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この国のかたち ――「日本21世紀ビジョン」のめざすものと課題

主任研究員  谷 奈々

はじめに

国の経済財政諮問会議は、昨年9月、「日本21世紀ビジョン」に関する専門調査会を設けた(会長:香西 泰内閣府経済社会総合研究所長)。さらに、専門調査会の下に、「経済財政展望」「競争力」「生活・地域」「グローバル化」の4つのワーキンググループを設け、各グループで広範な課題について議論がなされた。専門調査会において、「日本21世紀ビジョン」の報告書をとりまとめ、2005年4月19日に経済財政諮問会議に報告、公表された。

「日本21世紀ビジョン」は、今後四半世紀を見据え、政府が進める構造改革により実現されるであろう「この国のかたち」を明確かつ体系的に示すことにより、国民それぞれの認識の共有を図ろうとするものである。

ここに示される今後の日本の政策の理念と方向性は、わが国の政策運営の中長期的指針となるのみならず、国の将来についての国民一人一人の関心に応えるものであろう。

本ビジョンは、今後、経済財政諮問会議において、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(いわゆる、骨太方針)等の政府の政策を審議する際の重要な資料となるものである。

1.ビジョン策定の目的

構造改革という言葉の響きに、やや新鮮さは薄れてきたが、その目的は、時代の潮流を好機として活かし、次代に繋ぐ基盤を築くことである。

「日本21世紀ビジョン」は、2030年の日本を念頭に、直面する時代の大きな潮流に対峙し、変化に対応しなければ顕在化するであろう「避けるべきシナリオ」を想定して警鐘とし、「2030年の日本が目指すべき将来像」と、その実現のための「戦略と具体的行動」について展望している。

経済財政政策担当大臣として、議論の推進役をつとめた竹中大臣は、そのねらいを次のように語っている。

…不良債権の処理に目途が立ち、財政赤字もようやく減り始めた今、政府が進めている構造改革の先に、一体どのような日本があるのかという批判や質問が多くの国民から寄せられている。改革の成果が現れている今こそ、私たちはその未来を語るべきと考え、各分野の専門家60人による議論を取りまとめた。このようなビジョンをまとめたのは、環太平洋連帯構想を打ち出し、APECが現実のものとなった、かつての大平内閣の政策研究会以来のことではないか。

総理が「改革のバイブル」と呼ぶこのビジョンでは、これから人口が減少し、少子高齢化が進む中で、構造改革の先にある2030年の日本の姿を展望している。具体的には、「生産性と所得の好循環」によって活力ある経済を実現するとともに、「時持ちが楽しむ健康寿命80歳」の社会となり、国民にとっての豊かさを追求すること、「壁のない国」や「世界のかけ橋国家」となり、国際化の流れを活かすこと、などを提案している。

今回のプロジェクトで、人口減少が本格的に始まる前のここ1、2年の改革の成否によって、日本の将来が大きく左右される重要な分岐点に立っているということが改めて認められた。構造改革を続ければ、日本はある程度の成長を続けながら、個人や地域が力を発揮できるチャンスの多い社会となり、新しい躍動の時代を迎える。また、政府は、最小限の小さな政府が実現し、民間の力が最大限活かされるようになろう。

しかし、改革を怠れば経済が衰退し、閉ざされた“元”経済大国となり、成長する中国やインド、アメリカ等の間で、日本の存在感は乏しいものとなる。また、政府や官の非効率性が拡大し、財政赤字に追われ、国民生活はより厳しいものとなる。

このように、私たちの未来には2つの道があり、私たちはどちらの道も歩むことができるが、暗い未来に向かわないためには、引き続き構造改革を進めることが求められている。

2.ビジョンに示された3つの「目指すべき将来像」

I.開かれた文化創造国家

わが国の伝統や古来から現代に至るものづくりの力に裏付けされた生活文化の魅力や、新しい分野での世界的レベルの技術力・知的価値の創造等により、世界に開かれ、財・人・資本等の自由で活発な交流により、世界に対して存在感を持ち、経済社会においても活力をもたらす。

日本の文化 ― ものづくりや食文化、映画やアニメ、ファション等の根底にあるのは、「日本の感性」である。それに触れるために、外国から日本に人が集まり、海外でも、憧れや人気を得る。文化で、世界を魅了する国は、国際社会での存在感も大きい。

世界中の人が、訪れたい・働きたい・住みたいと思う「壁のない国」、国際社会への貢献や、日本人の活躍を通じて、広く信頼を得、幅広く交流の場を提供する「かけ橋国家」となること。それらにより、国際間での日本の影響力が高まり、安全保障にも好影響を及ぼす。

(実現のための具体的行動)
  • 一人一人の「人間力」ともいえるものを高めるための多様な教育サービス・システムの提供。
  • 知的基盤を確立し、イノベーションを促す。
  • 早急に東アジアの経済統合に取り組み、外国人労働者の積極的受け入れを進め、財・人・資本の円滑な流れをつくる。
  • 地球環境問題等、地球規模の課題解決にリーダーシップをとる。
  • 効果的な対外戦略のための体制の整備・交渉力やコミュニケーション能力・専門的知見を備えた優れた人材を育てる。
II.「時持ち」が楽しむ「健康寿命80歳」

「健康寿命」とは、平均寿命ではなく、心身共に健康で自立した期間を指し、現在の75歳から、2025年位には80歳に延び、それに伴い、生涯で自由になる時間も1割以上増えて、より多くの時間(可処分時間)を享受できる。長いライフサイクルの中で、働くこと、学ぶこと、遊ぶこと、それらにどれだけ自分の時間を使うか、自由に工夫することができる。様々な選択、年齢・性別・場所等にとらわれない生き方が可能となり、夢の実現や、再挑戦ができる多様多才社会である。そこでは、健康・生涯学習・子育て支援等において、良質かつ多様なサービスが提供され、新しいビジネスチャンスを生む。

(実現のための具体的行動)
  • 若い頃からの健康管理、病気の予防と罹病後の生活管理等、健康維持と予防に重点。
  • 意欲と能力に応じて、年齢に関わりなく働くことのできる多様な就業形態。
  • 大学院進学者を現在の1000名中2名から、米国並みの8名に。生涯学習としての場も。
  • 借家面積を現在の59m2から100m2(※関東大都市圏)に拡大し、住環境の改善。
  • 家族構成や人生設計に合わせた住み替えを容易にするための住宅市場の整備、リバース・モーゲージ等の活用。
III.豊かな「公」・小さな「官」

「民」にできることは民で、地方にできることは地方でと、より受益者に近いところに権限を移し、小さくて効率的な政府のもと、必要とする公共サービスが、様々な主体と手法により豊かに提供される社会をつくる。

個人が自発的に自らの可能性を高めながら「公」の活動を担う「奉私奉公」が広がり、企業・NPO・社会的起業家等、幅広い非政府主体が、「公」を担い、社会のニーズに対応する。

地域住民が自身でできないことを基礎自治体が引き受け、基礎自治体ができないことを広域自治体が担い、広域自治体ができないことを国が行う、自立的な分権社会を実現する。

(実現のための具体的行動)
  • 定期的な市場化テストの実施等で、官の効率化をはかる。2010年代初めまでに、国と地方の基礎的財政収支を黒字化した後、黒字を維持し、公債残高を引き下げることにより、小さくて効率的な政府を実現する。

  • 政府が提供すべき行政サービスの範囲と、それを賄うために必要な最低限の国民負担のあり方について関心を喚起し、国民的議論を通して、一体的に吟味、選択する。

  • 望ましい物価上昇率を安定的に維持するための金融政策の導入(インフレーション・ターゲッティング)。

  • 今後2年程度の間に、集中的に社会保障制度改革の検討を進め、制度の持続可能性を高める。

  • 国民の選択により、NPO等への公的助成や社会投資ファンドの活用によって社会的な価値が創造される環境を整備する。

以上のような、「目指すべき3つの将来像」実現のための様々な施策によって、一人一人の能力向上への取組みやイノベーションを通じて生産性が向上し、信頼される市場が成立し、その結果、公正な競争のもとに参入と革新が続く「機会に充ち、躍動する経済社会」が到来すると考えられる。

3.4WGにおける2030年の経済指標

「日本21世紀ビジョン」策定にあたり、4つのワーキング・グループはそれぞれの担当項目毎に、「2030年の経済の姿・指標」を算定した。

I.経済財政展望グループ
【実質GDP】

人口が減少する中でも、労働生産性の上昇に支えられて、実質GDP成長率は、1%台半ばの伸びを確保する。

【一人当り実質GDP】

人口減少分だけマクロより高い伸びを示し、2%程度に伸びを高める。(一人当り実質GDP伸び率=実質GDP伸び率−人口の伸び率)

【労働力率】

多様な働き方が可能となり、高齢者等の労働力率の高まりが、生産年齢人口(15〜64歳)の減少を一定程度相殺する。60歳以上の労働力率は、2005年が28%→2030年に32%へ。特に60〜64歳では、2005年に54%→2030年に65%に上昇。

【労働生産性】

機械化の進展等による資本ストックの拡充が進むとともに、技術革新等による全般的な効率性の向上により、労働生産性の伸びは2%強に高まる。

【経常収支】

経常収支黒字はGDP比で緩やかに低下するが、黒字を維持する。好調な内需を背景に、輸入が増大し、財・サービス収支は赤字に転じる。

【貯蓄投資バランス】

家計部門は高齢化に伴う貯蓄率の低下により黒字幅が減少。法人部門も投資が堅調に伸び、黒字幅は大幅に減少。政府部門は赤字(投資超過)縮小。

II.競争力グループ
【産業別GDP】

アジアの製造業の生産性の伸びが高いが、日本の製造業も高い生産性の伸びに支えられて増加。非製造業は、所得水準が高まり、サービス産業の需要を拡大することから、製造業を上回る増加。産業別GDPシェアは、製造業が2000年の24%→2030年に20%に低下、非製造業は2000年の76%→2030年に80%と上昇。

【就業構造】

製造業がイノベーション等で、より労働節約的となり、労働所得ベースで2000年の20%→2030年に9%と低下、非製造業では、2000年の80%→2030年に91%と、雇用に占める割合が増大する。

【コンテンツ市場】

映像・音楽・アニメ・ゲーム・メディア等のコンテンツ市場は、2030年には、国内総生産の5%(※現在のアメリカ並み)を見込む。

III.生活・地域グループ
【健康寿命80歳】

超高齢化の時代において、健康維持と病気の予防に重点をおく。平均寿命と健康寿命(生活と健康の質を考慮し、心身共に健康で自立している期間)の差を縮めて、2002年(平均寿命は81.8歳)の75歳→2030年(同84歳)の80歳に。

【可処分時間】

健康寿命の延びや働き方の多様化等により、自由に活動できる時間(生涯可処分時間)が2002年の18.3万時間→2030年に20.5万時間と、12%増加し、「時持ち」となる。

【大学院在学者】

多様な就業形態、ライフスタイルの変化等により、様々な年齢層において、大学院で学位を取得する人が増え、2004年の1.99人(人口1000人当り・通信教育含む)→2030年の8人へ(※2000年の米国は、7.66人)。

IV.グローバル化グループ
【外国人旅行者】

2003年1月の小泉総理施政方針演説で、2010年に訪日旅行者倍増を宣言。2000年の訪日旅行者数は476万人、2004年は614万人。2010年に1000万人、2030年に4000万人に達する可能性(※2002年のイタリアへの外国人旅行者は3980万人)。

4.ビジョンへの課題

経済財政諮問会議専門調査会が公表した「日本21世紀ビジョン」について、2005年5月18日付の日本経済新聞で、次のようなコメントがなされている。

「本ビジョンは、人口減少経済のもとで、国民にどんな選択肢があるのか、考える材料を提供したという意味で大いに評価したい。しかし、まず指摘したいのは、財政健全化の視点が強く出過ぎていないか。報告書では、目指すべき方向性として、多様な主体による公共サービスの提供、小さくて効率的な政府、自己責任原則、負担の先送り回避等が強調されている。創造的な個人や組織が社会を引っ張り、能力と成果に応じた報酬が得られるという、報告書のいう多様多才社会では、経済的格差がより拡大する。そこで、セーフティネットとしての社会保障システムはますます重要になるはずである。

日本は既に世界トップの高齢社会であるが、社会保障給付の水準は、GDP比でみて先進国では低位にあるといわれる。小さな政府・公による負担増大回避と本来望ましい社会保障水準のあり方について、必要な枠組みと国民負担率の試算が示されるべきである。

その上でどのような社会をつくっていくか。一人当りGDPだけでは計れない人々の満足度を高めれば人々はいきいきとし、結果として社会全体の負担能力を高める。多様多才社会への一歩は、いつでもどこでも才能を開く教育・文化のシステムの構築がかかせない。個人の潜在能力をいかせる社会を目指すためには、もっと強調されるべきであろう。」

本ビジョンに提示された「目指すべき将来像」として第一に「開かれた文化創造国家」があげられている。文化の創造、文化産業の発展は、新しい価値を生み、知的財産を形成し、市場に受け入れられ、経済を促進する。これまで、市場経済の外部であった文化が大きくクローズアップされ、両者を相互連関の関係において両立、循環させることが必要である。

文化産業への関心は、昨今、特にソフト産業のコンテンツの経済的な効果について注目されてきたが、本来の文化そのものについての議論はまだ十分ではない。

21世紀の国家戦略の要は、国の軍事力でも経済力でもなく、「国家の魅力をどうデザインできるか」にかかっているともいえるのではないか。

参考資料

  • 内閣府資料「日本21世紀ビジョン」専門調査会報告書 (2005.4)
  • 竹中平蔵大臣講演会in 和歌山 (2005.5.28)
  • 日本経済新聞 (2005.5.18、5.24)

2030年の生活・文化創造産業

(内閣府「日本21世紀ビジョンにおける経済の姿」より)

(2005.7)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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