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広域の公共交通を考える

研究員  阪本 浩之

1.はじめに

2011年春には九州新幹線が全線開通し、新大阪〜鹿児島中央間に九州・山陽直通の新幹線が運行される。これにより、新大阪〜熊本間が約3時間20分、新大阪〜鹿児島中央間が約3時間55分で結ばれることになる。

将来、北海道、北陸及び九州(長崎ルートを含む。)新幹線の整備新幹線が開通すると、新幹線(ミニ新幹線を含む。)が通らない県は、和歌山県をはじめ、茨城県、千葉県、山梨県、三重県、奈良県、鳥取県、島根県、香川県、愛媛県、高知県、徳島県、大分県、宮崎県となり、三大都市圏近郊の県又は国土軸から離れている西日本の県だけとなる。

地方は、既に超高齢化並びに人口減少社会に直面し、観光産業や団塊世代の移住など交流人口の拡大で、活力を維持しようと取り組んでおり、今後より一層、地方間での競争が激しくなるものと予想される。

したがって、県民の利便性を向上するとともに、交流人口の拡大という地方同士の競争に勝つためには、高速道路だけでなく鉄道など広域の公共交通の整備は必要である。

2.広域の公共交通の現状

和歌山県において、広域の公共交通の主役を担ってきたのが、紀勢本線の特急「くろしお」である。特急「くろしお」は昭和40年3月にディーゼル特急として運行が開始され、昭和53年10月に複線、電化及び自然振り子電車の導入により天王寺〜新宮間30分の時間短縮を、平成元年7月に梅田貨物線等の活用により新大阪駅の乗り入れを、そして、平成9年3月には主に白浜以南の軌道強化、駅構内の改良及び制御付き自然振り子電車「オーシャンアロー」の導入(紀勢本線高速化)により和歌山〜新宮間20分の時間短縮を、それぞれ実現した。

現在、最も速い特急「オーシャンアロー」で、新大阪〜新宮間3時間46分となっている。

紀勢本線(天王寺・新宮間)到達時間の推移

次に、近年、JR特急に比べ、低価格で人気の高い昼行の高速バスは、近畿自動車道紀勢線の県南部への延伸にあわせ、平成14年7月に運行が開始された「南紀白浜〜なんば、大阪・神戸間全12往復」のほか、「南紀白浜〜和歌山間5往復」及び「南紀勝浦〜名古屋間1往復」の3路線がある。

なお、夜行の高速バスとしては、「和歌山〜新宿・東京駅間」、「和歌山〜横浜・TDR・幕張間」、「南紀勝浦〜池袋・大宮間」の3路線各1往復がある。

3.広域の公共交通の競争力

それでは、県内のJR特急や高速バスは、他県(主として大阪から直通の新幹線が通らない県)と比較してどの程度の利便性が確保されているのであろうか。

下のグラフは、大阪駅(和歌山方面のみ新大阪駅)を中心として、主要都市や主要温泉観光地への到達時間と距離(平成20年3月ダイヤ改正)を示したものである。所要時間は最も速い列車のものとし、新幹線と在来線との乗り換え時間も含んでいる。

大阪(新大阪)から主要都市等への所要時間と距離

和歌山方面は新宮が新大阪から276.5kmで、所要時間は226分となる。近畿圏に位置する都市でありながら、四国の県庁所在地の中で最も遠い松山(394.7km、218分)よりも時間がかかっている。同じく、紀伊勝浦も261.6kmに211分を要し、道後温泉のある松山(394.7km、218分)や能登半島の和倉温泉(344.6km、215分)とほぼ同じ所要時間となっている。

白浜は181.3kmで133分となっており、加賀温泉(225.3km、130分)に比べ、時間的に遠く、ほぼ同じ距離に位置する城崎温泉(183.7km、159分)に比べ、時間的に近くなっている。

表定速度(※列車の運行時間と距離を時速に換算したもの)で現わすと、城崎温泉が69.3km/hで最も遅く、次いで、新宮73.4km/h、紀伊勝浦74.3km/h、白浜81.8km/h、倉吉83.5km/h、紀伊田辺84.2km/h、鳥取84.8km/hの順にとなり、山陰方面・城崎温泉(福知山線ほか)、和歌山方面(紀勢本線ほか)と山陰方面の鳥取(智頭急行線ほか)が、北陸方面(金沢:107.0km/h)、四国方面(松山:108.6km/h)や山陰方面・松江(松江:108.9km/h)に比べ、時間的に遠い地域となっている。

大阪(新大阪)から主要都市などへの所要時間と距離

なお、北陸方面は、平成3年9月の七尾線電化と特急乗り入れ、平成7年4月の「サンダーバード」の導入、四国方面では山陽新幹線の300km/h運転化によるスピードアップのほか、平成5年3月の予讃線の電化、平成10年3月の高徳線の高速化などが、実施された。また、山陰方面の城崎温泉(福知山線ほか)も平成4年3月にスピードアップし、鳥取(智頭急行線ほか)は、平成6年12月の智頭急行線の開業と新型車両の導入により大幅な時間短縮が図られている。

一方、高速バス(大阪駅方面)の運行状況はどうであろうか。

下の表が、高速バス(大阪駅方面)の運行状況である。運転本数は夜行便や複数のバス事業者が運行しているものを全て含んでいる。

高速バスの運行状況

高速バスのない都市等は、和歌山方面・白浜以南の新宮と紀伊勝浦、北陸方面の加賀温泉と和倉温泉でである。

米子、鳥取、松山、高知と徳島には、高速バスが10往復以上も頻繁に運転されており、競合するJR特急と同数又はそれ以上の本数が運行されている。また、松江は8往復、倉吉も9往復の本数が確保されている。

北陸方面は、30分間隔で速達性の高い特急「サンダーバード」等が運行されていることもあってか、高速バスの本数は少なく金沢7往復と富山4往復で、先に記載したとおり加賀温泉と和倉温泉には運行されていない。なお、城崎温泉には3往復がある。

以上のことから、和歌山方面は、鉄道の速度が遅いうえ、新宮と紀伊勝浦には高速バスの運行もなされず、広域の公共交通の利便性が低いことがわかる。

4.紀勢本線の更なる高速化の必要性

和歌山方面が、紀勢本線の電化、新大阪駅乗り入れや高速化を実施しても、なお、時間的に遠くなっているのは、どういう訳なのであろうか。

解く鍵は、過去と現在との所要時間の差にある。

比較は四国方面と山陰方面(鳥取を除く。)の各都市が山陽新幹線の速度向上と在来線の電化・高速化の両面から時間短縮されているため、ほぼ同じ距離にある都市間の在来線のみに限定し、天王寺〜新宮間(262.0km)、大阪〜金沢間(267.6km)及び大阪〜鳥取間(昭和50年3月当時:264.9km、現在:210.7km)の3路線とした。また、時期は国鉄時代の大きなダイヤ改正となった昭和50年3月と平成20年3月とした。

昭和50年3月当時は、天王寺〜新宮間は、まだ非電化で4時間23分、大阪〜金沢間は既に電化されたうえ、湖西線経由に短縮され3時間7分、大阪〜鳥取間は非電化で播但線を経由して4時間10分であった。

平成20年3月では、天王寺〜新宮間は電化と高速化により57分短縮され3時間26分、大阪〜金沢間は、130km/h運転化により23分短縮され2時間30分、大阪〜鳥取間は、依然として非電化ながら、高速化と智頭急行線経由に変更され、1時間41分短縮して2時間29分になっている。

昭和50年3月から平成20年3月までの時間短縮率で言えば、天王寺〜新宮間21.7%、大阪〜金沢間19.8%、大阪〜鳥取間40.4%となっており、紀勢本線が電化や高速化を実施しても、なお、その差を縮められていない状況がわかる。

同じ距離にある都市間の時間短縮の推移(昭和50年3月から現在)

他方、高速バスについては、現在でも大阪〜白浜間を3時間半以上も要していることから、白浜以南に延長運転したとしても、高速道路の延伸が進まない中では、夜行便しか期待できない。さらに、1kmを建設するために約100億円を要するといわれる高速道路を南紀田辺インター以南に延伸していくには、なお相当の費用と時間を要する。

そのため、他県に劣らない競争力のある広域の公共交通を確保する観点から、紀勢本線の更なる高速化が必要である。

なお、高速化の具体的方法としては、平成8年〜9年の紀勢本線の高速化では、和歌山〜紀三井寺など一部区間のみに止まった速度向上(130km/h運転化)を可能な限り和歌山〜新宮間の全線で行うことができるよう軌道の強化を行うとともに、紀伊田辺〜新宮間の中間駅17駅を中心として、駅構内の改良(一線スルー化、分岐器の高番数化及び駅構内の棒線化)など鉄道施設の改良を行うことなどである。

これらの整備により急曲線の多い紀勢本線でも、制御付き自然振子電車がR=200mで70km/h(本則+20km/h)、R=400mで105km/h(本則+30km/h)、R=600mで125km/h(本則+35km/h)で運転できるようになり、和歌山〜新宮間で相当の時間短縮が図れる。

<参考>

(1)紀勢本線電化・複線化

昭和53年、電化・複線化及び自然振り子電車導入により、天王寺〜新宮間で30分もの大幅なスピードアップを実現した。ただし、時間短縮は白浜以北がほとんどであり、白浜〜新宮間は電化しても、振り子電車にもかかわらず、本則(基本の速度)のままでディーゼル特急とほぼ同じ時間を要した。

(2)紀勢本線高速化

平成8年から9年にかけて、主にディーゼル特急当時のままであった白浜〜新宮間の脆弱な軌道(主に曲線区間)を改良するとともに、途中6駅等の分岐器の改良などを行い、振り子電車本来の本則(基本の速度)にプラスして走れるようにし、和歌山〜新宮間で20分の時間を短縮した。

(3)速度向上(130km/h運転化)

国鉄時代の昭和43年10月1日のダイヤ改正から、軌道強化された全国の主要幹線では、120km/h運転が実施され、JR化後は130km/hで運転される路線が多数存在するようになった。なお、特別な線路条件では140km/hや160km/hでの運転も実施されている。

(4)一線スルー化、分岐器の高番数化及び棒線化

分岐器などによる制限速度により、列車が速度を落とすことなく通過できるよう駅構内の改良を行うこと

5.紀勢本線の利用促進と「まちづくり」

しかしながら、紀勢本線や特急「くろしお」等の利用者が年々減少している状況下では、鉄道事業者は、紀勢本線の更なる高速化のために鉄道施設の整備に投資することは困難で、鉄道の利用促進が最も大きな課題となる。

既に交通手段の主役は自動車に取って代られており、沿線の住民はもとより、他の地域からの来訪者に、鉄道を利用するよう強制することはできないばかりか、単に鉄道の到達時間を短縮しただけでは大幅な需要の増加につながらなくなっている。

平成2年度を100とした平成17年度のJR乗降客数

特急「くろしお」等の乗車人員の推移(下り片道1日平均)

沿線の市町村としても、公共交通とは言うものの、企業(鉄道事業者)が経営するものに対し、需要を掘り起こすための直接的な支援なども難しい。

また、従来からも、全国の様々な地域でバス路線の充実やパークアンドライドの実施、SL等の特別な列車の運行や観光キャンペーンの実施など鉄道を利用促進させる方策が実施されているが、大きな効果があがっていない。

このような中、紀勢本線の更なる高速化を図るためには、鉄道の利用促進が、鉄道事業者などの特定の事業者のためのものではなく、幅広く沿線市町村の地域振興と沿線住民の利益につながるよう「まちづくり」の中に、明確に鉄道の役割を位置付ける必要がある。

つまり、紀勢本線の更なる高速化を契機として、沿線の市町村、住民と鉄道事業者がともに、鉄道というツールをうまく使いこなし、「まちづくり」に生かして行こうと認識し、鉄道を輸送手段として活用する方策を検討するだけでなく、駅及びその周辺、列車そのもの、橋梁やトンネルなどの鉄道施設や沿線の風景、歴史・文化など、あらゆるものを沿線の資源として捉え、地域振興や観光振興など「まちづくり」に活用する方策を検討するとともに、これらの施策を一つひとつ着実に実施し、地域振興と鉄道の利用促進を一体化していくことが重要なのである。

6.おわりに

先日、松山への出張があり、行きは大阪駅からの高速バス、帰りはJRで特急と新幹線を乗り継いできた。

高速バスが発着する大阪駅桜橋口のバスターミナルは人であふれかえり、10分ごとに全国あらゆる方面に発車し、台数も1台だけではなく2号車、3号車と複数台連ねる盛況ぶりであった。大阪から松山までの車両は3列シートで快適、所要時間は5時間ちょっと、運賃は7,000円と安い。

帰りの予讃線は、相変わらず振り子電車が右に左にと車体をくねらせ、通過する駅構内も全くスピードを落とさず立派な走りっぷりであった。ただ、指定席を求めずとも自由席でも座れることから、10年以上も前に利用した頃に比べ、やや利用者は減っているように感じた。松山から新大阪駅まで乗り換えも含め3時間半とちょっと、こちらの運賃は約12,000円。

松山へは、JRや高速バス以外に、伊丹空港から飛行機という選択肢もあり、複数の交通手段があり利便性が高い。

松山は、司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」を活用し、まち全体をミュージアムと見立てる「フィールドミュージアム」と題したまちづくりを進め、伊予鉄道も、観光客向けに坊ちゃん列車や低床型の路面電車を運行するほか、鉄道、バスとタクシーなどに利用できるICカード(電子マネー)を実用化している。また、松山城では、ボランティアらしき女性が、マドンナに扮し観光客といっしょに記念写真を取り、早朝からは、別のグループが歓楽街の清掃を行うなど、まちも公共交通も活気にあふれていた。

「和歌山県」も、松山に劣らず、今以上に地域と広域の公共交通が活性化し、県民の利便性が向上するとともに、他の地域との交流が活発化することを期待したい。

なお、今回のレポートでは、大阪を中心として、鉄道の所要時間と距離、高速バスの運転本数のみを比較の対象としたが、機会があれば、東京を中心として、鉄道、バスに加え、飛行機も含めたものを実施したいと考えている。

(2009.3)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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