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BCP(事業継続計画)研究 <要約版>

主任研究員  塩路 慎一

1.はじめに

東日本大震災での大手企業の代替対応等で広く知られることとなったBCP(事業継続計画)は、平成28年4月の熊本地震の発生により、再び注目されてきている。また、内閣官房も国土強靭化の推進のために、「すそ野の広いBCP普及のためのモデル事業者の募集」を行うとともに事例検証としてとりまとめ、中小企業等における事業継続への取り組みを進めようとしている。

東海・東南海・南海3連動地震や南海トラフ巨大地震の発生リスクの高まり、最近の台風や集中豪雨等の自然災害被害の甚大化を受けて、それらに対する事前対策がますます重要となっている。

今回、事前対策の中でBCPに主眼を置き、その必要性の高まりと広がりの状況や他地域での地方自治体などの取り組みを通して、和歌山県におけるBCPへの取り組みの方向性について考察することとする。

2.BCP(事業継続計画)とは

BCPとは、Business Continuity Plan(事業継続計画)の略称である。地震、風水害、鳥インフルエンザ等事業の継続に関してリスクが生じた際に、重要(中核)業務が中断しないように事前に策定する計画のことである。

企業は、災害や事故で被害を受けても、取引先との利害関係から、重要な業務が中断してサプライチェーンが途切れないこと、中断しても可能な限り短期間で再開することが求められている。また、企業自身にとっても、被災による事業中断による取引先の流出やマーケットシェアの低下等を防止し、従業員の生活安定を図るため、事業の早期復旧は事業存続のための重要な戦略的課題である。この課題に対する計画が「事業継続計画(BCP)」となるが、これは、100%元の状態に戻すための方策を目指すものではなく、企業にとって重要(中核)業務について、操業度が一時的に低下した場合でも、継続が可能な状況までの低下に抑え、さらに回復時間を出来る限り短縮させ、早期に操業度を回復させることにより、事業の損失を最小限に抑え事業継続を目指すものである。

BCP(事業継続計画)の概念
BCP(事業継続計画)の概念

3.BCPの必要性の高まりと広がり

日本において、BCP(事業継続計画)が注目されるようになったのは、東日本大震災の発生が契機であり、原因となる三陸沖での地震の発生は想定できても、その結果となる地震の影響(福島第一原発事故発生等)は想定できず、事前対策としてのBCPの必要性が高まったと言える。また、最近では、熊本地震の発生により、改めて計画の策定及び見直しの重要性が言われるようになってきている。

また、有事のために備えるBCPの策定から平時における取り組みを強化し、訓練等により計画をブラッシュアップさせていくBCM(事業継続マネジメント:Business Continuity Management)の重要性が認識され、企業の経営戦略としてとらえる動きが広がっている。

そのような必要性の高まりや広がりが起きている中で、具体的な動きを以下に簡単に挙げることとする。

(1)レジリエンス認証

内閣官房国土強靭化推進室が、「国土強靭化貢献団体の認証に関するガイドライン」に基づき、平成28年4月より開始された第三者(専門家)により認証する制度である。自治体、大企業や中小企業、学校、病院等各種の団体における事業継続(BC)の積極的な取り組みを広めることにより、すそ野の広い、社会全体の強靭化を目的としている。

認証取得のメリットとして

  1. 専門家に評価してもらうことにより、事業継続の更なる改善のヒント
  2. レジリエンス認証ロゴマークの名刺や広告等での使用
    自社の事業継続のための積極的な姿勢を顧客や市場、世間一般に対してアピール
  3. 推進協議会や内閣官房国土強靭化推進室HPに認証取得団体として公表
  4. 推進協議会より、国土強靭化に関するセミナー等に関する情報が優先的に配信
  5. 金融機関からの融資を受ける際に有利な取扱い(日本政策金融公庫・紀陽銀行)

レジリエンス認証パンフレット
レジリエンス認証パンフレット

(2)すそ野の広いBCP普及のためのモデル事業者の募集

内閣官房国土強靭化推進室が、平成28年10月にBCP策定モデル事業者の公募を開始した。日本の大部分を占める中小企業等において、事業継続の第一段階となるBCPの策定率が1割程度にとどまる要因として、社内にノウハウや人材がいないことが挙げられる。そこで、中小企業等の中からモデル事業者を選定して、実効性のあるBCPを策定し、その後も訓練や教育にも取り組みレベルアップさせる一連の体制を専門家が支援するものである。全国を11ブロックに分け、全国で100〜120社程度を選定した。

BCPの策定ノウハウ等を持たない中小企業等を対象に業種ごとにモデル的にBCPの策定や適宜改善を図っていくために必要な訓練等の実施を支援することにより、必要なノウハウを整理し事例検証としてとりまとめ、多くの中小企業における事業継続の取り組みの促進を図ることを目的としている。

近畿地方ブロック(京都府、奈良県、大阪府、兵庫県、和歌山県)では、そのモデル事業者として応募を検討している企業を対象に、セミナー兼説明会が平成28年12月5日(月)に開催された。参加した企業数は46社(内、和歌山県下企業16社)であった(なお、モデル事業者支援は、内閣官房国土強靭化推進室委託事業として行われ、株式会社富士通総研が受託し、同社とパートナーシップ契約を締結している紀陽リース・キャピタル株式会社がコンサルタントとして参加している)。

<セミナー兼説明会内容>

「すそ野の広いBCP普及のための疑似体験セミナー」
 1)開催あいさつ      内閣官房国土強靭化推進室 参事官 吉田 恭氏
 2)【講演】事業継続の基礎  (一財)危機管理教育&演習センター 理事 伊藤 毅氏
 3)【模擬訓練】危機意識の醸成  (ファシリテーター・解説) 伊藤氏
 4)すそ野の広いBCPモデル事業者への申込み説明


<モデル事業者BCP策定支援の概要(近畿地方ブロック)>

 ・25社を選定
 ・大阪、堺、和歌山の会場に分け、全4回のプログラムで策定支援(各会場8〜9社)
 ・応募締切:平成28年12月12日(月)
  企業選定:平成28年12月14日(水)

大阪会場 堺会場 和歌山会場
1回目 企業訪問 1回目 企業訪問 1回目 企業訪問
2回目 H29年1月13日 2回目 H29年1月12日 2回目 H29年2月10日
3回目 H29年1月18日 3回目 H29年1月19日 3回目 H29年2月17日
4回目 H29年2月16日 4回目 H29年2月16日 4回目 H29年2月23日
*ワークショップ形式で策定

4.地方自治体の特色ある取り組み

(1)香川県の取り組み

震災(東日本大震災・熊本地震等)発生後、一部の市町村の中で、「初動対応の遅れ」、「り災証明書発行遅れ」が見られ、さらには「役場自体が機能不全状態」となった。そのような事態に陥る可能性を低減させるために地方自治体のBCP策定及び訓練の必要性が高まっている。

香川県では、危機管理総局危機管理課主導のもと、県内全市町村が平成29年までにBCPの策定を目指すという目標を掲げ、市町村の首長を巻き込んだ連携の仕組みを構築している。また、従来の地方自治体のBCP促進策にはあまり例のない、BCP策定済み市町村の継続的な見直し・改善を図るフォローアップ体制を構築している。さらに、香川大学と連携して取り組みを推進し、「香川版市町村BCP策定方針」を策定中であり、県のBCP策定支援のモデル事業の継続も行われている。

(2)鳥取県の取り組み

鳥取県庁の主導のもと、県庁、県の地方機関、全市町村(19市町村)のBCPの策定完了など、行政のBCPの整備・運用において先進的成果を上げている。さらに、県内企業や医療機関のBCP策定も広く推進し、福祉施設にもBCPモデルを示し普及を図っているなど、県内の各主体の相互の結びつきを重視し、幅広い主体による「オール鳥取県」での事業継続推進の取り組みを継続的に進めている。

(3)岐阜県の取り組み

岐阜県では、平成27年4月より富士通総研に「BCP策定支援及び人材育成委託業務」を委託し、「岐阜県BCP研修・訓練センター」の運用を開始している。同センターでは、岐阜県内の企業・団体に向けてのBCP策定、運用支援の拠点として、ワンストップ相談対応をはじめ、「岐阜県モデル」のBCP策定を支援する個別コンサルティングや簡易版BCPの策定支援セミナーなどを実施している。

また、岐阜県に本社または事業所を有する企業、団体については、BCP啓発セミナー参加や策定支援、訓練支援に関して費用は「無料」としている。

*岐阜県モデルのBCPとは
従来の策定方法の反省に立ち、「BCPは"気づき"から入る」、「BCPはまず作ってみる」、「BCPにより組織とその構成員の事業継続能力の向上を目指す」の3つの事項に重点を置いたBCP活動を推奨している。岐阜県モデルでは、最初から完璧なBCP策定を求めず、BCPのPDCAサイクルを回し改善しブラッシュアップしていくもの、また、環境の変化とともに内容を変えていくべきもの、としている。

5.おわりに〜和歌山県の今後の方向性〜

和歌山県においては、東海・東南海・南海3連動地震や南海トラフ巨大地震の発生リスクの高まりや最近の台風、集中豪雨等自然災害の被害の甚大化を受けて、企業や団体等の「実効性の高いBCP策定の必要性」は高まっている。

今回紹介した「内閣官房国土強靭化推進室の取り組み」や「地方自治体の特色ある取り組み」を参考にして和歌山県内全体の動きとして目指すべきものを挙げることとする。

(1)市町村のBCP策定推進

自然災害、特に地震で被災した場合、地域社会(特に住民)の頼るべきところは、市町村役場である。過去の大規模地震において、役場自体が被災し機能不全に陥ったり、準備不足のために初動対応が遅れたりしていた一部の市町村があったことが報道されている。そうした事態にならないためにも、今回紹介した「香川県」や「鳥取県」のように、県下の市町村のBCPを策定する必要があると考える。全市町村が策定することにより、各地での連携が可能となると思われる。

市町村(行政)のBCPは、民間企業の商品・製品の供給をどうするのかではなく、「災害対応業務」と「住民サービス」をどうしていくのか、ということを計画するということになる。発災後、緊急対策本部をいち早く立ち上げ、被害を最小限に抑える対応や被害者支援への体制整備を開始することが重要となる。

BCPを策定し、それを機能できるようにすることは、役場の最重要業務を事前に決めておき、それをいち早く立ち上げることを主眼とし、その後は、事前に計画していた地域防災計画へと移行していくイメージであると考える。地域防災計画は、災害予防から復旧・復興対策について実施すべき事項が網羅されているが、一方、BCPは発災後の優先すべき組織(人)の動きを予め決めておく計画である。

2年程前になるが、地震の被害が想定される紀中から紀南にかけて、市町村の防災担当へBCP策定のヒアリングを実施した際、当時は「市町村BCPの策定」より「地域防災計画」及び「住民の避難訓練」が優先、という考え方が多数を占めた。「住民の避難訓練」などと並行して、役場自体のBCP策定を行い、「有事の際に動ける組織づくり」を目指す必要がある。

(2)企業(特に、中小企業)のBCP策定推進

和歌山県下の企業を災害から守るということは、「住民の働き場所」を守るということに通じ、生活基盤を支えるということとなる。施設・設備(ハード面)の対策は時間とコストがかかるため、現状の体制でどうするのかを考えるソフト面の対策、すなわちBCPの策定を進め、災害対応力を高めることの方が時間とコストが少なく、即座に取り組むことができる。

今回紹介した「岐阜県の取り組み」のような形で、策定や改善を希望する企業に対して費用の無償化・補助化を検討してみてはどうだろうか

和歌山県は、地震に対するリスクが高まっている地域で万全の対策が必要とされる中で、地域社会を守る対策費用として検討する価値はあると思われる。

(引用文献及び参考文献)

  • 「事業継続ガイドライン」 内閣府
  • 「レジリエンス認証について」 レジリエンスジャパン推進協議会
  • 「すそ野の広いBCP普及のためのモデル事業者募集について」 内閣官房
  • 「BCAOアワード2014審査結果」 特定非営利活動法人事業継続推進機構
  • 「BCAOアワード2015審査結果」 特定非営利活動法人事業継続推進機構
  • 「岐阜県BCP研修・訓練センター ホームページ」
  • 「岐阜県モデルのBCP」(事業継続計画)の普及拡大を目指して 岐阜県商工労働部 商工政策課

(ヒアリング及び調査)

  • 紀陽リース・キャピタル株式会社
  • すそ野の広いBCP普及のための疑似体験セミナー 株式会社富士通総研(内閣官房国土強靭化推進室委託事業)

(2017.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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