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ホーム > レポート > まちづくり > 地方都市における「都心」変遷の“姿”とは III

地方都市における「都心」変遷の“姿”とはIII 〜県庁所在都市の比較研究〜

研究部長  田 朋男

1.前号までのレポート“要点”について

前号までに掲載したレポートの要点としては、和歌山市と同様、新潟市においても最高地価点が、それまでの都心商店街であった「古町(ふるまち)」から平成元年に「JR新潟駅前」へと移動していた。この現象(「都心商店街から交通の結節点への最高地価点の移動あるいは移転」)は、新潟市と和歌山市の特有なものなのか、あるいは全国の地方都市(県庁所在都市)に共通した現象なのか、この時点では“謎”であった。

このレポートではこの現象を解明していくため、前号では、和歌山市の事例を取り上げ、主に地価変遷過程について考察を加えた。

今回のIIIにおいては、和歌山市の事例を中心に“都心”の「賑わい喪失」の構造性(外部要因)について論考を進めていきたい。特に、先行研究が少ない「ストロー現象」については、筆者の仮説をもとに考察を加えていきたい。

ぶらくり丁 京橋

ただし上記の絵はがきの写真は、溝端佳則氏のご協力を得たものである。なお、撮影場所は「ぶらくり丁」と「京橋」。

2.スプロール現象とストロー現象について

中心市街地活性化に関する文献の中で、筆者がもっとも特筆した内容が示されていると思ったのが『岩手県における中心市街地活性化に関する研究会』報告書(平成18年3月)である。その報告書によると、このまま行くと(1)「中心市街地が消える」(2)「郊外のまちが消える」(3)「経済活動が消える」(4)「自然が消える」(5)「地域社会が消える」、以上5項目により“県内総空洞化”になってしまうことを懸念している。

この報告書において鋭く指摘された事柄は、中心市街地活性化の課題を抱える自治体の共通の事項だと考えられる。特に、これらを引き起こす現象として、次のような事柄をピックアップしているので、ここで紹介したい。

1 中心市街地で起きていること
(1)人の集積が崩れている(中心性の低下)

本来、その機能集約による利便性などを背景に「人が集まって(集積居住して)」いたはずの中心市街地で、人がいなくなってきている。

(2)歩行者交通量が減少

かつて「中心市街地」は人が行き交い、「にぎやか」な場所であったが、年々、人が通らない、さびしい「中心市街地」になってきている。

(3)経済活動の停滞

「にぎわい」の減少とともに、経済活動も停滞傾向。「中心市街地」の経済活動の目安となる「小売業」の各種指標も軒並み低落傾向。

(4)業務・公共機能の拡散

かつて経済活動の拠点としての機能性をもっていた「中心市街地」から、事務所、営業所などが消えている。また、病院などの公共施設も郊外に移転している。

(5)未利用地の拡大

かつて、機能集積を背景として、高度な土地の利活用が図られた「中心市街地」では、空き店舗や駐車場、未利用の更地などが広がり、土地資産の「塩漬け状態」が拡大している。また、施設も老朽化、陳腐化が進み、新規投資が進まない状況であり、土地、建物ともに資産価値は低落している。

(6)文化・歴史等、まちの個性が消失

かつて「中心市街地」のにぎわいをかもし出してきた「まつり」なども、それを支えてきた商店街をはじめとする地域社会の活力の低下などにより、縮小、廃止が相次いでいる。

(7)コミュニティの希薄化

人の集積がくずれ、「中心市街地」のにぎわいが消えるなか、地域社会(コミュニティ)でも生活者同士の関係が希薄化しつつある。

(8)「中心市街地」の求心力の低下

かつては、生活者・消費者の高い支持を受け、その魅力で求心力の高かった「中心市街地」も、求心力を低下させ、人々の関心や利用が低下してきている。

2 郊外で起きていること
(1)郊外居住の拡大

高度経済成長、モータリーゼーションの進展、「1世帯1住居」思想などを背景に、郊外に宅地造成が進み、工業団地の造成と相俟って、郊外での「職・住」の一体化が進んだ。

(2)商業機能の郊外展開

「郊外居住」の進展やモータリーゼーションなどを背景に、商業機能も郊外化し、特に郊外型の大型SCは、消費者の強い支持を受けている。

(3)公共・公益施設の郊外移転

中心市街地内での適地確保の困難さやモータリーゼーションの進展などを背景に郊外移転が進み、「中心市街地」の公共的機能の希薄化が進んでいる。

(4)郊外の衰退

郊外の「ニュータウン」の子供世代が離れ人口減少となり、一方、親世代の高齢化が進展し「オールドタウン」現象が顕在化している。

以上の明晰な指摘事項を踏まえ、筆者の見解も含めて地方都市(=県庁所在地)における中心市街地(≒都心商店街)の概観的な変遷過程を“通説”としてまとめてみると次のようになる。

昭和30年頃から、日本経済は飛躍的に成長を遂げた。いわゆる高度成長時代の到来である。その時期と重なるように土地神話が生まれ、地価は一貫して上昇傾向を示すようになった。そして中心市街地においても、地価上昇が著しい現象として顕在化した。一方、昭和40年代頃から始まった“モータリーゼーション”の波により、中心市街地から低地価の郊外へと居住(含む核家族化)のベクトルが向き始めた。このことが、都市の外延化が進展させ、即ちスプロール現象として顕在化してきた。そして、このスプロール現象は、居住の郊外化だけでなく商業機能の郊外化と表裏一体として現出し、そのことにより中心市街地の活性化にとっては深刻な事態に至った。このことを裏付ける統計的データとしては、中心市街地(≒都心商店街)における通行量の減少、商店数の減少、従業員数の減少、小売商業販売額の減少、空き店舗数の増加として把握できる。即ち、都市が本来有している集心性・中心性が崩壊し始めたのである。換言すると都市における商圏――即ち、都心商店街を中核とした商圏の集心性・中心性が崩壊し、都市そのものが拡散し始めたと捉えられる。さらに、この事態に至るまでに、中心市街地での一定規模の遊休土地の確保が難しいことや高地価が影響して、公共・公益施設が郊外に移転し、さらに中心市街地の都市機能の空洞化(=行政機能・教育医療機能・商業機能・居住機能の低下)が進行することとなった。

このような「都心」変遷は、和歌山市は勿論の事、平成26年度に現地調査を実施した奈良市、岐阜市、熊本市とも共通の現象であった。そしてこのことは、おそらく全国共通の現象と推察される(平成26年8月〜9月に全国の31県庁所在都市に電話取材により確認)。これが“通説”としての中心市街地における「賑わい喪失の構造性」である。

しかしながら筆者は、この概観的な変遷過程に極めて重要な事象が抜け落ちていると考えている。それは「ストロー現象」である。「ストロー現象」とは、一般的には大都市への交通のアクセスが大幅に改善した結果、中小都市から大都市へと、小売消費需要が吸収される現象をいう。本稿においては、この「ストロー現象」の空間的な構造性を微視的な捉え方により明らかにしていくとともに、巨視的には「市場の統合化」のプロセスに伴う現象であることについて考察を加えていきたい。

また本稿における先行研究としては、向井文雄「ストロー効果メカニズムと北陸新幹線、東海北陸道」(北陸経済研究2008)をあげる。この研究の特長は、「ストロー効果とは、高速交通基盤開通によって買い手の行動圏が広域化し、より多くの売り手を比較して、より安く品質が高い商品を選択できるようになり、その結果選ばれた売り手は売上げを伸ばす一方で、それ以外の多数の商品、商店街や都市は売り上げを失う。これを失う側からみたものである」(注1)としている。また「最寄品やほどんどの買回品にはストロー効果はないが、専門品にはストロー効果があり、これらを扱う百貨店や専門店が影響を受けているといった結論が得られる」(注2)としている。そしてこのことから、ストロー効果の原因として、高速交通網の整備に伴う商圏の広域化(広域市場化)を挙げている。

しかしこの先行研究においても、ストロー現象の空間的な構造は解明されておらず、しかもストロー現象が持つ本質、即ち市場が統合されていく過程が見落とされている。従って、本稿においては、ストロー現象の空間的な構造性を解明するとともに、市場統合が進展するプロセスで、ストロー現象が発生しており、概略的であっても県庁所在都市におけるその実態を明らかにしていきたいと考えている。ただし、ここでいう市場とは、売買等で経済的に影響し合い連動する関連性の範囲である。従って、この関連性が大きくなり、周辺の関連性をも巻き込んで、一つの方向に収斂していく過程全般のことが市場統合化である。

熊本を訪ねて感じた“都会の匂い”とは

平日の午後1時過ぎにもかかわらず、その人通りの多さに唖然としながら、熊本では、まだ都心商店街がいまだ活気ある姿で“都市の顔”の役目を果たしていると思った。そのことを象徴的に表す出来事をここでは紹介したい。
熊本最大の繁華街である下通商店街を通り過ぎ、“下通りアーケード”と“上通りアーケード”を結ぶ交差点(「通町筋」)を横切った時、「あれ!」と思った。何と地方都市の熊本で“都会の匂い”を感じたのである。
この“都会の匂い”とは、もちろん実際の臭気ではなく、五感から感じ取るその場に漂う気配のようなものである。そして、この“都会の匂い”は一体何だろうと思った。
過去の経験から、東京や大阪を除くと、神戸や福岡で感じたことがあるものだった。しかしここは、地方都市の熊本。この匂いの正体とは何だろう。不思議な感じだった。
そのためか、帰途についてからも、頭から離れなかった。今から思うと、あの通町筋には10階建てぐらいの都市的なビルが整然と並び、その壮観なビルの合間を大勢の人々が行き交い、観光客でもなくビジネスマンでもなく、ショッピングと街歩きが目的の人だろうか、まさに地元の市民で賑わっていたのである。
そして、この全体が醸し出す雰囲気(都市的な空間と市民が織りなす繁華街での雑踏)が“都会の匂い”だと思った。これが、奈良でも岐阜でも感じられなかった“都会の匂い”の正体である。

【写真は筆者が撮影。場所は熊本市の下通アーケード】
都市の集心性・中心性について

家のシンボルは、「何処?」と尋ねたら、それぞれの家によって違うと思う。しかし家の中で自然と家族が集まる場所は何処と尋ねたら、ほとんど人がリビングと答える。リビングのように家族が一家団欒を楽しみ、寛ぐところに人は集まる。従って、まさか玄関ではないだろう。
同じように、熊本市において、「まちのシンボルは?」と尋ねたら、間違いなく「熊本城」と答える。そして「人が自然と集まる場所は?」と尋ねたら、ほとんどの人が「通町筋の下通アーケード」付近と答えると思う。
同じように和歌山市のシンボルは、もちろん和歌山城であろう。では、和歌山市という都市の中で、「人々が自然と集まってくる場所は何処?」と尋ねられたら、どう答えるのだろうか?「県庁もしくは市役所」、あるいは「公園前もしくは本町二丁目」、それとも「JR和歌山駅」。・・・「イオンモール和歌山」。どこだろう。市民の大部分の人が納得する場所とは。
思うに、かつては繁華街(都心商店街+飲食街)が、人が集まる“まち”のリビングだった。その証左は、我が国きっての都市計画家である石川栄耀の“盛り場論”である。

ストロー現象の仕組みを考察する前に、和歌山市の事例について紹介したい。なおストロー現象に関しては先行研究が少なく、以下記述することは、筆者の仮説である。

和歌山市中心市街地活性化計画(平成19年8月)には、大規模集客施設の立地動向が示されており、引用すると次のような三つの図となる。

まずIII―第1図は、中心市街地(≒都心商店街)を取り囲むように大規模集客施設(店舗面積3,000u超)の立地状況である。いわゆる商業機能のスプロール現象である。あくまで和歌山市内域における外延的拡散現象である。ただしここでいう大規模集客施設は、主に最寄品と買回品をターゲットにしているが、その本質は、都心に向かっていた賑わいの収奪である。

III―第1図

次に、III―第2図であるが、和歌山市に隣接する岩出市における大規模集客施設(店舗面積3,000u超)の立地状況である。もともと和歌山市の商業機能が商圏として把握していたところに、新たな商業機能が立地し、商圏が分立していったと見られる。

III―第2図

そして、III―第3図は、隣接する大阪圏における大規模集客施設(店舗面積3,000u超)の立地状況である。現在の疑似「繁華街」との言うべきショッピングモールの立地が、交通アクセス向上と相俟って、ストロー現象を引き起こし、専門品及び一部の買回品を中心に市場統合が進みつつあると捉えられる。逆の立ち位置から眺めると、三大都市圏の大阪のスプロール現象と捉えられる。即ち、南部という辺縁部にもかかわらず、関西国際空港というプロジェクトに誘引され、和歌山市の商圏を横に見ながら、ショッピングモールを投入してきたと言える。

III―第3図

イオンモールりんくう泉南へのストロー現象について

平成24年10月、イオンモールりんくう泉南の専門店街にヒアリング取材を実施した。レディス専門店10店舗(一階5店舗、二階5店舗)を選び出し、客筋はどの方面が多いのか。また和歌山方面からの顧客の割合は、どれくらいかについて取材した。その結果、すくなくとも5割が和歌山方面という結果を得た。特に、ある店長からは「6〜7割程度が、和歌山方面。岩出・紀の川市が目立つ。この見方は、このモールの共通認識だと思う」と指摘された。また顧客名簿を調べてくれた専門店も6〜7割程度との見解だった。これはイオンモールわかやまの出店前の状況である。

以上の和歌山市の事象を踏まえたうえで、次に、微視的に捉えたストロー現象について考察を加えていきたい。

下の「III―第4図」のような空間的な構造性を有している。つまりストロー現象は、図に示されたようにストローの入“くち”の部分に人や車の流れが集まってくる。いわゆる人の動きのベクトルが集中するのである。「人」は「カネ」を所持し「モノ」の購買力を有し「情報」=嗜好・流行を含む消費力を行使する。そしてストローの中、即ち鉄道や高速道路を通って、ストローの出“くち”の部分から目的地に向け、いわば放射状に出ていくこととなる。従って、ストローの出入“くち”に賑わいが生じることになり、そこにビジネスチャンスが生まれ、様々な商業施設が張り付き始める。

III―第4図

ここでは、“くち”に注目し、まず和歌山市の事例を紹介したい。具体的には、最高地価点であるJR和歌山駅の近鉄百貨店前である。即ち、近鉄百貨店前は、ストローの“くち”の直近に当たる位置取りとなっている。しかもこのJR和歌山駅前は、十字路の要の位置にあり「ア」「イ」のいずれもの人の流れを集めるポイントに位置している。つまり近鉄百貨店が存在することにより、市の郊外地域や周辺市町村の消費需要を吸い取るストロー効果(「イ」)が発生し、一方、大都市圏への需要逃避の際には、「ア」の位置に当たるのである。いわば、“二層構造”のストロー現象を引き起こしているのである。そして通勤・通学客という「ケの賑わい」の観点からも同じことが言える。和歌山市の中心市街地から大阪圏に通勤・通学する場合は、「ア」に位置し、逆に市の郊外や周辺市町村から和歌山市内の中心市街地に通勤・通学する場合は、「イ」に当たる。それゆえ、和歌山市内の最強の立地場所と最高の商業施設が相まって、最高地価点が形成されていると考えられる。

それに対し「南海和歌山市駅」の場合も、同様の二層構造になってはいるが、極めて限定的である。前号II―第3図で示したように、一日の乗降客数がJR和歌山駅の約半分となっており、ケの賑わいの観点から劣勢に立たされている。そして近鉄百貨店と島屋の商業施設の規模から判断して、その商圏エリアが市内だけか市外まで含んでいるのか、ある程度推定できる。つまり周辺市町村や大阪南部方面からの買い物客の消費需要の吸収はなく、ほとんどが市内の買い物客と考えられる。従って、中心的な交通の要衝となっていないことから、小売消費需要の取り込みが弱小なので、高島屋等の商業施設が高度化に向けて動き出さなかったのだろう。しかもストローの途中にイオンモールわかやまが立地し、一層吸い込む圧力が弱体化してしまい、一定以上の商業需要の取り込みが見込めなくなったと推察される。

そして、これらのストロー現象の構造的な人の流れを踏まえて考えると、最高地価点の移動(もしくは移転)のストリー性が明らかになってくる。

前号IIで標記した商業地図に影響を与えた出来事(II―第9表)から判断して、和歌山市の場合も、他の県庁所在都市と同様に、モータリーゼーションの波を受け、居住の郊外化が進展する一方、商業機能も表裏一体となって郊外立地が進み、中心市街地(≒都心商店街)の賑わいが空洞化しはじめた。そしてストローの“くち”に当たる箇所だけが賑わうことになってくる。ストローの“くち”に当たる箇所が、賑わいによる商機や交通利便性等で収益力(魅力ある場所)があると判断され、新たな高次の商業機能の集積(核施設は大手百貨店)が始まったのである。その典型的な例が「JR和歌山駅前」であろう。まさに交通の要衝であるJR和歌山駅に、大手百貨店が立地し、増床により充実発展してきた。しかもストローのくちに当たることから、商圏エリア内における賑わい獲得の優位性を確立していった。そして地理的な位置関係が大阪圏より一定以上離れていることから、一挙に大阪商業圏に包含されることなく、市場統合の緩やかな遷移過程にあり、一人勝ちの様相を帯びていると考えられる。

(現在の「最高地価点」である調査地点A―近鉄百貨店前を取り巻く経年変化の状況を見ると、調査地点D―紀陽銀行駅前支店前との格差が拡大傾向にあり、しかも平成8年から調査地点B―ミナカタビル前もAから分離させ下方評価されたので、一層Aの一人勝ちの様相を呈している。例えば、商店街は“横の百貨店”と呼ばれたように横に連なる「面」としての機能を発揮していた。しかしながら、調査地点Aは収益力の観点からは「点」としての機能は果たしているが、「面」として広がりを有していないことが気になる。前号IIのII―第4図を参照されたい。)

次に、巨視的にストロー現象から眺めると、JR和歌山駅のターミナル機能の強化や利便性の向上、時間短縮などの大都市圏への交通アクセスの改善が、市場統合に向けたベクトルを集め始めた。しかもこれには二面性があり、一つは消費者視点であり、もう一つは資本的視点である。消費者視点は文字通り、消費者の選択肢に大都市圏の商業施設が視野に入ってきたことである。他方、資本的視点とは、市場統合に向かう消費者の動向を踏まえ、このマーケットに新たに大規模な高次の商業機能を投入してきたことである。自己増殖する資本の力が大きくなるにつれ、アクセスの向上などを利用して力の及ぶ範囲を拡大させ、主に専門品市場を一つの方向に収斂する力が働き始めた。換言すると、資本相互による競争を通して、自ら自己増殖するため、資本が縄張りを広域化させ、“大”が周りの“小”を包含する動きであり、ストロー現象を伴いながら同化していく過程と捉えられる。

例えば、府県間道路等の交通のアクセスが改善され、暫くして他県の都市に大規模なショッピングモールが出来ることによって、市の既存商圏の裾野部分の大半が奪い取られるという現象も、結果としてストロー現象と同じであると考えている。換言すると、これは明らかに既存商圏エリアと新興商圏エリアが重複し、既存商圏が新興商圏と拮抗しながら徐々に包含されていく現象である。即ち、交通アクセスを軸に中小都市の商圏が大都市の商圏の傘下に加わり、市場がより大きな市場へと統合されていくプロセスの過程にストロー現象が発生すると捉えている。

(いわば、グローバル経済化の事象と相似していると言える。日本大学教授の水野和夫氏の指摘によれば、グローバル経済化とは、市場統合のプロセスであり、インターネット革命により企業がいとも簡単に国境を越え、世界的な規模でヒト、モノ、カネが自由に動き、結果として市場が一体化し統合していくことと捉えている。(注3)

そして和歌山市の場合、近接の大都市圏との距離(直線距離約60km、鉄道の時間距離約1時間)が、岐阜市(直線距離約30km、鉄道の時間距離約20分)や奈良市(直線距離約28km、鉄道の時間距離約50分)に比して近接していないことから、ゆるやかな市場統合のプロセスにあると考えられる。岐阜市における最高地価点はJR岐阜駅前にある「大岐阜ビル」であるが、中身は商業ビルではなく、オフィスビルであった(調査時点:平成26年6月12日)。同じく、奈良市も最高地価点が、市の玄関口に当たる近鉄奈良駅にある「奈良近鉄ビル」で、これもオフィスビルであった(調査時点:平成26年5月16日)。いわば、市における最大の「ケ」の賑わいがあるにもかかわらず、採算性が合わないとの理由等により最高地価点である駅前及びその周辺には高次の商業機能(=大手百貨店)が立地していないのである。具体的には、岐阜市の場合は都心商店街の柳ケ瀬地区に大手百貨店があり、奈良市の場合は交通結節点である西大寺に存在している。経済の原則が貫徹されれば、“場”として収益力に着目し、本来、最高地価点付近において、高次の商業機能が立地するはずである。しかし二市においてはそうなっていない。これは「ケ」の賑わいの頂点であるにもかかわらず、資本の視点からは、大都市圏の高次の商業機能との市場競合により、収益性がなく参入できなかったと考えられる。いわば市場の広域化により、その市場における収益力の頂点がこの二都市にはなく、大都市内に存在していることを表していると考えられる。つまり市場の統合化されているのである。

例えば、「奈良市中心市街地活性化基本計画」に掲載されている下表の奈良県における商品別買物地区を見ると、専門品及び買回品が大阪に依存していることが明らかである。特に専門品である「服飾雑貨・アクセサリー」「紳士服(おしゃれ着)」「婦人服(おしゃれ着)」において、大阪府が買い物地区の第1位を占めている。主に専門品が大阪都市圏に依存していることを表している。そしてライリーの小売り引力法則から判断して、当然の帰結と考えられる。

この二都市のケーススタディから判断できることは、高次の商業機能が大阪・名古屋という三大都市圏に従属化しており、一部の買回品及び専門品を対象とした市場が統合されていると見るべきである。一方、和歌山市の場合、市場統合が進みつつあるものの、統合までには至っておらず、その遷移途中と考えられる。それゆえ、近鉄百貨店が撤退せず、「ケ」の賑わいの頂点であるJR和歌山駅前に存在していると言える。

一方、都心商店街である「ぶらくり丁」は、商店という生物種が集合して“生物群集”を形成していたが、競争相手の外来種に市場を浸食され“生物群集”が崩落しはじめたように見える。特に“生物群集”ピラミッドの頂点である専門店が、勢いを失い崩落現象の様相を帯びていると考えられる。

最終章である次号においては、他の県庁所在都市における最高地価点の移転(もしくは移動)について比較考察し、和歌山市の特有の現象なのか、共通の現象かを明らかにするとともに、都心変遷の“真の姿”について論考を進めていきたい。

≪ 続きは、最終章となり、次号に掲載予定 ≫

出典

  • (注1)
  • (注2)
    向井文雄「ストロー効果のメカニズムと北陸新幹線、東海北陸道(影響編)」北陸経済研究2008.9-10合併号の1頁

  • (注3)
    水野和夫「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」日経新聞社2007年及び水野和夫「終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』 日本経済新聞出版社2011年

参考文献

  • 「岩手県における中心市街地活性化に関する研究会 報告書」(平成18年3月)
  • 「和歌山市中心市街地活性化基本計画」(平成19年8月)
  • 「奈良市中心市街地活性化基本計画」(平成20年3月)
  • 田辺健一「都市の地域構造」大明堂
  • 田辺健一・渡辺良雄「総観地理学講座 都市地理学」朝倉書店
  • 向井文雄「ストロー効果のメカニズムと北陸新幹線、東海北陸道」北陸経済研究
  • 新雅史著「商店街はなぜ滅びるのか」光文社新書
  • 速水健朗著「都市と消費とディズニーの夢」角川書店

(2014.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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