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「コストマネジメント活動」の仕組みづくりについて

研究部長  安井 尚人

1.はじめに

「コストダウンをする目的は何か?」と聞かれれば、「利益を出すため」と答えるはずである。それでは、「なんのために利益を出すのか?」、それは、「会社を存続させ、社会貢献するため」と答えるはずである。つまり、コストダウン活動は、「会社と社会の持続的成長」のために必要な活動と言える。

ところが、P.F.ドラッカーは、プロフィットセンター・コストセンターという言葉を使った結果、組織内ではプロフィットセンター(利益を生む部門)は善、コストセンター(費用を抑える部門)は悪といったイメージが定着している。後年、プロフィットセンターの存在が組織の中にあるように錯覚を持たせてしまったと修正したが、言葉は独り歩きし、コストセンターには、費用削減やリストラ等、暗いイメージがつきまとっている。また、多くの企業は、コストダウン活動を経費節減として捉え、「電気、コピーを節約する」「旅費や経費の削減」といった守りのキャンペーン式活動に止まっている場合が多くみられる。

しかし、コストダウン活動とは、一見簡単に見えて、実は緻密な科学的分析を伴った経営戦略を支える攻めの「コストマネジメント活動」であり、相対的や絶対的な視点での戦術、トレードオフ(両立できない関係)の解消等、「利益とは何か、価値とは何か」を考える「業務変革活動」である。その為には、全員の「知恵と工夫」を絞り、「組織的な運営、より科学的な視点」、そして「継続的な活動」を展開する仕組みづくりが必要である。

ここでは、「コストマネジメント活動」について、活動の視点、運営体制、実施例、活動継続等のポイントから、発想と思考のあり方について考察する。

2.「コストマネジメント活動」の視点とは?

コストマネジメント活動を実践する視点は、図表1に示すように「価値・分析・共有」の3つの思考から成り立っている。

価値創造視点は、価値を質とコストの論理式と捉え、最大化を目指す思考である。開発型・積極型は攻め、改善型・消極型は守りの思考である。

分析視点は、総費用をターゲットにし、固定費と変動費で原価構造を詳細に分析し、経費削減や構造改革によって取り組む守りの思考である。この思考には、捻出した利益をどのように活用するかといったトップの強いメッセージが必要であり、思想なき闇雲なコスト削減は社員の心を劣化させるだけである。

共有視点は、全体最適化視点での自社部門間や他社間のサプライチェーン(供給連鎖)等に存在するトレードオフの解消である。多くの場合、WinWinの関係は少なく、既得権益や聖域といった壁が存在する。コスト構造を論理的に解き明かし、創出された利益を両者で共有できるゼロベース視点での意思決定が重要である。

図表1 「コストマネジメント活動」の視点とは?

3.「コストマネジメント活動」の推進サイクル

図表2に、コストマネジメント活動の推進サイクルを示す。

図表2 「コストマネジメント活動」の推進サイクル

現場では、活動計画と目標値を設定(P)、計画に従って実行(D)、進め方と結果検証(C)、修正を加え改善(A)につなげるPDCAサイクルが原則である。また、もう一つのマネジメントとして重要なのは、トップのコミットメント(責任を負う約束)による共有化、標準化によって、このサイクルを新しい方向性を提示するステップにつなげる仕組みも必要である。このサイクルの継続は、(1)全員参加の推進体制、(2)収益に貢献する意識、(3)全体最適のための壁の排除の3つの要素によって推進され、動機の共有化によって、高い次元へのスパイラルアップが可能になる。この様な仕組みの定着には、企業間の差はあるが、およそ20〜30年間の活動の継続が必要とされる。

次に、コストマネジメント活動の発想法と、推進体制の事例について述べる。

4.「コストマネジメント活動」の発想法

コストマネジメント活動は、経営戦略と異なり現場の実態をよく知る者の活動でなければ成果は出ない。しかし、実際の現場活動は、経験をベースにした「思い込み」が強く、活動テーマやアプローチ方法も各部門間でレベル差が大きい場合が多い。従って、現場に潜んでいる個々の「能力」を最大に引き出す為には、多様な「引出し」の視点となる「きっかけ」を明示することが必要である。図表3に、多様な「引き出し」の活用による発想法を示す。

図表3 多様な「引き出し」の活用例

一つは、原価分析や効率分析等の観察型で「一次情報の見える化」であり、もう一つは、活動テーマや思考フレームによる発想型で「多様な視点の言語化」である。このような観察型と発想型の組み合わせを共有化することによって、質の高い活動が効率的に、戦略的に推進できる。現場の強さとは、「引き出し」の多様性であり、企業の競争力の差は、観察型と発想型の組み合わせによる「知恵と工夫の差」と言っても過言ではない。

5.「コストマネジメント活動」の推進体制事例

図表4にコストマネジメント活動として、花王、パナソニック、デンソーの推進体制を示す。ボトムアップとトップダウンとの視点から見ると、融合型、並列型、トップ主導型に分けられる。

図表4 「コストマネジメント活動」の推進体制

花王の活動は、TCR(Total Creative Revolution)と呼ばれる「業務革新活動」で、バブル崩壊前の1986年から始まり30年以上活動を継続している。推進体制は、現場からの草の根活動によるボトムアップ活動が基本で、トップメンバーで構成される毎月のリーダー会議によって、実績と方向性が示唆される。ボトムアップ活動とトップダウンの融合型である。

パナソニックの活動は、コストバスターズ(ムダを見つけ、退治する)と呼ばれ、2003年に始まり、「知恵と工夫でコストを賢く使う」理念で、全社プロジェクトとして運営されている。活動対象は、経費(交通費、消耗品等)や固定資産有効活用等で本社直轄のトップダウンである。一方、製造現場においては、「イタコナ活動(商品の原価を「板」や「粉」のレベルにまで分解)」と呼ばれ、材料の源流まで遡る徹底した原価低減活動として定着している。トップダウンとボトムアップ活動の並列型と言える。

一方、自動車部品メーカーのデンソーは、コンカレントエンジニアリング(設計から製造の業務を同時並行的に処理し、量産化開発プロセスを短期化する手法)を導入し、2005年から「1/N」のコンセプト(最少でも1/2レベル以上を目指す抜本的な見直し)による「ダントツ工場」を目指している。鋳造部品一貫ラインはコンパクト化され、設置面積80%減、生産コスト33%減等を実現している。また、製造現場では、「EF(Excellent Factory)活動」と呼ばれ、工場長がリードする日常改善活動として定着している(遠藤功著の現場論を参考)。トップがリーダーシップを発揮するトップ主導型である。

このように、コストマネジメント活動の体制は、企業文化や業態によって、トップダウンとボトムアップの連携の仕組みに特徴がある。しかし、これらに共通しているのは、明確なトップダウンのコンセプトと、知恵と工夫を盛り込んだボトムアップ活動の両立であり、企業文化の明文化(Kaoウェイ、松下幸之助綱領、デンソースピリット)による全社員の意識づけの徹底が基盤になっている。

6.「コストマネジメント活動」の事例紹介(花王)

コストマネジメント活動の紹介として花王のTCR活動の事例を示す。TCR活動は、グローバルで年間2000件以上のコストダウン案件が実施され、約100億円の経営効果(活動開始から1年間のみ評価)として、利益分析に反映されている点に特徴がある。図表5に、ECRS視点(図表3の(4)思考フレームを参照)での主な活動事例を示す。

図表5 活動事例(花王の例:ECRS視点)

統合C(Combine)としては、物流効率向上(3段から4段積変更)のため、商品の設計(商品高さ9%圧縮)まで遡り仕様を変更した事例で、物流と商品開発の部門連携により輸送費の約4割を削減した。

再配置R(Rearrange)としては、製品チューブ仕様変更で、特注の黒色チューブへの白色印刷仕様から、汎用の白色チューブへの黒色印刷に変更した加工順番の入れ替えの見直しである。

簡素化S(Simplify)としては、製品段ボールケースへのロット印字間隔を、判読可能な限り間引いた機能簡素化の事例で、インク使用量を約8割削減した。

これらの事例は、簡単には見えるが、サプライチェーン(調達・生産・流通の供給側)間だけでなく、商品開発までフィードバックするデマンドチェーン(需要側)間にも、大小のさまざまな部門の「壁」がある。この「壁」を取り除くのがトップダウンの機能であり、スピードある決定により、現場の「気づき」が早期に実現されることによって、現場意識を高いレベルで継続する為には必要である。

7.コストマネジメントの継続のポイント

コストダウン意識が全社員に定着し、DNAとなるには約20〜30年の活動の継続とモチベーションの向上が必要である。図表6に、「コストマネジメント活動」を継続するための7つのポイントを示す。

図表6 「コストマネジメント活動」継続の7つのポイント

これらは、企業文化、運営方針、推進体制、意識改革等の視点でのポイントであるが、高い納得性と理詰めのアプローチが必要である。この中で最も重要なポイントは、7.「考える喜びの醸成」であり、全員参加活動の達成には不可欠である。効率化や原価低減等は、決してネガティブ思考ではなく、改善を考えることが楽しく、作業が楽になるといったポジティブ思考でなければ継続できない。

8.最後に

コストマネジメント活動を業務革新につなげるには、トップのリーダーシップと現場の草の根活動を継続的に活性化する推進体制の構築と、全員参加活動により質的にも向上しなければならない。図表7に、推進体制機の機能の連携を示す。

コストマネジメント活動を進めるには、活動の方向性、評価軸のルール作り、成功事例の水平展開、トップと現場との間の「方向性のずれ」の修正等を、トップのコンセプトと現場活動を経営視点で評価する独立した推進機能が不可欠である。

図表7 トップダウンとボトムアップの連携

また、コストマネジメント活動が企業文化となるには、全員参加でなければならない。その為には、図表8に示すように、5:20:100の法則(5%の意識を変え20%に広げると100%組織全体変わる)を念頭に置いた現場マネジメントが必要である。

図表8 5−20−100の法則

例えば、100人の会社であれば、5名の熱いリーダーを核として育て、仲間を各々3名巻き込めば20名のチームになり臨界状態ができる。そうすれば、活動発表や掲示板等の見える化活動により、活性化の大きなうねりが生まれ、共通の価値観が図れる。コストマネジメント活動は、単なる原価低減ではなく、全員参加による仕組みづくりであり、知恵と工夫によって「会社を少し良くする」業務意識改革の実現とも言える。

9.おまけ(コストマネジメントの名言)

観察型として、「丸を描いて、この中に立っておれ」トヨタの大野耐一。ムダが見えなくても3時間もすれば、誰もが気づく3現主義の基本である。発想型としては、「3%のコストダウンは難しいが、3割ならばすぐにできる」松下幸之助。今までの延長線上の考えでは難しいが、3割下げるゼロベースでは無理ではない。全体最適化では、「コスト削減の最も効果的な方法は、活動そのものをやめることである。」P.F.ドラッカー。コストの一部削減が効果的であることは稀である。云々・・・

(2019.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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