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和歌山における過疎対策についての私的一考察

主任研究員 佐野 利之

T 過疎地域の現状と課題

1.過疎対策の概要

我が国の過疎対策については、昭和45年に制定された「過疎地域対策緊急措置法」以来、4次にわたるいわゆる「過疎法」の制定により総合的な過疎対策事業が実施され、過疎地域における生活環境の整備や産業の振興などに一定の成果を上げてきた。現行の「過疎地域自立促進特別措置法の一部を改正する法律」は平成22年4月1日に平成27年度までの6年間の時限立法として施行され、平成24年6月に期限を5年間延長する一部改正が行われ、現在法の適用期限は令和3年3月末までとなっている。

この法律は、人口の著しい減少に伴って地域社会における活力が低下し、生産機能及び生活環境の整備等が他の地域に比較して低位にある地域について、地域の自立促進を図り、もって住民福祉の向上、雇用の増大、地域格差の是正及び美しく風格ある国土の形成に寄与することを目的としている。都道府県は過疎法に基づき、方針及び計画を策定し、指定市町村において、地域の実情に応じた計画を策定し、これに基づく計画的な事業を実施しているところである。

2.和歌山県の過疎地域の現状
(1)概況

平成26年5月に日本創成会議・人口減少問題検討分科会が発表した、いわゆる「増田レポート」によると、「現在の人口移動の状況が今後も収束しなかった場合、2010(平成22)年から2040年までの間に『20〜39歳の女性人口』が半数以下に減少する市区町村が、896自治体にものぼる」とされ、これらの896自治体を「消滅可能性都市」と名付けた。和歌山県では和歌山市、岩出市、広川町、日高町、御坊市、上富田町、白浜町を除く23市町村が名を連ねている。

過疎法の規程に基づき公示された和歌山県における対象地域は18市町村(うち過疎地域とみなされる区域を有する市町村:1市1町、一部過疎市町村1町)であり、全市町村数の60%が過疎市町村とされている。面積では県全体の約3/4を占めるが、人口は約1/4であり、人口密度も全県平均の約1/3程度となっている。地理的には約85%が森林地域で、耕地は約4%であり、大部分が内陸部又は県南部に位置している。


〈和歌山県提供資料より〉

(2)人口

<1> 人口の推移(国勢調査)

  • 〇過疎地域の人口は、減少基調で推移し、県総人口に占める割合も低下している。
  •  ・県総人口に占める過疎地域人口の割合(S45→H27)33.0%→25.7%

  • 〇昭和60年との比較では、過疎地域以外の人口が漸減であるのに対し、過疎地域の人口は大きく減少している。
  •  ・人口(対 S60年)約△8万人(△25.6%)過疎地域以外 約△4万人(△5.1%)

  • 〇過疎地域における若年者数(15〜29歳)及び生産年齢人口(15〜64歳)の減少率が高い。
  •  ・若年者数増減率  (S60→H27)△50.3%(過疎地域以外△31.2%)
  •  ・生産年齢人口増減率 (S60→H27) △38.3%(過疎地域以外△18.0%)

  • 〇過疎地域以外と比べ、高齢者比率が高い。
  •  ・高齢者比率    (S60→H27)16.0%→35.5%(過疎地域以外12.0%→29.3%)
3.過疎地域の課題

人口減少や少子高齢化が著しい過疎地域等では地域からサービス産業の撤退が進み、医療福祉・交通・買い物などの暮らしを支えるサービスの低下など様々な問題が生じ、生活基盤が弱体化し、集落機能の維持が困難となるとともに、地域社会の担い手が不足するなど地域の活力の低下が懸念されている。サービス業等の第3次産業は地方圏の雇用に大きな割合を占めており、サービス産業の撤退は地域の雇用機会の減少につながり、さらなる人口減少を招くことになる。人口の減少は地域住民によって構成される消防団の団員数の減少にもつながり、地域の防災力の低下にもつながる。また、地域の歴史や伝統文化の継承を困難にし、地域の祭りのような伝統行事が維持できなくなりつつある。このような住民の地域活動の縮小により、住民同士の交流が減少し、地域の賑わいや地域への愛着が失われていくという負の循環が起こっている。

II 和歌山県における「過疎集落支援総合対策」

過疎地域では、人口減少や高齢化により、地域の担い手が不足し、集落機能を維持することが困難な地域もあることから、広域的な範囲で支え合い、住民が主体となって地域の課題を解決していく「住民主体の地域づくり」が重要となっている。集落を超えた広い範囲で日常生活に必要な機能・サービスを 拠点化しネットワークで結ぶことにより、集落機能や日常生活を支える生活圏を形成していく「ふるさと生活圏」の取組を促進している。

○ふるさと生活圏・・・人口減少や高齢化等の問題を抱える地域において、基幹集落と周りに点在する基礎集落で構成される集落群からなり、住民生活の一体性が確保できる単位を「ふるさと生活圏」と定義(昭和合併前の旧町村単位や小中学校区などのイメージ)

ふるさと生活圏イメージ
〈和歌山県提供資料より〉

いわゆる「コンパクトシティ構想」のように暮らしに必要なインフラを集中させ、同時に住民も今まで暮らしていた地域を離れて移り住む「集住」「集落移転」という考え方もあるが、特に農山村地域においては土地への愛着や血縁等の理由から定住志向が強く、実効性に欠ける。和歌山県では、「ふるさと生活圏」を対象に、安全・安心なくらしの確保や地域産業の活性化等の様々な課題に総合的に取り組む住民主体の活動を支援している。

流れとしては

  1. 地域で話し合い、地域の現状を分析するとともに、課題を抽出し、目指すべき姿を決定
  2. 住民の意見集約・合意形成
  3. 事業に取り組む組織(寄合会)の設立
  4. 具体的に取り組む内容を決定
  5. 将来を見据えた活動計画の作成 → 事業実施へ

現行の過疎法は、「過疎地域の自立促進」を目的としており(第1条)、「自立促進」とは、「個性豊かで、経済的にも自立した地域社会を構築することを促していくこと」を意味しているとされている。

この活性化事業においても地域住民自らが主体となって、地域の将来プランを作成するとともに、地域課題の解決に向けた多機能型の取組を持続的に行うための組織である「寄合会」たる「地域運営組織」を形成し、その活動のための拠点を設けるとともに活動の中に継続的に財源を確保する仕組みを確立している。

活性化事業を実施するのは、あくまで地域住民であり、市町村や県はサポートの立ち位置に徹している。住民が地域に関心を持つことによって、地域振興のアイディア創出につながり、延いては産業振興にもつながると考えられ、過疎問題に対して有効と思われる。市町村や県が主体となって行政側がつくったプランを住民たちが事業を推進する場合は、住民が集落を活性化したくなくとも活性化を望むようなふりをすることもあると思われ、その点を鑑みずに活性化策を上から推し進めた結果、期待されたほどの成果が上がらなかったときに、その地域はいままで以上に活気を失うことになりかねないと考えられる。

元来、集落とか部落といわれる「村」には、現在から思えば高度な自治の仕組み、個々では解決できない【生活を維持するための互助の地域運営組織】が確立されていた。多くの「村」には十数戸から数十戸の家々によって成り立ち、各戸の領域があるエリアにおいて共存していくための「組」や「講」などの様々な地域運営組織が存在していた。

地域運営組織は、行政にはない「立場の柔軟性」や「地元密着性」を生かし、具体的な個別の課題に取り組むことが可能である。しかし地域運営組織は、活動に際し十分な機会および財源がない、という大きな問題がある。「地域の活性化」という思いが強くても、活動の機会や財源が確保されていなければ、有効な活動は継続できない。運営組織が活動する機会を提供し、財政面の支援を行い、場合によっては連携・協力して過疎対策・地域活性化に取り組むことが市町村や県の役割として重要となる。過去には過疎地域において様々な活性化策が施されてきたが、そうした対策の多くが期待されたほどの効果をあげることは出来ず、その結果、重要な役割を果たしていた地域の組織・共同体が消滅しただけでなく、集落そのものの多くが消滅したのである。こうした地域の活動を持続可能なものとすることで、過疎地域における生活関連サービス等が維持され、いつまでも暮らし続けられる地域社会につながることが期待される。

これまでの過疎対策では、道路や水道といった基礎的な生活環境基盤の整備や公共施設の整備といったいわゆる「ハード事業」に重点が置かれており、その結果、過疎地域とそれ以外の地域との格差は縮小してきていると考えられる。しかし、過疎地域では人口減少と地域社会の機能の低下が続いており、将来の維持が危ぶまれる集落も依然として多く存在している。なぜ「これまでの過疎対策」は目指していた定住対策としては効果的なものにならなかったのか。

これは過疎法の上位計画である全国総合開発計画が、地方都市が発展すればそれに伴い、過疎地域も発展し、過疎問題も解決すると考えていたことに起因する。しかし実際は、地方都市の発展による過疎地域への波及効果は地方都市の近隣地域に限定された。つまり「ハード事業」中心では過疎問題を解決することはできなかったのである。

和歌山県における今回の過疎集落支援総合対策は、住民が主体である「寄合会」たる地域運営組織と地域の既存組織等の連携を促し、収益を生む「特産品の開発・販売」などを盛り込みつつ、地域の世代間交流やU・Iターンを含めた移住・交流の促進、誘客の促進(ソフト事業)および地域の保全・整備(ハード事業)まで絡めた総合的な発展・活性化を目指している。令和3年1月時点で22市町村40生活圏の地域で44の事業が進んでいる。ページ数の限りもあり、具体的な事業・活動の紹介は別の機会とさせていただくが、そのほとんどの地域で一定以上の成果が見られ、一部地域では特筆すべき成果を上げているようである。


〈和歌山県提供資料より〉

過疎地域は、近年日本全体の人口が減少に転じたこともあり、「生活条件の整備が遅れた地域」ではなく、むしろ「人口減少社会の維持可能性の先行事例」として捉えられており、集落を守ることは、日本の将来への課題として考える必要がある。今回の過疎集落支援総合対策が一定の成果を上げていることからも令和3年4月に引き継がれるであろう新たな「過疎法」においても継続した取り組みを期待したい。

(2021.4)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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