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高齢者の要介護認定率を改善している保険者の取組の調査研究

研究部長  吉増 雅一

一.はじめに

1.高齢者の要介護認定率を改善する(引き下げる)必要性

年齢階級別の要介護認定率は、5歳刻みで倍増し、80歳以上で急上昇しています。

2025年以降、超高齢社会の確実な到来に向けて老化(要介護状態の悪化を含む)を遅らせる元気な高齢者の多い街づくりが必要です。80歳以上の要介護認定率の引下げが課題です。

年齢階級(5歳)要介護認定率推計値(2017年度末)

上記の表は、総務省推計人口(平成30年4月1日確定値)と介護保険事業状況報告(平成29年度全国要介護認定者数−年度末現在)に基づいて算出した2017年度末の年齢階級別要介護認定率推計値です。

2025年に団塊の世代が後期高齢者となる75歳に到達します。その後は毎年、要介護認定者が急速に増加することが確実です。少子化により支え手の減少も続きます。

高齢化率が全国平均を大きく上回り人口の減少が続く過疎圏の保険者では、すでに介護サービス事業所のケアの担い手を確保することが困難になりつつあります。超高齢社会に向けて、老化を遅らせる元気な高齢者の多い街づくりは、全ての保険者の重要課題です。

2.高齢者の要介護認定率を改善している保険者の取組の調査研究

昨年度、要介護認定率の改善について和歌山県に提言するため、優良保険者の調査研究を行いました。上記の年齢階級別要介護認定率推計値が示すように保険者の認定率は高齢者の性・年齢構成の影響を受けます。そこで保険者の性・年齢構成が全国平均と一致するように調整した認定率の2012年度末から2018年度末までの推移に注目し、認定率の低い都市圏の埼玉県和光市、過疎圏の山梨県北杜市、期間中の認定率の改善値が大きい和歌山県九度山町の取組を調査しました。(認定率と1571保険者中の順位は下記の表のとおり)

二.要介護認定率を改善する取組の紹介

日本の介護保険法の理念(第1条、第2条、第4条)は1981年に公表されたデンマークの高齢者医療福祉政策三原則(人生の継続性の尊重、自己決定の尊重、残存能力の活用)そのままです。自立支援は1980年代以降のデンマークの高齢者ケアを引き継ぐ考え方です。

デンマークは1987年に老人ホームの新設を禁止して高齢者専用住宅・ケア付き住宅の整備に政策を転換し、「ageing in place」(住み慣れた地域・住居での生涯生活)を徹底しながら、「active・ageing」(活動的に年老いる)を推進しています。その評価指標と代表的な取組を紹介し、その視点を加えて和光市、北杜市、九度山町の取組のポイントを報告します。

1.デンマークの「active・ageing」の評価指標と代表的な取組

デンマークの在宅ケアの基礎は「無料の介護・看護サービス」にあり、「生活ニーズ」を査定して薄く広く提供しています。67歳以上の在宅ケア利用者割合を2008年から2019年まで8%も引下げています。(デンマークは老齢年金の給付が67歳です。自治体の福祉政策の独立性が高いので毎年の全国統計dataに報告漏れがあり日本ほど正確ではありません。)

在宅ケアを利用する高齢者割合の低下に寄与したと考えられる施策が「予防的家庭訪問」と「再自立(リエイブルメント・Re-ablement)」を目的とする生活機能回復訓練です。

(一)予防的家庭訪問

自治体の看護師、作業療法士などの専門職が看護・介護サービスを利用していない(生活状況を把握していない)高齢者に家庭訪問を行います。2000年代「75歳以上に年2回」、2010年以降は年1回、2015年から「80歳以上に年1回、75歳到達の節目に1回、65歳以上の退院患者、配偶者を亡くした者、認知症などのリスクグループ」に実施しています。

家庭訪問の目的は「食・栄養、運動・身体活動、社会参加」を重視する「active・ageing」の推奨と自治体の福祉サービスの説明、フレイルが進む高齢者の早期発見と早期介入です。

(二)再自立(リエイブルメント・Re-ablement)

多くの自治体で取組まれたため、2015年、社会サービス法に組み込まれ、介護サービス利用申請者に生活機能回復訓練を提供することになりました。自治体のリハビリチーム(判定員、作業療法士、社会保健アシスタント・ヘルパー、理学療法士、看護師)が家庭訪問し、アセスメント・目標設定を行って、3〜12週間の訓練を行います。配偶者や家族に頼らず、着替え、階段昇降、洗濯、調理などを行う実生活に立脚した訓練です。作業療法士が高齢者宅で洗濯や調理をしながら訓練プランを作成し、介護スタッフに伝えます。その後、介護スタッフが日々のサポートの中で訓練しながらリハビリチームとこまめなカンファレンスを行い良い方向に導きます。介護するのではなく介護から離れていく、家事やリハビリを見守る(注意と励まし)・手伝う(一緒にする)といった「手を出し過ぎないケア」が基本です。

予防的家庭訪問と在宅ケア利用申請段階での再自立の制度は、高齢者に「active・ageing」を促すとともに、フレイル高齢者の早期発見・早期介入を徹底し、在宅ケアコストを削減しつつサービスの質(高齢者満足度評価)を維持する点で大きな成果を上げています。

2.埼玉県和光市の取組
(一)介護保険法の理念を徹底して啓発

介護保険法の目的(第1条)「QOLの保持と自立」、事業指針(第2条)「介護予防と自立支援、居宅介護の充実」、(第4条)「国民の自立に向けた努力義務」をあらゆる機会に説明。

(介護給付を受けることは純粋な権利ではなく本人が努力し自立することを支援する制度)

(二)高齢者悉皆調査を起点とするフレイル高齢者の早期発見と早期介入

2001年から高齢者の「ヘルスアセスメント調査」を実施しています。現在も心身と生活状況を把握済みの要介護認定者を除く全高齢者を対象に、「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」を3年間かけて実施しています。郵送調査の回収率は回答者に「active・ageing」を促す「いきいき評価アドバイス」を送付し、未回答者に訪問回収を行う旨を通知して70%程度です。その後、研修を受けた介護予防サポーターが未回答者を家庭訪問し回収します。

3年毎に更新するヘルスアセスメント情報に加えて住民情報、税情報、相談支援情報などの自立支援型ケアマネジメントに必要な情報を集約した「高齢者台帳システム」を構築しています。全高齢者の95%をカバーし、市役所と地域包括支援センターで活用しています。

地域包括支援センターの専門職員は調査等で判明した要介護リスクのあるフレイル高齢者に漏れなく連絡し、家庭訪問を行って自立支援を働きかけます。たとえサービスを利用しなくても、顔つなぎした職員が定期的に連絡を入れて人間関係を深め、「active・ageing」の意欲を引出し、一般介護予防事業、介護予防・生活支援事業、要介護認定申請などの希望があれば迅速に対応しています。デンマークの予防的家庭訪問に準じる効果的な取組です。

(三)介護予防・日常生活支援総合事業(一般高齢者への実質的な保険料戻し)の展開

介護予防・日常生活支援総合事業はフレイル対策を実施する保険者独自事業です。財源は保険料23%、市町村費12.5%、国費・県費・交付金64.5%。保険料を幾分引上げその3倍の公費を加え、保険料を負担するだけで介護給付を利用できない者にサービスを提供します。

ヘルスアセスメントの高齢者悉皆調査と高齢者台帳システムは、地区単位で閉じこもり何人、転倒リスクのある者何人、低栄養リスクの者何人、行政サービスの希望者何人などの実数を明確にし、地区単位で必要な介護予防事業の内容・費用・効果の予測精度を高めます。

この介護予防ニーズ情報(介護サービスマーケット情報)は、市の予算審議の資料にとどまらず、介護サービス事業者と地区単位で効果的な事業を行う連携協議の資料になります。高齢者悉皆調査と高齢者台帳システムが、フレイル対策事業費の円滑な予算化と介護サービス事業者とのきめ細かな連携を可能にし、配食、紙おむつ、送迎などのサービス、身体的フレイル予防、閉じこもりや認知症予防、食の自立支援などの独自事業とサービス拠点の計画的な整備を可能にしました。介護予防ニーズ情報の集積は要介護認定率を改善し保険料を引下げる事業基盤です。

(四)自立支援型ケアマネジメントの実効性を向上させる多職種連携会議

2000年からケアマネージャーの自立支援型ケアマネジメントを支援するために「コミュニティケア会議」を開催しています。保健師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、ケアマネージャー、ケースワーカー、民生委員、自治体役員などの関係者が集まって、生活上の課題を抱える高齢者に関わって、解決策に取り組む会議として発足しました。

会議では多職種と関係者がケアプランの自立支援の課題、短期目標、長期目標などを評価して、良い方向に改善するようケアマネージャーに助言しています。和光市方式の取組として有名であり、厚生労働省が推奨し、「地域ケア会議」の名称で全国的に取組まれています。

要介護認定率の改善効果は会議でのケアプラン審議件数に比例します。高齢者宅で開催していませんが、デンマークの再自立リハビリチームの訓練プラン作成に準じた取組です。

なお、和光市はデンマーク的な「手を出し過ぎないケア」を行う介護予防ヘルプサービスを提供しています。(研修受講したヘルパーが生活機能回復訓練などを行う訪問型サービスC)

3.山梨県北杜市の取組
(一)人口問題を市民と共有化した上での「健幸北杜のまちづくり」を推進

北杜市のように高齢化率の高い過疎圏では医療・介護の専門職の確保が困難になりつつあります。少子高齢化が進展すると行政サービスだけでは地域を支えることが困難になる事実を市民に提示し、課題(危機感)を「自分ごと」として考えることを求めます。その上で住民の人間関係の深さを活かし、「住み慣れた地域で、安心して自分らしく暮らせるまちづくり〜地域で支え、支え合うまちづくり」の必要性を啓発し、様々な取組を行っています。

「健幸北杜のまちづくり」は「人生100年時代をどう生きる?」と問いかけて、身体面の健康だけでなく、生きがいを感じて豊かな生活を送ることを目指すまちづくりです。

市のホームページにスマートフォンで閲覧できる「ほくと元気100歳ネット」を開設し、介護予防・健康づくり、通いの場、生活支援、健康診断・健康教室など、「active・ageing」に効果的な情報を分かりやすく提供しています。重要な事業基盤です。

スマートフォンの所有者に働きかけ、「active・ageing」の意欲を喚起できれば日常生活・社会生活の改善につながります。(withコロナの時代には一層重要な事業基盤です。)

(二)高齢者の暮らしの要となる住民主体の「高齢者通いの場」の開設促進

介護予防サポートリーダーを養成して各地区に住民主体の「高齢者通いの場」の開設を促がしています。現在43団体が「仲間づくり」「生きがいつくり」「支え合い」の輪を広げる活動をしています。高齢者が気軽に集まる暮らしの要であり介護予防の拠点でもあります。

運営コンセプトは「笑顔があふれる所に人はたくさん集まる」。「無理なく、みんなで、いつまでも」をテーマに掲げ、分かりやすい「立上げ・運営ガイドブック」を作成し、運営者、ボランティア、利用者などの関係者全員が一緒に楽しむ活動を促しています。

(三)高齢者が通える地区単位(110か所)で「集いとサロン」をほぼ毎月開催

保健福祉推進員が区長をはじめ食生活推進員、民生委員、ボランティアなど地区住民活動の関係者と企画し、市の介護予防指定講師リストの1名を招く「はつらつシルバーの集い」をほぼ全ての地区で年1回開催しています。指定講師には「身体を動かす、気軽に無理なく、笑顔で楽しい」講演ができる人材を多く揃えています。

また、北杜市社会福祉協議会事業で地区の高齢者などが自主企画する「ふれあいいきいきサロン」がほとんどの地区で開催されています。「仲間づくり、生きがいつくり、出会いの場づくり、健康づくり」を目的に誰もが気軽に集まれる場所づくりを地区単位で行います。サロン補助は年間25,000円上限(2500円10回)です。各地区でほぼ毎月サロンが開かれています

北杜市の性・年齢構成の調整済み認定率が和光市よりも低い事実は、高齢者の「active・ageing」への関心をしっかり高めたこと、必要な情報提供を十分に行っていること、人と人のつながりを強め、グループの結束力を高め、協調行動を促す(ソーシャル・キャピタルを醸成する)まちづくりが一定の成功を収めていることを示します。社会性を重視する取組の成果です。身近な仲間と話をする、食事をする、出かける、楽しむ、気遣う、健康づくりの声をかけ合う、身体を動かすなどといった協調行動は、老化を遅らせる効果があります。

デンマークの予防的家庭訪問では、「active・ageing」の意欲を喚起するため、高齢者の社会的交流や活動に焦点を当て、高齢者が参加可能な様々な活動やデイセンターなど自治体のサービス情報を提供します。特に80歳以上の者は社会性の維持と回復が重要です。

4.和歌山県九度山町の取組
(一)高齢者が虚弱になっても従来の仲間と交流できるコミュニティづくり

高齢者のフレイル対策は人とのつながり(交流)と生活範囲(外出)の維持・回復が重要です。九度山町は健常者と虚弱者が参加する高齢者通いの場の「重層化」に成功し、グループ全体が活性化して2012年度から2018年度末まで要介護認定率を6.7%引下げました。

2009年度に開始した「わかやまシニアエクササイズ」を実施する介護予防教室が契機となり町内各所に「介護予防自主サークル」が立ち上がりました。2012年度に運営サークルの健康づくり連絡会が発足し、加齢によりエクササイズの活動強度についていけない会員のフォローが共通の運営課題になりました。

2013年度から自主サークル会員がボランティアで運営する虚弱会員のための「介護予防サロン」を立上げました。運営コンセプトは「安全、楽しい、また来たい」。

地域包括支援センターの職員が、町内10か所のサロンに月1回は参加し、サロンに疎外感のある(楽しくない)参加者がみられた場合には運営者と相談し、健康運動指導士など様々な専門家の意見を聴きながら、「疎外感を持たせず、競争させず、楽しく参加できる」ように活動強度を改めたメニューを提案し、改善する支援を続けてきました。

障害者のユニバーサルデザインが健常者に価値があるように、工夫を重ねた様々な運動、コグニサイズ、ゲーム、レクリエーションを組み合わせた楽しいサロンは健常者を集めます。虚弱者に健常者を加え、2018年度のサロン参加者は自主サークル参加者を上回っています。

(高齢者人口1923人に占める参加者の割合:自主サークル12.7%、サロン16.6%)

(町内自主サークル11か所、サロン10か所。3つのサロンの平均年齢は80歳を超える)

三.まとめ

デンマークの「active・ageing」と優良保険者の取組を踏まえ、要介護認定率を引下げる取組で重要と思われるポイントは次の四点です。参考にしていただければ幸いです。

第一に、フレイル高齢者・要介護認定者全員に「active・ageing」への理解を促がすこと。

(地域社会や家族の理解が重要、本人の意欲は自立支援型ケアマネジメントの前提条件)

第二に、フレイル高齢者を可能な限り把握して、漏れなく早期に介入すること。

(80歳以上高齢者は全員フレイル、80歳以上の認定率を引下げる具体的な取組が重要)

第三に、フレイル高齢者に自立支援型ケアマネジメントを行うこと。

(地域ケア会議の運営が鍵、「手を出し過ぎないケア」が重要、ヘルパーの育成活用も鍵)

第四に、高齢者に人とのつながり(交流)と生活範囲(外出)の維持・回復を促すこと。

(通いの場やサロンの開設、楽しい運営が鍵、80歳以上の虚弱者の参加が重要)

※東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢教授は、2012年から千葉県柏市の高齢者約2000名の協力を得て実施している「大規模フレイル予防研究(コホート研究)柏スタディ」の分析に基づいて社会性を重視する「社会参加、栄養、身体活動」三本柱のフレイル対策を提唱しています。(フレイルドミノの順番はフレイル対策に効果的な項目の順位)

(2020.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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