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ジビエ(天然の野生鳥獣の食肉)の有効活用と普及 〜もっと、食べよう〜

元・主任研究員  山本 和生

I ジビエとは

ジビエ(gibier)とは狩猟で得た天然野生鳥獣の食肉を意味するフランス語で、ヨーロッパでは貴族の伝統料理として古くから発展してきた食文化となっている。

その昔フランスなどでは、ジビエを使った料理は、自分の領地で狩猟ができるような上流階級の貴族の口にしか入らないほど貴重なものであった。

そのためフランス料理界では古くから高級食材として重宝され、高貴で特別な料理として愛され続けている。

そこでは、動物の尊い生命を奪う代わりに肉から内臓、骨、血液に至るまで、全ての部位を余すことなく料理に使い、生命に感謝を捧げようという精神が流れている。

山野を駆け巡り大空を舞った天然の肉は脂肪が少なく引き締まり、栄養価も高く、まさに森からの贈り物である。力強く生命力に溢れた冬季限定のごちそうとなっている。

日本では、11月15日から2月15日まで狩猟が解禁となり、ジビエのシーズンが始まる。

ジビエにあまり馴染みのない日本でも根強いファンが多く、ワインにも合うため、グルメ好きにはたまらない人気の高い料理である。

(出典:日本ジビエ振興協会

II 鳥獣害の現状と課題

1 現状

現在、日本では野生鳥獣が増えすぎ、田畑で農作物を食べ荒らすと共に、スギ、ヒノキやブナなどの樹木の樹皮や高山植物を食害するなど、農林業や自然環境にとって大きな問題になっている。環境省の「国のニホンジカ(以下、「シカ」という。)及びイノシシの個体数推定等の結果」によるとイノシシ・シカの個体数推定(北海道を除く)は、中央値として、シカは304万頭、イノシシは94万頭が生息しているとされている。

和歌山県農業環境・鳥獣害対策室調べによると野生鳥獣による農作物の被害額は、平成24年度の約3億5千万円から平成28年度には約3億3千万円と微減している。

県内では、猟友会などが中心となり駆除をおこなっており、平成28年度にイノシシとシカの捕獲数は、約34千頭となっているが、捕獲されたほとんどの野生鳥獣は、埋設処分や焼却処分などによる廃棄という状況にあり、埋設での処分は水質汚染などの環境への影響も考えられる。

野生鳥獣の大切な命を捕獲し処分するのみではなく、捕獲後ジビエとして有効活用することが地域活性化につながると考えられる。

本県主要鳥獣による農作物被害額

本県の主要鳥獣捕獲数

(出典:農林水産省 野生鳥獣による都道府県別農作物被害状況)

本県の主要鳥獣捕獲数

イノシシ被害の状況と捕獲数
イノシシ被害の状況と捕獲数

(出典:農林水産省(被害金額)/和歌山県(捕獲頭数))

シカ被害の状況と捕獲数
シカ被害の状況と捕獲数

(出典:農林水産省(被害金額)/和歌山県(捕獲頭数))

2 課題

野生鳥獣を捕獲するうえで大きな課題は、狩猟者の高齢化に伴う後継者不足である。狩猟免許を持つ人がいなければイノシシやシカを捕獲することはできないのである。

和歌山県の年齢別狩猟免許交付状況を平成23年度と平成27年度を比較すると20歳から39歳の狩猟免許交付者が若干増加しているのみで、狩猟者不足を解決する程の増加の解決に至ったわけではなく、平成27年度では60歳以上の狩猟者が全体の63%であるため、今後は特に若年層の担い手の確保が急がれる。

平成23年度 和歌山県年齢別狩猟免許交付状況
平成23年度 和歌山県年齢別狩猟免許交付状況

(出典:環境省)

平成27年度 和歌山県年齢別狩猟免許交付状況
平成27年度 和歌山県年齢別狩猟免許交付状況

(出典:環境省)

III 消費者アンケート(抜粋)

和歌山市職員を対象に平成30年11月6日(火)から20日(火)に「野生鳥獣の捕獲とその肉(ジビエ)の利活用に関するアンケート」を実施し、750名の回答をいただいた。

アンケートでは、ジビエの認知度は、8割以上の人がジビエという言葉を知っているとの回答があり、ジビエを食べたことがあるかの問いに6割以上が食べたことがあるとの回答があった。また、ジビエを食べたことのない人でも「積極的に食べたい」と「機会があれば食べたい」と6割の人が回答している。

一方、ジビエを食べたことのある人、ない人で、「あまり食べたくない」、「食べたくない」、「二度と食べたくない」の理由欄には、「身近なものではない」、「慣れていない」、「料理の仕方がわからない」「気持ちが悪い」、「肉が臭い、硬いイメージ」、「野生の印象が良くない」、「寄生虫やウィルスのリスクがある」などの意見があった。このことから、ジビエ消費拡大のためには、衛生面への不安、臭みなどの課題や一般消費者向けに調理方法の提案などの取組みをおこない、ジビエを食べてみたいという人を消費に向かわせるPRの必要性、また、身近に購入できる場所をどう作るかではないかと考える。

【問】あなたは、ジビエを知っていますか
 
【問】あなたは、野生鳥獣の肉(ジビエ)を食べたことがありますか。
【問】上記の問で食べたことが「ない」と答えた方で、今後ジビエを食べたいですか。

III ジビエ振興のために

ジビエ振興を行う際に、よく川に例えて、川上から川下までと表現することがある。川上は狩猟として、川中は加工、川下は消費と表現する。

川上としては、人口が減少し、あらゆる分野で高齢化が進む中、狩猟免許所有者についても高齢化が進んでいる状況にあり、狩猟免許所有者の減少を食い止めなければならない。当然、狩猟者が減少すれば、野生鳥獣の捕獲数量も減少する。このことが結果として、耕作放棄地の増加をもたらしたことが、鳥獣の住みかを増やし、周辺の農地への被害を招くという悪循環となる。特に中山間地域等については、高齢化が進み農業を続けて行くことが難しい状況にあるところに追い打ちをかけて野生鳥獣による被害があるため、集落機能の低下による将来的な存続が危ぶまれている。

狩猟者の減少を解決しなければ野生鳥獣の捕獲は進まない。若年層獲得のため、狩猟についてのイメージをもっと変えて行く必要がある。誰もが、狩猟の世界に入りやすいイメージ作りをする。若年層の獲得のために積極的な狩猟体験イベントなどを行い狩猟に興味を持った若者が継続して続けられるような取組みが必要である。

例えば、狩猟を専業とした職業を作りだし、狩猟のみの収入で生計を営めるだけの一頭当たりの単価を上げ、狩猟のプロを養成してはどうか。そうすれば、狩猟免許を持たない集落から依頼があれば即座に対応も可能となる。狩猟者としても捕獲高に合わせて高収入が得られる「儲かる農業」=「儲かる狩猟」の仕組みを作ることが、これ以上、野生鳥獣を増やさないためにも必要だと考える。

川中としては、近年ジビエ活用のため、国や都道府県の衛生基準をクリアしている施設整備が整いつつあるが、野生鳥獣は、家畜などに比べて、安定供給が望めないという不安定な要素がある。野生鳥獣は、あくまで、野生の動物であって、いつどこで何頭捕獲できるか分からず、個体の大きさや捕獲した時点での血抜き方法や搬入時間・狩猟者のキャリアなどによって、肉質や味が変化してしまうため狩猟者の腕も重要なポイントとなる。狩猟者の捕獲後の処理テクニックを向上させる研修会なども必要になってくる。また、運搬方法などのハードの整備も必要であると思われるため、国の補助金を活用し地域にジビエ運搬のための冷凍車などの配置をすれば山奥で捕獲した野生鳥獣をできるだけ早く冷やし肉質の変化を抑え良質なジビエの確保が可能ではないか。

その他、ジビエとして利用するため、野生鳥獣の生息数管理や捕獲者・処理施設の従業員などの労働環境も考慮した仕組み作りが必要であると考える。

川下としては、流通の仕組みの整備が必要になってくる。捕獲した個体を無駄にしないためにジビエの認知度を高級レストランだけではなく、一般消費者にも広げる。例えばスーパーなどでもジビエが牛肉や豚肉と同じぐらい身近な存在になるようPRするとともに、スーパーなどでも手に入りやすくし、家庭でも安心で安全なジビエを美味しく調理して食べられるよう広く消費を促す調理提案などの取組みが必要不可欠である。

また、今後は海外に目を向け、日本産高級食材としてジビエをヨーロッパなどの市場に輸出することも考えられる。昨年、農林水産省は、欧州における野生鳥獣の肉(ジビエ)輸入量の調査を初めて取りまとめた。ジビエの本場では、国内産だけでは需要が賄えず、フランスで流通量の7割、ドイツでは、4割を輸入に頼っている。

日本産ジビエは野生ではあるが、狩猟者を確保し供給量を増やすことによって輸出は可能ではないかと考える。ジビエは、日本国内での需要は小さく未知数であるため、欧州などに販路拡大し国産ジビエの安定した売り先の確保ができれば、儲かる狩猟が可能となり、併せて野生鳥獣からの農作物の被害が減少するのではないかと考えられる。

ただ、日本からの輸出実績がないとのことであるため、輸出については、国内流通よりもハードルが高くなるが、ジビエとしての価値は、日本よりも欧州の方が高いと言われているためビジネスチャンスが広がると考える。

今後、一般消費者向けに販売することにより、農家民泊などで訪れた訪日外国人の自炊の食材として日本のジビエの品質を知っていただき、将来の日本から外国へのジビエ輸出にも期待をしたい。

(2022.4)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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