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紀州備長炭とびんちょうタン〜アニメと地域活性化

主任研究員  冨尾 勝己

はじめに

紀州備長炭は、和歌山を代表するブランド商品であり、本年4月から導入された地域団体商標の登録申請がなされ、全国で最も早く登録査定がなされた52件の一つとして、商標登録が認められた(特許庁 2006年10月27日公表)。

この紀州備長炭の産地の一つであるみなべ町「みなべ川森林組合」においてユニークな取り組みが行われている。アニメ「びんちょうタン」のマスコットキャラクターとしての採用である。平成16年からマスコットキャラクターとして採用されているが、昨年あたりから新聞、インターネットなどで全国的に話題にのぼることが多くなった。

コンテンツ産業、中でもアニメを含む「萌え産業」と呼ばれている分野の市場は、もはやニッチ産業ではなく、大きな経済効果をもたらすものとなっている。2004年8月に野村総合研究所は、アニメ、アイドル、コミック、ゲーム、組立パソコンにおけるマニア消費者層の規模を2900億円と推計している。また、2005年4月には浜銀総合研究所がアニメ、コミック、ゲームの3分野で市場規模888億円との推計結果を発表しており、若者を中心としたコンテンツ市場において「萌え産業」は無視することのできない分野となっている。

本稿では、みなべ川森林組合の取り組み内容を紹介し、「アニメ」の地域活性化に対する影響、役割につきレポートする。

びんちょうタン

1.アニメ「びんちょうタン」

「びんちょうタン」はアルケミストの江草天仁(えくさ たかひと)さんが作ったキャラクターで2003年5月にアルケミストのサイトのトップページに初登場した。その後2003年11月から2005年7月までメガミマガジンで4コマとして連載され、2005年8月より現在もなおコミックブレイドに連載されている。

「びんちょうタン」は、関西地方では2006年3月から4月まで12話分がMBSにおいてテレビ放映された(関東地方ではTBSにおいて9話分を放映)。現在、テレビ放映は終了しているが、コミックは1巻、DVDが3巻(テレビ放映された全12話)まで発売されている。アルケミストによると現在までにコミックは10万冊、DVDが3万本の売上げがあったということであり、その人気の高さを窺わせる。来年2月ごろコミックの第2巻も発刊される予定である。

TBSのアニメーション「びんちょうタン」公式HPでは、

「山の中の一軒家で暮らす一人の少女の物語。
けなげに一生懸命日々を過ごす彼女の「のんびり」ストーリー」

との紹介がなされている。その紹介のとおり、備長炭を頭に乗せた「びんちょうタン」をはじめとする個性的な女の子たちの日々の暮らしを描いた心温まるアニメである。

しかし、この「びんちょうタン」というアニメの主人公。備長炭のPR用に作られたキャラクターではない。はじめに江草さんが作成した「びんちょうタン」というキャラクターが存在し、アルケミストからの申し出を受けて、みなべ川森林組合が紀州備長炭のマスコットキャラクターとしての採用を決めたのである。

そのマスコットキャラクター採用の経緯は、紀州備長炭と「びんちょうタン」との不思議な縁が感じられるエピソードとして「みなべ川森林組合 びんちょうたん」HPに紹介されている。

紀州備長炭振興館
紀州備長炭振興館
紀州備長炭振興館案内看板
紀州備長炭振興館案内看板

2.備長炭の歴史と現在の状況

一方の「備長炭」の歴史と現状についても簡単に触れておきたい。

炭には「白炭」と「黒炭」があり、備長炭は「白炭」の代表的なものである。白炭を焼く技術は、弘法大師が唐に渡り、密教の奥義とともに持ち帰ったものであり、高野山をはじめとして全国に炭焼きの技術を広めたと言われている。

備長炭の製法は、平安時代に熊野で焼かれていた「熊野炭」を江戸時代に現田辺市秋津川の製炭士が改良して製法を確立した。備長炭の名前の由来は、田辺の炭問屋「備中屋長左衛門」が自分の名前から商品名を「備長炭」と名づけたとのことであり、江戸に出荷され大好評を博することとなる。明治時代に備長炭の製法は、宮崎県(日向備長炭)、高知県(土佐備長炭)などにも伝えられ、和歌山県では「紀州備長炭」として製造されている。その備長炭の製法は、和歌山県の指定文化財・無形民俗文化財にもなっている。

平成16年における白炭の全国における生産量は3,475tであるが、そのうち和歌山県の生産量は1,518tであり、全国の生産量の約45%を占めている。

白炭については、中国政府が森林保護のため平成16年10月1日から全面的に輸出禁止としたが、その時点での中国産の白炭(備長炭)は日本における需要の約8割を占めていた(平成16年9月28日林野庁プレスリリース)。しかし、禁輸後も中国からの輸入が止まることはなく、東南アジアからの輸入も増加している。

価格は、国内産の備長炭は700〜866円/kgに対し、中国産は320〜370円/kg、東南アジア産は250円/kg(平成18年5月時点・全国燃料協会調べ)となっている。品質の面では紀州備長炭が国内産も含めて最上級であり、品質の劣る海外からの備長炭の流通により、備長炭全体のイメージダウンも懸念されている。

今後は、紀州備長炭の永続的な生産振興のため、緑の雇用事業、定住促進などの施策と連携した紀州備長炭の生産者の確保、増産体制の整備、価格競争力の強化など地域団体商標の登録と併せて和歌山県の地域ブランドとして守り育てていく必要がある。

3.びんちょうタンとのタイアップ

携帯ストラップ
携帯ストラップ
びんちょうタン風鈴
びんちょうタン風鈴

そういった紀州備長炭の状況の中で、紀州備長炭の裾野を広げる取り組みとして、みなべ川森林組合の取り組みが静かにブームを呼んでいる。

「びんちょうタン」がみなべ町産紀州備長炭のマスコットキャラクターとして採用されたのは平成16年1月。日本の美しい自然を背景にけなげに頑張る女の子「びんちょうタン」と和歌山の自然豊かな里山で備長炭の振興に努める森林組合。この二つが見事に融合したのである。アニメ「びんちょうタン」は、自然の中で日本人が忘れかけている質素でつつましい生活を描き、備長炭の活用方法なども紹介されており、ほのぼのと楽しく見ることができる。テレビ放映もなされたが、深夜帯での放送であり、子供の視聴可能な時間帯での再放送など検討して欲しいところである。

「びんちょうタン」が大きく描かれたみなべ川森林組合の案内看板が登場したのは平成16年10月1日。南部町と南部川村の合併に合わせた登場であった。看板の設置から約1年後の平成17年8月28日付け関西版・毎日新聞に「びんちょうタン」看板が紹介され、そのニュースがインターネットMSNトップニュースで取り上げられたことで全国的に知れ渡ることになったのである(みなべ川森林組合HP)。

これがきっかけとなって、全国から「びんちょうタン」ファンが紀州備長炭振興館に来館するようになった。また、アルケミストは、「びんちょうタン」のキャラクターを使ったみなべ町合併1周年を記念したポスターを作成して合併を祝し、みなべ町全体の観光案内看板にも「びんちょうタン」が登場しており、アルケミストの協力の元、みなべ町あげて「びんちょうタン」というキャラクターを育てていこうという意気込みが感じられる。

さらに、みなべ川森林組合オリジナルのキャラクターグッズとして、「携帯電話のストラップ」「アイピロー」「巾着袋」「風鈴」「リストレスト」があり、この夏から「ぬいぐるみ」も販売されるようになった。みなべ町への来訪を促すという効果もあることからみなべ町限定グッズとして販売していたが、紀州備長炭を広く知ってもらうため、現在は全国のアニメイト各店でも販売されている。「びんちょうタン」に出てくるキャラクターの「ガチャポン」もみなべ町内に4箇所(紀州備長炭振興館・うめ振興館・紀州南部ロイヤルホテル・国民宿舎紀州路みなべ)設置されており、好評を博している。アルケミストによると、この「びんちょうタン」シリーズのガチャポンは200万個の売上げを記録している。

イベントとしては、2006年2月にTBS主催の「びんちょうタン」バスツアーが開催され、募集開始から30分で定員に達し、ツアーも大盛況のうちに終了している(紀伊民報AGARAフラッシュニュース(2006年4月21日付))。

4.経済効果と地域振興

タイアップの取り組みをはじめて2年余り。一つの指標として、紀州備長炭振興館来館者数につき、みなべ川森林組合から平成17年度、平成18年9月度までの来館者数データの提供を受けた。

グラフでは、町外からの来館者(展示情報室)の推移を示した。季節による来館者数のバラツキはあるものの来館者数は確実に増加している。平成18年度の4月〜9月度の実績は平均して月200名増加(上期で1200名増)しており、いずれの月も前年を大きく上回っている。

平成17年8月にインターネットMSNトップニュースで取り上げられた結果、来館者増に結びついていることは明らかである。

紀州備長炭振興館来場者数(町外)

みなべ川森林組合にとって「びんちょうタン」のマスコットキャラクターとしての採用は大成功であったと言えるだろう。だが、みなべ川森林組合の松本貢参事から、来館者やキャラクターグッズの販売が増加するだけでは地域活性化にはならないというお話を聞き地域振興の難しさ、奥の深さを感じた。というのは、キャラクターグッズの販売増は森林組合としての収入増にはなるかもしれないが、「みなべ」の地域の人々が紀州備長炭と「びんちょうタン」を大事に守り育て、その上でみなべ町全体の地域振興につなげるという課題をクリアできないということである。

この地域振興という課題に対する一つの取り組みとして、この秋(2006年11月18〜19日)、『びんちょうタンふるさとの旅「里山体験ツアーinみなべ町」』が開催された。このイベントは、アニメ「びんちょうタン」を通じて、備長炭やみなべ町を知った人たちに対する備長炭の窯出し体験や原木となるウバメガシの植林による森づくり体験、「ちく馬(竹馬)」作り、山でのマキ拾いや備長炭を使用した炊飯などの体験を行うものであり、都市と農村との人々の交流を深めることを目的としている。また、このイベントは、TBS主催のバスツアーに続くイベントとして企画されたものであるが、今回は、地域の多くの人々が「自分たちの手で」ということでみなべ川森林組合だけでなく、みなべ観光協会、みなべ町商工会青年部など多くの有志が実行委員会を結成し、実現したという点がみなべ町にとってはより大きな収穫であったと思われる。

紀州備長炭振興館は、けっして交通至便なところにあるわけではないが、日本全国から「びんちょうタン」ファンが多数来訪している。そのパワーは都市部を中心として生じている「萌え産業」の興隆の一つの現れであり、そのタイアップは大きな経済効果をもたらしていると考えられる。しかし、地域振興という意味での取り組みとしては、地域の人々の力を結集した「里山体験ツアー」のようなイベントの積み重ねがより重要であると感じた。

5.まとめ

安価で品質の劣る外国産の備長炭に対して、長い歴史と確かな技術に裏付けられた紀州備長炭というブランドをいかに守っていくかという面で地域団体商標登録の申請がなされ、特許庁によって認められたことは前述したとおりである。地域団体商標の登録申請が外国産などの備長炭に対する「守り」ならば、「びんちょうタン」と紀州備長炭とのタイアップは、静かではあるが「攻め」の姿勢と言える。

この「攻め」の視点としては、来館者やグッズの売上げの増加が目的ではなく、来館した人がみなべ町の自然や備長炭に触れて、またみなべ町を来訪したい、紀州の備長炭を使いたいと思うようなふれあいの場を地域の力を結集して作りあげていくこと、すなわち前述の「里山体験イベント」などの継続的な開催や「日常的なもてなし」こそが重要であり、それが最終的には地域振興に繋がるのである。地域振興は一朝一夕で成り立つものではないが、「びんちょうタン」がみなべ町に投じた一石は大きなものになる可能性を秘めている。

「萌え産業」のパワーは全国的にも大きなものになりつつあり、アニメだけではなく、ゲーム、メイドカフェ、フィギュアなど多くの魅力あるアイテムが登場し、大きなブームを呼んでいる。

「萌え産業」と地域活性化という観点では、長野県の木崎湖がアニメの舞台を活用した観光に力を入れたり、東京の秋葉原、大阪の日本橋が「萌え産業」を中心として活性化したり、長浜にフィギュアのミュージアム(「海洋堂フィギュアミュージアム黒壁」)が出来て観光客が増加しているなど多くの例が挙げられる。しかし、単なるブームによる経済効果を収めることで満足せず、地域の活性化に繋げる努力が必要である。

みなべ町は、南部町と南部川村との合併から2年余り。今回のレポートでは合併について触れることはできなかったが、梅と炭の生産量では日本一を誇る町である。そういった地域資源を広める手段として紀州備長炭と「びんちょうタン」のマスコットキャラクターとしての人気を一つの核として効果的に活用していくためには、地域の住民の理解、協力が必要不可欠である。「びんちょうタン」は合併後の地域運営という意味でも、予想外にみなべ町にとって大きな役割を果たしていくことになるかもしれないとの感想を抱きつつ、地域の力を結集した「里山体験イベント」を成功させたみなべ町の今後の地域運営に注目していきたい。

なお、この場を借りまして、日常業務に加え、「びんちょうタン」のマスコットキャラクター採用により多忙を極めているにもかかわらず、貴重なお話、資料等を提供頂きましたみなべ川森林組合の松本貢参事に感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

興味を持たれた方は、是非下記「みなべ川森林組合 びんちょうタン」サイトにアクセスしてみて下さい。新たな世界が広がるかもしれません。

参考資料・サイト

(2006.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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