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移住・定住の取組事例紹介(その2 島根県)

主任研究員  藤代 正樹

島根県は2015年移住希望地ランキングでは長野県、山梨県に次いで全国3位(ふるさと回帰支援センター東京調査)と西日本では最も人気が高い。その島根の移住定住推進の中心を担っているのが「公益財団法人 ふるさと島根定住財団」である。島根県南部にある飯南町は県内でも移住推進に熱心な町として知られており、地域おこし協力隊員も8人採用。これらの移住推進取組事例を紹介し、岡山県(前号)と島根県の事例から見える和歌山県の課題を考えます。

1.島根県の取組

(1) 公益財団法人 ふるさと島根定住財団(以下「定住財団」という)の概要

若年者の県内就職促進、UIターンの促進及び活力と魅力ある地域づくりの促進を図り定住対策強化を図るためH4年に設立された。松江事務所40名、石見事務所10名の職員を配置。他に、東京・大阪に人材誘致コーディネーター、東京・大阪・広島に定住アドバイザーを配置して都市圏でのUIターン者の相談に常時対応できる体制を整えている。

JR松江駅(左)に隣接する松江テルサビル3階に定住財団がある。
JR松江駅(左)に隣接する松江テルサビル3階に定住財団がある。
松江事務所のスタッフ
松江事務所のスタッフ
(2) 島根人気の理由

ふるさと回帰支援センター東京にブースを出展。センター来訪者は移住に関心があるが行き先をまだ決めていない人が多い。どの県も移住に力を入れている中で、島根県は先ず<島根を知ってもらう>そのための取組を進めている。「島根をどう露出するか、どうしたら見えるか」に力を入れている。都市部で開催する島根のセミナー・フェアでは、終了後に交流会を開催する事がある。東京だと相当な人数、若者も集まり新たにFacebook等で島根の輪を広げることにつながっている。

(3) 島根UIターンフェア

フェアは東京・大阪・広島で開催し、全19市町村が参加する。来場者数は東京・大阪で増加。定住財団の仕事情報には、求職登録者数約1,600人、地元企業の求人数約1,500人(H27年6月)。求職情報には年間200件ほど新規の登録者が増えている。こういう人は島根への関心が高く、「求職者へのフェア開催案内」は大変有効で大勢参加される。H26年度のUIターン来場者は40歳代以下が7割を超えている。

しまねUIターンフェア来場者数
資料:ふるさと島根定住財団

(4) UIターン者数の増加の背景

Iターン者数は毎年400人台で推移しているが、最近はUターン者の増加が顕著。その背景として次のことが考えられる。

[1]UIターンフェア等の総合的な情報発信や産業体験事業をはじめとする充実した支援制度の認知度が高まってきた。[2]各市町村における定住支援体制強化(H22年度から市町村の体制整備に対する財政支援制度を創設)の効果が顕在化してきた。[3]県内の雇用情勢の改善に伴い、有効求人数の増加が見られることから、職業紹介のマッチング成功率が高まった。

UIターン者数の推移
資料:ふるさと島根定住財団

(5) 仕事とUIターンのマッチング

地元のUIターン者の採用希望企業とUIターン者の仲介を定住財団が担っている。専属スタッフが地元企業を直接回り「潜在求人」を把握し求職者に紹介していく。この取組が口コミで企業間に広まり企業から「こんな人がいないか、いたら紹介してほしい」と言った定住財団への問い合わせが増加している。定住財団が求職者に対して交通費の半額補助(片道負担)を支給することも効果につながっている。実際に使う人が多く、年間150件ほど利用され、そのうち半分位の人が地元企業に就職した。

30歳代の求職者が最も多く、関東・関西圏域が5割を超えている。H26年度無料職業紹介事業による県内就職決定数は181人(過去最多)となり、UIターン者の増加につながっている。

無料職業紹介

求職者への支援取組
 1.求人情報一覧やフェア等イベント情報の配布
 2.求人企業の紹介などマッチングや紹介状の発行
 3.面接等の際の、交通費片道分の助成
(6) 様々な支援事業
しまね産業体験事業 農林漁業、伝統工芸、介護などを1年間体験。助成期間3か月〜1年。助成金額月12万円(親子連れ等加算あり)。H8〜26年、累計1,576人が体験、うち定着者671人(44.5%)。
しまね地域づくり活動体験 地域の魅力発信、地域資源の活用などにより地域の担い手となる人を募集。助成期間2年。助成金額月12万円(親子連れ等加算あり)。H26年度は17人が体験。地域づくり活動者数の増加に伴い定着者数も増加が見込まれる。
しまね暮らし体験プログラム 1泊2日〜2泊3日のツアーで地域との交流体験を実施。日時は自由で現地での宿泊費や体験料は無料。現地までの交通費と食費を参加者が負担するプログラム。
しまね暮らしお試し体験施設 1週間〜3か月間、施設を低価格で貸出し。H26年度利用33組60人、うち10組16人が島根へ定住。
(7) 空き家情報(空き家バンク)

一般財団法人 島根県建築住宅センターが空き家情報をHP(くらしまねっと)・情報誌(だんだん)で公開。宅地建物取引の専門家「しまねUIターン住宅相談員」が無料で住まいの相談に対応する。

(8) 市町村定住支援員

全市町村に定住支援員が設置されている。市町村により支援員に加え定住相談員等を置いているところもあり、彼らが中心となって定住財団と連携しながら定住推進活動を行っている。

2.島根県飯南町の取組

(1) 飯南町の概要

飯南町は島根県中南部にあり、広島県との県境の高原地帯で総面積の約9割が森林という自然豊かな町である。面積242.8?、人口5,208人(H27.4現在)。この飯南町でも人口減少が進み「定住促進」を町の最重点プロジェクトと位置付け、定住財団や各団体等と連携した定住推進の取組を行っている。

(2) 飯南町の定住施策
1) 推進体制

【定住支援員】
正職員で他の業務も兼務しているが主に定住関係の仕事を行っている。

【定住相談員・企画員等】
ほとんど嘱託職員で定住専属。彼らの力が大きい。各市町村で定住相談員の枠を条例(要綱等)で決めており、例えば飯南町では2名の枠だが増員を検討している。


資料:飯南町

2) 飯南町の人口動態

飯南町が合併でできたのが10年前、その当時から移住交流に力を入れてきた。移住施策はすぐには効果が出ない、その効果が出てきたのが、転入者数が転出者数を上回ったH22年頃。最近は少し減少しているが、地方の山間部で社会増減がプラスになっているところは全国的にも少ない。


資料:飯南町

(3) 仕事の確保
1) 無料職業紹介

役場内に無料職業紹介所を設置。町内企業とは日常的に交流があり、ハローワークに登録していない求人も掘り起こすことができる。定住財団が行っている職業紹介とは異なるが、定住財団・ハローワークとも連携は密にしている。

就農は、農林業研修制度や産業体験制度(定住財団)を活用し、相談から研修、就農、その後に至るまで長期間に渡りフォローしている。農林業定住研修では専業農家を育成するため2年間毎月15万円支給。

2) 仕事の確保に関する助成金
産業人材育成助成金 上限20万円
(5万円×4か月)
町内事業所が行う従業員の技術習得・資格取得の研修等に対し助成。
新規創業等助成金 上限100万円 新規創業・事業拡大等により建築増築された建物の固定資産税相当額を助成。
医療及び福祉従事者確保対策助成金 毎月10万円以内等 町内医療機関・福祉施設に従事する意志のある学生に助成
(4) 住宅の確保
1) 定住促進賃貸住宅

25年賃貸後、土地建物の所有権を町から譲渡。入居要件が夫婦共に40歳以下等の制約があるが新築住宅に住めることもあり人気が高い。H23〜H26年まで11戸建設、計35人が入居。(テレビでも紹介された)

建設地域では入居家族の子どもが増えたので小学校が複式学級化を免れたり、町の遊休地を活用できるなど効果が上がっている。最近は、飯南町と同様の賃貸住宅建設を近隣市町ではじめるところも出てきた。

定住促進賃貸住宅の一つ 定住促進賃貸住宅の一つ
定住促進賃貸住宅の一つ
(5) 空き家バンク
1) 空き家バンクの推移

H18年度に飯南町空き家バンク制度を開始。H27年度、計90件の登録。


資料:飯南町

状態の良い住宅へのニーズが多い一方、自分で改修できる古民家へのニーズも少なくない。空き家は田舎らしく人気があるが、実際住むと管理や環境の維持が大変であり、そのミスマッチをなくすために、最初から様々な空き家リスクを希望者に説明している。

H23年度から農地や空き店舗も対象としてHPで公開。空き家利用登録も年間30件ほどある。

2) 空き家の掘り起し

【空き家募集チラシ】
チラシを固定資産税納入通知書へ封入。問い合せが多く登録も増えた。

【定住協力員の空き家情報収集(飯南町独自の取組)】
定住協力員とは、公民館員や集落支援員など地域に馴染んだ情報通で飯南町が選任した人。定住協力員制度をはじめて3年になるが、情報収集の成果が上がっている。<役割>空き家情報の収集、移住後のフォロー。<人数>町内5地区にそれぞれ1名配置。集落支援員は5地区のうち4地区にいるが、彼らが兼任している所もある。<委託料>町から支給。

【飯南町UIターン相談会の開催】
毎年お盆の時期に「成人式」を開いており成人の若者が里帰りする。成人式と合せて「三十路式(30歳の成人式)」も開催する。この式会場の近くでUIターン相談会を町が開催し、仕事や住居の紹介からUターン推進、空き家活用のPRも行う。彼らは都会で頑張っているが地元も気になっている。

(6) その他の取組
1) 島根県内の連携

市町村単独ではできないことを定住財団が補助金、相談会、PR等を手掛けてくれる。定住財団とは連携を密にしており、このようなやりとりが県全体の移住促進の大きな力になっている。市町村の移住担当者同士の連携も密で、毎日のように電話をしている。

2) 移住の基本的な考え

施策は充実してきているが、他の市町村も同じような施策を出してきた。そういったサービス合戦に乗るのではなく、1件1件の移住相談に親身になって丁寧な対応をして移住者獲得につなげたい。将来的にはその方が効果的である。財政支援サービスで来た人は地域の良さがわかる前にサービスが終わったら地域を出て行ったりすることがある。そういうことがないように、移住地の良い所だけではなく、大変な所も最初に理解してもらって丁寧に対応して移住につなげることを心掛けている。

3) 教育面からの飯南PR

県内では中学生が減ってきており、県外から高校生を募集する高校が10校ある。飯南町も募集しており、地域おこし協力隊を「魅力化コーディネーター」として高校担当に3名配置。出張相談会などで高校のPRを行う。寮もいいものを作り、県外生も増え、小規模校なりの丁寧な授業を行っている。

また、小中高一貫教育の中で「ふるさと教育」に力を入れている。地域で教育を受けてきたが高校卒業とともに地域のことを何も知らないまま出て行く若者が多い。彼らは大学へ行ってそのまま戻らない。飯南を知ってもらうために、小中高のころから地域のことを勉強する機会を増やそうとしている。大学入学で出ていくかも知れないが、将来、飯南町へ帰ることも選択肢に入れてもらうよう役場も学校も非常に力を入れている。その効果が出てくるのは数年先になるかも知れないが期待している。

 【島根ポイント】
  • 全国トップクラスのマンパワーと効果的な支援策で移住者実績が年々上がっている。
  • 定住財団と全市町村が連携して移住推進に取り組み、市町村では独自の移住推進策を打ち出している。
  • 都市部に住む島根出身者たちとの交流を図るためSNSを活用。島根の周知につながっている。
  • 移住といえばIターンというイメージが強いが、島根はUターンにも同等以上に重点を置く。そのために「仕事」の開拓・確保を図り、単に情報提供をするだけではなく、求人企業と求職者のマッチングにも力を入れている。これらの取り組みが移住(就職)実績に大きく寄与している。

3.先進事例から見える和歌山県の課題

和歌山県の年齢階層別人口移動を見ると、若い世代の人口流出が大きい。そのため、転出数が転入数を上回り、人口減少の大きな要因となっている。男女とも「15〜19歳」、「20〜24歳」での移動(マイナス)が大きく、その年代の減少をそれ以外の年代でカバーできていない。これは、高校生〜大学生の年代で県外へ転出した後、県内へ戻ってくる人が少ないからだと推測できる。ちなみに和歌山県の「県外大学・短大への進学者割合」は全国1位86.6%(2013年)となっており、この年代の転出に少なからず影響を与えているものと考えられる。

若い転出者はいったん外へ出ると、仕事、家庭、教育等の理由で戻ることは難しい人も多いであろう。しかし、彼らに将来、県内へUターンしてもらうことは県人口の増加のためにも大変重要である。

○年齢階層別人口移動(和歌山県)

資料:総務省「国勢調査」、総務省「住民基本台帳人口移動報告」に基づきまち・ひと・しごと創生本部作成データを再編加工

岡山県、島根県の移住・定住推進事例調査を参考とし、今後、和歌山県への移住・定住を推進していくための課題として次のことがあげられる。@全県的な移住推進の取り組み拡大、A住まいの確保(空き家バンクの活用)、B仕事をセットにした移住推進(県内都市部への呼び込み)、CUターンへの注力、ふるさと教育の充実。これらは、既に取り組まれている施策もあるが、さらに全県的な推進を期待したい。

(2016.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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