3に示す。

表2 脱炭素に関しての取り組み
表2 脱炭素に関しての取り組み

表3 脱炭素に向けて、取り組みを行っていない理由
表3 脱炭素に向けて、取り組みを行っていない理由

注)「必要性を感じない」と回答したものを省いて補正。

脱炭素に関しての取り組みを行っていない(「今後、行う予定」は除く)と回答した企業は6割にも及ぶ。また、取り組みを行っていないと回答した中で約2/3が手段・方法が分からないと答えており、次いで1/3が取り組むための資金が不足と回答している。前者については県などに相談窓口の開設が望まれる。後者については、是非、サステナブルファイナンスを活用していただきたい。

4.おわりに

今日、大企業だけではなく中小企業も、サステナビリティに取り組まなくてはならない時代になっており、地方金融機関によるサステナブルファイナンスは大きな役割を果たす。近年、大手都市銀行のみならず、地方銀行も次々とサステナブルファイナンス事業に参入している。和歌山県でも5月31日、紀陽銀行が参入を発表した。今後、利用企業増加による県内企業のサステナビリティ基盤の強化と企業価値向上そして地域社会のサステナビリティ向上に期待したい。

(2022.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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