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「 都市の魅力 」に関する一考察(上)〜和歌山市を軸に据えた事例研究〜

研究部長  田 朋男

1.都市の魅力に関する「仮説」とは

ひとつの「仮説」がある。

都市の魅力に関する「仮説」である。

二十年数年前に、中央省庁の若手官僚から直接聞いた話が、いつまでも脳裏に残っている。そして思い出すたびに、私にとって非常に興味深い「仮説」のように思える。その若手官僚は、私との会話の中で次のように述べた。

「いろいろな東京在住の地方公務員の方と会話をしていると、奇妙な一致点に気付くことがある。それは、家族で東京に赴任してきている場合、政令指定都市(以下「政令都市」という)から来たケースとそれ以外の県庁所在都市から来たケースでは、奥さんの喜び方が違うことである。政令都市から来たケースは、東京に暫く住んでもあまり魅力を感じていないので、早く地元に戻りたがる。それに対し県庁所在都市のケースは、逆に東京を気に入ってしまい、もう少し長く住みたいというのである。話を詳しくそれぞれの方に聞くと、これには、理由があり、東京には素敵なファッションブティックや洒落たイタリアレストラン、それに人気アーティストやクラシックのコンサート、さらにはディズニーと、地方都市にはないものが揃っている。しかも数も多い。一方、政令都市には、東京ほどではないが、それなりに主婦が楽しむ機能が備わっている。だから、こんな違いが出てくると考えられる」と。

この何気ない会話の集積から導き出された指摘は、「都市の魅力」というものの本質を見事に捉えているのではないだろうか。

すなわち、地方出身の主婦の目から見た東京の「都市の魅力」としては、ファッション・小物(バック等)の専門店(ブティック)街の形成、例えば日本一の繁華街「銀座」には、シャネル・エルメス・ルイヴィトンといった一流ブランドは勿論、最新のファッションブティックが軒を連ねている。おそらくファッション業界にとって、銀座に店を持つことは一流の証であろう。またイタリア・フランス料理の専門店は、ミシュランガイドの星数を見ても、かなりの集積がある。さらには、都市型の娯楽機能(コンサート・音楽会等の催し)については、日本の首都として、海外からの人気アーティストをはじめ数々のコンサートや音楽会が毎日のように催しされている。この機能を一言に集約すると、トップクラスの『衣(身に着ける小物を含む商業機能)』と『食』と『遊(娯楽や趣味も含む都市機能)』の集積である。さらに東京の強みは、頂点のトップ階層から準トップ、中級クラス、大衆クラスの各階層の層の厚みである。この厚みが、選択の幅広さと奥行きの深さを作り出している。県庁所在都市では、準トップ階層が頂点を占めているが、各階層の層の厚みが薄いので、選択が限られている。このため、例えば政令都市等の大都市への買い物需要が生じることとなる。

このように県庁所在都市のケースを鳥瞰すると、このトップクラスの機能集積と各階層の厚みが乏しいと考えられる。例えば、和歌山市の場合、シャネルやエルメスの専門店はなく、ルイヴィトンのみという状況である。また、イタリア・フランス料理店は存在するが、ミシュランガイドで紹介されるような一流の料理店はほんのごく一部である。これらのトップクラスの機能は、準トップ、中級クラスの層の厚みの上に存在しているので、準トップも中級クラスも少ないと考えられる。一方、政令都市の場合、実体験の感覚から判断して、東京ほどではないが、コンパクトに魅力ある機能集積が成されているように思える。京阪神だけを考えても、京都市及び神戸市には、トップクラスの『衣』『食』の機能が存在する。

この階層の厚み=幅広さ・奥行・深さを図式すると、以下のような「三角錐」のイメージになる。


以上の事柄を踏まえながら、若手官僚の話を総合的に類推して、以下の「仮説」を立ててみた。

【 東京と地方都市(県庁所在都市又は政令都市)の魅力度比較について 】

前提条件 地方都市(県庁所在都市又は政令都市)から人事異動で一定期間(2〜3年間)、東京に転居した家族(特に主婦)が感じた都市の魅力度
仮説その1 地方都市(県庁所在都市) の魅力 + α <  東京の魅力
仮説その2 政令指定都市 + α  >  東京の魅力
仮説その3 政令指定都+α> 東京の魅力 > 県庁所在都市の魅力+α
注1: ここでの「α」とは、一例を挙げると、「長年の友人等とのF to Fの機会喪失」「コストも含めた生活の暮らしやすさ」など、地元志向の優位性。
注2: ここでの県庁所在都市とは、和歌山市の類似規模を想定して人口35万〜40万人規模。具体的には、2010年国調をベースに岐阜市(41.3)、宮崎市(40.0)、長野市(38.1)、和歌山市(37.0)、奈良市(36.6)、高知市(34.3)の6都市を想定。
注3: ここでの政令指定都市とは、人口100万〜190万人規模の都市で東京から遠距離にある地方都市。具体的には、札幌市、仙台市、京都市、神戸市、広島市、福岡市の6都市を想定。
注4: ここでいう主婦は、職に就くことを想定していない。求職活動はしないので、都市の魅力の一つである多様な職業選択を省くこととする。

もし前述の仮説が、定性的であるにしても、有効性が存在すれば、政令都市が持つ『衣』『食』『遊』の機能集積に近づけば、県庁所在都市も次のような図式になるではないだろうか。(ただし『職』と『住』と『学』という要素は考慮されていないので、「都市の魅力」を網羅的にカバーしているとは言えないと考えられる。また、『遊』についても紙数の関係上、今回の考察からは省略する。)

地方都市(県庁所在都市) の魅力up  + α  ≦  東京の魅力

地方都市はその都市機能の集積規模からいって、政令都市を飛び越えて、東京にいきなり近付くことはできない。むしろ、政令都市に近付くことにより、この図式が現すように東京と互角の勝負ができるような魅力が生まれてくるではないだろうか。

2.政令都市と県庁所在都市との「都市の魅力」の違いとは

政令都市の場合、メガポリス東京と比較して、コンパクトな形で人間の身の丈に合ったまとまり方をしているように思える。それに対し東京の場合、例えば目的の建物等への都市内移動のコスト(移動費用+時間コスト)が非常に高いと感じることがある。利便性が良いようで不便なところがある。これは地方都市から移転した者が、肌で感じる体験的な感覚である。住家でも、建坪何百坪という大邸宅に住むより、かえって、数十坪の家の方が暮らしやすいという感覚に似ている。思うに、空間的に広すぎると、全部屋を使いこなすのが大変なうえ、しかも普段の生活でほとんど使わない部屋が出てくる。さらに居間・寝室・トイレ・お風呂が離れていると、小回りが利かないから、それぞれの機能を享受するにも一苦労であろう。いわば広すぎて思うように使いこなせないのである。それと同様に、東京より政令都市の方が、都市機能の配置規模の点で、人間のスケール感に適していると考えられる(このことについては、機会があれば別途調査を試みたいと思う)。

この事に関して、「京都の『まち』の社会学」(鰺坂学・小松秀雄著)に非常に的確な表現がなされているので、引用すると。

京都市は150万人近い人口を擁し、日本で人口が第7番目の大都市であるが、中心部では伝統が息づくとともに、現代的なものも並存している。都心近くに東西の本願寺や京都御苑、茶道の家元の庵があったり、ライブ・ハウスやコンサート・ホール、歌舞伎の南座や能楽堂・狂言会館、美術館・博物館、伝統的建築物群などへのアクセスも容易である。高級なデパートやレストラン、海外からの観光客も満足ホテル・和風旅館もある一方で、老舗や職人の仕事が今も息づいている「まち」や、町家を生かした店やレストラン・割烹のある「まち」も増えてきている。世界遺産や大学を訪れる海外からの訪問客や研究者・留学生も漸増している。

思い立てば、京都を訪れて名刹で座禅を組むことも、花街ゆかりの「舞妓」に変身することも可能である。市内にあるそれぞれの目的の「まち」に自転車で行き来することも可能であり、地下鉄沿線であれば、30分もあればこれらの「まち」を訪れることができる。少し離れたところでも、急ぐときは、タクシーに乗って2,000円まででサッと行ける。東京や大阪と違って、京都はコンパクトで人間大に造られていると実感できる都市である。

やはり京都は、メガポリス東京や準メガポリス大阪とは違い、人間のスケール感に適した都市である。そこに「都市の魅力」を低下させず、持続的な優位性を保つ秘密が存在する。即ち、優れた都市機能の集積がありながら、すべてを中々享受できないような機能配置であれば宝の持ち腐れになってしまう。それに対して、必要な時に求めている都市機能を効率的に享受できることは、利便性が高く非常に魅力的である。このことが、政令都市全般に言えることであろう。

そして政令都市、例えば京都市及び神戸市の場合を思い浮かべると、繁華街が活性化しており、これが大きな「都市の魅力」となっている。大手資本による百貨店の「点」だけが活気づいているのではなく、「面」としての広がりのある繁華街がしっかりと存在しているのである。

一方、県庁所在都市の場合、例えば和歌山市を例に取り上げると、コンパクトにまとまっているが、政令都市に比して繁華街の衰退が気になるところである。やはり繁華街が活性化していないと、活気のない街との印象を受ける。換言すると繁華街が活性化している場合と、していない場合とでは、その都市を訪れた際の第一印象が違う。心斎橋筋や四条河原町を歩くと、大手百貨店を起点あるいは中継点にして、大通りの多種多様な商店街、脇道の飲食街、人通りの多さ、風格ある店構え、あちこちでの商談風景から活気ある雰囲気が醸成されている。そして、それが人を引き付ける魅力となっている。しかしながら、和歌山市の場合、繁華街の象徴である「ぶらくり丁」に残念ながら往時の活気が感じられない。かつての「ぶらくり丁」の繁華街は、丸正百貨店を起点にファッション専門店を中心に軒を連ね、大丸百貨店へと延びてゆき、映画館・飲食等の娯楽街と結ばれていた。そして、この繁華街の都市空間の広がりが、昼夜を通して強い集客力を発揮し“にぎわい”を創出していた。かつて繁栄していた繁華街の一つの特徴は、多種多様な商店の集積を基盤に、この“にぎわい”溢れる空間の面的な広がりを見せていたことである。思うに、繁華街を人体に譬えると、都市の「顔」であり、霞が関のような官公庁街は、「頭部」であり、丸の内のようなオフィス街は「心臓」である。このため、都市の容姿を如実に表象するのは、「顔」である繁華街であろう。

これらのことから、政令都市と県庁所在都市における「都市の魅力」の違いの一つに“活気ある繁華街”の有無があると考えられる。

3.繁華街における商業機能『衣』の重要性

ここでいう「繁華街」とは、日本国語大辞典(小学館発行)に依拠し「町の中で、特に商店や飲食店が集中していてにぎやかな通り。盛り場。」と定義したい。それゆえ、商店街と飲食街を含む、その都市における“特ににぎやかな通り”ということとなる。即ち、式に表すと次のようになると考えている。

「 繁 華 街 」 = 「 中央商店街 」 + 「 飲 食 街 」

そして“特ににぎやかな通り”ということから、単なる商店街ではなく「中央商店街」とし、ここでいう中央商店街とは、都市の中心部にある商店街あるいはその都市ある最も主要な商店街と定義することにしたい。そのため「繁華街」とは、その都市における商店街の中でも、専門店や飲食店、さらには大規模商業施設(百貨店)などの商業機能が集積している通りを含むエリアを指すこととなる。


(注)ただし上記の絵はがきの写真は、溝端佳則氏のご協力を得たものである。
そしてこの絵はがきには「繁華街ブラクリ町」と記載されている。
上の写真は昭和10年前後で、下は昭和30年前後と思われる。

「繁華街」の成り立ちには、いろいろなケースがあるが、「ぶらくり丁」のように、商店街がメイン通りの縦軸を占め、飲食街は、脇通りの横軸を占めることが多い。このことから、繁華街のメインの部分は、中央商店街と考えられる。そして、このことから判断して「繁華街」から「飲食街」を省くと、「繁華街」≒「中央商店街」となる。さらに詳言すると、中央商店街の主軸は、『衣(身に着ける小物を含む)』の商業機能だと考えられる。

囲い込みされた現在の繁華街のイメージ図

例えば、「囲い込みされた現在の繁華街」と考えられる“イオンモールりんくう泉南”を事例に調べてみると、東端にイオンの総合スーパー(GMS)が陣取り、西端にはシネマコンプレックス、大規模書店、大型家電店、大型スポーツ店があり、その間をモールでつなぎ、そこに多種多様なショップ(ファッションやファッション雑貨など)で街を形成している。そして、脇道に入れば飲食店街が広がっている。まるで、往時の「ぶらくり丁」を再現したようである。そのイメージ図をデフォルメして作成したのが、別掲図のとおりである。このイメージ図から読み取れるものとして、「中央商店街」を「飲食街」や「書店」「シネマ」「総合スーパー」が取り巻いていることである。すなわち「中央商店街」がまさに中央を占めている。

また、西宮ガーデンズなども、百貨店と総合スーパーが左右の両端に立地し、中央の位置に駐車場機能を設け、その中央を取り囲むようにモールで結び、モールの両脇を専門店で埋め、繁華街を形成している。そして、この繁華街の中心となっているのは、ファッションとファッション雑貨の専門店である。この二つの専門店が、モザイク状の繁華街の中で圧倒的な店舗数となっている。そして、二つの核となる施設を繋ぐモールが人の流れの中で主役を演じている。

ここで、もう少し“イオンモールりんくう泉南”の事例を詳しく調べてみることにしょう。別掲のイメージ図にある「中央商店街」と「飲食街」を含む全ショップの構成比率を調べてみると、ショップ街の全店舗数(ただし2Fのフードコートを一つの店舗として数えた。理由は総合スーパーの附帯飲食施設と判断したからである)は146店舗、そのうちファッション関係の店舗数は61店舗となっており、約42%で半分弱となっている。飲食を除くと、53%の高割合となる。しかもレディスの専門店(ユニセックスも含む)に限って言えば、28店舗となり、ファッション専門店に占める割合は、62%となる。『衣』の商業機能が、主力を占めている(調査時点は、平成24年10月26日)。やはり主婦は、立ち並ぶ数々のブティックを転々と見比べながら、ウィンドウショッピングを楽しむのである。主婦が、繁華街を楽しげに専門店に立ち寄りながら、行き交う姿を、飲食街に求めることは、無理があるだろう。換言すると、繁華街の主役店舗はファッション関係と言っても過言ではないほど、主婦は重要視している。そして『衣』の機能は、特に“街”としての集積・集中がものをいう。

続きは、次号で掲載予定。

(2012.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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