ホーム | サイトマップ | リンク

ホーム > レポート > まちづくり > 「 都市の魅力 」に関する一考察 (下)

「 都市の魅力 」に関する一考察(下)〜和歌山市を軸に据えた事例研究〜

研究部長  田 朋男

4.「地方都市の比較研究」について

地方都市研究で評価の高い鰺坂学・高原一隆編「地方都市の比較研究」(法律文化社)において、札幌市、福岡市、広島市、仙台市、岡山市、松山市、金沢市、宇部市等の11地方都市を4つの類型化に分類して、比較検討を行っている。この一考察における都市分類と合致しているので、ここで紹介したい。即ち、第一類型の「地方中枢都市」としては、札幌市、福岡市、広島市、仙台市の4つの都市を挙げ、県域より広いレベルの地域の中心都市と位置付けている。そして、「札幌―北海道、仙台―東北、広島―中国(四国)、福岡―九州がその圏域と考えられるが、他の圏域は三大都市(東京、大阪、名古屋)に含まれると考えるならば、日本の地域空間はこの3都市と4地方中枢都市でほぼ網羅される」としている。さらに、第二類型の「地方中核都市」としては、金沢市、岡山市、松山市の3都市を挙げ、「おおむね県域レベルの中心都市で、多くの県都がこれにあたる」としている。従って、「地方中枢都市」=「政令都市」であり、「地方中核都市」=「県庁所在都市」ということになる。

また、この著書において、札幌市、福岡市、広島市、仙台市、岡山市、松山市、金沢市、宇部市等の11地方都市の住民を対象に「地方都市生活アンケート調査」(注1)を行っており、それを見ると、住んでみたい上位10都市が掲載されている。上記の著書から引用すると、下表のとおりである。(なお、このアンケート調査は1992年10月〜12月に9都市、札幌、福岡、広島、岡山、金沢、宇部、因島、高梁、吉備高原で実施し、1993年10月〜11月に2都市、仙台、松山で実施している。質問内容の一つを例示すると、「あなたは、あなたのお住みになっている都市をどのような都市だと思いますか、次の中からいくつでも選び○印をつけてください」となっており、15個の選択肢から選ぶようになっている。)

住んでみたい上位10都市 住んでみたい上位10都市
(注)岡山市と大阪市をひっくるめて、アンケートされている。

仮説を裏付けるように、京都市・神戸市をはじめとした政令都市が上位を占め、東京はそれよりも下位にランクされている。しかもトップの京都市と東京の差は、五倍以上である。ただし、このアンケートは東京と政令都市のいずれにも「ある一定期間」実際に住んだ人を対象としていないので、あくまで都市から受けるイメージから判断した“住んでみたい都市”であることに注意しなければならない。それにしても、第一印象的な“都市のイメージ“からの判断であったにしても、このアンケート調査結果から東京より政令都市の方が「都市の魅力」が上位であると推察できる。

また、「都市の印象」という項目では、「あなたは、あなたのお住みになっている都市をどのような都市だと思いますか」との問いに対して、政令都市が県庁所在都市に比べ「なんでもあって便利な都市」「活気のある都市」「商業の盛んな都市」「洗練された都会的な都市」との印象結果になっている。上記の著書から引用すると、下表のとおりである(前述した複数選択可のアンケート調査から抜粋)。

都市の印象

政令都市と県庁所在都市との平均値比較
都市の印象

数字上から判断して、政令都市(札幌、福岡、広島、仙台)と県庁所在都市(岡山、松山)にはっきりとした格差が存在する。ここで特に注目すべきは、政令都市が「商業の盛んな都市」と「なんでもあって便利な都市」が高く、都市機能、特に商業機能及び諸機能の集積が県庁所在都市よりも勝っていることが窺える。さらに、県庁所在都市との比較においては、「活気ある都市」が著しく高く、前述した都市の顔である繁華街の活性化の有無がこの数値の裏には存在していると考えられる。詳言すると「活気ある」とは、主に人の活動指標に対して使う言葉である。それゆえ、「活気ある都市」とは、人通りの多い街があちこちに存在する都市(あるいは建築ラッシュ等の街の動きが盛んな都市)であろう。そして、都市において人通りの多い街の代表は繁華街である。このことから、「商業の盛んな都市」で「活気ある都市」とは、人通りが多い繁華街が活性化されている都市であると推察できる。

(注)ただし上記の絵はがきの写真は、溝端佳則氏のご協力を得たものである。
なお撮影時期は、昭和10年前後と思われる。
撮影場所は「本町2丁目周辺」と「ぶらくり丁」である。

5.『食』の魅力度の簡易分析の試み

『衣』の機能集積の場合、繁華街の活性化とほぼ同じとの推定を行い調べたが、同様の手法は『食』の機能集積を調べる際には適切でないと考えている。その理由は、都市の中心商店街≒繁華街には、その都市におけるトップあるいは準トップの『衣』が集っていると考えられるが、イタリアンやフレンチの『食』にはこの事が当てはまらないと考えているからである。換言すると『衣』には、集積の相乗効果が存在するが、『食』(特にイタリアンやフレンチの一流レストラン)には『衣』ほど存在しないということである。例えば、中華街(横浜や神戸など)はあっても、イタリアン街やフレンチ街は私の知る限り見当たらない。『食』の場合、特に高級なイタリアンやフレンチのレストランなどは、敢えて一カ所に集中して立地することを避けたり、繁華街を外して立地する場合が結構多い。雑踏を避け、閑静な場所で、ゆっくりと味を楽しみながら、食事をするというスタイルの高級レストランが多数存在する。従って『衣』とは違う嗜好機能がイタリアンやフレンチの『食』には備わっていると考えられる。それゆえ、『衣』とは同様に扱えない。

然らば、イタリアンやフレンチの『食』の機能集積について、どのように調査をすれば良いのだろうか。イタリアンやフレンチの『食』のトップクラスの機能集積がどれくらい存在しているのかをまず調査することとしたい。というのも、各階層の色分けと厚みをある程度正確に把握したうえで分析するのが不可能に近く、もっとも現実的な調査手法として、トップクラスの集積具合を調べることにより、「都市の魅力」としての『食』の機能集積の状況を把握できると判断したからである。

では、トップクラスの集積具合をどのように調べたら良いのだろうか。例えば、仏タイヤメーカーのミシュランガイドを活用する方法もあるが、東京、大阪、京都など大都市しか調査エリアになっておらず、県庁所在都市は空白地帯となっている。このため、この考察においては取り敢えず「食べログ」のレストラン評価を用いることとしたい。

「食べログ」の評価と点数分布の説明は以下のとおりである。

点  数 割  合 傾  向
4.00点以上 0.14% 極めて満足できる可能性の高いお店。高級店がかなりの割合を占めています。
3.50点以上 3.49% 満足できる可能性の高いお店。このライン以上のお店であればほとんど失敗はしないでしょう。
3.50点未満 96.37% 食べログの約95%のお店がこの範囲に該当します。

「食べログ」における“お店の点数分布”
「食べログ」における“お店の点数分布”

《参 考》
ちなみにミシュランガイドの場合、三つ星が「そのために旅行する価値がある卓越した料理」、二つ星が「遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理」、一つ星が「そのカテゴリーで特に美味しい料理」となっている。評価基準は素材の質、調理技術の高さ、味付けの完成度、独創性、コストパフォーマンス、そして常に安定した料理全体の一貫性となっている。

4.00以上のレストランは、約714店に1店の割合であり、極めて高い評価を受けたレストランということなる。この4.00以上のレストランの数を調べることにより、トップクラスの『食』の機能集積の具合が判別できると判断した。そしてこの考察においては、特にフレンチとイタリアンに限定して、仮説に沿って「東京」、「政令都市6市」、「県庁所在都市6市」について調査することとする。ただし「食べログ」の場合、レビュアーの影響度が毎日更新されており、それに伴い点数も変化する。従って数か月間に亘って、まったく同じ点数であることは稀である。今回の調査も、この前提条件を踏まえたうえで行わなければならない。このため今回の調査時点は、平成24 10月1日とし、そしてこの調査の結果は次のようになった。ただし、「東京」は23区全域ではなく、都心部(=山手線内)に限定してピックアップした。

東 京 札幌市 仙台市 京都市 神戸市 広島市 福岡市
イタリアン 36軒 2軒 2軒 5軒 1軒 0軒 1軒
フレンチ 86軒 4軒 0軒 6軒 7軒 0軒 7軒
合  計 122軒 6軒 2軒 11軒 8軒 0軒 8軒
長野市 岐阜市 奈良市 和歌山市 高知市 宮崎市
イタリアン 0軒 0軒 1軒 0軒 0軒 1軒
フレンチ 0軒 0軒 0軒 1軒 0軒 0軒
合  計 0軒 0軒 1軒 1軒 0軒 1軒

もちろん、圧倒的に東京が多い。このことから、前述した下図の「三角錐」のイメージから判断して、東京におけるトップ階層の厚み・奥行が見て取れる。また、政令都市も、一都市平均およそ6軒とそれなりにトップ階層のイタリアン・フレンチが存在する。一方、県庁所在都市には、一都市平均1軒もない状態である。空白地帯と呼んでも差支えないほど、寂しい状況となっている。仮説で提起したように、トップクラスの洒落たイタリアン・フレンチの料理店が県庁所在都市には乏しいと推察できる。

これが、主婦の目から見た県庁所在都市に欠けている“都市の魅力”の一つであろう。

「食べログ」における“お店の点数分布”

6.今後の調査研究における課題について

この一考察における今後の課題としては、次のような調査・分析作業が必要であると考えている。

即ち、冒頭の仮説を検証するためには、政令都市から東京に数年移り住んだ家族(特に主婦)と県庁所在都市から東京に数年移り住んだ家族(特に主婦)に対して、一定以上のアンケート調査を実施する必要がある。このアンケートにより、仮説の裏付けを検証するとともに、それに加え東京、政令都市、県庁所在都市における『衣』と『食』の機能集積について数値データによる調査・分析も必要であろう。特に中央商店街と『衣』の機能集積の分布関係や繁華街の活性具合など、この考察において論拠してきた内容などである。これらの作業を経て、初めて仮説についての有効性が判断できる。

今回の考察においては、これらの作業過程を経ずして、考察を進めてきたため、説得力のある論理展開がやや不充分であったと考えている。従って、今後の課題としては、上記の調査・分析等を行い、仮説が裏付けられるかどうかの更なる検証を行うことである。

7.結びに代えて

県内のある経済人と会話をしていた時、及びもつかない発想にハッとしたことがある。それは地元の商店街の活気なさに触れた時の事である。その創業者の方は、戦後、リヤカーを引きながら、行商から身を起し一代で従業員百十数名の会社を育てた人である。迫力と自信に満ちた口調で語った、そしてその言葉が物事の本質を鋭い感覚で捉えていると思った。松下幸之助氏の名言と同様、人の機微に触れる何かを内に秘めているのである。それゆえ、その時のやりとりが、今も私の脳裏に焼き付いている。

「町の商店街に人通りが少なく、活性化が課題になっているが、やり方の一つとして、全部の店が軒先に椅子とテーブルを出して、お茶のサービスなどをしたら、人通りがにぎやかになる。お年寄りなども、時間を持て余しており、おしゃべりする場所を積極的に提供したら、人が集ってくる。まず人通りをにぎやかにするところからスタートしないとダメだと思う。」

そしてこの話を聞いた時、スターバックスのコンセプトである「第3の場所」と同じだと思った。スターバックスをグローバル企業に育てたハワード・シュルツ。彼のイタリアでの“バール”の原体験が、その後のスターバックスを変えたと言われている。バールとは、カフェを立ち飲みするイタリア人の生活に欠かせない場所。深いコーヒーを飲みながら語り合う姿に衝撃を受け、コーヒーを出すだけでなく「語り合う場」、「人間関係を築く場」をアメリカ社会に創ろうと直感した。その後、シアトルの小さなコーヒー店が、瞬く間に全米全土に出店することになっていく。

思うに、若い世代からお年寄りまでが「語り合える場」、「人間関係を築ける場」というのは、普遍的な価値が存在する。そして、このことは仮説の「+α」の魅力度をupさせる。それゆえ都市の魅力づくりの視点にも活用できるのではないだろうか。

最後に、若手官僚との冒頭の会話の中で、話題が終わりかけた頃、尋ねられた。「あなたは、東京をどう思いますか」と。その時、私は確か次のように答えたと思う。「東京は“勝者”の町だと思う。ずっと勝ち続けなければ、楽しく住み続けることが難しいのではないか」と。自身の体験から判断して、それ相応の稼ぎがないとせっかくの東京の魅力を享受できないと思ったこと。そしてもう一つはメガポリスに内包する“虚構”の一側面が、脳裏をかすめたせいだろう、東京に対してやや冷めた感想を述べたと思う。さらに言えば、ここでいう「都市の魅力」は政令指定都市には及ばないかもしれないが、第二の故郷としての愛着を何より和歌山市に感じているせいであろう。

【 東京と地方都市(県庁所在都市又は政令都市)の魅力度比較について 】

前提条件 地方都市(県庁所在都市又は政令都市)から人事異動で一定期間(2〜3年間)、東京に転居した家族(特に主婦)が感じた都市の魅力度
仮説その1 地方都市(県庁所在都市) の魅力 + α <  東京の魅力
仮説その2 政令指定都市 + α  >  東京の魅力
仮説その3 政令指定都+α> 東京の魅力 > 県庁所在都市の魅力+α
注1: ここでの「α」とは、一例を挙げると、「長年の友人等とのF to Fの機会喪失」「コストも含めた生活の暮らしやすさ」など、地元志向の優位性。
注2: ここでの県庁所在都市とは、和歌山市の類似規模を想定して人口35万〜40万人規模。具体的には、2010年国調をベースに岐阜市(41.3)、宮崎市(40.0)、長野市(38.1)、和歌山市(37.0)、奈良市(36.6)、高知市(34.3)の6都市を想定。
注3: ここでの政令指定都市とは、人口100万〜190万人規模の都市で東京から遠距離にある地方都市。具体的には、札幌市、仙台市、京都市、神戸市、広島市、福岡市の6都市を想定。
注4: ここでいう主婦は、職に就くことを想定していない。求職活動はしないので、都市の魅力の一つである多様な職業選択を省くこととする。

出典

  • 鰺坂学・小松秀雄著「京都の『まち』の社会学」(世界思想社)
  • 「日本国語大辞典」(小学館発行)
  • 鰺坂学・高原一隆編「地方都市の比較研究」(法律文化社)
  • 「食べログ」のホームページ
  • ミシュランガイド東京版2012

(2013.3)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

このページのトップへ