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自然と農業を活かした観光まちづくり

研究部長  藤本 幸久

1.はじめに

持続可能なまちづくりの一つとして、「自然と農業を活かした観光まちづくり」について考えてみることとします。

和歌山には、四季に彩られた自然や史跡、澄んだ空気や温泉、新鮮な食材など、豊富な観光資源が沢山ありますが、残念ながら、これらの素晴らしい観光資源を有効に活用しきれているとは言い難いところがあります。

とりわけ、農村地域においては、人口の減少や高齢化により地域の活力が低下するとともに、農村の風景そのものの魅力も失われつつあることは否めません。一方、都市住民の多くは、都市部では得られない豊かな自然や美しい景観に親しみを感じ、心の安らぎや潤いを求めています。

このようなことから、現状の観光資源を劣化させずに、多様化したニーズに対応できる観光資源を育てることで、都市住民の欲求と結び付けることのできる「自然と農業を活かした着地型観光まちづくり」が重要であると考えます。

都市と農村の交流に関わる多様な形態
都市と農村の交流に関わる多様な形態
(農林水産省HPより)

2.着地型観光を活かしたまちづくり

従前のデータですが、(財)社会経済生産本部のレジャー白書2007には、「新たな旅への将来参加希望と潜在需要」として、以下の項目があげられています。

項   目 割合
癒しの旅 60.0%
大自然の魅力を味わう旅 34.2%
地域の食文化を楽しむ旅 17.4%
祭りや伝統芸能を鑑賞する旅 16.9%
病気回復や健康維持・向上のための旅 10.0%
農業体験や滞在を楽しむ旅 3.1%
漁業体験や滞在を楽しむ旅 2.0%

まさに、「自然と農業を活かした観光まちづくり」に合致した欲求ばかりです。

「着地型観光を活かしたまちづくり」をすすめるには、地域独自の歴史や文化、景観などの地域資源を活かした旅行商品の開発が必要であり、地域内の幅広い分野の人々が連携して、地域で作り上げる受入地主導型の着地型観光への取り組みが重要となってきます。

着地型の集客交流サービスを創り出すためには、埋没している地域資源を発掘して観光資源化するとともに、顧客ニーズに合った加工や商品とサービスづくりをすすめなければなりません。そのためには宿泊・旅客運送・飲食物販といった観光関連事業者のほかに、地域内のあらゆる人や組織と協働することが不可欠です。

また、地域資源は非常に裾野が広く、第1次産業、第2次産業、第3次産業など全ての組み合わせに色んな可能性が秘められており、伝統文化や観光施設などでネットワークをつくり、人を呼び込むことが求められます。

つまり、眠っている観光資源を掘り起こすとともに、地域内に点在する観光スポットや食などの観光資源の季節ごとの楽しみ方を再構築することと、それぞれを有機的に結び付けながらストーリーを創りあげることが必要となってきます。「自然と農業を活かした着地型観光まちづくり」によって交流人口を拡大することで、地域内の消費が増加し、新規投資の促進や雇用の拡大が期待できます。

(1)農業交流による滞在型観光

「農山漁村に旅行に行く場合にしたい過ごし方」は、「農山漁村における滞在・体験型旅行の消費者の実態とニーズ調査(WEB調査)」(財)日本交通公社(2009年3月)によると、以下のとおりです。

(複数回答)

項   目 割合
おいしい食を楽しむ 66.3%
美しい農山村風景を訪ねる 46.0%
里山をのんびり歩く 45.4%
暮らし・文化にふれる(祭りや風習、伝統工芸など) 27.6%
特色ある宿に泊まる 25.1%
地域らしい特産品を買う 23.8%
体験をする 21.4%
里の生活風景、集落等を一望できる場所で時間を過ごす 20.8%
生産者とふれあう 9.7%
生産活動を手伝う 7.8%
生産活動を教えてもらう 6.9%
菜園づくりをする 5.7%
晴耕雨読の生活をする 5.2%

共通するキーワードは、とりわけ、「食」「自然」「癒し」「体験」「歴史」となっています。これは、地域の主力産業である農業に着目したまちづくりと合致すものであり、農業の活性化と、景観の保全が重要なポイントとなってきます。このことから、農地の利活用促進、景観保護、人的交流の促進をはかることを目的に、農業体験を1つの観光資源として活用することが考えられます。

例えば、果物の収穫時期に長期滞在型の農業体験プランを作り上げることです。ただし、長期滞在用の宿泊施設は、農家にホームステイすることが可能であれば、新たな宿泊施設の設置は不要ですし、温泉施設の利活用が可能であれば更なる経済効果も期待できます。このような滞在型の農業体験プランは、今後劣化するであろう農村の原風景(景観)の保存策としても有効であると考えられます。

田舎暮らし応援県わかやま 体験観光ガイド ほんまもん体験  和歌山県観光情報
(和歌山県HPより)

和歌山県においては、南北に長い地形や地域性豊かな農林水産業を活用した体験・滞在 型プログラムの提供が必要なことから、(1)田舎暮らしや農家民泊、援農(農村型ワーキング・ホリデー)による交流、(2)体験交流型観光、体験教育旅行などに取り組み、一定の成果を上げています。

なお、和歌山県独自の農家民泊制度を設けることで、農家民泊や農産物直売所などの交流体験施設の整備・開設支援を行うとともに、農家民泊モニターツアーとあわせワークショップの開催、地域食材を活用したレシピの開発などにも取り組んでいます。さらに、宿泊客の誘致支援として体験プログラムを活用した「教育旅行」や「子ども農山漁村交流」などもすすめています。

ただし、農家民泊は県の認定103戸と徐々には増えつつありますが、体験できる宿泊施設はまだまだ少ない状況です。

(2)観光資源の連携による日帰り観光

これは、まさに地域の観光資源の特性を活かしながら、日帰り観光客の増大をはかるものです。とりわけ、短期並びに小規模であっても身の丈に合った心の通い合う交流、また、農産物直売所で生産者の顔の見える農産品の購入、農家民泊を通じた農業体験や農家との交流など、心が通い合う人と人との関係を実現することこそが大切です。

和歌山県においては、@直売所を核とした交流、A観光農園、市民農園による交流などをすすめ、既に大小130以上の直売所が開設されております。なかでも、常設の大型直売所(ファーマーズマーケット)が県内8か所に整備され、地域農業振興拠点としての機能を発揮しています。さらに、地域食材を活用した農家レストランやイートイン方式での軽食提供も増えつつあり、集客力向上と地域農産物の需要拡大にも貢献しています。

また、収穫体験型観光農園や果樹のオーナー型観光農園が数多く開設され、消費者の要望に応える形で、新鮮でかつ安心のできる農産物直売やバーベキュー設備など付帯施設の整備などにも取り組んでいます。

一方、一般的な市民農園は各地に開設されてはいるものの、コテージなど宿泊施設を併設した市民農園は、田辺市上秋津区の秋津野ガルテンの1か所のみであり、今後に期待したいところです。

農業法人株式会社秋津野
(農業法人株式会社秋津野HPより)

なお、体験交流型観光(ほんまもん体験)の入り込み客数は、平成14年に約10万人でありましたが、平成23年には、約26万人になるなど年々増加しています。

体験交流型観光客数の推移
体験交流型観光客数の推移
(和歌山県農林水産部HPより)

(3)観光まちづくりをすすめる為の組織づくり

これまで受け身だった地域が、自ら企画し自ら売るなど積極的な攻めの姿勢に転じるには、それを実現する人材としくみが不可欠です。

「自然と農業を活かした観光まちづくり」には自助努力だけでは難しい部分が多分にあります。地域の官民が一体となって観光客を誘致することで、地域経済にも波及効果が期待できることから、観光振興を推進する組織が必要です。いわゆる、地域を横断し、中核となってすすめる機能が求められ、その役割を継続的に維持するための組織が必要なのです。

この機能発揮には、新たな団体を組織することが必要とは限りません。いわゆる、地域の事情にあった組織形態を選択すべきです。

すなわち、地域の自然、歴史、文化など様々な情報をPRする機能。旅行業者などへの情報提供を行う機能。宿泊施設・観光名所・交通機関などの観光宣伝活動を行う機能。コンベンション(大会や会議などの大規模な見本市や催し物)誘致を積極的にすすめる機能。市民参加によるまちづくりやイベントを企画・運営する機能など。いわゆる、地域観光素材の発掘やマーケティングリサーチ、旅行の企画、情報発信、地域内の旅行手配を行う機能などが必要となってきます。

また、多様なグループとの連携協働や周辺地域との広域連携などもまちづくりの成否に大きく関わってくるでしょう。たとえば、地域資源である公共施設等を活用し、地域の宿泊施設との連携でコンベンション誘致をすすめることで交流人口が増加し、食事・土産物・地域内観光など経済的な波及効果は大きいものとなります。

なお、地域ならではの歴史や文化が体感できる旅や新鮮な深い感動を求めるようなニーズに対しては、従来の観光事業者だけでは対応が困難となってきており、地域内の1次産業や2次産業の事業者をはじめ、まちづくり団体、環境保護に取り組むNGO(国際的な民間非営利組織)、地元に精通した多種多様な人や組織などが、来訪者の「オモテナシ」に参画するようになってきています。

商品開発、販売、オモテナシの3つの機能を、地域内の誰がどのように担当するかは地域特性によって多種多様な形態が考えられますが、なかでも極めて有効と考えられるのは、この3つの機能を一元的に担うプラットフォーム(窓口)を設置することです。まさに、地域の内と外をつなぎ、地域内の人や組織のコーディネート役を担うという機能を持つものなのです。

観光地域づくりプラットフォームの必要性
観光地域づくりプラットフォームの必要性
(観光庁HPより)

とりわけ、成功事例としては、長野県飯田市の南信州観光公社があげられます。同公社は長野県南部の15市町村と民間企業・団体の出資により平成13年に設立されました。農業体験や食文化、伝統工芸、自然などの体験メニューの旅行商品をつくり、主にパッケージ化した修学旅行商品を県内外の旅行会社に販売しています。

南信州観光公社
(南信州観光公社HPより)

飯田市などの観光まちづくりのすすめ方 (株式会社南信州観光公社HPより)

地域の課題 解 決 策
〇観光資源が乏しい通過型観光地だが 体験型観光を中心に地域を活性化
(株式会社南信州観光公社の設立)
〇住民はどのように観光客と接するのか 住民と観光客が一緒に体験することが重要
        ↓
住民がインストラクターや案内人、民泊を受け入れる
(ほんもの体験)
〇地域の生活や農業を観光に活かすには 地域住民との接点から多様な体験プログラムを創造する
(感動体験南信州)
〇増加した視察や研修の対応は如何に 視察や研修を商品としてプログラム化する
(視察研修の積極的な受入)
(4)着地型観光まちづくりの特徴的経済効果

先ず、一般的な観光に比べて「着地型観光を活かしたまちづくり」の場合は、その地域の資源を利用することが強く意識されることから、地域内での経済的連関による波及効果が大きくなります。

つぎに、「着地型観光を活かしたまちづくり」は、環境破壊につながる一過性の観光開発ではなく、地域の環境を保全しながら持続可能な経済活性化をめざすものです。

よって、地域内の経済連関により大きな波及効果が期待できることや、環境保全に配慮した持続可能な地域経済活性化をもたらし得ることが特徴です。

3.おわりに

「自然と農業を活かした観光まちづくり」による地域活性化にあたっては、行政と地域住民が協働ですすめることが不可欠であり、長期的視点で観光形態の変化や顧客ニーズを踏まえ、観光資源の分析、商品企画、販売促進、観光評価など、顧客ニーズに機敏に対応できる取り組みが望まれます。

すなわち、地域特性を大切にしながら地域資源を活かすとともに、地域を熟知した地域の人たちが主体となる着地型の観光まちづくりです。これによって、さらに日帰りから滞在型観光までの従来にない魅力的な観光まちづくりや新たな需要が期待されるのです。

なお、「自然と農業を活かした観光まちづくり」の本質としては、まず、地域の人たちによる地域の人たちのための観光まちづくり。つぎに、地域色を強く感じることのできる観光まちづくり。また、利益至上主義ではない観光まちづくり。さらにリピーターの確保を主題とした観光まちづくりなどが理想といえるでしょう。

(2014.12)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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