ホーム | サイトマップ | リンク

ホーム > レポート > まちづくり > 「地域通貨によるコミュニティの再生」研究を通して見えてきたもの

「地域通貨によるコミュニティの再生」研究を通して見えてきたもの

研究部長  鳥居 昌之

1.はじめに

平成14年度、15年度の2年間、当研究所の政策研究テーマ「地域通貨によるコミュニティの再生」の研究にあたり、「地域通貨とは何か」、「国内における状況、世界における状況」などについて、国内の先進地の現地訪問や文献を通して調査研究をすすめてきた。

地域通貨は国内の各地で発行されており、千葉市の「ピーナツ」、草津市の「おうみ」、宝塚市の「ZUKA」、その他「ふれあい切符」、「エコーマネー」など約400以上のものがあるといわれている。海外ではアメリカのイサカアワーやタイムダラー、カナダのLETS(Local Exchange Trading System:地域交換交易システム)、アルゼンチンのRGT(Red Global de Trueque:グローバル交換リング)などが有名である。和歌山県内においても田辺市の「きしゅう券」、和歌山市のコミュニティマネーわかやまの「ちゃら(Chala)」などの地域通貨が発行されている。国内外においてこのような活発な活動の広がりをみせているのは、地域通貨に何らかの魅力があるからである。当然、地域通貨について学問的に研究され、多くの報告書が出されている。

平成14年度には、地域通貨の一般的な研究と和歌山県における可能性を検討したものを前編(「地域通貨によるコミュニティの再生」)として報告した。平成15年度は、和歌浦地区における地域通貨「わか」の立ち上げにも参画し、地域通貨の実践研究を後編(「地域通貨によるコミュニティの再生 その2」)として報告した。地域通貨の研究を通して、地域の中で何が大切なのか見えてきた気がする。私見を述べてみたい。

2.地域通貨の目指すもの

地域通貨は読んで字のごとく、限られた地域の中で流通する通貨である。自分達自らが自由に発行することができる利子が付かない通貨で、円やドルのように国が保証し利子の付く通貨とは全く異なるものである。

一般的には、地域通貨を発行する会などに入会し、「して欲しいこと」「できること」を登録して、会員間でサービスのやり取りを行う。その際サービスを受けた人は地域通貨を支払い、サービスを与えた人は地域通貨を受け取ることで、お互いの助け合いや交流を地域通貨を介してスムーズに行うことができる。また、地域の商店街においても、商品価格の一部を地域通貨で支払うことで商店街に地域の人を引き戻す役割が期待される。また、NPOなどが開催するプロジェクト活動(例えば、まちを綺麗にするクリーン作戦など)に参画してくれた人にボランティアへの対価として地域通貨を支払い、その地域通貨は商店街などで利用でき、商店からは発行元のNPOなどへ寄付するという形で循環させる所謂「コミュニティ・ウエイ」という方法で地域通貨が使われこともある。地域通貨は、決して貯めてはいけないもので、早く使うことが、お互いの助け合いや交流がどれだけなされたかというバロメーターとなる。地域通貨の目指すものは、お互いの助け合い、交流を促進し地域を活性化させることであり、まちづくりの手段としても注目をされている。

地域通貨の概念図
地域通貨の概念図

コミュニティ・ウエイのイメージ
コミュニティ・ウエイのイメージ

3.コミュニティの問題

コミュニティの崩壊が進んでいるといわれて久しい。現代社会における一極集中は、都会への人の集中、交通ではマイカーへの集中、流通では大型量販店への集中等、利便性や魅力のあるものや場所へ人は引き付けられ集中化現象が起きている。しかし、家族においては逆で、豊かになった社会では、自由な個人は家族という枠から飛び出し、核家族化へと進展し、分散へと動いている。以前は、おじいちゃんおばあちゃん、両親、兄弟が一緒に生活し、生活の知恵の伝承、子育て、世代間の交流があった。

地域社会でも、何か困ったことがあればお互いが助け合って生きてきた。しかし、近年、若者は都会へと引き寄せられて出ていくことから、若者と高齢者との交流が薄れるとともに、地域内におけるお互いの助け合いも薄れてきている。簡単に移動できない高齢者は地域に取り残され、高齢化率の高い地域が生まれる。また、昔からの地域の商店街は、大型量販店等の進出で、空き店舗を余儀なくされているのが現状である。しかし、この様な状況の中で、人びとは、かつての様な助け合いや世代間の交流などにより、活況と温もりのある地域の再生を望んでいるのである。

4.先進地の現地調査から

地域通貨の調査研究を進める上で先進地の現地調査を行った。以下に現地のヒアリングからの状況を簡単に記述する。

(1)草津市の地域通貨「おうみ」

平成14年10月24日、地域通貨「おうみ」の現地調査に和歌山市と和歌山市商店街連合会のメンバー20名と参加した。草津市は東海道五十三次の江戸から五十二番目の宿場町であり、東海道と中山道の分岐・合流する交通の要衝であり、昔ながらの宿場の面影を備えたところであった。地域通貨「おうみ」の起源は、草津コミュニティ支援センターの市民活動をサポートするために用いられた「センタークーポンおうみ」である。平成11年(1999)6月から紙幣を発行している。初期には、「おうみ長者」が現れるなどして、貯めこまれたので、これを回避するため「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしの個人間のサービスのやり取りを促進し、相互扶助システムへと拡大していった。平成12年(2000)1月タクシー会社が地域へ貢献するという意図から参入の申し入れがあり、責任所在をハッキリするために、センターの「おうみ」事業部が独立して、平成12年10月に「地域通貨おうみ委員会」が設立された。平成14年4月にはNPO法人として認証され現在に至っている。

現在は「1おうみ」「10おうみ」の2種類の紙幣が発行されている。また、商店街と連携してごみ減量や地元商品購入者にシールを発行し、10枚で「1びわこづち」(100円相当)と交換でき商店街で使用できるシステムを作っている。また、平成14年(2002)10月からNPOと商店が連携したボランティアの対価として「ありがとう券」が発行されている。

先進地だけあり、説明資料もしっかりしており、女将金澤恵美理事長をはじめ山本正雄事務局長の皆さんたちがいろいろな仕掛けをし、「おうみ」をそだてることに生きがいを感じて活動されていることが感じられた。短期間の視察では、実際に交換が行われているところは体験できなかったが、NPO法人として認証されて組織的にもしっかりしている印象を受けた。

おうみ、びわこづち、ありがとう券
おうみ、びわこづち、ありがとう券
草津市の商店街風景
草津市の商店街風景
ありがとう券の取り扱い
ありがとう券の取り扱い店
(2)田辺市地域通貨「きしゅう券」

和歌山県内初の地域通貨「きしゅう券」が発足して間もない平成15年3月14日に、地域通貨を発行しているNPO法人和歌山健康アシスト協会を訪問した。

和歌山県健康アシスト協会の目的は、「心の健康、身体の健康、健やかなふるさとを維持増進を図るために必要な事業を行い、安らぎと潤いのある福祉社会に寄与する」であり、地域通貨は「心豊かな地域社会で相互扶助を促す事業」の一環としてはじめたと、山本利光理事長から説明を受けた。理事長が地域通貨を立ち上げられた背景には、理事長個人の生い立ちが影響しており、第一線経営者から身を引いたあと、お世話になった社会に何かを残したいという思いがあったからである。福祉社会をつくるためにイメージばかりが先行しており、実態のあるもの、動きのあるもの、生きがいのあるものがなかった。そのように思っていた時に地域通貨に行き当たったという。(財)さわやか福祉財団などを訪れ研究され地域通貨「きしゅう券」を立ち上げられたという。理事長が経済界に関係していたことで、多くの協賛店の賛同も得られていた。目標は11市町村を対象として活動されている。地域へ貢献したいという山本理事長の熱き思いが伝わってくる訪問であった。

きしゅう券

きしゅう券
地域通貨「きしゅう券」

(3)千葉市地域通貨「ピーナッツ」

平成15年7月1〜2日、有名な千葉市の地域通貨「ピーナッツ」のヒアリングに現地を訪問した。応対してもらったのが、「ピーナッツ」を実際に広め、浸透させた実践者ゆりの木商店街のMADOKA美容室海保眞さんである。

「ピーナッツ」は、NPO法人千葉まちづくりサポートセンター(通称ボーンセンター)が発行しており、通帳方式(大福帳と呼ばれている)でLETSのシステムを取り入れている地域通貨である。初期の段階で地域通貨の勉強会が開かれたが、商店街の人はあまり興味を示さなかった。しかし、海保さんは、お金でない地域通貨を使って「地域経済の活性化」や「住よいまちづくり」をすることや、「アミーゴ(amigo)」といって助け合いの仲間づくりをすることに新鮮さを感じ、美容室で実践しはじめた。はじめの一ヶ月ほどは入会者がなかったが、そのうちに地域通貨が使えるということで、新規のお客さんの来店があった。唯一のルールである「アミーゴ」と言いながら握手をした時、不思議な感覚を覚え、だんだん楽しくなってきて地域通貨にのめりこんでいったといわれている。

「アミーゴ」と言うことにより不思議と親近感を覚えると海保さんが言われているが、「アミーゴ」というのは友達という意味のスペイン語である。筆者もメキシコのグアダラハラに在住したことがあり、この気持ちは良く解る。メキシコの人は、少し親しくなると、親しみを込めて「アミーゴ」という言葉を良く使う。こちらが不安になっている時や、落ち込んでいる時でも、明るく元気にしてくれる言葉である。

現在は、ゆりの木商店街は写真のように花一杯で街並みがきれいになり「緑と花のプロムナード」を目指している。第3土曜日には土曜市が開かれており、高齢者の人たちが外へ出て行く楽しみの一つにもなって、福祉面でもおおいに貢献している。また、現在、観光エージェンシーと提携して中学校の修学旅行コースの一つにもなりつつある。

これは、地域通貨に共鳴し地域を良くしようとする実践者とそれをサポートするNPOとの連携がうまくいった事例であると思う。花もプランターではなくオブジェにして芸術性をもたせており、住民参加型のまちづくりが進んでいることを窺わせている。

緑と花のあるゆりの木商店街通りと海保さん
緑と花のあるゆりの木商店街通りと海保さん
ピーナッツ会員店の表示
ピーナッツ会員店の表示
ゆりの木商店街の風景(手前MADOKA美容室)
ゆりの木商店街の風景(手前MADOKA美容室)

5.和歌浦地区における地域通貨[わか]について

地域通貨の研究のみではなく、実際に立ち上げようということから実践候補地をさがしていたとき、串本町の大島で興味をもっている人がいるというので、現地を訪問し打ち合わせた。しかし、時期尚早ということで諦め、次の候補地として当研究所の中村前専務理事居住の和歌浦地区を選び現状を調査した。

ここで和歌浦地区の範囲は、新和歌浦、和歌浦西、和歌浦中、和歌浦東、和歌浦南、和歌川町をいう。

(1)和歌浦地区の現状

図に示すように、和歌浦地区の人口は年々減少傾向にあって若年層の割合が減っている。当然65歳以上の人口割合が上昇しており、平成14年では26.1%で、和歌山市の平均18.6%(平成12年国勢調査)を大きく上回っている。地域通貨が力を発揮するのはこのような場所であるので、和歌浦で実施しようということが決まった。自ずと地域通貨の呼び名は「わか」に決まり、読みやすく親しみやすいことからひらがなで「わか」となった。地域通貨「わか」の目的を「お互いの助け合い」、「地域経済の活性化(明光商店街等)」更に追加して「風光明媚な和歌浦の自然・歴史・景観保全等」も盛り込むことになった。

和歌浦地区5歳階級別人口(平成10年、平成14 住民基本台帳ベース)
和歌浦地区5歳階級別人口
↑クリックすると別窓で大きな図が開きます

和歌浦地区の人口推移

和歌浦地区各丁の人口変化

和歌浦地区65歳以上の人口動態
和歌浦地区65歳以上の人口動態

(2)地域通貨[わか]の立ち上げ

立ち上げまでにしなければならないいろいろな事柄があった。例えば拠点の確保、拠点立ち上げまでの資金確保、組織、地域の人に地域通貨を理解してもらうこと、地域通貨のデザイン、地域通貨を広めるための拠点を運営するボランティアの募集等である。

地域住民の方への理解には、CS神戸の中村順子理事長の講演を主体とした研修会や、分かりやすいチラシを作成し配布したりした。拠点については幸い、立ち上げメンバーの1人の空き家を借用することができ解決した。資金については、和歌山県の「NPOからのふるさとづくり」に応募し、企画案が採択されたため目途が立った。通貨の方式は、紙幣よりも通帳方式がよいとうことになり、通帳の表のデザインは和歌浦の妹背山を中心とした古文書からとったものとすることに決まった。

幸い地元の中村さんの呼びかけで、地域通貨が面白そうだと思う人や、和歌浦を良くしようという地元の人が集まり、ボランティアで運営していく体制が整った。また、会員集めでは、地元婦人会、連合自治会への説明会を行った。地域通貨わか推進委員会の会長、副会長さんには地元で信任のある方に就いていただき、地元中心の組織が形づくられた(平成16年4月から「地域通貨わかの会」に改称)。

地域通貨わか通帳の表
地域通貨わか通帳の表

サービス交換時のわかの記入欄
サービス交換時のわかの記入欄

地域通貨わか事務所
地域通貨わか事務所
手作りのわか事務所表札
手作りのわか事務所表札
(3)活動状況

平成15年11月4日に開所式を行い、地域通貨「わか」が本格的に動き出した。会員は72名(平成16年5月末現在)である。

交流会を開催して、地域通貨によるお互いの助け合い、交流の活発化を図っている。具体的なサービス交換としては、ウォーキングの指導、簡単な送迎、カラオケの場所提供、料理指導などがあり、徐々に交換が行われている。また、商店街の店舗の入会もあり、価格の一部を地域通貨で支払うことができるようになっている。ある店舗は、有機農園の農業体験ボランティアの対価に地域通貨を支払っている。

当然、お互いに知らない人同士のサービス交換はやりにくいため、事務局がコーディネートして、遠慮の壁を取り除いている。

第1回地域通貨わか交流会風景
第1回地域通貨わか交流会風景
第2回地域通貨わか交流会風景
第2回地域通貨わか交流会風景
有機農園における農業体験ボランティア風景
有機農園における農業体験ボランティア風景

6.地域通貨研究と実践研究を通して感じたこと

先進地のヒアリング調査では、自分達の地域を誇りに思い地域を良くしようとする人達や地域に恩返ししようとする人達が、地域通貨に興味を持ち、実際に地域を良くするための手段であると考えて活動していることが理解できる。

「ピーナッツ」の海保さんが、「地域通貨は本当の通貨ではない、人と人との交流、仲間づくりの手段である。」といっていたことが印象に残る。海保さんと話していると、地域通貨で仲間づくり、そして街がきれいになっていくことが楽しくてしょうがないといった感じであった。事実、ゆりの木商店街が花いっぱいのプロムナードになってきている。行政もこの運動に花の交換など暖かい支援をおこなっていることも注目すべきことである。

「きしゅう券」の山本理事長も一線の経営者から身を引いてから、11市町村に福祉の輪を広げようと情熱を注がれている。

わが和歌浦地域における地域通貨「わか」においても、こちらの呼びかけで和歌浦を良くしようとする人が地域通貨は面白そうだということで集まり、地域通貨「わか」が立ち上がった。やはり、地域にはまだまだ素晴らしいパワーがあることを強く感じた。

地域通貨「わか」も徐々にサービスの交換が始まっている。地域通貨というものは、外からははっきりとは見えないけれど、中からジンワリと効いてくる漢方薬のようなものであると思う。

7.結び

人の間と書いて人間と読む。お互いに寄り添って助け合って生きているのである。人が、生きがいをもって暮らすことができる社会、それは、お互いが信頼し、助け合って生き生きとした生活ができる社会である。かつての日本には、各地に貧しくとも明るく活力をもった地域社会があった。

今、中山間地域、過疎地域における人の回帰が叫ばれている。大切な山間の自然を愛し、それらを守ってきた人びとに元気を取り戻してもらうといったことにも地域通貨が活躍する場があるような気がする。地域通貨は、そんな人達に生きがいを与える一つの手段であると思う。

和歌浦における地域通貨「わか」も始まったばかりである。お互いの助け合いも徐々に広がりつつある。これから元気な和歌浦、そして元気な和歌山市、和歌山県へと展開していくことを望んで止まない。折りしも、平成16年版「国民生活白書」に「地域活動を促進させる有効な手段」として地域通貨が取り上げられ、市民参加を呼びかけている。市民参加は、自分達の地域を愛し、地域を何とかしようとする人びとが、地域通貨に魅力を感じ、情熱を注ごうとする自主的な思いから湧き上がってくるものであると思う。

地域通貨は、生きる喜びを与えてくれるものであるように思える。それは、「人は、何のために生きているのか」という命題を我々に教えてくれているのかもしれない。

(2004.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

このページのトップへ